筍とさくら ~ 京都の春

 4月になってイタリア人が野山にアスパラガスを探しに行き、新鮮な春の味が食卓に上る頃、京都の洛西では、人々が、竹林にタケノコ狩りに出かけるようです。

 イタリア語では、タケノコはgermogli di bambù(直訳は「竹の芽」)、もやしは germogli di soia(直訳は「大豆の芽」)と言います。イタリアには従来食べる習慣や文化がなかったために、独自の一語を考え出して与えることなく、いずれ生長していく植物の若芽の状態、ととらえているのでしょう。

 実は、野生のアスパラガスもタケノコと性質が似ていて、タケノコが春になって、竹やぶの下の方から生えてくるように、野生のアスパラガスも親の木(と言っても、小さくて幹も枝もか細い植物です)の根元辺りから、春になるとすくすくと伸びてくるのです。違いは、タケノコが一面の竹林の中に生えているのに対し、野生のアスパラガスの方は、親の木が森林の中や道端に、他の草木に紛れて生えているために、アスパラガス探しはまずこの隠れた親の木を目ざとく見つけることから始まることです。親の木が見つかったら、その根元周辺の高い緑の草むらの中に、アスパラガスも生えているはず。誰かがすでに摘んでしまったあとだったり、育ちすぎていたりしたりしてがっかりすることもありますが、春の間は、「雨後の筍」のように、摘まれても摘まれても、新たな芽がまたどこからかすくすくと伸びていきます。

 今回は、イタリアの野生のアスパラガスに対応するものとして、日本の古都、京都の洛西にあるタケノコの里についてお話したいと思います。
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 父の転勤で、幼い頃から日本各地を転々としていたわたしは、通っていた横浜の幼稚園の近くの竹林でタケノコを見かけたようなうっすらとした記憶があるのを除いては、じかに自分の目で食用になるタケノコが育っているのを見た覚えがありませんでした。

 札幌や東京といった場所で中学生時代までを過ごしたこともあり、タケノコと言えば、どういうものかは知っていても、スーパーで皮をむき切り分けて袋詰めにして売っているものか、料理店で調理されて出てくるものしか知らなかったので、上の写真のように、京都の向日市や長岡京市で、店先や道端で、堀り立ての新鮮なタケノコが山積みされて売られているのを見て、とてもびっくりし、また感銘も受けました。

 妹の家が近いこともあり、花見を兼ねた京都旅行中に立ち寄ったのですが、この二つの町が「タケノコの里」だということは、訪ねてみて初めて知ったのです。いずれも「そんなことはよくご存じ」の読者の方も多いとは思いますが、もしかしたらわたしと同じように、「それは知らなかった」という方もいらっしゃるかもしれないと考え、今回は、このタケノコの里の訪問についてお話しします。

 昨年春にアリタリア航空で、オンライン予約によるイタリア・日本往復大割引の期間がありました。最も安い便は、すべて込みで、なんと往復396.04ユーロ(当時円高で、クレジットカードの利用代金明細書では、50,595円と換算されています)。日本の桜の開花をもう何年も見ていなかったわたしは(実はちょうど授業が多くて忙しい時期なのです)、かなり無理をして授業を移動して、これを好機として帰国を決め、夫も「日本の桜が見てみたい」ということで同行することになりました。妹と落ち合うために、長岡京市と向日市を訪れたのは、その旅行中で、2009年4月4日(土)から4月6日(月)にかけてのことです。

 4月4日土曜日の昼前に長岡天神駅に到着。駅近くにあった宿泊予定のホテルに荷物を預けて、駅前に戻り、まずは長岡市の観光センターで、絵と写真入りの詳しい観光地図をいただきました。観光センターを出てすぐ、目に飛び込んできた看板。
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 昼食はここと迷わず決めて、小さいお店の中に入りました。
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 今を盛りと咲く花を思わせる、桜シューマイの彩の美しさ。どの料理も目に美しく、味も一品で、夫もわたしもお手頃な値段のこの昼食を目にしたときから、室内にいても、春の風情を十分に味わうことができました。地元名物のタケノコは、色鮮やかなうどんの中だけでなく、桜シューマイの中にも入っていて、それぞれに風味を添えていました。

 昼食後やはり長岡天神駅前で、妹と甥っ子と落ち合い、電車に乗って、桜まつりの最中の向日神社を訪ねました。
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 残念ながら雨が降っていたのですが、久しぶりに出会った妹や甥っ子と話がはずみ、夫も桜並木の下に立ち並ぶ色とりどりの露店を興味深く眺めながら、甥の手を取って仲良く歩いていました。
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 幸い、美しい着物の女性たちによる琴の演奏も鑑賞することができました。
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 奈良時代創建と伝えられる歴史ある神社を後にしてからは、デパートで甥っ子の初めての傘購入に立ち会い、ホテルでゆっくり休んだ後、近くの居酒屋で仲良くおいしいお酒と料理を楽しみながら過ごしました。
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 言葉が通じないはずなのに、なぜか出会った瞬間から和気あいあいの二人。仲良く紙飛行機作りに興じていました。おかげで久しぶりに妹とゆっくり話をすることができました。

 翌日、4月5日(日)も、引き続き洛西、長岡京周辺で、桜の名所を訪ねることにしました。長岡天神駅前にあるホテルから歩いて、光明寺に到着。
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 西山浄土宗の総本山である光明寺の広い境内は、晩秋には紅葉が美しいとのことですが、春もたくさんの桜が境内のここかしこで一斉に色とりどりの花を咲かせていて、美しい景観を楽しませてくれました。
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 枯山水の庭も風情があり、心を穏やかにしてくれます。
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 光明寺のすぐ手前にあるお店で、目に美しく食べてもおいしい昼食を取りながら、歩き疲れた体をしっかり休めます。
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 昼食後、観光地図を片手に、寺社を探しながら歩いていると、子供たちが地元の熟練者と共にタケノコ掘り体験ができるという竹林に行き当たりました。
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 探していた寺社が見つからず、地図を片手に、美しい竹林の中に迷い込んで行きました。道を尋ねた方が、たまたまボランティアで竹林やタケノコ文化の継承に努めている親切な老紳士で、分かりやすい図を使って、孟宗竹の歴史やタケノコの掘り方などを詳しく説明してくださいました。
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 自然や農耕を愛するルイージは時々質問しながら、熱心に耳を傾けています。老紳士は、わたしが通訳している間も、ゆっくりと待ち、ていねいに質問に答えてくださいました。

 結局探していた寺社は見つからなかったものの、思いがけない竹とタケノコの授業に喜びながら、わたしたちは帰途につき、駅前のホテルへと向いました。

 帰りがけに、菅原道真に縁の深い長岡天満宮を訪れました。わたしがイタリアで教える日本文学の授業では、藤原氏の台頭や政敵の排斥と共に、道真の人となりや漢詩文集、左遷の悲劇にも触れて、漢詩「九月十日」や『拾遺集』所収の和歌、「東風吹かば」なども紹介しています。

 理解が難しいのは知りつつ、まずは原文で読み上げてから、イタリア語で意味を説明します。

 「東風(こち)吹かばかばにほひおこせよ梅の花主なしとて春を忘るな」

Fiori di susino, quando tira il vento primaverile, sbocciate e mandatemi la vostra fraranza. Anche se non avrete il vostro padrone con voi, non dimenticherete la primavera.(石井訳)

 授業中には、道真が学問の神様とみなされていることや大学受験についても話をして、日本の学校教育や風習についても学生たちに伝えています。

 長岡天満宮では、八条ケ池の岸辺に、満開となった桜並木が列をなして並んでいます。深い桃色に淡い白色、幾重にもなった花に一重の花、さまざまな桜が美しさを競い合い、その木の下を、老若男女が感嘆してささやきあいながら歩いて行きます。
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 水上橋からは、池の中を泳ぐ色とりどりの鯉も見えます。
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 好天に恵まれた日曜日なので、家族そろって花見に来ている人々もたくさんいました。

 こうして、昨年は京都各地や周辺のあでやかな桜を堪能することができました。日本を発つ前に住んでいた愛媛県では、よく川沿いに桜並木が、つつましい淡い桃色の花を一斉に咲かせ、そうした満開の桜が水面に姿を映しているのもそれは美しい眺めで、大好きだったのですが、昨春はそれとはまた趣の違う美しさを持つさまざまな桜を見ることができました。

 4月9日の記事で、今年の春は、イタリアのテレビニュースや園芸専門誌『Giardini』4月号が、日本の桜を特集していたことをお伝えしました。

 その後、別の園芸専門誌『Gardenia』も、やはり4月号で、日本の桜の特集を組んでいたことが分かりました。
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 記事の題は、表紙の左端、下から二つ目に見えます。写真では見にくいと思うのですが、 題は「CILIEGI In Giappone quelli più rari」となっています。
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 5ページにわたる記事は、こんなふうに数多くの美しい桜や花見風景の写真と共に、日本の花見文化をイタリアの読者に説明しています。

 実は、『Giardini』も『Gardenia』も、花や園芸を愛する夫がもう十年以上も欠かさず購読している雑誌です。けれども、夫の覚えている限りでは、こうした雑誌が日本の桜について記事を書いたのは初めてではないかということで、しかも、今年はこの2誌がこぞって日本の桜を記事にしたわけです。さらに、今年はテレビニュースでも日本の花見に触れていました。

 何がきっかけかは分かりませんが、こんな形で、今後も、ハイテク産業や捕鯨、アニメ・漫画や芸者、空手や柔道、合気道だけではない、日本文化の様々な側面をイタリアの人々に知ってもらい、興味を喚起する機会が増えていくことを祈っています。

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by milletti_naoko | 2010-04-23 06:30 | Giappone | Comments(0)
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