雨の日の散歩 ~ ミジャーナからサン・ピエートロまで

 5月1日(土)の夜は、皆で楽しく語らいあったあと、真夜中頃に解散。友人たちは、オリーブの木々に囲まれた丘の中腹にテントを立て、わたしと夫は、現在改修計画中の家の一室にあるかなり古いベッドの上で、それぞれ寝袋を使って眠りました。
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 5月2日(日)は予報どおり1日天気が悪く、朝友人たちがテントを片づけている途中から小雨が降り始めました。草むらのここかしこに、美しいランの花が咲いています。上の写真では、草原の左端あたりに見えます。わたしたちがこの2日間にテッツィオ山で見た、それぞれに趣の異なる美しいランの花に興味のある方は、記事、「百花繚"蘭"」をご覧ください。
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 朝食はテーブルを二つ合わせて、15人全員で食べました。もちろんイタリア流の甘い朝食です。各自持ち寄ったパンやビスケット、ジャムなどが、テーブルに並んでいます。大人は、ほぼ全員がエスプレッソ・コーヒーを希望したため、直火式コーヒー沸かし器Moka(写真では、ティーポットの後ろ)を使って、次々にコーヒーを沸かしました。コーヒーにミルクをたっぷり入れて、カッフェッラッテ(caffellatte)にして飲む人もいれば、熱湯をたっぷり注いでカッフェ・ルンゴ(caffé lungo)にして飲む人もいます。
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 雨も降っているので、登山はあきらめ、ミジャーナと同じくテッツィオ山の中腹にあるサン・ピエートロ(San Pietro)という場所を、訪れることにしました。家を出発して、道を左に曲がるとすぐに、ミジャーナの町が現れます。中央にあり、鐘楼の見える建物が教会で、夫の伯父ドン・アンキーゼは長い間、このミジャーナの教会で牧師を努めました。その昔は200人近くも住民がいたミジャーナの町は、夫が成年を迎えるまでの間に急速に過疎化し、牧師の伯父と暮らしていた夫たちの家族がミジャーナを後にしたときには、もう一家族しか残っていませんでした。自然や静かな環境を求めて、再び人々が、わずかな人数ではあるものの、ミジャーナに来て暮らし始めたのはごく近年のことのようです。今、この教会は、病と闘う人々が暮らす場所となっています。

 ずっとこの一本道を歩いて、教会や町の家々の前を通り過ぎたところに、墓地(cimietero)があります。出発前、雨の中の散歩を嫌がる子供たちの興味をそそるために、フランコが「ミジャーナの町の近くに墓地があるよ。」と繰り返し言って聞かせたため、何がおもしろいのだか、子供たちはうれしそうに墓地の中に入り、あちこちを見て回ってなかなか墓地から出ようとしません。
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 墓地を通り過ぎると、道は緑の木々に囲まれます。そして、さらに歩いていくと、この緑色の鉄の扉が現れます。正面に見えるこの扉には、「(車は)進入禁止」の標識が見え、錠もかけてありますが、この扉の左側にはごく狭い通り道があり、人が一人ずつなら自由に出入りできるようになっています。
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 かつて、サン・ピエートロには、農業を営む家族が住んでいました。今は、狩りをする人々が猟犬を訓練するための場所として使われているのですが、幸い狩猟シーズンは終わり、雨も降っているので、猟犬に出くわす心配はありません。野バラやエニシダに囲まれた小道の右手にはオリーブ園があり、左手にはなだらかな緑の丘がどこまでも続いています。
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 野の花が美しく、とりわけ咲き始めたヒナゲシ(papavero)の鮮やかな真紅が目を引きます。昔は、どの麦畑でも、初夏にはたくさん咲いていて、緑と赤の対照が美しかったのに、近年では除草剤(diserbante)の使用によって、ヒナゲシが生えず、緑一色の麦畑が多くなったのが残念だとは、夫からしばしば聞いていました。野山を散歩すると、夏の間、その鮮やかな赤い色で目を喜ばせている花がわたしも大好きなのですが、今記事を書くために辞書を引いていて、初めてこのヒナゲシの別名が「虞美人草」だと知ってびっくりしました。

 「力山を抜き 気世を覆ふ
 時利あらず 騅逝かず
 騅逝かざるを 如何すべき
 虞や虞や 汝を如何せん」

 劉邦軍に囲まれて、「四面楚歌」の状態となり、項羽が我が身の不遇を嘆き、暗に愚美人に死を願う。この「垓下の歌」も、そのあと愚美人が自害したあとに生えたと言われるのが「虞美人草」だということも、12年間高校で国語を教えた間に、それこそ何度も繰り返し教えてきたというのに、その「虞美人草」を、自分がイタリアでしばしば目にしていたことに、まったく気がつきませんでした。確かに、このヒナゲシの花は、鮮血を思わせるような真紅の色をしています。

 司馬遼太郎さんの小説、『項羽と劉邦』の人間ドラマがおもしろくて、読みながら物語の中にぐんぐん引き込まれていったことも懐かしく思い起こしました。
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 雨の中を皆で歩いて、崩れかかった住宅が数軒建つサン・ピエートロの中心までやって来ました。さらに道を進んでいけば、前日にテッツィオ山から、はるか下方に眺めることができた小さな湖(laghetto)があります。

 子供たちは湖まで行きたがったのですが、柵からここまでは下り坂が続いていたため、帰りはずっと坂を登らなければいけません。それに、湖の近くは草が高く生い茂っているため、雨の日に歩くと、足元がずぶ濡れになってしまいます。そこで、子供たちを説得し、来た道を引き返すことにしました。

 上の写真の右手に、崩れかけた家の壁の上辺が、緑の草に覆われている部分があります。その部分を撮影したのが下の写真です。
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 天井も壁も崩れつつある家の戸口やテラスを、自然に生えた青草が覆っていて、うら寂れた風情があります。
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 このキンポウゲ(ranuncolo)も、春先に野山でよく見かける花です。ペルージャ郊外に住むわたしたちの家の近くの道端にも生えているし、かつて住んでいたレスキオの森の中には、ここかしこに、このキンポウゲやワスレナグサ(nontiscordardimè)の花が群れをなして咲いていました。

 サン・ピエートロには、他にも、ラン、orchidea scimmiaが道端に美しく咲いていた上、野生のアスパラガスも見つかり、咲き初めた野バラの花が可憐だったのですが、そうした野の植物の写真は、また別の機会を見て、ご紹介するつもりです。

 帰り道は、右手になだらかな丘陵、左手にオリーブ園を見ながら、長い坂をゆっくりと登って、サン・ピエートロの入り口である鉄の扉まで到着。 
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 そのあとミジャーナの町までの道は幸い平坦で、緑に囲まれています。上の写真は、道端に見つけたスイカズラ(caprifoglio)の花です。ちょうど桃色のつぼみが開いて、純白の花を咲かせ始めたところ。このスイカズラもテッツィオ山のあちこちに自生していて、散歩中に美しい花で目を楽しませてくれます。

 ずっと道を進んで行き、ミジャーナの町中に入る手前に、野生のアスパラガスがここかしこに生えている草むらがありました。エミリア・ロマーニャの友人たちは摘み立てのアスパラガスをそのまま口にして、「おいしい」と喜んでいます。紫色と緑色のアスパラガスは、料理すると味に違いがないのですが、生で食べると、さわやかな苦味があっさりとおいしいのは紫色の方だけです。緑色のものは生では苦味が強すぎるので、やはり料理したほうがおいしくいただけるような気がします。夫も、「料理した方が断然おいしい」と言いながら、めざとくアスパラガスを見つけては、摘んでいきます。
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 写真中央に見えるのは、ミジャーナの町の給水場(fontana)です。水道がまだ通っていなかった頃には、町で唯一清水を供給できる場所であったために、女たちが家庭で必要な水を汲むために、たらいを持っては給水場を訪れていたそうです。また、左側の一段下がった石造りの部分は、洗濯をするための水槽であり、女たちは、ここで洗濯をするために、洗濯物を持っては、やはり給水場に来ていました。夫は幼い頃、そうやって水を汲みに行く母に同行したときのことをよく覚えていて、「町中の女性が、皆集まる場所だったんだ。」と懐かしそうに語ってくれます。

 ミジャーナの町のほぼ中央にあるこの給水場の少し手前、上の写真の右端にあるアヤメ(iris)の花は、遠い昔に近所の住民が植えたものが、今は人の手を借りずに自然に育って、花を咲かせているのだ、と夫は言います。
 
 ちょうどわたしたちが、この給水場のあたりを通りかかった頃に、正午を告げる鐘の音が聞こえてきました。幸い、雨も降りやんだようです。

 一行は、まもなく家に到着。散歩に行きたくないという子供たちがいたため、家に残ったロージーが、子供たちと一緒にすでに昼食の用意を始めてくれていました。

 散歩から帰ったわたしたちも、さっそく準備に取りかかりました。
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 昼食のメインは、今が旬たけなわの野生のアスパラガスの卵とじです。この日は、夫自ら腕をふるって料理しました。先週、お義父さんがテッツィオ山の一つ目の十字架まで登って収獲した両手に抱えきれないほどのアスパラガスと、我が家の鶏たちが産んだ新鮮な生卵23個を使って、ルーカが持参してくれた大きな大きな鍋で料理。

 友人たちの大半は、野生のアスパラガスがあまり育たない地域に住んでいます。そのため、ペルージャ生まれペルージャ育ちのルイージやルーカが、この2日間の散歩中、皆に野生のアスパラガスを見つける方法を教えたりもしていました。野生のアスパラガスやその卵とじを、初めて食べた人も大勢いて、皆おいしいと大喜びでした。
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 前夜、炭火で焼いた肉が残っていた上に、ハムやサラダ、ゆで卵などもテーブルに並んでいたので、全員ほしいものを好きなだけ食べることができました。

 わたしたちが昼食の後片づけをしている間に、友人たちは荷物をまとめて、出発の準備を始めました。
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 幸い雨がやんでいたので、その後は、皆で前庭に集い、思い思いにおしゃべりをしたり、子供たちと遊んだり。双眼鏡をのぞいているマヌエーラは、きっと前日の登山中に訪れた、一つ目の十字架(la Prima Croce)を見ているのでしょう。
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 カンフーを始めて4年になるというブランドが、流麗な型を披露してくれました。エミリア・ロマーニャ州のチャンピオン(campione)というだけあってみごとなもので、大人も子供も感嘆の思いで見守っていました。あとで、他の子供たちも真似しようと試みていましたが、やはりそう簡単にうまくできるようなものではありません。
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 今回、ミジャーナを訪れた子供たち全員とロージー。うち二人がロージーの子供です。一番手前にいるエリーアはまだ小さいのに、この日の朝、みごとにサン・ピエートロまでの彼にとっては長い道のりを歩き通しました。お母さんのシルヴィアも息子の大達成と成長ぶりを見て、大満足。

 やがて、再び雨が降り始めたためもあり、またエミリア・ロマーニャまで帰るにはアッペンニーニ山脈を越えて車で2時間半と遠いため、友人たちは午後3時ごろに旅立ちました。

 みんな、楽しい週末をありがとう。 
Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2010-05-07 01:06 | Umbria | Trackback | Comments(1)
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Commented by Gina at 2010-05-07 10:34 x
雨の中でも、仲間と一緒だと、みんな楽しそうですね。

イタリアに短期留学中に、初めてMokaを知りました。
それまでエスプレッソは苦手でしたが、
Mokaで入れるようになってからは、毎日飲んでいます。
シューっと湯気が出てくる瞬間が好きです。

ジーナ


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