イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

「大学はきらいです」?

 5月末に大学後期の授業が終わり、昨日、6月1日火曜日には、今年度2年生の授業を受けた学生にとっての、初めての日本語の試験がありました。筆記試験も無事に終わり、口頭試験に入って、数人目。日本語で、イタリア人学生に、「大学はどうですか。」と尋ねたら、返ってきたのが、「大学はきらいです。」という答えでした。さすがに慌てた様子は表に出しませんでしたが、内心とても驚きました。そして、悲しく思いました。とても熱心で、大学生活を楽しんでいるように見える学生だったからです。

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Perugia 9/8/2018

 わたし自身、実は「外国人大学が大好きだ」と言い切れるかというと、そうではない面もあって、たとえば今回の映画、『JAPAN MANGA』の上映に関しても、決まったはずの日時が二転三転しましたし(5月14日⇒5月28日⇒6月4日)、5月28日金曜日には、わたしが教えていた同じ教室に、他の授業も振り当てられていて、途中で追い出されてしまいました。

 まあ、これは、イタリアの組織ではありがちな前準備のつめの甘さと相談・連絡の欠如からくるハプニングであって、外国人大学に限った話ではありません。経済改革での教育費削減のしわ寄せが真っ先に来たのが、たとえばわたしたち契約講師の給料削減で、おととしと去年は同じ授業時間を担当したにも関わらず、4分の1手当てが少なかったり、「イタリアの大学とは異なる日本の大学の成績は評価できない」と罵倒して、ひどい評価をする先生がいたりもします。 ただ、この罵倒がひどく悲しかったのは、真剣に勉強し仕事をしていれば、国籍に関わらず、頑張りを認めて、励ましてくださる先生の方が、圧倒的に多いからでもあります。

  とは言え、イタリア語や大学の課程の授業を担当する先生の中に、とても熱心で学識豊かな方も多く、世界各国から来た学生と交流できる上に、とても素直な、やる気のある学生が多いので、学生としても、教員としても、とてもお世話になったし、総合的には、とてもいい学び舎だと思うのです。

 「大学はきらいです。」と言われて初めて、「ああ、自分は何だかんだ言いつつ、この大学に愛着を持っているのだ」と再確認したのでありました。

 続けて、学生は、「留学生がたくさんいます。」と、とてもしっかりした日本語で続けました。最後の最後に、本人の家の様子について、尋ねている途中に、「わたしの家はきらいです。」という答えが返ってきて、わたしは、そこで初めて、何かおかしいことに気がつきました。そうです、学生は、「大学は/私の家はきれいです。」と言いたかったのです。

 どうも、母音のエとアの違いだけなので、混同したようで、イタリア語で意味を言って、「きれい」と「きらい」を答えさせると、きちんと答えられていました。そして、学生は、「『大学はきれいです。』と言ったつもりなんです。」と一言つけ加えました。ほっと胸をなでおろし、一緒に試験を担当してくださった語学助手の先生と二人で、思わずほほえんでしまいました。

 試験中に、思わず皆で笑ってしまった瞬間(より長かったかもしれません)は、他の受験生の口頭試験の際にもありました。

 「食堂はどうですか。」

 「食堂は多いです。」

 「食堂は食べものが多いですか、それとも、学生が多いですか。」

 とても優秀な学生が、わたしたちの助け舟にも関わらず、「食堂は多いです」と繰り返し、わたしたちの質問の意図が分かりかねるようだったので、わたしたちは驚き、学生はすっかり困り果てて、「分かりません。」

 よくよく尋ねてみると、「しょくどう(食堂)」と「しゅくだい(宿題)」を混同していたようです。確かに発音が似ていますし、どちらも大学に関わる言葉です。


 写真の右に見える建物が、外国人大学の食堂(mensa)です。わたしは、あまり利用しないのですが、今回の試験中に、学生たちの口から、

「食堂は、サービスがとてもいいです。それに、おいしいです。」
「食べものがたくさんあります。」
「でも、食事が高くなりました。」

と聞きました。「高くなった」と言っても、普通の店で食べるのに比べればかなり割安の値段で、バランスのいい食事が手軽に取れるはずです。外国人大学に留学中の学生さんは、一度この学食も体験してみてください。

 他に、「ひろい」と「ふるい」を混同してしまった学生もいました。

 実は、わたしもたまに、発音の似た単語を間違って使ってしまって、夫がおもしろがって笑うことがあります。こういう間違いは、外国語を話す場合に限らず、母国語で話すニュースのアナウンサーにも時々あります。

 逆に、イタリア人が[h]の音の有無を認識できず、発音を間違ってしまったり、日本人のわたしたちが、RとL、BとVなどの音の識別やこういう音を含む単語を覚えるのに苦労したりするのは、母国語の影響、転移(transfer)によるものです。

 これについても、イタリア人学生のしがちな楽しい間違い(「コーヒーください」⇒「こいください」)や日本の方がイタリア語を発音する際にしがちな間違いが、いろいろあるのですが、これはイタリア語学習の話題にもなりますので、いずれメルマガの方で、取り上げてみるつもりでいます。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by ジーナ at 2010-06-03 10:42 x
いつも興味深く拝読しています。
これまで英語→中国語→イタリア語の順で勉強してきました。
外国語を学ぶとき、まず発音に壁に苦労しますね。
そんな時、すぐに正してくれる先生やネイティヴの友達がいると、
とても助かります。
なおこさんのクラスの学生は、熱心な先生に巡りあえてラッキーですね。

Commented by milletti_naoko at 2010-06-08 19:12
外国人大学には中国語の授業もあるのですが、イタリア人にとっても、日本人にとっても、発音は大変難しいようです。間違いの指摘については、学生の意欲をそがないように、自分の間違いを話したり、授業のあとに指摘するようにしたり、気をつけています。

学生どうしの仲がよく、うちとけた雰囲気の中で授業が進められるので、そういう点では、助かっています。
by milletti_naoko | 2010-06-02 11:30 | Insegnare Giapponese | Comments(2)