歯医者でびっくり、日伊の違い

 先週、初めてイタリアの歯医者で治療を受けました。ちょうど夫も虫歯の治療で通院しているところだったので、同じ時間帯に予約を入れて、一緒に行きました。

 自分の国ではごく当たり前のことが、他の国ではそうではないということは、これまでにもいろいろ経験しています。たとえば、市内バスにしても、日本ではバスを降りるときに料金を払いますが、イタリアでは、乗車前あるいは乗車後すぐに切符を買う必要があるなど。

 それでも、初めてイタリアの歯科医院を訪れて、自分でも気づかないうちに、日本の歯医者を基準にして、「歯医者は世界中どこもこんなものだろう」と、思い込んでしまっていたことに、改めて気がつきました。

 わたしが一番驚いたのは、一つの治療室で治療を受けるのは、患者一人だけだということです。

 わたしが通ったことのある日本の歯科医では、治療室は横に長い大部屋でした。診療台が4、5台設置されていて、診療待ち、および診療・治療中の患者が、たいてい2~4人は同じ治療室にいたように覚えています。

 それが、イタリア人である夫や友人に言わせると、「複数の患者を同じ治療室で診る歯科医は見たことがない」とのことです。「同じ部屋に何人も患者がいては、プライバシーがないじゃないか。」と言われて、イタリアの人が日本の歯医者に行ったら、嫌な思いをするかもしれないと思いました。

 わたしたちが行った歯科医院では、歯科医が二人いるため、治療室が二つあります。どちらの診療室も畳6~8畳くらいの広さで、ゆったりとして居心地のいい診療台が、部屋の中央に1台だけ据えてあります。部屋ごとに、診療・治療に必要な道具がすべて備え付けられているようで、室内の壁は、棚で埋め尽くされています。

 治療室に通され、診療台に座って待っている間、おしゃべりのやまないラジオ番組が流れていたため、「治療中に歯科医がラジオに気を取られたらどうしよう」と心配したのですが、診療・治療中は、ラジオから和やかな音楽に切り替わりました。

 8年間半近くもイタリアに住んでいながら、これまで歯科医に行ったことがなかったのは、多少のことならば我慢をして、帰国したときに、日本で治療を受けていたからです。まだ語学留学をしていた頃、クラスメートにスイスで歯科医をしている夫婦がいて、「歯科治療は、日本よりもイタリアの方がいい」と聞いたことがあり、わたしは歯並びが悪い上に治療を受けた歯も数々あるので、「もし治療法が気に入らない」と、すでに治してある歯にまで手を出されたらどうしよう、などという変な心配までしていました。

 日本で治療したのは、その方が安く上がるからでもあります。イタリアの私立歯科医院では、虫歯治療に保険が利きません。日本に帰国している間だけ、住民票を入れて、国民健康保険にも加入するのですが、わたしのイタリアでの給料は、日本の基準だと薄給になるために、保険料はごくわずかになります。

 さらに、夫の歯科医院遍歴や以前通っていた歯医者のことを考えて、「よっぽどの必要がなければ、イタリアでは歯医者に行きたくない」という気持ちになっていたからです。

 イタリアにも、そして、ペルージャにも、腕のいい歯医者は何人もいるはずです。ただ、うちの夫は、「治療中に痛いのが嫌だ」と、歯医者をたびたび変えて、最終的には、かなり長い間、ペルージャから車で40分ほどかかるウンベルティデという町の歯科医院まで、はるばる出かけていたのです。「治療中、痛みを感じない」というのが、この歯医者が気に入った理由のようですが、それにしても、入れたばかりの詰め物、かぶせ物が、治療の数日後に取れてしまうということが、何度も何度も、この数年の間に起こりました。こうしてすぐに取れてしまった詰め物などの治療は、もちろん無料です。とは言え、歯科医の不手際で、遠くまで何度も何度も通院しなければ行けない夫を見て、わたしも義父母も、長い間、歯医者を変えるように勧めていました。

 途中で、別の医院に行ったこともあったのですが、「歯は見事に治療してくれるけれども、口の中が傷だらけになるのにお構いなしだ」ということで、夫の気に入らず、再び例の遠い町の歯医者に通うことになりました。

 こういう夫の歯医者通院の状況をよく知っていたために、「イタリアでは歯医者に行きたくない」という気持ちがますます募っていきました。

 それが、つい最近になって、ようやく夫が、腕がよく、かつ治療中に痛みすぎることもない医師を見つけて、この歯科医に通い出したのです。ペルージャでは、虫歯一つあたりの治療代が、虫歯の程度にもよりますが、通例100ユーロ前後だそうです。この歯医者は少し高いけれど、優秀だということで、夫は、この新しい歯医者に乗り換えました。

 最初に夫がこの新しい歯科医の診療を受けた際には、以前の医者が治療した歯の数々を見て、ひどく顔をしかめていたそうですが、別に、その歯を治療し直すことを申し出たわけではありません。

 というわけで、夫の話を聞きながら、「この歯医者なら、歯をきちんと治療してくれる上に、治療中にあまり痛みを感じさせず、日本で治療済みの歯を治療し直すこともないだろう」と、歯科医に対する信頼が生まれてきたわけです。

 さらに、どうしても歯医者に行かなければいけない緊急事態となったために、今回初めてイタリアの歯科医に通うことを決心しました。

 さて、愛想のいい歯科医が診療を始めます。わたしの名前を聞き、「いい名前ですね」とお世辞を言ったあとで、「歯並びがとてもきれいですね」と一言。わたしの歯並びは非常にひどいので、これは皮肉ですが、にっこり笑って言われると、別に気になりませんでした。

 奥歯に開いていた穴は、虫歯であったようで、器具で歯に穴を開けていきます。

 ここで、もう一つ、イタリアの歯科医が、これまでわたしが知っていた日本の歯科医と違うのは、簡単な虫歯1本の治療が1日で終わらないことです。

 日本の歯科医であれば、他の患者を治療するのを待つ間に、患部に投薬するので、1日で治療できるのに、イタリアの場合は、1度には一人の患者しか診察しないためかもしれません。

 歯に開いた穴の周囲にある虫歯は削り取ったものの、今回は、穴に薬を詰め込んで、1週間後にもう一度通院し、このときに、歯に詰め物をするということでした。

 イタリアでは1本の虫歯の治療が1日では済まず、まずは歯を削ったあと、薬を詰めて1週間ほど次の治療を待たなければいけない、ということは、夫の話を聞いて、わたしも知っていました。

 さて、こうして治療を終えて、次回の予約をし、歯科医と受付の女性に別れを告げたわけですが、ここで、また驚いたことが一つあります。

 日本の歯科医だと、来院後真っ先に、健康保険証あるいは歯科医院のカードを受付に提出する必要があったかと思います。特に、初めての診察の場合には、簡単な問診表があって、氏名などの個人情報と共に、薬の副作用があったかとか、何かの病気で通院中ではないかなどという質問に、答えるようになっていました。

 健康保険証がいらないのは、イタリアでは、私立病院での歯科治療の場合、ごく一部の治療を除いては、保険が利かないためかと思います。

 それにしても、今回は、一切の身分証明書類の提出も、名前を含む個人情報の記入も、必要なかったのです。もちろん問診表などありませんでした。すでに治療を受けて支払いをしたことのある夫と一緒に行った上、まだ治療が済んでいないので、翌週に戻るだろうと確信しているのでしょうが、とにかく驚いてしまいました。夫は、自分がこの歯科医院で初めて治療を受けたときには、何か書かされたと言っています。

 さらに、イタリアの病院には、初診料というものがなく、歯科医の治療費も、一つの虫歯の治療がすべて終わってから一度に払うことになります。というわけで、今回の治療の時点では、お金を払う必要が一切ありませんでした。

 余談ですが、残念ながらイタリアでは、私立病院を営む医師で、脱税をする人も多いのです。患者に領収書がほしいかどうか聞き、領収書の発行が必要な場合は、料金が数十ユーロ高くなる、という医者の話も、友人たちからよく聞きます。わたしも私立病院で、「領収書は必要ですか」と聞かれたことがあります。

 こうして私立病院を営む医師には、公立病院にも勤務する人が多く、稼ぎは十分にあるはずなのに、なおかつ脱税をしようという精神は、理解に苦しみます。夫やわたしのように公の機関に勤め税金はすべて徴収される者への課税が、こうして重くなっていくわけです。わたしの場合は、現政府が教育費や研究費を大幅に削減したために、ただでさえ低い給料が、教える授業時間や条件が同じなのに、さらに4分の1減ってしまうという憂き目にも遭っています。

 話が少しそれましたが、今回は、イタリアでの初の歯科治療について、お話しました。治療までは、歯の痛みよりも、歯医者へ行くことへの恐れの方が大きくて、診療台でも歯科医を待つ間、ハラハラどきどきしていたのですが、幸い杞憂に済みました。まだ虫歯が浅いので、歯を削っても痛みは感じませんでした。

 皆さん、歯はよく磨いて、虫歯を予防しましょう。

 最後に、歯医者で役立つイタリア語をまとめておきます。

dentista 歯医者、歯科医    dente 歯 (複数形はdenti
⇒ 職業を表す接尾辞は、メルマガ第33号を参照(リンクはこちら
carieあるいはcarie dentaria 虫歯  
otturazione (歯の)詰め物   medicazione 投薬


 ⇒「イタリアの歯医者と保険その2」(リンクはこちら)につづく
  *今回の記事の情報の訂正・補足もありますので、ぜひお読みください。


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by milletti_naoko | 2010-09-13 12:03 | Sistemi & procedure | Trackback | Comments(4)
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Commented by lacasamia3 at 2010-09-14 01:14
こんにちは。歯の治療が無事に終わってよかったですね。私も丁度、歯医者さんのことを書こうと思っていたので、凄くタイムリーでした。私も歯並びが悪いので、歯医者さんに行って口をあけるのがとても恥ずかしいんです(笑)。
Commented by milletti_naoko at 2010-09-14 15:38
ありがとうございます。まずは無事に終わって、ほっとしました。次回の予約が金曜日なのに、少しずつ仮に詰めてある薬が取れていって、まれにですが痛むので、昨夜は正露丸を少し詰めてみました。夫には、「周囲の歯は避けて歯磨きするように言ったのに」と言われてしまいました。

歯医者に行く必要があるのに、わたしのように怖くて、あるいは様子や金額が分からなくて、歯医者に行けずにいる人もいるかもしれないと思いながら書いてみました。

ただ、歯医者にせよ各種職人にせよ、イタリアでは当たりはずれというか技術やサービスの差が、日本に比べて激しいので、腕のいい歯医者を見つけるには、事前に知人などを通じて、しっかり情報収集をする必要があると思います。
Commented by ゆん at 2010-09-16 21:30 x
日伊の違いについてのお話、どれも興味深く楽しく読ませて頂いております。

保険や脱税については、なんとなくわかる気がするのですが(笑)
一人につき一部屋というのは贅沢ですね。
私も広い診察室に4-5台の診察台、2-3人の歯科医というパターンが多かったです。

ただ、虫歯を切り取って薬を詰めて1週間後・・・というのは、私のこれまでの経験と全く同様です。逆に簡単な虫歯でも1回の通院では治療を完了してくれないという認識でしたので、そこに驚くなおこさんに驚きました^^

いずれにせよ、医者にはなるべくかかりたくないですね。
Commented by milletti_naoko at 2010-09-16 22:17
同じ日本でも地域や歯科医によって、治療の仕方が違うんですね。日本にいた頃は仕事が忙しくて、イタリアに来てからはイタリアでは歯医者に行かなかったため、そして、久しぶりに歯医者に行くと、痛む歯以外にも、虫歯が何本か見つかるという状況だったので、歯医者さんが急ぐために一度に一本治してくれたのかもしれません。お恥ずかしい話です……

ところ変れば、ということで、自分が当たり前に思っていたことが覆されて、びっくりすることが時々あり、ある意味、新鮮でおもしろいです。


日本語教師・通訳・翻訳家。元高校国語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより


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