最後の一滴、一粒まで

 「これはおいしい!」という料理を食べたあと、パスタならトマト・ソースが、肉料理なら肉汁が、お皿に少し残ったとします。「ああ、おいしいのに、もったいない。」

 こんなとき、どうしますか。

 小さい子供なら、お皿をなめてしまうかもしれない。大人でも、自分だけで誰もいないとなったら、一なめしてしまうかも。

 イタリアの場合、こういうとき、scarpetta(読みは「スカルペッタ」)をします。レストランや改まった場で食べるときは、マナー違反ですので、要注意。自分だけ、家族だけ、あるいは、ごく親しい友人同士での食事の場合に使える便利な技です。

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 その手順は、
1.パンを一切れちぎる。
2.パン切れを指の間にはさみ、あるいはフォークにさして、このパン切れを、ソースや肉汁の残ったところに載せ、前後左右に動かして、お皿をきれいにする。
3.パン切れを口に入れて食べる。

 おいしいソースや肉汁を余すことなく味わうことができるし、お皿もきれいになって、一石二鳥です。家族で食べるときには、残った汁がおいしい、おいしくないに関わらず、お皿をきれいにするために、この技を使ったりもします。

 こうやって、「パン切れを使って、食べ終わったあとの皿の汚れを取り除き、きれいにする」動作を、イタリア語で、fare la scarpettaと言います。scarpettaは「靴」を意味する名詞、scarpaに縮小辞-ettaがついたもので、「小さい靴」を意味します。指やフォークで皿の上に押さえつけたパン切れが、小さい靴のように見えるから、fare la scarpettaという説もありますが、この言葉のいわれには他の説もあるようです。(Treccani.itを参照。リンクはこちら

 家族や友人を見る限り、scarpettaをする動機は、「おいしいから」と「お皿をきれいに」の両方のようです。

 ただ、うちの夫の場合は、サラダを食べたあとに、深皿に残ったオリーブオイルと酢と塩の混ざったものでさえ、「オリーブオイルがもったいないから。」と、パンできれいにぬぐいとるのです。お皿をきれいにしてくれるのは、洗う側としてはありがたいのですが、何もそこまでしなくても、となんとなく思っていました。

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今日はお義父さんも、ハシゴの上でオリーブを収穫

 その夫の気持ち、「オリーブオイルを、最後の一滴まで大切にしよう」という気持ちが、ようやく分かったのは、最近になって、オリーブを収穫していく作業が、どんなに大変かが身にしみて分かったからです。

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今日夫が収穫したのは、鶏小屋周辺のオリーブ。広げた網に、上から実を落としています。


 オリーブの木の下に網を広げ、木にハシゴをかけて登り、網の上にオリーブを落としてゆく。収穫がすむと、網の上の実を集め、枝葉をより分けながら、箱に移し、数十kgの重い箱をまずはガレージ、そして搾油場に運び、長い列に並んで、辛抱強く順番を待ち、……(詳しくはこちら)本当に息の長い、根気も力もいる作業のあとで、ようやく手に入る貴重なオリーブオイルなのです。

 「粒粒辛苦」という言葉がありますが、お米の一粒一粒のかげに、農作業の苦労があるように、オリーブもまた、一粒一粒が大変な作業の末に、収穫されていくものなのです。

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 特に、今日の午後は、オリーブの木の下で、地面に落ちた実はないかと一つひとつ拾っていくお義母さんを見て、この「一粒のオリーブを大切にする姿勢」を、つくづくと感じました。「落穂拾い」ならぬ「落ち実拾い」が、農作物への愛や慈しみに近い気持ちから、行われているように感じました。

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 わたしも午後5時頃、日が暮れて薄暗くなりかける頃まで、カゴを抱えて、オリーブを摘みました。この木は、ひどい急傾斜に生えています。目の前に鈴なりの実があるのに、危ないので手を伸ばせないのが、もどかしかったです。

 イタリアでは、サラダには、自分で適量のオリーブオイル・塩・酢を入れて、味つけをするのですが、サラダを食べたあとに、オリーブオイルが残ると、夫が「こんなに残ってもったいない」とよく口にします。オリーブの一粒一粒、オリーブオイルの一滴が、どれだけの苦労の上にできたものかが、身にしみて分かったので、これからは気をつけて、入れすぎぬように気をつけたいと思います。とは言え、夫にしても、お義母さんにしても、サラダのオリーブオイルはたっぷり入れるのが好きなので、「足りるように、しかも多すぎぬように」という加減を、まだまだ学んでいかなければいけません。

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 薄暗い中、カゴを抱えて戻って来たわたしを見て、エサかと思った猫たちが、一斉に駆け寄ってきたのでありました。

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 一方、こちらは、わたしがオリーブを摘もうと庭に出たときに、駆け寄ってきた子猫たちの写真です。あんまりかわいいので、この写真も記事に添えておきますね。 

Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2010-11-19 23:47 | Famiglia | Trackback | Comments(12)
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Commented by misoji at 2010-11-20 08:11 x
なおこさん、おはようございます!

オリーブの収穫を通じて、とっても貴重な経験されたようですね。

今日の記事に、私も納得の気持ちでいっぱいです。
家庭菜園をはじめ、どんなにお野菜を育てるのか大変か、
本当に理解できました。

どんな物でも大切に頂く気持ち、大切ですね。

収穫、皆さんと頑張ってくださいね♪

猫、可愛いです♪

ペットOKだったら、是非引き取りたいと思った私です。
うふふ
Commented by ensyuu at 2010-11-20 08:35 x
 禅寺でいただく精進料理や茶懐石では、最後に漬物とお湯で器を綺麗に洗って、そして最後には全ていただきます。この記事を拝見して、そのことを思い出しました。洋の東西を問わず、食べ物を大切にする心が息づいているのが嬉しいですね。
Commented by Acui at 2010-11-20 09:51 x
初めてその習慣を見たときは、お皿洗いがラクで助かるー!と思いました。
マナー違反だったのは知らなかったので覚えておかなくては…
先日食べたイタリアンで、パンをオリーブオイルにつけて食べたのを思い出しました。
シンプルなのになんであんなにおいしいんでしょうね、オリーブオイル!
Commented by ムームー at 2010-11-20 10:00 x
なおこさん
オリーブの摘み取りの大変さ、垣間見ただけでもわかります。
大切な恵を残さずに頂くことが自然への感謝と摘み取られた人達への感謝につながりますね。
娘達はお皿に残った美味しいものをパンや野菜でとりながら食べています。
イタリアへまた行きたいって話していますのよ、わたしだけが海外には行ってませんの。
すくすくと育った猫ちゃん達、可愛いですね。
ほっとしますねぇ~
顔から胸に白い毛がある猫ちゃんはシマ子にそっくりです、可愛い~
Commented by milletti_naoko at 2010-11-20 17:24
みそじさん、おはようございます!

日頃からベランダで大切に野菜やハーブを育てているみそじさんは、ご自分でその大変さや大切さ、おいしさを日々かみしめていらっしゃいますよね。

オリーブオイルを大切にする気持ちは分かるけれど、油の取りすぎは体にもよくないし、と思っていたのですが、昨夕、お義母さんが落ちたオリーブの実を一つひとつ拾われている姿を見て初めて、最後の一滴まで大切にいただこうとする夫の気持ちが分かった気がしました。

どんどん増えていく猫たちに、少々途方にくれているわたしたちですが、かわいいですよ。いろんな場所でかわいらしく暖を取ったり、窓からのぞきこんだり… おお、これはかわいいとカメラを向けると、すぐに逃げてしまうのですが。
Commented by milletti_naoko at 2010-11-20 17:29
ensyuuさんへ

そうなんですね! 知りませんでした。こういう行為が食事の作法の中に自然に取り込まれているというのは、すてきですね。食べ物を大切にする心や行為こそ、若い世代に受け継がれ、世界に広がっていってほしいものです。
Commented by milletti_naoko at 2010-11-20 17:31
Acuiさんへ

ピザ屋でも店の人と親しくなった場合、レストランで本当に料理がおいしくて、周囲に他の人がいない場合は、一目を盗んですることもあります。:-) オリーブオイルおいしいですよね。トーストしたパンに、ニンニクをすりつけ、塩をふりかけ、オリーブオイルをかけていただくブルスケッタ、夫もわたしも大好きです。
Commented by milletti_naoko at 2010-11-20 17:36
ムームーさんへ

お嬢さんたちも、ムームーさんを見て育ったので、食べ物を最後まで大切にすることを覚えたのでしょうね。

ムームーさんのシマ子さんも、さぞかしかわいいことでしょうね。このネコ軍団、カゴを片手に野菜畑に向かうと、時々みんなでぞろぞろとついて来ることもあって、愛嬌もあります。
Commented by くみこ at 2010-11-22 20:30 x
スカルペッタ、イタリアに来て最初のほうに学んだ習慣の1つですが、やはり、小さな靴って意味なんですね(昔ダンナに靴と関係あるの?と聞いたら知らないと言われました!)うちの姑は食卓で座る場所がキッチンの前だからですが、パンをもった手を後ろにびょーんと回して、フライパンもスカルペッタします・・・オリーブオイルを最後の1滴まで、というのはお米は1粒も残さないのと同じですね。これを作ってくれた人の苦労へのリスペクト!
滞在許可証のお話・・・私は今カルタの更新手続きしてますが、法律が変わって、もう無期限のはもらえない、と聞いてます・・・今持ってるのは期限なしなので、期限付きに変わるとかなり悲しいです・・・
Commented by milletti_naoko at 2010-11-22 23:44
くみこさんへ

お姑さんもですか!うちの夫も、料理したものの好き嫌いにもよりますが、フライパンや鍋も、パン切れできれいにしますよ。とりわけ料理がおいしくできたときは、わたしもしています。わたしも、こちらの人がオリーブの一粒・オリーブオイルの一滴を大切にする姿が、日本で「お米の一粒を大切に」する姿勢とよく似ているなと感じました。

わたしが2007年に「イタリア人の夫を持つから」という理由で申請した滞在許可証は期限が5年間で、その申請の時点では、次回の更新の際にまだ二人仲良く暮らしていれば(そうあることを祈ります)無期限の滞在許可証がもらえるということであり、今、国家警察(Polizia di Stato)のサイトを見ても、その法律が有効なようではあるのですが…… 比較的新情報がすぐに更新されるサイトなのですが、新しい法改正の情報が、まだサイトの方に反映されていない可能性はあります。
Commented by koba at 2011-10-27 09:00 x
メルマガからリンクして読んでしまいました。関われるところまで衣食住を自分の手で出来ると、感謝と喜びが関わった分だけ返ってきますね。けさは寒かったので、生姜湯を生姜おろしからですが作りました。蜂蜜や葛か澱粉を手にかけるとほんと幸せでしょうね。学習意欲が減退したら、カンフルにメルマガを読む。それでも足りなければ、お奨めの映画を見る。ほんとにいい記事ですね。
Commented by milletti_naoko at 2011-10-27 17:17
kobaさん、おはようございます。今年もオリーブ収穫の時期が近づいてきました。イタリアではお皿を持ち上げて口に近づけるのがご法度で、そういう意味でも、このブルスケッタが活躍します。わたしも寒い今日この頃は、体を温めようと、日中はしょうが紅茶、夜はしょうが湯をよく飲むんですよ。こちらでは、袋入りのしょうが湯の元(?)は売っていないので、わたしもしょうがをすり下ろして、準備しています。メルマガも読んでくださったんですね。ありがとうございます。


日本語教師・通訳・翻訳家。元高校国語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより


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