イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

あれから10年

 2002年4月3日。愛媛県立高校で、12年間国語を教えたわたしは、同年3月31日づけで退職し、4月3日に日本からイタリアへと旅立ちました。

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 3月29日、学校全体の離任式のあとで、担任していたHRの教室に入ると、きれいな花束と共に、教え子たちが、心のこもった言葉と写真でいっぱいの色紙と、

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ルーズリーフに、一人1枚ずつ、温かい言葉でつづった手紙をまとめたファイルを、贈ってくれました。当時の手帳に、こんなふうに書いてあります。

「22R教室では、生徒たちが心づくしのお礼の会を開いてくれて、うれしくて感激した。たくさんの花束に、写真いっぱいの色紙。一人一枚の個性豊かなメッセージまで…… 彼らに出会えたことに心から感謝。」

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 カラーをいっぱいに使い、写真や絵を添えて、小さな字でびっしり書いてくれた女子生徒たち。

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 そして、色紙にも、ファイルにも、主に鉛筆を使って、書き慣れないメッセージを、一生懸命に考えてつづってくれた男子生徒たち。

・僕も先生に負けないように絶対に夢を手に入れます。これからは夢にむかう”ライバル”です。

・イタリアは日本からかなり距離があるけど、国境を越えて、先生のことを応援しています。僕も、自分の夢に向かってがんばっていくので、先生もいろいろと困難にぶつかるかもしれないけど、くじけず、あきらめず、1日1日を大切にして、ガンバッテください。

・イタリアにいくと聞いたときはびっくりたまげました。3年生になってもまた一緒に勉強できるのかとたのしみにしてたんですけどねー。でも人っていうのは、いくつになっても夢をおいかけないとなー。だから先生がイタリアにいくというのなら、まわりの見る目を気にせず自分の正しい道を進んで下さい。

・先生の好きな国、「イタリア」で好きなことに挑戦し、いろいろなことを学んでください。絶対に辛いことの方が多いと思いますが、自分が好きでやることですから後悔だけはしないでください。ですが、「辛いことが多くなると喜びもまた大きい」っていいますけど。

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 男子15名、女子27名と、女子生徒が圧倒的に多い文型クラスでした。当時のことを思い返して、原点を振り返りたいという気持ちもあり、今日はとりあえず、男子生徒からの手紙を、じっくり読み返しました。

 昨日の晩は、ペルージャで、何年も一緒に日本語を教えた同僚でもある友人と、久しぶりに会って、おしゃべりをし、楽しい一時を過ごしました。わたしはイタリアに暮らして10年、彼女は約11年。異国に住む同胞として、いろいろな苦労も喜びも分かち合える友達と、いろいろ話すことができて、うれしかったです。イタリア在住10年を祝って乾杯し、お互いに、これからのことに思いを馳せました。

 お世話になったいろんな人に、十分にお礼も言えないまま、恩返しできないまま、日本を発ってしまった10年前。日本に残る家族と友人、かつての同僚の先生方。そして、高校生活残り1年を控えた皆と別れて、旅立つことを選んだわたしを、たくさんの笑顔と励ましの言葉で送り出してくれた生徒たち。

 今、あの子たちに、胸を張って出会えるような毎日が送れているかしら? これから少しずつ、女子生徒たちの手紙と色紙の言葉も、じっくり読んでいきたいと思っています。今日はようやく、4鉢のうち、一鉢だけですが、椿のつぼみが開き始めています。

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Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by mimi at 2012-04-05 05:52 x
*こんにちは。はじめまして。
偶然、ここにたどり着きました。
イタリア10年在住なのですね。
という私も、フランス11年半です。
海外で生活するという事は、ほんと大変ですよね。
先日も、イタリア15年位のお友達と、同じく色々な苦労や喜びを話していたところです。
また、遊びにきます。
Commented by koba at 2012-04-05 07:13 x
ほんと、いい先生だったんですねぇ。歳が行くほどに覚めて、本音の言葉を出さなくなりますよね。高校生あたりから。昨日の赤いジャケットといい、今日の生徒さんからの餞の言葉といい。
掲載された自分のメッセージを見られている方、この上なく感激です。まちがいなし。新聞に投稿されたりして。
Commented by oliva16 at 2012-04-05 11:31
なおこさん、生徒さんたちからのメッセージ、自分のことのように胸があつくなってしまいました。なおこさんはいつでも全力投球で良いお仕事をされてきたんですね…。
Commented by ムームー at 2012-04-05 12:37 x
なおこさん素敵な思いでですねぇ~
もうイタリアに10年になられるのですね、教え子さんたちの手紙は宝物ですわぁ、その時のことが昨日のように思われますね。
昔、教育実習でもらった手紙も長いこと宝物でした。
人との関わりって素晴らしいことですわ。
椿が綺麗、可愛い~開きかけも愛らしくて素敵~
Commented by milletti_naoko at 2012-04-05 17:22
mimiさん、はじめまして。いろんなことがあったけれど、あっという間に過ぎたという感もある10年でした。海外では、自国では当たり前のことが当たり前ではなく、文化や慣習・食生活も異なるので、何かと大変なことも多いですよね。そんな中で、お互いの思いを共有できる同胞がいるというのは、ありがたいことだと思います。わたし、いつかパリに行きたいなと、昨年からフランス語学習教材やパリのガイドブックをそろえています。と言ってもまだフランス語をかじり始めたばかりなのですが…… わたしからもぜひ、ブログを訪問させていただきますね。
Commented by milletti_naoko at 2012-04-05 17:25
kobaさん、一生懸命ではあったけれど、逆に拙いところも多かったのですが、優しい生徒たち、別れに際して、本当に温かい言葉を贈ってくれました。仕事に、イタリア語の勉強にと必死だったあの頃、今はずいぶんのんびりとした生活を送りすぎていていけないなと、反省しています。
Commented by milletti_naoko at 2012-04-05 17:29
olivaさん、こんにちは! 高校で教えていたときは、担当する教科の授業以外に、HR担任、校務分掌(小さい学校ではしばしば複数掛け持ち)、委員会活動、部活動など、いろいろと仕事が多かったのですが、それだけ、生徒と関わる機会も多く、深く、いろいろな面で充実していたなと、なつかしく思い出しました。
ありがとうございます♪ 何かに夢中になると他がおそろかになるのは、今も昔も変わらないのですが、そういうわたしを支えてくれた、かつての同僚や先輩、生徒たちに感謝、感謝です。
Commented by milletti_naoko at 2012-04-05 17:32
ムームーさん、もともと退職とイタリア留学の決断に踏み切ったとき、「もし自分があと10年しか生きられないとしたら、自分は何がしたいだろう。」という思いが決め手になったので、その10年が過ぎ去ったということには、感慨深いものがあります。
ムームーさんも、教育実習をされたことがあるんですね! 生徒たちが、心からの純粋な思いをつづってくれた手紙って、うれしいですよね。テラスの椿、これからが楽しみです♪
Commented by rica_cuore at 2012-04-05 20:27
ナオコさんは日本では国語の先生をされていたんですね!そして教え子の皆さんからの、たいへん心のこもった暖かいメッセージ。私まで目頭が熱くなってきてしまいました。
この時の生徒さんにとって、先生の一大決心は大変な衝撃でもあったと思います。今の職、地位を捨て、未知の外国へ飛び立つ・・・。先生の勇気ある行動から、生徒さん達の視野が広がったことは間違いないと思います。これらのファイルは宝物ですね!
Commented by pochidora at 2012-04-06 01:12
なおこさんはとってもいい先生だったのですねー。子供達ってそーゆうことに敏感ですから・・。イタリア暦も10年!海外生活の苦労は、同じ海外に住む者同し、よーくわかります!こんな素敵な思い出が手元にあれば、いつでも初心に戻ることが出来そうですよね♪♪ これから先のなおこさんのイタリアでの生活がもっともっと味わい深く喜びも悲しみもひっくるめて素敵なものになりますように!そして、私もそんな風に過ごせるようがんばりまーす♪♪
Commented by milletti_naoko at 2012-04-06 04:53
リカさん、ありがとうございます! 今もでしょうか? 当時の公立高校教員は、仕事としては尊敬もされて、給料もいいし、安定した職業だったので、父には大反対されましたし、自分でも迷ったのですが、後に残して発つわたしに、こんなに優しい励ましの言葉を送ってくれた生徒たちには、本当に感激し、感謝しました。当時、「1年であれば休職して大学院に通える」ことになり、校長に希望を話したら、「1年よそに行っても、うちではもういらん」と言われ(まあ、雇用者は校長ではなくて、県教委であって、県教委が大学院通学は許可しているのですが)、悩み迷ったあとに、決断して話したら、教頭には、「よう決断した。あんたみたいに頭の冴えた人は、教員なんかしとったらいかんのよ。教員なんて誰にでもできるんやけん。世界に羽ばたかないかん。」と、とても思いがけない励ましをいただきました。(つづく)
Commented by milletti_naoko at 2012-04-06 04:55
リカさんへ(上からの続きです)

この10年の間には、学業にも仕事にも打ち込んで、充実した時期もあったのですが、今はちょっと安定した仕事もないので、「羽ばたけて」いません。昔、優しく背中を押してくれた皆に、胸を張って会えるように、これからいろいろと考えていきたいと思います。大学や語学学校から、あるいは個人から、日本語やイタリア語の授業の希望は時々あって、長い間教えてはきたのですが、最近、こちらの大学・大学院で長く共に学んだかなり若い友人が、独力で、語学学校を開きました。わたしも負けてはいられないな、と。
そうです。このファイルと色紙は、一生わたしの大切な宝物です♪
Commented by milletti_naoko at 2012-04-06 04:59
Pochidoraさん、若くて拙くても、一生懸命に取り組んでいたのを、生徒たちはきちんと見て、それぞれの心に何かを感じてくれたのだと思います。ありがとうございます! やっぱり長く海外に暮らすと、いろいろな場所で問題にぶつかっていきますよね。Pochidoraさんのロンドンでの生活が、これからもすてきな充実したものでありますように。Pochidoraさんにお会いして、ロンドン日本語・日本人カラオケパーティー、それが楽しみで、また早くロンドンに行けたらなと思うようになりました♪ お互いに、体と心と暮らし、人生の美を目指して、頑張りましょう!
Commented by 更紗 at 2012-04-06 06:59 x
いい生徒さんたちだったんですね。そして、それ以上になおこさんが素晴らしい先生だったことがわかります。
こんなに好きになれた先生なんていませんでしたよ!!
Commented by milletti_naoko at 2012-04-06 15:53
更紗さん、心を込め、手と時間をかければ、気持ちはいつかきっと通じること、そして、自分の夢に向かって進む大切さ、信じて努力をすれば、自分も他人も驚くほどに成長できて成果が上げられるのだということ、生徒たちからは、いろんなことを教えてもらいました。二つ目に教えた学校で、英語が大好きだったけれど苦手だった女子生徒が、何とか志願校に合格できたのですが、さらに日本の大学からアメリカの大学に留学して、元気に頑張っている様子を手紙で伝えてくれました。
Commented by Navia at 2012-04-24 20:57 x
はじめまして。たまたまなおこさんのブログを見つけて、この4ページまで一気に読んでいました。先生をされていたんですね、ブログを読んでいてもなおこさんのお人柄がうかがえます。生徒たちにとって大好きな先生だったことは想像がつきます。お年頃の頃なんて先生がどうこうなんて私考えたことなかったもの、こうやってすばらしい冊子を残したくなるくらい思春期の心に響いたのだと思います。過去記事もこれからゆっくり読ませてもらいます。リンク貼らせてもらってよろしいでしょうか。もしよろしければ相互リンク、お願いしたいのですがいかがでしょうか。
Commented by milletti_naoko at 2012-04-24 22:24
Naviaさん、はじめまして。うれしくお優しいコメントをありがとうございます。純粋で素直な生徒たちが多かったことに加えて、自分の都合で退職を決意したにも関わらず、それを「人生のひとつの在り方」として生徒たちに伝えてくださった先輩の先生方のおかげで、お互いに心をこめた、将来につながる別れができたことに、今もありがたいことだと思っています。わたしもNaviaさんのリンクいただきますね。コモには夫が家族ぐるみでつきあいのある友人一家が住んでいるんですよ。わたしはもう10年以上も昔に、Simply Italyというローマ発着の英語ツアーで、北イタリアの大きな湖を訪ねたことがあるのですが、確かコモ湖だったのではないかと思います。

昨晩思いついて、タグとカテゴリの見直しと書き換えを始めたら、収集がつかなくなってきました。一度にすると大変なので、時間のあるときに少しずつ全体の変更をしていくつもりです。そのせいで、少しタグ・カテゴリから記事を読むのに不都合があったら、申しわけありません。
by milletti_naoko | 2012-04-04 17:45 | Ricordi | Comments(17)