勇気を出して

 大丈夫だと夫が言うのに、わたしは何度か途中まで上りかけたものの、上りきる度胸がなく、結局最初は、夫だけが上りました。

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 改築中の家には、まだ階段ができていないので、ハシゴを使って上階に上らなければいけないのですが、ごらんのように、この階は、ひどく天井が高い上に、わたしは高所恐怖症です。

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 足元の下が見える階段が苦手なので、シエナのマンジャの塔を上るときでさえ、恐怖にはらはらしていたわたしです。途中まで上りかけたものの、上階の床の上にどう降りていいものか、そして、何よりも、このハシゴで下に降りられる度胸と自信がなくて、上りかけては下りるということを、2、3度繰り返したあとで、わたしにはできないと言いました。

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 それが、下で待っている間に、「できないと思っている、その壁を、勇気を持って、打ち崩してみよう」という気になり、さらに、夫が上にいて、わたしがハシゴから下りるのを助けてくれたら、何とかなりそうだと思いました。そこで、勇気をふりしぼって、ハシゴを上り、ついに初めて、上の階に上り、こちらの壁画を見ることができました。

 この家で少年時代を過ごした未来派の画家、故ドン・ネッロ・パッローニ(Don Nello Palloni)は、夫の父方の遠い親戚で、わたしたちの結婚式を執り行ってくれた神父でもあります。夫は、生前のドン・ネッロから、「この家の一番上の階の壁に、少年時代にワシの絵を描いたんだ。」と、しばしば聞いていました。

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 けれども、近年は、この階への通路がなかったため、この絵が数十年ぶりに日の目を見たのは、昨年の夏、改築作業が始まって、ようやく上階に上がれるようになったときのことでした。上の写真は、夫が昨年8月22日に、同じ絵を撮影したものです。上の写真と比べると、改築作業中に、左官職人たちがうっかり絵を損なってしまった部分が、あちこちにあるのがお分かりだと思います。特に、上の左端は、すっかり欠けてしまっています。大切な恩人の思い出でもある作品なので、とても残念です。

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 こちらは今年9月13日の写真ですが、上階へ行くには、つい最近までずっと、こんなふうに仮設足場が設置されていました。左官職人や夫はこのハシゴを使って、上階に上っていたのですが、わたしにはその度胸がなく、ようやく上に上がれたのは、今日になってからでした。

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 今回夫が上るようにと強く促したのは、今日取りつけられたばかりの窓を見せるためです。

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 9月から、もう2度、家具作りのさかんなチッタ・ディ・カステッロに出かけて、友人が勧めてくれた家具職人に、最初は、窓とよろい戸の製作を依頼し、二度目は製作中の窓を見て、窓枠とよろい戸の色などを決めました。

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Città della Pieve 24/10/2012

 床に敷くレンガについても、どこに頼むか決める必要があって、10月に入ってから、あちこちウンブリアの業者を訪ね、レンガを見て、見積もりも出していました。義弟に勧められて最初から有力候補に上がっていたチッタ・デッラ・ピエーヴェの業者を、今週水曜日に訪れ、製品も地域の伝統を大切にしようという信条もいいし、値段も手頃なので、ここで頼むことに決めました。

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 今日の午後、ミジャーナの改築中の家を訪ねたのは、この業者が床面積を測定しに来たからです。さらに、助言を聞きながら、各部屋にどんなふうにレンガを並べていくかを決めました。これは昔から、家畜小屋の床として使われていた並べ方で、水はけがいいのだそうです。

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 今年は、うちでも、ミジャーナでも、オリーブの実が、例年に比べてひどく少ないのですが、改築現場のただ中にあるこの木だけは、びっくりするほどたくさんの実をつけています。オリーブがかなり色づいてきています。オリーブ園の前には、イノシシ狩りに来た人々の車がずらりと並び、家の中にいる間じゅう、銃声や犬の鳴き声、狩人たちの声が聞こえてきました。途中で雨が降り始め、風まで吹いてきたというのに、わたしたちが帰宅するときにも、まだ狩りが続いていました。

 資金が底をついてきたので、すべての作業を済ませるのではなく、まずは一部だけ住めるようにしておいて、あとは経済的余裕ができれば、また少しずつ作業をしていくことにしています。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2012-10-27 21:42 | Altro | Trackback | Comments(6)
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Commented by クロちゃん at 2012-10-28 08:02 x
なおこさん、おはようございます。♪
私も高所恐怖症です。(^^ ; ^^)
高いところは登るときより下りが怖いです。
画像見ただけで、ハラハラ、ドキドキ~。
早く安心して登れるようになると良いですね。(^^)/
壁画に浪漫を感じます。
Commented by milletti_naoko at 2012-10-28 18:45
クロちゃん、おはようございます♪ 夫は、あと5、6回も上り下りすれば、怖くなくなるよと言うのですが、恐怖は克服したものの、今しばらくは上るつもりはありません。そうなんです。ほぼ垂直に何もない床に向けて下りるときのことを想像したら、その勇気がなくて、天井近くまで上ってはそのまま下に下りてしまうということを、最初は繰り返していました。早く階段ができてくれることを祈ります。

高みから雪を頂く高い山々を見下ろし、大空を飛ぶワシ…… まだ神父を志す前に、そして、いずれは画家として大成したドン・ネッロの少年時代の心象風景と、当時から秘めていた画才が見えるようで、とてもすてきな作品だと思います。高く高く大空を!
Commented by bianchi_saitoh at 2012-10-28 22:39 x
なおこさん、窓の雰囲気いいですね。
前に紹介のあった壁塗りもむき出しの石の部分とのバランスも素敵です。
本物の石だからこその味があります。

絵、いきさつがあるのに残念ですね。
日本だったら大問題ですね。

高所恐怖症、わかります。
特に降りるときの1歩目。足裏が触れるまでが怖いですよね。
1cmが長く感じる恐怖、タマリマセン!
Commented by milletti_naoko at 2012-10-28 23:10
bianchi_saitohさん、ありがとうございます。夫はそのまま放っておくようにと言っていた、石と石の間の溝を左官職人が「蜘蛛の巣やホコリの恐れがあるから、この方がいい」と、勝手に埋めてしまったり、大切な絵を無用心に傷めてしまったり…… 個人所有の家で、周知の作品でないとは言え、将来画家となった方の少年時代の絵が、こんなふうに欠けてしまったのは本当に残念です。

上るときより、床からハシゴまで足をかけるときがこわかったです。いったん足を載せてしまったら、後はしばらく目をつぶって下りていきました。上るときは感じなかったのですが、下りるときは、ハシゴの段差がひどく大きくて、足を伸ばすのになかなか下の段に足が届かないという印象がありました。無事に下まで下りたときには、本当にほっとしました!
Commented by kazu at 2012-10-29 00:21 x
なおこさん、こんばんは。ミジャーナのお家、改築が随分進んできましたね。あの絵は、フレスコ画だったのですか。日本で家をリフォームするときは、それはそれは慎重に、必要な場所にはビニールシートできちっと覆って、こんな大切なものを壊してしまうなんてことはありませんが、これもお国柄なのでしょうか。それにしても悔しいですね。修復はできないのかな。

でも、一つ一つ原材料を見定めて、出来合いではない、これこそほんとに家を造る、ということなのだと感心しながら読ませて頂きました。ご近所に建った新築の家は、なんか、イケヤの家具の組み立てみたいでしたよ。早く完成するといいですね。私まで楽しみになってきました。
Commented by milletti_naoko at 2012-10-29 01:53
Kazuさん、こんばんは。壁に自分で絵を描いてみたいなと思って、以前芸術家の友人に相談したことがあるのですが、そのときに、技術と時間をかなり要するフレスコ画以外にも、壁に絵を描く方法はあると聞いていますので、このときの技法がフレスコ画であったのかどうかは、描いたドン・ネッロがすでにこの世を去っていることもあり、判断が難しいのではないかと思います。いずれにしても、何十年以上も前に描かれた絵が、こんなに鮮やかに今も残っていることに、感動しました。絵が傷んだのは、わたしたちの側で、きちんと対策を講じなかったということもあるかと思います。

改築前は、外壁もすっかりセメントで覆われ、床も最近の造りになっていたのを、セメントを崩して現れた石の壁が美しいので、この石の壁に見合った屋根や床の素材、窓をと考えながら改築を進めていたら、最初予定したのをかなり上回る出費となり、今、全部を完成させるのはとても無理ということになりました。頼んだのとは違う仕事をしたり、仕上げに不満が残ったりと、困ることも多いのですが、少しずつ仕上がっていく家を見るのが、楽しみです。


日本語教師・通訳・翻訳家。元高校国語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより


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