イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

伊語・仏語で「手を洗う」

 『フランス語のABC』の学習を、ようやく代名動詞まで終えました。だれかが「(自分自身の)手を洗う」と言うのにも、言語によって、言い方に違いがあります。

  (わたしは)手を洗います。
  I wash my hands.
  Mi lavo le mani.
  Je me lave les mains.

 ごく一般的な状況では、「自分の手を洗う」と言うときに、その洗う手がだれの手かについて、日本語では言及せず、英語では「わたしの手」と、所有形容詞myを使うのですが、イタリア語とフランス語では、「自分の体の一部を洗う」ときには、「自分において…を洗う」と、動詞にはlavarsi、se laverという代名動詞(再帰動詞)を使い、名詞の前には定冠詞を置きます。

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Tempio Sanzen-in Ohara, Kyoto 26/3/2009

 上の3行目のイタリア語と4行目のフランス語の文をご覧になると、さすが共に、俗ラテン語から発展・変容してできたロマンス語であるために、文法的構造も、単語も似通っています。ただし、フランス語では、主語は原則的に常に明記しなければいけないのに対し、イタリア語の主語は、状況や動詞の活用などから推測できれば、あえて書かないのがふつうなので、イタリア語の文では主語(ここではio「わたしは」)は明示されず、フランス語の文には主語が書かれています。ちなみに、英語でもフランス語でも文には主語が必要だからか、イタリア語を学び始めた外国人に最も多い間違いは、何を言うにも、Io… Io…「わたしは… わたしは…」と、イタリア語では本来必要がない、言うと不自然な場合に、Ioを冒頭に置いて、文を作ってしまうことだそうです。

 それはさておき、イタリア語とフランス語が似ているおかげで、こういう変わった動詞の仕組みは理解も記憶も楽なのですが、似ているがゆえのうっかり間違いということも、よくあります。『フランス語のABC』に、「彼は食事の前ごとに手を洗います。」という仏作文の課題があったのですが、イタリア語の影響を受けた、というかイタリア語に引きずられた間違いをしてしまいました。

  Il se lave le mains avant chaque repas.

 イタリア語では「手」の単数形はmanoで男性名詞ですが、複数形maniは女性名詞で、定冠詞をつけるとle maniとなります。一方、フランス語では「手」を意味する名詞は常に女性名詞で、複数だから冠詞は[le]で、複数語尾の-sを名詞の語尾につけて……と、頭で考えて答えたのですが、フランス語では、複数名詞の定冠詞は、発音はイタリア語の複数の女性名詞につく定冠詞、leと同じでも、つづりはlesなのでありました。ですから、正解は、

 Il se lave les mains avant chaque repas.

だったのです。

 こんなふうに、フランス語の勉強中は、イタリア語の知識に助けられることも多いのですが、イタリア語に引きずられての間違いも、よくあります。イタリア語では、発音と表記がほぼ一致しているので、ついついイタリア語的につづって、フランス語では、発音はしないけれど表記する子音を忘れてしまうというのが、その手の間違いで、最も多いものの一つです。

 イタリア語とフランス語では、類似する単語の性が同じ場合が多いのですが、それだけに、イタリア語のcolore「色」、mare「海」は男性名詞だけれど、対応するフランス語のcouleur、merは女性名詞といった具合に、伊仏で、性が異なる名詞も、注意が必要です。la couleur、la merと、定冠詞と一緒に覚えるのが、一番確実そうです。

 また、「ズボン、パンツ、スラックス」を意味するイタリア語は、おそらくは、足を入れる部分が二つあるからということで、ふつうは、一着でも複数形のpantaloniを使います。「一着」であることを強調したい場合は、un paio di pantaloni。これは英語でも同じで、複数形を使って、(a pair of) trousersなのですが、一方、フランス語では、なんと単数形を使って、un pantalonと言うことができるので、やはり、こういう微妙な違いには気をつけなければと思います。ちなみに、フランス語を勉強していて、初めて、「パンタロン」がフランス語であることを知りました。パンタロンという言葉自体、もうずいぶん長い間、見聞きしたことがなかったので、何だか妙になつかしい気持ちになりました。

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Horloge du Musée d’Orsay 10/6/2012

 イタリア語ではlegumiというと「豆類」のことなのですが、フランス語ではlégumesは「野菜」のことで、これもうっかりしていると、勘違いしてしまいそうです。イタリア語で「時計」を表すorologioは男性名詞で、大きい時計も、腕時計のように小さい時計も、イタリア語ではすべてorologioなのですが、対するフランス語のhorlogeは、語頭のhは発音しないので、発音は似ているものの、女性名詞で性が異なる上に、主に、駅や学校にある大時計を意味するのであって、腕時計や懐中時計のように小さな時計はmontreになります。

 似ているがゆえに、時にフランス語学習を助け、時につまずきの原因となってしまうイタリア語。違いをはっきり認識し、注意しながら、勉強を続けていきたいと思っています。

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Italiano vs Francese

Pensavo di aver risposto giusto, ma invece di scrivere correttamente 'les mains' ho scritto 'le mains'. La pronuncia è uguale all'articolo italiano, 'le', ma in francese c'è questa 's' muta.
Poi 'colore' e 'mare' sono nomi maschili in italiano, ma le parole equivalenti in fransese, 'couleur' e 'mer' sono nomi femminili.
Nel caso di 'horloge' francese, oltre ad essere un nome femminile diversamente dall'orlogio italiano, non indica un orologio piccolo... quello si chiama 'montre'.
E 'légumes' non sono fagioli e ceci, ma 'verdure' e poi in francese quanto ad un paio di pantaloni si può dire 'un pantalon' anziché usare il plurare come in italiano ('un paio di pantaloni') e in inglese ('a pair of trousers').
Le somiglianze tra l'italiano e il francese mi facilitano spesso lo studio del francese, ma a volte mi fanno inciampare, quindi devo stare molto attenta.
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Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by oliva16 at 2013-03-21 13:58
着々と勉強が進んでいるなおこさん……。私は相変わらず学習妄想ばかり膨らんでいます(苦笑)。新年の誓いが何だったかも思い出せないくらい……。でも4月から、「新年度」ということでまた新たに頑張りたい、かな(弱気)。
Commented by milletti_naoko at 2013-03-21 16:28
Olivaさんは、翻訳のお仕事や学習でお忙しくて、それがりっぱな密度の濃い勉強時間になっていると、わたしは確信します。精読が中心なので、多聴や多読も取り入れると、近くから深く、左脳を働かせてする勉強に、右脳を取り入れた広く浅めの勉強もできて、バランスが取れるのではないかと思うのですが。

花や緑が美しく、育ちゆく春。わたしたちの学びの苗も大切に育てて生きたいものですね。わたしも去年は2月にフランス語の勉強を始めて、少しだけかじったものの、そのあと、パリ短期語学留学を決め、4月半ばに本格的に勉強を再開するまでは、すっかり勉強を投げ出していました。留学後の6月から11月までにも5か月間すっかりフランス語学習から遠ざかっていて、おかげで、日本語の入門書2冊は、再び冒頭から始めざるを得ないはめになりました。この苦い経験があるので、たとえば2月は体調を崩して学習時間は今ひとつでしたが、少しでも勉強を継続するつもりでいます。その方が自分が楽なのだと、つくづく分かりましたから。お互いに頑張りましょう! Olivaさんといっしょにお花見ができたら、いろいろお話できるのに。
by milletti_naoko | 2013-03-20 23:25 | Francia & francese | Comments(2)