イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

フランス語で読む夏1

 今朝、ジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』の原書、『Le Tour de monde en quatre-vingts jours』を読み終えました。

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 この本を買ったのは、たまたま書店で、フランス語学習者用に易しく書き換えたものを見かけたからです。簡易版と原書をぱらぱらとめくってみて、意外と、原書でも何とか読んで楽しめそうだと思ったので、原書を購入することに決めました。(詳しいいきさつは、下記リンク参照)

 初めて読んだフランス語の本、『星の王子さま』は、すでに日本語やイタリア語で何度も読んでいた上、まだ入門書もすべて終えていない段階で読了したため、既存の知識にかなり頼って、何とか読み終えたというよりは、さらったという感じなので、今回の本こそ、本当に、フランス語で読んで鑑賞できた第一冊目の作品と言えると思います。夫がジュール・ヴェルヌの大ファンで、少年時代に何冊も読みあさったと、常々聞いていたこともあって、おもしろさは疑っていなかったのですが、予想にも増して読書が楽しくて、夢中で読み終えることができました。と言っても、読み始めたのは6月8日ですから、約2か月かかっています。話の内容が分かってしまいますので、今から『八十日間世界一周』を読もうとお思いの方は、以下の記事は読み飛ばしてください。

 フランス人作家による作品なのに、最初の舞台が英国で、主人公がイギリス紳士なのにまず驚きました。時間や法をとにかく守ろうとする几帳面な主人公は、やはり英国人でなければならなかったのでしょうか、それとも、世界を一周しようと思いつくのは、やはり産業がさかんで、世界各国に植民地を持つ英国人がふさわしいと考えたからでしょうか。ただ、この主人公を慕い、忠実に仕え、お人よし、かつ、いろんな離れ業も見せる副主人公、パスパルトゥは、やはりフランス人でした。大金を賭けて、世界一周を80日間で成し遂げようとする主人公、フォッグ氏の前に、次から次へと奇想天外な障害が待ち伏せ、読みながらはらはらしました。冒険だけではなく、意外な恋物語もちゃんとあって、それも最後までどうなることかと楽しめました。そういう物語自体の展開や主人公をめぐる人物像はもちろん、作品が話の展開上、必然的に歴史を横の線でつないでいる点も、とても興味深かったです。

 物語は、1872年10月、ロンドンを舞台に始まります。1872年と言うと、日本では武士の時代が終わり、明治維新が始まったばかり、アメリカでは南北戦争が終わり、西部開拓時代の最中、イタリアでは、1861年のイタリア統一のあと、1870年に教皇領であったローマが併合されたばかり、そして、イギリスでは虚構の話ではありますが、1881年にはシャーロック・ホームズがワトソンと始めて出会い、以後の名探偵の手腕がワトソンによって語られる、そういう時代です。考えてみれば、同じ頃、世界の各地でこういう動きが繰り広げられていたということは分かるのですが、たとえばテレビで西部劇の映画を見たり、シャーロック・ホームズのテレビドラマを見たり、はたまた、日本の明治時代の初めを思ったりするとき、わたしの頭の中には、それがすべて時代で言うと同じ頃なのだという感覚があまりなかったのです。そのため、80日間で世界を一周しようと、各国を急ぎ足で訪ねるフォッグス氏やパスパルトゥのおかげで、初めて、こういう、一見かけ離れて見えることが、実はすべてほぼ同じ時期に起こっていたのだ、あるいは、同じ時期のこととして描かれていたのだと分かって、はっとしました。

 この本を読み始めたおかげで、西部劇の場面を見ては、当時の汽車のつくりを観察して、おかげで本の汽車の描写が理解しやすくなり、逆に、西部劇を見ながら、その頃、世界の他の地域ではどんなことが起こっているかも頭に浮かびました。日本もちらっと登場したので、その描写も楽しむことができました。昨晩も、テレビでシャーロック・ホームズのテレビドラマを見ながら、フォッグス氏たちが暮らしていたロンドンでも、人々はこんなふうに帽子をかぶりスーツを着て、こういう家に住み、馬車を利用して移動していたのだろうなと想像しました。

 フランス語で読むことを通して、フランス語の語彙力や読解における類推力、読解力などを鍛えることができたのはもちろん、イタリア語と違っているため、頭に入りにくかったフランス語の文法事項も、読んでいるうちに何度も登場して、その形に慣れることができました。「80日間で世界を一周すること、賭けに勝つために、次の便の出発時間に間に合うように目的地に到着すること」が物語の鍵であるため、月日や日時、時間に遅れること、早く着くこと、間に合うこと、速さなど、そして、さまざまな乗り物に関わる表現が頻出して、こういう表現を楽しみながら身につけることができました。

 読み終わりが近いのが分かっていたため、次に読みたいフランス語の本を、アマゾン・イタリアで水曜日に4冊注文したら、昨日さっそく、そのうちの2冊が、今日は別の1冊が届きました。『八十日間世界一周』には、20ページの長い前書きと作品解説があります。これからしばらくは、この前書きと作品解説を読み、そのあとで、次の作品を読むつもりでいます。

 わたしが読んだ本には、次のリンク先にある1884年版の本に使われた絵が使われています。このページからは、オンラインで無料で本文を読み、絵を見ることができますので、もしご自分もフランス語で読んでみようという方がいたら、参考にしてください。わたし自身は、音声教材はCDで、本は紙のものが好きなので、基本的には、あまりオンライン教材には頼らず(ラ・ルースのオンライン辞典は便利なので大活用していますが)、本はできれば買うことにしています。幸いイタリアでは、フランスが隣国で、フランス語の本は安く手に入ることでもありますし。

- Bibliothèque nationale de France – gallica – Le tour du monde en quatre-vingts jours / par Jules Verne; dessins par MM. de Neuville et L. Benett – J. Hetzel (Paris) - 1884

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"Le Tour du mond en quatre-vingts jours" di Jules Verne

Oggi ho finito la lettura. E' molto interessante o c'est un roman très interessant!
Poiché i protagonisti cercano di girare tutto il mondo in 80 giorni, i lettori scoprono che l'epoca dei film western era anche quella di Sherlock Holmes e anche quella del Giappone in cui era appena finita una lunghissima dominazione da parte dei samurai. La comtemporaneità di questi accaduti la sapevo come conoscenze, ma leggendo questo libro l'ho percepita pienamente per la prima volta.
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LINK
- 仏語学習中間報告 (3/7/2013)
- Amazon.it - Tour du monde en quatre-vingts jours (Folio classique)
- Amazon.fr - Le Tour du monde en quatre-vingt jours (Folio classique)

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by oliva16 at 2013-08-03 22:02
私も、もう少し頑張って、「イタリア語を読む夏休み」を実現させたい!ロダーリの「猫とともに去りぬ」という短編集の訳書をぼちぼちと読んでいるのですが、言葉遊びが豊富で、原語で読んでいたらたぶん面白さが分からなかっただろうな……と思う反面、このお話の原語ってどんなだろう?と興味がわいています。
Commented by milletti_naoko at 2013-08-03 23:30
Olivaさん、ロダーリって、イタリアでも世界的にもかなり重要な児童文学作家のようですね。恥ずかしながら、大人になって初めて名前を知りました。数年前のティム・バートンの映画、『チャーリーとチョコレート工場』の原作がロダーリの作品と知って以来、読んでみたいと思いつつ、そう言えばまだ読んでいませんでした。その本、原語でもきっとおもしろいと思いますので、ぜひ手に取ってみてください。

わたしはまだ日本にいた頃、訳注があったからと、イタリア文学は、ピランデッロの短編集から読み始めたのですが、いきなり難しい語彙がたくさん出てきて苦労しました。それで、『星の王子さま』やハリー・ポッターシリーズなどの外国の児童文学作品をイタリア語に訳したもの(訳の方が、妙に凝った文学的表現や語彙が少なくて分かりやすいかなと思って)、そういう作品から読み始め、後は友人の勧めでバリッコやカルヴィーノの作品を読んでいきました。時々は、イタリアの文学作品もご紹介できたらと思いながら、そう言えば最近はしていないなと、Olivaさんのコメントを読みながら反省しました。
by milletti_naoko | 2013-08-02 18:46 | Film, Libri & Musica | Comments(2)