日本語VSイタリア語、「電話をかける」

 月や日、曜日を学習したので、記憶を定着させるためにもと、授業の初めには、毎回、生徒さんに尋ね、ホワイトボードの上に書き記すことにしました。背が低いので、上の方に書いている字は、ゆがんでしまっています。

f0234936_535936.jpg

 今日は、授業の最初に、4日間の連休中も家で日本語を勉強した生徒さんから、いくつか質問がありました。そのうち、おもしろいなと感じ、かつ日本の方がイタリア語を勉強していても、間違いやすい表現だなと思ったのは、「でんわをする」という表現です。

 日本語では、「電話をかける」と言うにせよ、「電話をする」と言うにせよ、かける相手の後につける助詞が「を」ではなくて「に」なのはなぜかというのが、生徒さんの質問の主旨です。これは、「電話をかける」という言葉で、生徒さんが頭に思い浮かべたのが、イタリア語の動詞、chiamareで、chiamareは他動詞なので、電話をかける相手は、動詞の直接目的語になるからでしょう。

 最初にすぐに思いついたのは、こういう返事です。

 「でんわをかける」も「でんわをする」も、イタリア語で言うfare una telefonata a qualcunoと同じ構成になっていて、この二つの表現の中に、すでに他動詞(かける・する)と直接目的語(でんわ)が含まれているので、電話をかける相手は、間接目的語(complemento indiretto, complemento di termine)になるんですよ。だから、人のあとには「に」という助詞(particella)が来るんです。

 ただ、さらに次のように説明を続けるうちに、単にそういうことだけでもないらしいということに自分で気づきました。

 「でんわをかける」、「でんわをする」の代わりに、「でんわする」という動詞を使って言うこともできるのだけれど、……

 そこで、気づいたのです。あれ、動詞が「でんわする」の場合でも、かける相手のあとには「を」ではなく「に」が来る、かける相手は直接目的語(oggetto diretto)ではなく、間接目的語扱いになっているぞ。

 それで、こう続けました。

 イタリア語でだって、「だれかに電話する」と言うのに、動詞にchiamareを使えば、chiamare qualcunoで、かける相手は直接目的語だけれど、動詞にtelefonareを使うと、telefonareは自動詞なので、telefonare a + qualcunoと、かける相手の前に前置詞のaが必要で、かける相手は間接目的語扱いになるでしょう。

 たとえば、incontrare(会う)やsalutare(あいさつする)も、イタリア語では、他動詞で直接目的語を取るけれども、日本語では自動詞で、間接目的語を取るように、意味が同じ動詞でも、直接目的語を取るか間接目的語を取るかは、言語によって、あるいは同じ言語でも使う動詞によって違うことがあるんですよ。イタリア語でだって、確かに、chiamareは直接目的語を取りますが、これは元来は「人を呼ぶ」という意味であって、「よぶ」は日本語でも他動詞です。イタリア語で「電話をする」という意味でchiamareを使うのは、その本来の「呼ぶ」という意味から派生した用法であって、「電話をする」ことだけを意味するtelefonareについては、イタリア語でだって、間接目的語を取るじゃありませんか。

 そう説明したら、納得してくれました。イタリア語では、「会う」を意味するincontrareが他動詞なので、イタリアの人は、母語に引きずられないように気をつけないと、「先生に会う」ではなく、「先生を会う」と間違えてしまいます。外国人大学で教えていた頃は、いろんな母語を持つ学生がいたので、皆に、たとえばポルトガル語やポーランド語などでは、こういう動詞が直接目的語を取るか、間接目的語を取るかを答えてもらうと、言語によってさまざまで、なかなか興味深かったです。

 それはさておき、そういうわけで、イタリアの方にとって難しいのは、
(1) わたしは きのう 父 でんわをかけました。
(2) わたしは けさ ともだち あいました。
と、イタリア語の対応する動詞表現であれば、直接目的語である言葉に、助詞「を」ではなく「に」を使わなければいけないところです。

 一方、日本人でイタリア語を学習する方にとってやっかいなのは、同じ「電話する」という表現でも、動詞にchiamareを使うか、telefonareを使うかで、かける相手が直接目的語になるか、間接目的語になるかが違ってくる点です。試しに、(1)の文をイタリア語にしてみましょう。1文目ではchiamare、2文目ではtelefonareを使ってください。

 正解はこちらです。

(1)-a Ieri ho chiamato mio padre.
(1)-b Ieri ho telefonato a mio padre.

 できましたか? 今度はさらに、それぞれの文で、mio padreを代名詞に置き換えてみましょう。


 正解は、こちらです。

(1)-a’ Ieri l’ho chiamato.
(1)-b’ Ieri gli ho telefonato.

 それぞれ、(1)-a’ Ieri ho chiamato lui.、(1)-b’ Ieri ho telefonato a lui.と言っても間違いではありませんが、こんなふうに言ってしまうと、「わたしが電話したのは(彼女ではなく/他でもなくetc)彼なんです。」と、電話をかけた相手をいたずらに強調した文章になってしまいます。

 生徒さんの質問を聞きながら、答えながら、いろいろ発見があって、興味深い毎日です。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2014-05-05 22:37 | Insegnare Giapponese | Trackback | Comments(6)
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Commented by ayayay0003 at 2014-05-06 14:39
こんにちは。
文法なんて高校時代からやってなおので恥ずかしながら日本語でも忘れている状態です(笑)。助詞の使い方などは、日本人であっても難しく普段日本語にふれているからこそなんとなく文法など意識せずに使っているのだとなおおさんの解説文を読みながら感じました。外国人の方にとっての日本語は本当に難しいであろうと想像できます。4日間の連休中にお勉強してくるとは凄い努力されてますよね~♪
同じ単語で、日本語では自動詞、イタリア語では他動詞なんて本当に言語の違いというのはやっかいなものですね!こういうところから語学学習の挫折が始まるダメダメな私であります(笑)。
Commented by milletti_naoko at 2014-05-06 22:51
アリスさん、こんにちは。母語はきちんとしたインプット、アウトプットが量的にあれば、少なくとも話し言葉については、文法を特に頭で意識しなくても、きちんと話せるようになるのですが、大人になってから学ぶ外国語ではそうもいかないので、なかなか大変です。

理屈や文法に適度にこだわりつつ、アウトプットとインプットを量的にこなしていくのが一番の上達の近道だと思うのですが、今回の生徒さんは、これまでの学習経験や癖で、口では「実践が一番大切」と言いながら、実際には家での勉強でも学校の授業でも、文法や理屈にかなり踏みとどまり、左脳に偏りがちな学習になっています。ただ、教えるわたしたちの方で、何とか右脳を通してというか、頭でいちいちイタリア語を解さずにさっと日本語で答えられるようになればと、文字を解さぬ会話も多く取り入れるように工夫しています。とは言え、それまでの学習経験や学習の癖にある程度はそってあげた方が、本人も心理的に安心するし、効率がいい点もあるので、舵の取り方を工夫中です。

旅行で必要なあいさつやお礼、数字をしっかり勉強される、そういうアリスさんの目的に応じた学習というのも、りっぱな語学学習だと思いますよ。
Commented by patata at 2014-05-06 23:44 x
なおこさん、こんにちは!大変ご無沙汰しております。お元気ですか?コメント、かなり久しぶりになってしまいました、、すみません。今回の記事は正に私にとっても悩ましい文法事項です。。
chiamare/telefonareは代表格ですよね。恥ずかしながら未だに混乱することがあるのですが、私だけでなく、日本語を学ぶイタリア人も同じく混乱するのですね(笑)私だけではないんだな、と少しホッとしました!
特にSalutare(挨拶する)は、文で書き出すと分かるのですが、未だに会話などで出てくると、咄嗟に言葉に出来ない時があります^^; ちょっと本題から逸れますが、例えば、salutamelo!の、このme(mi)の部分は一体なんなの!?と長らく疑問に思っていたのですが、da parte mia という意味合いで、loの部分が直接目的語なんですよね?(あれ?あっていますでしょうか…?書いていて少し混乱してきました^^;)これも、もしかしたら同じように、日本語を学ばれるイタリア人達も今後、疑問に思うことかもしれませんね…私も良い復習になりました^^ありがとうございます。
連休はプーリアに行かれたんですね、いいですね!
南イタリア!な明るい雰囲気が写真からも伝わってくるようです。
Commented by nagisamiyamoto at 2014-05-07 01:24
なおこさん、こんばんは
いや、言葉と言うのはフシギなもので外国人だからこそ気づく文法のハテナって存在しますよね。で、それを私達外国人がイタリア語に感じたとき「何故?」とイタリア人に聞いても「なぜって・・・そういうものだから」という回答が来るのみで、理屈を立てて説明することはひどく難しいように思われます。
それをなおこさんは日本語とイタリア語を通じて説明しているのですね。私もイタリア語を勉強している頃、とにかく先生によく質問をしましたが的確な答えってプロでも難しいんだと失礼ながら感じていました。
なおこさんがこの様に時々感じることを私達にも伝えていただけることは有難いです。今となっては難しいイタリア語を見つめなおす機会を作っていただいてありがとうございます。
Commented by milletti_naoko at 2014-05-07 21:35
Patataさん、日本語と中国語は、言語の類型から見ると、イタリア語から最も遠い2言語だとのことで、日本語を学ぶイタリアの方も、イタリア語を学ぶ日本の方と同様、やっぱりいろんな難しさにぶつかりながら、頑張って勉強を進めています。

好みの味や食べ物、車の運転と同じで、外国語学習もついつい自分の国の慣れたもの、母語が、奥の奥で基準になってしまっているので、母語と相似がありそうで微妙にずれているところは、特に勉強がやっかいですよね。

Salutameloは、おっしゃるとおり、あいさつする相手が直接目的語で、間接目的語は、ここでは、「わたしのために」と取れるので、おっしゃるようにda parte miaにあたります。学校や本で習うことと、実際に暮らしてみてよく使う表現に違いがあるので、なかなか大変だと思います。少しずつ少しずつ、身につけていきましょう♪

お元気そうで何よりです。天気は今ひとつでしたが、プーリアもすてきなところだなと思いました。リグーリアにもまた行ってみたいです♪
Commented by milletti_naoko at 2014-05-07 21:39
なぎささん、こんにちは。外国人だからこそ気づくハテナって、意外と多いですよね。ネイティブは考えずに何となく使えているのだけれど、聞かれるとどう使い分けているのか困るというか、そもそも理屈では説明しきれないと考える人が、シエナ外国人大学のイタリア人の先生にもいて、そういう先生の中には、ペルージャ外国人大学のカテリーノフ先生が、そういう点でも外国人学習者が何とか正しく表現や文法を使えるようにと整理したり規則を考えたりしていることについて、「規則がないところに規則を見つけ出す」と揶揄していましたが、ネイティブだって使い分けているのだから何らかの基準があるわけで、ネイティブが必要ないから考えないその内なる規則を、いろいろと用例から検討して導き出してくれるカテリーノフ先生は、やっぱりわたしにとっては一番偉大なイタリア語の先生なのでありました。

なぎささん、こちらこそ、いつもお優しいコメントをありがとうございます♪


日本語教師・通訳・翻訳家。元高校国語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより


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