よくありません VS よくないです

 金曜の授業中から、何だかずっしりと重たいものが心に乗ったような苦い、嫌な思いを、しばらく引きずっていました。ずいぶん前の話ですが、とあるイタリアのホテルに勤めていた知人が、「トイレの洗面台のコップと便器を同じスポンジで洗うように言われた」と憤慨していたことがあります。そこまでは行かないものの、ある文法事項に関して、わたしの日本語観や、生徒さんにきちんとした日本語を身につけてほしいという使命感と抵触することが、起こったのです。

 帰ってから、その文法事項について、インターネットで調べてみました。文化庁や国立国語研究所、NHKのサイトや、小・中・高の国語の学習指導要領などに、何かこれだという確とした基準が見つかればと考えたからです。けれども、日本語を教えている方や、出版社で編集者として働く方などが、個人的な見解を述べている記事は見つかっても、関連の公共機関の公式見解や通達、研究論文は見つかりません。この週末、するべきことの多くができずに終わったのは、このオンライン検索を長いこと続け、ひょっとしたら記載があるかもと、さまざまなオンライン記事や論文に、そして、うちにある日本語・国語教育の本に、目を通していたからです。そう言えば、高校で国語を教えていた頃、文語文法や漢文の句法については、副教材も使って、みっちりと教えましたが、現代文については、作文や小論文の添削・指導をすることはあっても、文法そのものを体系的に教えるということはありませんでした。

f0234936_4274749.jpg

 今、わたしたちが日本語を教えている生徒さんは、非常に礼儀正しく、母語でもそれはていねいな言葉遣いをする方です。前回の生徒さんが、すぐにtuで呼び合おうと提案したのに対して、「皆さんは先生ですから」と、Leiを使い、名字に「さん」や「先生」をつける方です。そういう生徒さんが、数か月後に、仕事で日本に赴任するために日本語を教えている、そういう授業で、形容詞のです・ます体の否定形は、何をどう教えるべきか。それについてのわたしの見解が、現在使用中の教科書、そうして、同僚の先生の方針や指示と食い違ってしまったことが、冒頭で述べたわたしの苦悶のきっかけです。その先生の言葉を思い返し、また、インターネットや本でいろいろ調べてみて、今は自分なりにこうだという考えがまとまったのですが、ただ、この件に関するわたしの感受性や判断が、今日本で日本語を使って暮らしている大勢の方と、ひょっとしたらずれてしまっているかもしれないという心配が、頭をもたげました。

 というわけで、ブログを読んでくださっている皆さんに、次のアンケートに答えていただけると幸いです。問いは、「『いいです』という形容詞の敬体の否定形について、あなたはどう思いますか。」で、「よくありません」・「よくないです」と言った否定形についての皆さんの判断を、選択肢の中から選んで、必要に応じて言葉も添えて、答えていただく形になっています。下のリンクからでも、この記事の右横に見えるブログパーツのアンケート欄でも、どちらからでも構いません。(右横のアンケート欄は、しばらくしたら削除しますが、アンケート自体は継続するつもりでいます。)

- 「いいです」という形容詞の敬体の否定形について、あなたはどう思いますか。 - 投票/アンケート - 人気ブログランキング

 皆さん、どうかよろしくお願い申し上げます。人によって、いろいろな考え方や受け取り方があって、決して正解が一つあるものではないことを知りつつ、だからこそ、そういう皆さんの意見をおうかがいしたいと考えています。

*追記(5月12日)
Le lingue si trasformano nel tempo e nello spazio,
 皆さん、アンケートへのご回答をありがとうございます。すみません。実は、わたしの質問の真意は、です・ます体の形容詞全般について、否定形として、「~くありません」と「~くないです」のどちらが適切と感じ、使い分けるとすればどうかを問うことです。「いいです」はあくまでその一例を具体的に記しただけなのですが、言葉の意味から言って、使い方や使い分けに個人差が多く、例としては不適切だったと、皆さんのご回答を拝読して思いました。以後回答くださる方は、一般の形容詞の否定形の問題として、応えていただけると助かります。まぎらわしい問い方をして申しわけありません。

i parlanti, a seconda della provenienza, dell'istruzione ecc.,
hanno diversi modi di parlare e percezioni diverse su
quali siano i modi giusti, adeguati da dire.
Da qualche giorno mi tormenta un interrogativo:
"Per insegnare gli aggettivi in forma gentile nella frase negativa,
quali sono le forme giuste e adatte?",
perché la mia idea è diversa sia da ciò che è descritto da questo manuale
(che ne dà indicazioni differenti da quelli descritti nell'altro manuale)
sia dal mio collega.
Le riflessioni comunque ci aiutano ad imparare e crescere.

Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2014-05-11 21:28 | Insegnare Giapponese | Trackback | Comments(10)
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Commented by ayayay0003 at 2014-05-12 14:54
こんにちは。
やはり日本語は難しいですね!今日、夫にもこの質問をしてみましたが、私の意見とは違いました。日本語はとくに敬体は微妙なニュアンスで違ってくると思うので、私的には正解がないような気がするのですが・・・。普段意識して使ってないというのもあるかもしれません。なおこさんは、12年ほどイタリアにいらっしゃいますが、もともと日本語の国語の先生なのでなおこさんのカンというか感覚は正しいのではないかと私などは思うわけであります(^-^)。
Commented by milletti_naoko at 2014-05-12 16:57
アリスさん、こんにちは。年齢や住んでいる地域、使う場面などによって、使う言葉や言葉に対する感じ方や判断は変わってきますから、おもしろいのですが、教えるとなるとまた、「多くの人が使っているから」というだけではなく、「書いたり、職場で話したりするのに、恥ずかしくない言葉でなければ」という観点もあるので、なかなか難しいです。

だんなさんにも尋ねてくださったんですね。ありがとうございます。わたしは逆に、国語を長く教えたことや書き言葉のインプットの割合が多いことなどが原因で、また、今日本に暮らしていないので、日本における言葉の使い方の変遷に乗り遅れて、判断が保守的になりがちではないかという心配があって、それで、こういうアンケートをお願いすることにしました。皆さんがそれぞれに真剣に、ご自分なりの意見を言ってくださっているのがとても興味深いです。人によって受け取り方が違うのは、言葉でも服装でも料理でも同じなのだと、改めてそう感じました。
Commented by suzu-clair at 2014-05-12 17:13
難しいですね。
私も、正しくはどうであるのか、はっきりわからないです。。。

日本語は、意外と私たちが普段使っている言葉の遣い方が、
じつは誤りであるということも多く、
正しい遣い方を知らないままの現代人がとても多いように思います。

しかしこれらについての、公的な見解や記述が見当たらないとは驚きです。
ときどき、
現代語の用法について、時代の流れに合わせて見直しが行われたりするようですが、
それもある程度は必要かとは思いますけど、
美しい日本語を知らないままの人が増えていくのもさびしいなと思ったりします。
私も知らないうちに間違った使い方をしているかもしれないのですが・・・
できるだけ正しくきれいな日本語を遣えるようになっておきたいものです。
Commented by milletti_naoko at 2014-05-12 17:49
すずさんへ(上からの続きです)

わたしも、きちんとした文章を書こうと心がけつつ、夜中に書いた記事を翌日読み返して、誤字やおかしな表現に気づいて改めることも少なくないので、気をつけたいと思っています。
Commented by milletti_naoko at 2014-05-12 17:52
すずさん、言葉というのは時代によっても変わっていくし、住む地域や場面によっても選ぶ言葉が違ってくるのですが、何が適切かは、皆さんのご回答を拝読しても、使う状況や人間関係、あるいは形容詞の意味によっても違ってくるので、本当に難しいですね。

もう20年以上も前に、大野晋さんの本で、「ら抜き言葉も今は誤用とされているけれども、そのうちら抜き言葉を使う人の方が大勢になって、文法の基準そのものが変わり、正しいとされるようになるかもしれない」といったことを読んだように覚えています。イタリア語でも、規範文法では間違いとされる用法が、若者を中心に広がり、そういうイタリア語がitaliano neo-standard(新標準イタリア語)と言われて、危惧されているのですが、母語、外国語として教える場合には、やはり正しいとされる形を教え、かつ、実際の使用状況も考慮する必要があるので、難しいです。

イタリア語については、こうした言葉の乱れや揺れが、イタリア語教育に関する会議でよく問題になる上、書籍も多いので、日本語でもきっと、インターネット上にはすぐ見つからなくても、問題としては取り上げられ、議論が尽くされていることと思います。(つづく)
Commented by milletti_naoko at 2014-05-12 17:52
すずさんへ(上からの続きです)

わたしも、きちんとした文章を書こうと心がけつつ、夜中に書いた記事を翌日読み返して、誤字やおかしな表現に気づいて改めることも少なくないので、気をつけたいと思っています。
Commented by nagisamiyamoto at 2014-05-13 01:52
なおこさん
難しいことなのであまり分かりませんが、私は4が適しているような気がしました。
そう思うと日本語ってとてもムズカシイです。日本人として正しい日本語を使うべきなのでしょうが、私のまわりのフィレンツェ人のイタリア語の間違えの多いことときたら・・・SMSなんて間違えた文面も少なくありません。
なおこさんは常にこの様なことをかんがえていらっしゃるのですね。
Commented by mitsugu-ts at 2014-05-13 06:40
この違い、僕もとっても興味があります。僕はなおこさんほどしっかりと日本語を勉強した者では無いのですが、日本語教育の過程では「・・・くありません」は、初期の丁寧語習得において、否定過去形との関連付けが容易(否定現在に「でした」をつけるだけ)なのでこちらが使われていると読みました。最近の教科書では、「・・・ないです」を最初から採用している本を見て、調べてみると理由はどうやら後に勉強する否定Short form(・・・ナイ形)の導入を容易にするためのようです。よろしかったら、なおこさんのお考えもぜひお聞かせください!
Commented by milletti_naoko at 2014-05-14 16:28
なぎささん、SMSは小さい携帯電話上の文字を入力しづらいので、文をはなから極度に簡素化したり、代替語(perchéの代わりにxkéなど)を使ったり、間違っても多少は放置したりするのでしょうね。話し言葉と同じで、正しく書かなければというコントロールがあまり働かないので間違いが多くなるのかもしれません。

言葉は、わたしにとっては大切な商売道具でもあり、きちんとした日本語を学んでほしいとも思うので、立ち止まって考えることがよくあります。
Commented by milletti_naoko at 2014-05-14 16:34
みつぐさんもですか! 日本で売られている教科書も、両方紹介しているもの、「…くありません」だけ、あるいは「…くないです」だけ紹介しているものと、いろいろあるようですね。皆さんから意見をいただきやすいよう、そして、わたしの考えに影響されない考えを聞かせていただけるように、あと10日ほどは投票を待って、それから、わたしなりの考えにも、ブログで触れようと考えています。外国人が聞き取りやすいから、とっつきやすいからと、日本語を易しく言い換えるのはいいのですが、同じForeigner talkでも、それが実際に日本語で文法的にどうかと思われるものだけを、単に便宜や学習の際の容易さを考えて紹介するのはいかがなものかと、感じています。


日本語教師・通訳・翻訳家。元高校国語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより


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