イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

地中海へ ~『海底二万里』読書中

 ネモ船長の潜水艦、Nautilusで海を通り、世界をめぐる主人公たちは、船長が見つけた海底のトンネルをくぐって、スエズ運河が完成する前に、紅海から地中海へと進んだり、古代に海底に沈んだアトランティスのそばを通ったりするなど、奇想天外な冒険を続けていきます。

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Milo, Grecia & Mediterraneo 5/10/2008

今読んでいるのは471ページです。ノティリュス号は398ページで、地中海に入りました。

La Méditerranée, la mer bleue par excellence, 《la grande mer》 des Hébreux, la 《mer》 des Grecs, le 《mare nostrum》 des Romains, bordée d’orangers, d’aloës, de cactus, de pins maritimes, embaumée du parfum des myrtes, encadrée de rudes montagnes, saturée d’un air pur et transparent, mais incessamment travaillé par les feux de la terre, est un véritable champ de bataille où Neptune et Pluton se disputent encore l’empire du monde. (“Vingt Mille Lieues sous les mers” Chapitre VII)

 下の映像の38分1秒目から38分36秒目までに、この地中海の描写を朗読した音声が収録されています。


 南国の美しい自然に満ちた青い海として描かれ、また古代ローマ人が「我らが海」(Mare Nostrum)と呼んでいたという描写に、この名のもとについ最近まで行われ、多くの人々の命を救ってきた、アフリカからの難民の救助活動を思いました。このあと、ノティリュス号は、悪天候で難破した船の残骸の間を進んだりもするのですが、読みながら、地中海を安全に航海できるだけの技術が発達した今になっても、戦争や独裁政治、飢餓や政治罪に追われて、命を賭してこの海を渡る人々、そしてその旅の途中で命を失う人が多いことを、思わずにはいられませんでした。

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Santorini, Grecia 2/10/2008

 ジュール・ヴェルヌの想像力に、改めて感嘆したのは、潜水艦内が突然異常に暑くなり、主人公が服を脱ぎ、気分が悪くなるのに耐えながら、どうしたことかといぶかっていたら、実は、サントリーニ島近くの、海底火山がなお活動を続けている海域を通っていたのだったというところです。

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Panorama da Santorini, Grecia 1/10/2008

En ce moment, - devais-je l’attribuer à une disposition personnelle, - je sentis une chaleur extrême, et je dus enlever mon vêtement de byssus. […] Je continuai mon travail, mais la température s’éleva au point de devenir intolérable. […]
- Sans doute. Nous flottons dans un courant d’eau bouillante.
[…] et je vis la mer entièrement blanche autour du Nautilus. Une fumée de vapeurs sulfureuses se déroulait au milieu des flots qui bouillonnaient comme l’eau d’une chaudière. J’appuyai ma main sur une des vitres, mais la chaleur était telle que je dus la retirer.
《Où sommes-nous? demandai-je.
- Près de l’île Santorin, monsieur le professeur, me répondit le capitaine, et précisément dans ce canal qui sépare Néa-Kamenni de Paléa-Kamenni.
(“Vingt Mille Lieues sous les mers” Chapitre VI)

 潜水艦は白い泡に包まれ、窓ガラスに触ったけれど、あまりに熱いのですぐに手を引っ込めたなど、まだ19世紀で、深海の映像など目にする機会もなかったであろう時代に、まるで見て来たように書いてあるのに、感心します。小説のこの部分と前後を目で追いながら、上の映像の朗読を聴いてみたのですが、残念ながらこの部分は朗読からは割愛されているようです。

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 ジュール・ヴェルヌの小説を母語であるイタリア語で読んでいる夫は、『神秘の島』はとうに読み終えて、今は、わたしと同じく『海底二万里』を読んでいます。最近は寝る直前にブログの記事を書き終えて床に入り、2ページ読み切る前に眠気が勝って、就寝することが多いので、そのうち夫に追い越されてしまうかもしれません。深い海の底を行く物語を読みながら、深い眠りに誘われる今日この頃です。

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Vénus de Milo, Musée du Louvre, Paris 13/6/2012

 ギリシャの写真は、2008年秋にギリシャ本土を訪ねたときのもので、冒頭の写真は、ミロのヴィーナスが発見されたミロス島で撮影したものです。

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Bella la descrizione del Mediterraneo
, ricco di immaginazione il racconto del mare bollente vicino all'isola Santorino, del Nautilus circondato da un fumo di vapori solforosi di un'eruzione sottomarina - Foto del Viaggio in Grecia nell'autunno 2008
- Ora anche mio marito legge "Vingt mille lieues sous les mers" di Jules Verne e forse mi sorpasserà visto che sta leggendo il romanzo tradotto in italiano.
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関連記事へのリンク / Link agli articoli correlati
- イタリアとブラジル、移民と海と祖国 (3/7/2014)
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- 806ページ目の悲喜劇 (30/6/2014)
- 離れ島でサバイバル、仏語で読む『神秘の島』 (7/3/2014)

参照リンク / Riferimenti web
- Amazon.co.jp - ジュール・ヴェルヌ作、村松潔訳『海底二万里(上)』 (新潮文庫)
- Amazon. it - J. Verne, "Vingt mille lieues sous les mers", Folio classique
- Amazon.fr - J. Verne, "Vingt mille lieues sous les mers", Folio classique

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by ayayay0003 at 2015-03-11 19:38
なおこさん、こんばんは^^
美しい島は、どこの島かな?と思いましたが
ギリシャだったんですね~(@_@)
もう随分前に、まだ私が独身のころにギリシャを訪ねた時
日帰りクルーズがツアーについていたので行った時を思い出し懐かしい気持ちになりました(*^_^*)
ミロのビーナスの島だったなんて・・・♡
素晴らしい物語ですよね!こんなきれいなところが舞台になっているなんて!想像しながら読むと幸せな気持ちになれそうです~(*^^)v
Commented by milletti_naoko at 2015-03-11 19:47
アリスさん、こんにちは。クルーズツアーに参加されたんですね! わたしたちはアテネや島と島の間をフェリーで移動したので、海や島の眺めはそうやって楽しんだのですが、クルーズだといろんな島の周りや風景の特に美しいところを選んで回るのでしょうから、すてきな景色にたくさん出会えたことでしょう。

自然の豊かな島が訪ねたいと言うので、ミロス島を訪ねました。物価も安いし、海や風景のすばらしいところがたくさんあったのを懐かしく思い出します。ミロス島自体は小説には登場しないのですが、作中描かれている地中海の緑や青さが一番伝わる気がして、この1枚を選びました。
Commented by oliva16 at 2015-03-11 23:36
すごいなあ、なおこさんは本当に。もうフランス語原書をどんどん読み進めていらして。
私の通っている翻訳教室では来期からカルヴィーノの「木のぼり男爵」を読むことになっています。仲間の助けでなんとか読了したいと願っていますが、とりあえずは訳書を読んでおこうと思ったのにそれさえもなかなか読み進めることができず、放置している私です。
Commented by milletti_naoko at 2015-03-12 00:20
Olivaさん、英語とイタリア語に助けられるので、フランス語では、知らない語彙や表現があっても、だいたいこんなことを言っているのだろうと、読んでいくことができます。と言っても、ブログの記事を見ると、『海底二万里』を読み始めたのは8か月以上前ですから、いくら途中で日本語の本を数冊読んだとは言え、亀のようにのろみが遅いです。『木のぼり男爵』ですか、カルヴィーノもわたしの好きな作家の一人です。Olivaさんはふだんお仕事や翻訳教室で、「正確に」「すべて分かること」を意識されて読まれるので、できれば訳書に左右されず(主人公の一人称の選び方からして、訳にはどうしても訳者の解釈が入ります)読書を楽しむために、だいたい筋がつかめればいいとあまり気を張らずに、ひととおり原作を読まれることをお勧めします。「木を見ず森を見」ながら外国語を発信・受信するためのいい訓練にもなるはずですよ。
Commented by poirier_AAA at 2015-03-13 21:26
なおこさん、こんにちは。ご無沙汰しております。
「海底二万里」順調にすすんでおられるようですね。400ページを越えたら、残りはあともう少し。「神秘の島」に戻れる日も遠くなさそうですね。

なおこさんと一緒に読もうと思って買った「海底二万里」なのに、それをほったらかしたまま他の本ばかり読んでいます。せっかく買ったのだから読もうと思いつつも、次から次へと面白そうな本が出て来るので、ついつい後回しになってしまって。日本語と同じくらいのスピードで読めるようにならないと、読みたい本がたまるばかりです。

↑に書いていらっしゃる「木と森」の話ですが、わたしは逆で森を見るような読書ばかり続けていて最近は全然木を見る練習をしていないので、やっぱり精読もきちんとやった方がいいのだろうなぁと思っているところです。ついつい楽しい方に流れてしまうんですよね。。。。
Commented by milletti_naoko at 2015-03-13 22:55
梨の木さん、こんにちは。お久しぶりです。海外に暮らして、日常生活や社会の中でその外国語が必要となると、形よりまずは意図が伝わることが必須ということもあって、森に偏りがちになるのではないかと思います。あの文も、わたし自身が、「流し読み、流し聞き」ばかりで、DELFの問題集もBien-direの精読もできていないからこれではいけないという反省の念を込めて書いたのですが、相変わらず、そればかりです。楽しい方、楽な方にどうしても流れてしまいますよね。ただそれでは、思うようなフランス語力にはいつまで経ってもたどり着けないので、頑張らなければ!

わたしは英語やイタリア語の本もかなりいろいろと読んだのですが、味わって、内容を理解して読もうとすると、やっぱり日本語に比べてかなりゆっくり読むことになります。物にもよりますが、びっしり書かれた小説や学術書で1ページ4分くらいが平均ではないかしらという気が、きちんと計ったことはないのですが、しています。漢字やひらがな、片仮名をうまく使い分けた日本語を母語とするわたしたちは、アルファベットだけで書かれた文を読むのに、いくら語彙や文法を知っていても、慣れても、結局は時間がかかってしまうのではないかという気がします。寝るのがだいたい眠りにつく前なので、さらにのんびり読むことになるのかもしれませんが。

あと少し、夫より先に『海底二万里』を読み終え、『神秘の島』に戻れるように頑張ります!
by milletti_naoko | 2015-03-10 23:40 | Film, Libri & Musica | Comments(6)