日本語どこへ行く1、チケットに苦悩

 月曜日翻訳に苦心していた文章には、イタリア語版ではbiglietto、英語版ではticketという単語がありました。美術館、博物館に入るために、手にしなければいけない通常印刷された紙片のことですから、「入館料」と訳すわけにはいきません。

f0234936_7281210.jpg

 わたしの心に浮かんだのは、「入場券」という言葉だったのですが、こういう言葉を使う美術館・博物館はどれだけあるだろうと、グーグルで検索して、数を見て安心します。ただ、参考までに日本語版のあるルーブル美術館のサイトを見ると、該当する単語を「チケット」と訳してあります。まあ、インターネット上で購入するものを「オンラインチケット」と呼ぶからだろうと、念のために、確か「美術館」と「チケット」の組み合わせで検索してみたら、その方が、「美術館」と「入場券」よりもはるかに例が多いので、驚きました。

 それでも、現在も使える対応する日本語が存在する場合には、従来からある言葉を尊重するという主義に従って、最初は訳として、「入場券」を採用しました。

 たまに、わたしの文章は読みやすい、流れがいいと言ってくださる方がいるのですが、その理由の一つは、おそらくわたしが意識して極力外来語を使わないようにしているからではないかと思います。かつて高校の国語教師として、古文や漢文を読み慣れていること、現在はさらにカタカナ言葉が氾濫しているであろう日本をもう13年以上離れて暮らしていることなど、さまざまな理由から、文章に不必要にカタカナ言葉、外来語が入り込むと、不協和音を感じてしまうからです。日本でかつて読んだ本の中に、英語が外来語やアメリカ映画・ドラマを通じて、日本を文化的に植民地化しているという本もあって、そういう傾向に対するささやかな抵抗をしようという意識もないとは言えないでしょうが、一番の理由は、そういうカタカナ言葉があると、文章が不自然で、どこか乱れたような印象を受けるからです。

 服装や化粧、家の掃除は人から見ると、「いい加減」なわたしですが、日本では高校の国語教師、今イタリアでは、通訳・翻訳・日本語やイタリア語の教師を務め、新聞などに記事を書く機会もあって、言葉は大切な商売道具でもあるからか、わたしなりの、「これないけない」という探知機が、自分で文を書いていて働くのです。たとえば、今も頭にさっと浮かんだのは「センサー」という言葉でしたが、そっくり対応する言葉ではなくとも、「探知機」と置き換えています。

 ただ、「チケット」ではなく「入場券」を訳語として好んだのは、できれば従来の日本語を、ほかの人にも大切にしてもらいたいという気持ちからでもあります。

 ところがところが、これはとあるイタリアの大美術館のサイトの情報なのですが、さらに数ページ先まで翻訳を進めると、biglietto online / online ticketとありました。訳し始める前に、全体に目を通したつもりでしたが、この行は読み飛ばしていたようです。「オンライン入場券」は、そうは言っても、上にYシャツ、下半身は袴を身につけているようで違和感があります。それで泣く泣く、チケットを採用することにしたのでありました。

 写真のパスは、2012年6月にパリでフランス語の短期留学をしたときに、購入しました。ベルサイユ宮殿やオランジュリー美術館など、このパスがあっても列に長く並んだ場所もありましたが、ルーブルをはじめとする多くの場所では、パスのおかげで並ばずにさっと入れて、時間を有効に使えて助かりました。

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Per tradurre il testo per lavoro,
vorrei utilizzare le parole tradizionali giapponesi piuttosto che i prestiti linguistici dall'inglese. La parola "biglietto" da sola può essere tradotta "入場券", ma quando essa è accompagnata da "online" purtroppo sono costretta a utilizzare il prestito, "チケット" (dall'inglese, ticket) al posto di "入場券"...
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Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2015-07-17 00:28 | Inteprete Traduzioni | Trackback | Comments(8)
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Commented by nagisamiyamoto at 2015-07-17 12:08
なおこさん、おはようございます。
各町で行われているパスはとても便利だといわれていますね。
特典も沢山ついていますが、なんといっても並ばずに美術館に入れるのも魅力でしょう。ただ今フィレンツェの美術館予約料は一件に対して4ユーロかかりますからある程度元が取れてしまいますね。
Commented by milletti_naoko at 2015-07-17 15:19
なぎささん、こういうパスは、時間が十分にある観光客には便利でお得だし、市町村や美術館にとってもお得ですよね。なんと美術館を予約するのに4ユーロかかるとは!
Commented by miwa at 2015-07-17 17:30 x
なおこさん、こんにちは。とても暑い日が続く中熱心にお仕事されていて本当にお疲れ様です。日本で何も考えずに日本語を話していた時には全く気付かなかった事、こちらにきてから私も色々発見があります。なおこさんの言われる通りマスコミやテレビ等の影響で私達も随分日本語離れしていたんだなあと気付かされますね。服装や化粧、食事形態などは目に見える事なのでどれほど欧米化しているか明らかですけど、考えてみれば日本語も同じだなあとこの記事を読んであらためて考えさせられました。主人との会話で始めて「アルバイト」と話した時、「日本人もドイツ語をつかうんだねえ」といわれ始めてアルバイトはドイツ語なんだと知りました。逆にいまアルバイトは日本語にするとどうだろう?と考えてしまいますが。流行りに流されずに生きるのは難しい時代ですが、なおこさんの翻訳者としての心意気は同じ日本人としてとても嬉しい限りです。どうぞますます心地よいなおこさんの日本語が広がっていきます様に祈ってます。
Commented by ayayay0003 at 2015-07-17 19:46
こんばんは^^
なおこさんが、翻訳をされる時は、そんなにいろいろなことを調べられて拘りのある訳をこころがけていらっしゃることに感動しました。
日本にいた時、高校の国語の先生という職業柄かもしれませんが、やはり、なおこさんという人なりの翻訳ではないかしら?と強く思いました!
気持ちの入ったお仕事だから、お客さんは感動してくださるし、次もまたお願いしようという風になると思います。
どんな職業にも通じる素晴らしい人柄だと思います♪
いいお話をありがとうございます(*^_^*)
Commented by suzu-clair at 2015-07-18 23:45
なおこさんがなるべくカタカナ言葉を使わず、
正しい日本語を使おうとなさること、
とても大切なことだと思います。

確かに、日本で暮らしていても、
今は外来語などからの言葉で、
すっかり日本語に直すほうが困難な単語もありますしね。
このごろは英語以外の外来語や、IT系用語などから影響を受けたと見える造語や省略語も氾濫していて、
日本語はずいぶん乱れてしまっているのを感じます。
テレビのアナウンサーでさえ、
たまにおかしな言葉を使っているな、
と、私でも感じることがありますしね。

流行や、コミュニケーションとしての親しみやすさなどの面から、
崩した表現もときには場に合わせてあってもよいかとは思うのですが、
美しい日本語を使っている人を見ると、
気持ちのよいものをやはり感じます。
言葉の選び方は、
品格を表しますね。
私も、美しい日本語を使える人を目指したいです。

↓のレストランの室内、素敵ですね。
アールヌーヴォーを、イタリア語ではStile Libertyというのですね。
アールヌーヴォーらしいブドウのモチーフ、優雅でいいですね♪
なおこさんのお泊りになられたお部屋も、
可愛いですね♪
Commented by milletti_naoko at 2015-07-19 05:40
みわさん、ありがとうございます。イタリアに住んでいる分、よけいに浦島太郎になって、古い日本語に固執しているかもしれないと思いながらも、ささやかな抵抗を試みています。アルバイト、わたしは大学でドイツ語を習ったときにドイツ語だと知ったんですが、おもしろい用法ですよね。もうその頃から、いろんな分野に外来語は入り込んでいたわけですが、確かに日本語で、ではどう言うかというと難しいですよね。お優しい励ましをありがとうございます。
Commented by milletti_naoko at 2015-07-19 05:42
アリスさん、翻訳作業自体の本質には影響しないのですが、つい気になって調べることがいろいろとあります。そんなにおほめいただくと、穴を掘って入らなくてはいけません。言葉では細かいことに気をつけるのに、そういう作業に追われて、掃除の手をすっかり抜いているわたしで、いけません。こちらこそ、いつもありがとうございます。
Commented by milletti_naoko at 2015-07-19 05:46
すずさん、ありがとうございます。もうずいぶん前に、確か大野晋さんの著作で、「言葉というのは文法云々言っても、結局は変わっていく生き物なのであって、今は少数の人がそう言うから間違いとは言っても、たとえばら抜き言葉でも、いずれはそれが優勢になれば文法が変わるのだ」というようなことを読んだように覚えています。時代の流れ、世相の変化に逆らっている恐れも感じながら、つい一本、それでもわたしはこう思うということを通していきたい。日本語の問題はそういう問題の一つです。共感していただけてうれしいです。

すずさん、この宿もレストランも、いろいろとおしゃれで、見てうれしい上に、改築中の家の参考にできそうなこともあって、うれしかったです。


日本語教師・通訳・翻訳家。元高校国語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより


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