おもしろ看板、イタリア語ことば遊び

 見たとたん、これはおもしろいとにやりとして、すぐに写真を撮りました。何の店かは絵を見れば、イタリア語が分からなくても、想像できることと思います。

f0234936_8144186.jpg

 左手に牛、右に豚さんの絵があり、その下に包丁が描かれていますので、肉屋であることは、想像できることでしょう。

 イタリア語で、voglia di…は「~がほしい気持ち」、carneは「肉」という意味なので、voglia di carneは「肉がほしい気持ち、肉が食べたい気持ち」という意味なのですが、わたしがうまいなと思ったのは、左手に書かれている「80」という数字です。

イタリア語で数字の「80」はottantaなので、80 voglia di carneと書いて、

  “Ho tanta voglia di carne.”
  (日本語に訳すと、「わたしはどうしようもなく肉が食べたい気持ちだ。」)

と読ませているのが、おもしろいなと、思わず笑ってしまったのです。

 Hoは、英語のI haveに相応するイタリア語の表現です。イタリア語ではHは文字があっても読まないのはよしとして、80にはottantaと、子音のTが二つあるのに、Ho tantaにはTが一つしかないと思ったのは鋭い方です。

 ところが、文字上はTが一つ足りないように見えても、発音はこれでいいのです。

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I miei appunti della lezione della Fonetica e Fonologia del gennaio 2003
@Università per Stranieri di Perugia

 と言うのも、イタリア語では、たいてい表記と発音が一致しているのですが、たまに子音が一つしか書かれていなくても、発音するときは二重に、二重子音として読む場合があり、Ho tanta voglia di…の、Tは、その例にあたるからです。

 上の写真は、ペルージャ外国人大学の音声学・音韻学の授業中に、わたしがノートに書き記したものです。標準イタリア語(italiano standard)では、前置詞aや動詞ho、vaの次に来る単子音は、表記上は子音が一つしかなくとも、こんなふうに二重子音として発音し、こういう現象をイタリア語で、raddoppiamento fonosintattico (rafforzamento fonosintattico)と言います。

 ただし、表記がされないために、実際に自分が二重に発音していることに気づいていないネイティブ・スピーカーも多いはずです。さらに、二重子音というものが存在しない北イタリアに生まれ育った人は、cassaなど子音が二重でもSを単子音として発音するくらいですから、もちろん表記が単子音であるのに二重に発音することはなく、a meをammeと発音するのを聞くと、南部の方言だと思う人さえいるそうで、こうノートに記録してあります。

 イタリア語で、後続語の語頭に来る子音の発音を二重にする言葉には、ほかにもsopra、caffèなど、いろいろあります。そうして、

  a me 「わたしに」 / ho fame 「私は空腹だ」 / va bene 「いいですよ」

のように、単語が二語に分かれたままである場合には、表記上の子音は一つにとどまるのですが、

  sopra + tutto → soprattutto 「とりわけ」
  caffè + latte → caffellatte 「カッフェッラッテ」

などの例に見るように、もともと二語だった言葉がくっついて複合語に生まれ変わるときには、表記も発音を反映して、子音を二つ書くことになります。

f0234936_8153629.jpg
Da www.treccani.it

 看板は、シビッリーニ山脈の眺めが美しいマルケの町、

f0234936_8164519.jpg
Amandola & Panorami dei Sibillini 14/2/2016

アマンドラ(Amandola)を散歩中に見かけました。

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Umorismo nell'Insegna :-)))
 @ Amandola (FM), Marche 14/2/2'16
80と書いてHo tantaと読ませる! 座布団10枚
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関連記事へのリンク / Link agli articoli correlati
umorismo
- ダンテ地獄の入り口で@ユーモア博物館 / Dante all’Inferno @ Museo dell’Umorismo, Tolentino (5/3/2016)
Amandola
- びっくり串刺しチョコいちご / Spiedini sorpresa @ Amandola (15/2/2016)
- シビッリーニを望む部屋 / Terrazza con vista Sibillini (4/8/2015)

参照リンク / Riferimenti web
caffellatte
- Treccani.it – Vocabolario - caffellatte
raddoppiamento fonosintattico
- it.wikipedia – Raddoppiamento fonosintattico
- Treccani.it – Enciclopedia – Raddoppiamento sintattico
- Corriere della Sera – Raddoppiamento Fonosintattico

Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2016-03-10 23:59 | Lingua Italiana | Trackback | Comments(13)
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Commented by ayayay0003 at 2016-03-11 09:12
おはようございます^^
こういうロゴアワセ的?なのは、日本にもあると思いますが
なかなか、洒落た店主だと思いました!
日本でも、方言はあり、ずいぶん北と南では違うけれど、あまりそれについて深く考えたことはないので、よくわかりませんが、発音のこういう違いも勿論あるのでしょうね!
あまりに方言でお話されると、まるで外国語を聞いてるみたい!と感じることもありますから・・・(笑)
看板も可愛いですね♡こういう可愛い看板もヨーロッパ旅行してるとたくさん見かけますが、言葉がわからないので書いてることは素通りなので、今日のなおこさんの記事で言葉がわかればより楽しいのにと感じました♪
Commented at 2016-03-11 11:00 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2016-03-11 11:25 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by paradiso-norina at 2016-03-11 20:40
おっと~!お勉強、お勉強、、今日は目をしかめっつらにして読みました。。
レッスン行っても予習復習しないもので初歩段階で止まったまま。。会話は韻をふんでいるので歌うように♪と言われても基本、単語がでてきやしない実情^^;
いつまでも甘えててはいけませんね!今日のなおこさんのレッスンは分かりましたよ!
おっと、おっと、おったんた、、お たんた、、、、
Commented by milletti_naoko at 2016-03-11 21:03
アリスさん、こんにちは。こういう語呂合わせ、歴史の年号の覚え方をはじめとして、日本には多いですよね。イタリアでは日本に比べると、そういう掛け詞的使い方が少ない上に、80という数字は、まるが三つあるようでもあって、福を呼びそうでもあって、この看板、いいな、おもしろいなと思いました。

もう20年以上前の話ですが、野村高校に転勤になって初めて事務室に入ったとき、事務の方たちが話している方言の会話が分からなくて、どうしようと慌てたことがあります。前任校が今治東高校で、東予から南予への転勤だった上、15歳まで東日本で暮らしていたため、理解力もいまひとつだったからかと思います。イタリア語でもそうなのですが、方言を会話に混ぜる度合いというのは、同じ人でも話し相手や場によって変わるので、この日このときの事務の方たちも、わたしに対しては、方言の純度を少し落として話してくださったので、意思疎通がきちんと図れてほっとしました。

看板と言えば、そうそう、特にフランスでは形も色づかいもおしゃれだなという看板が多いですよね♪
Commented by milletti_naoko at 2016-03-11 21:18
鍵コメントの方へ、そちらもまだ寒い日が続いているんですね。試験おつかれさまでした。そうやって定期的に受けることで、やる気を奮い立たせて、毎日勉強もされ、その目安にされるのはすばらしいと思います。

イタリア語検定5級の問題にmacellaioが出たんですね! 日本語では同じ「肉屋」でも、イタリア語では、店はmacelleriaで、肉屋で働く人はmacellaioなんです。同様にピザ屋も、ピザを食べられる店はpizzeria、職人・ピザの店を持つ人はpizzaioloで、ご覧のように、ある職業を表す人には語尾-aio、店には語尾-eriaがつく場合が少なくなく、macellaioは人なので、前置詞にはdaを使うのですが、macellaioは確かに、日本で使うイタリア語の教材にはなかなか出てきませんよね。ほかにもさっと思いつく言葉に、花屋で働く人、fioraioや、ビールを売る人、つくる人を表すbirraio、ビールを飲む店、birreriaなどがあります。

一度こうやってご自分がしまったと思われたこと、きっときっとしっかり記憶に残ることと思いますよ。使用頻度としては同じ肉屋でも、店のmacelleriaの方がずっと多い気がしますし、最近は肉屋ではなく、スーパーや市場で肉を買う人が増えてきているのではないかと思います。(つづく)
Commented by milletti_naoko at 2016-03-11 21:26
鍵コメントの方へ(上からの続きです)

ヒアリングも含めて全体的に、以前に比べてできるようになったという手応えを感じられているようですね。ドン・マッテーオシリーズは、わたしは今日本で放映されているDon Matteo7の頃から、夫と共に見始めてはまったように覚えているのですが、第7シリーズが一番おもしろく、かつほほえましかったように覚えています。今放映中の第10シリーズには、わたしには、ちょっと設定に無理がありすぎ、やりすぎではないかと思える場面が時々あるんです。carneとcaneは、母音のaの長さも舌の動きもだいぶ違うので、音声を聴きながら、carneの方はRで舌先を上の歯の若干後ろあたりでおもいっきり震わせて、caneの方は母音aを長く伸ばして、例文と共に練習していくと、紛れることが少なくなっていくのではないかと思います。
Commented by milletti_naoko at 2016-03-11 21:36
paradiso-norinaさん、rafforzamento fonosintatticoは、イタリア人でも知らず、話していても意識していない人が多い上、北イタリアの人は発音しないので、読み流してくださって構わないのですが、ho voglia di...やcarne「肉」は覚えていくと、旅行中にも役立つかと思います。

そうそう、イタリア語では数字の8がottoなので、イタリア語の8と日本語の「夫」は、つづりとローマ字表記は同じでも発音はかなり違うのですが、時々夫に、「日本語ではだんなのことをottoと言うのよ」と、記憶に残りやすいかと言っています♪
Commented by mitsugu-ts at 2016-03-12 00:26
こんにちは、面白い記事をありがとうございます!僕は北イタリア一辺倒ですので、確かに二重子音はほとんど意識してませんでしたが、italiano standardでは正式なんですね。たしかにsoprattutoは毎回書くたびに辞書で確認しないと、分からなくなってました。最近ようやくCILSのC2に向けてボチボチと勉強を開始して、italiano standardやneostandardについても勉強しだしているのですが、何か良い教材をご存知じゃないでしょうか?

数字や記号で単語の代わりをさせるというのは、若者のSMSテクにいろいろあるみたいですね。分かる人にだけ分かる、というのが魅力なんでしょうか。
Commented by Bolognamica2 at 2016-03-12 18:55
なおこさん、ご無沙汰しております!
コメントさせてもらいたい記事が沢山あったのですが、なんだかバタバタしててアッと言う間に3月半ばになってしまいました・・・・^;

こちらの看板、面白いですね(笑
でも解説みて分かりました~!私には80のジョーク?(笑)が分からなかったです~なるほど!って感じでした^^
実は昨年3月からコムーネ主催の外国人向けイタリア語コースに通っています。子供の体調で行けたり行けなかったり・・ではありますが、もう一度勉強し直したいなと思いまして・・・すごくいい先生に出会ったこともあり、行くと学ぶ事が多く、細く長く頑張っています。
なおこさんのメルマガ、とっても勉強になりますね。少し前から過去記事も拝見させてもらっています(ありがとうございます)。

そして、なおこさん字が綺麗~☆自筆のイタリア語、美しい~♡
Commented by milletti_naoko at 2016-03-12 22:51
みつぐさん、日本語をイタリアの人に教えていると、イタリア語には母音の長短に弁別機能がないものですから、出身地を問わず、「作家」と「サッカー」、「家」と「いいえ」の区別に苦しむ生徒さんが多いのですが、北イタリア出身、あるいは南伊出身でも北伊暮らしが長い人になると、さらに「さか」と「さっか」、「また」と「まった」のような子音の長さの聞き分けにまで苦労する場合が多くて、興味深いです。標準イタリア語も、発音は経済的に優位にある北イタリアのイタリア語の影響を受け、北風の発音も現代風発音として別枠で新たに受け入れたものがいくつかあるのですが、辞書やオンライン情報を見ると、sopratuttoという形も広まりつつあるものの、まだ誤りと認識されているようで、そういう意味では、日本語の「ら抜き言葉」に似た位置づけにあるかもしれません。

italiano standard、neostandardについては、わたしは特に大学の社会言語学(sociolinguistica)やイタリア方言学(dialettologia italiana)の授業で詳しく教わり、いろいろな本や史料を読んで勉強したのを覚えています。ただ、CILSのC2受験のためであれば、レベルに該当する本や音声教材にたくさん触れて、理解・発信する力を全般的につけていくのが一番だと思います。シエナ外国人大学の大学院課程では、CILSの問題作成や採点法を学ぶ演習授業もあったのですが、C1・C2まで行くと、幅広い語彙・間違いのない自然なイタリア語を使えることが必要とされるため、作文などの採点においては、語彙力や語彙・表現の適切さ・文法の正しさが厳しく問われ、逆に読解問題の方は、C1なら大卒以上の、C2ならイタリア語の通訳・翻訳・教師など、イタリア語を仕事の専門とする人が読み、利用するような内容・難度のいい問題文を、まずオンライン情報や新聞・本などの中から探しだして、それを土台として読解力を問うための問題を作っていくからです。教材のレベルを知るには、CILSの過去問題を実際に解いてみるのが一番だと思います。(つづく)
Commented by milletti_naoko at 2016-03-12 23:07
みつぐさんへ(上からの続きです)

わたし自身は、このシエナ外国人大学の外国語としてのイタリア語教育の大学院課程の入学要件に、「外国人の場合はCILSのC2で75点以上を取得、あるいはそれに該当する資格証書」という項目があり、入学選考試験の申し込みに際して、ペルージャ外国人大学の外国人へのイタリア語・イタリア文化教育専攻の3年の学士取得過程を満点で卒業したという証明書を提出したら、この証明書で承認されたという経緯があって、その後大学院課程も卒業したあとは、必要を感じず、結局CILSは受験しないままです。ちなみに大学院に通っている間は、さかんに、やはりシエナ外国人大学が行っているDITALSというイタリア語教師資格認定試験を受けるよう勧められて、大学院に通うよりその資格の方が世界で通じるなら、何のために通っているのだかと、院生仲間と時々ため息をついていたことがあります。

看板や記事をおもしろいと感じていただけたようで、うれしいです。
Commented by milletti_naoko at 2016-03-12 23:23
Bolognamicaさん、いろいろな記事に興味を持ってくださったようでうれしいです♪ この80という数字、うまく絵の中に取り込まれていますよね。

イタリアに飛び込んで初めてイタリア語を学ぶと、どうしても「こんな感じかな」と大ざっぱに、言いたいことが伝わればいい、分かればいいという立ち位置で(pragmatic mode)イタリア語を習得し始めることになり、本当はそのあと、少しずつさらに正しく適切な表現を用いていけるように(syntactic mode)なっていくと、イタリア語力が少しずつ着実に伸びていくのですが、毎日が忙しいと、やはり「正しく適切に伝えること」はいいから「言いたいことが伝わればいい」というpragmatic modeにとどまるという化石化現象(http://cuoreverde.exblog.jp/17419377/)が起こってしまいがちです。

ですから、育児に家事とお忙しい中、そうやって講座に通われることは、ご家族とより深い緊密な意思疎通を図るためにも、とても大切だと思います。フランス旅行やスペインでの巡礼中、言われたことをきちんと理解できずに、あるいは言いたいことが思うように伝えられず困ったことがあるのですが、日常生活でそういう場面を乗り切っていくためにも、大切な一歩だと思います。頑張ってくださいね♪ メルマガも読んでくださっているんですね。ありがとうございます!


日本語教師・通訳・翻訳家。元高校国語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより


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