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あるイタリア人学生の質問

 9月1日水曜日は、わたしの担当する「日本語と日本文化」の試験日だったので、朝早くバスを乗り継いで、試験会場に赴きました。

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 会場で、いつもお世話になっている語学助手の先生にごあいさつ。

 もともと今回は受験登録している学生がいない上に、まだ帰省している学生も多いため、「おそらくは誰も来ないだろう。」と二人とも思いはしたのですが、念のため、30分間だけ、来るかもしれない学生を待つことにしました。

 イタリアの大学では、各教科について、担当教員が、年に数回の試験日を設けています。ですから、学生は、自分が都合のいいとき、自分に受ける準備ができたときを選んで、試験を受けることができます。

 わたしが教える日本語の場合には、授業が終わってすぐの方が、筆記試験にせよ、口頭試験にせよ、頭によく残り、練習もできているために、大半の学生が、授業が終わって最初の試験(今年の場合は、6月1日)に挑戦します。ほとんどの学生が合格するのですが、受からなくても、あと4回、他の試験日があるので、その日までに勉強をしっかりすればいいわけです。

 ペルージャ外国人大学の学士取得課程(Corso di laurea)は、少なくともわたしが教える学部については、ほとんどがイタリア人学生で、外国人学生も数人います。

 イタリア人学生には南部を中心に、遠くからペルージャに来て、下宿をしている学生がおり、そういう学生は、夏休み中はまずは自宅の父母のもとに帰省。外国人学生も、特に近くのヨーロッパ圏から来ている学生については長期休暇にはよく帰省します。ペルージャやウンブリア近辺の学生についても、夏休みは旅行をしたり、バイトをしたり……

 というわけですから、試験がまったくない8月が終わったばかりの9月の初日には、来る学生が少なかろうと、予想はしていました。

 受験登録もせず来る学生や、試験時間に遅れて来る学生がいても、それは、受験の対象外、と考えるのは、日本の常識を適用しての話です。

 イタリアのことだから、「ひょっとしてオンラインの受験登録システムに不備があって、受験登録できなかった学生がいるかもしれない」、「バスや電車が遅れて、少し遅れてくる学生がいるかもしれない」と、柔軟に対応をする必要があります。

 甘いと言えば、甘いし、実際の規則としては、「試験開始時刻に、試験官の点呼に答えない学生は、受験の資格がない」はずであり、かつ、「試験4日前の締め切りまでに、受験登録をしていなければ、受験資格がない」はずなのですが、

にも関わらず、大学側に、

「誰も受験登録者がいない場合には、試験会場に行かなくてもいいですか。」

と尋ねて、

「いいえ、誰か学生がいるかもしれないので、必ず会場に行ってください。」

と言われたことがあります。

 ということは、裏を返すと、受験登録をしていなくても、試験を受けに来た学生に受験資格を与えなさいということかと思うのです。

 ただし、「何度も試みたのに、オンライン登録できませんでした」と言う学生はともかく、「……先生は、登録をしなくても受けさせてくれたのに」とか、「うっかりしていて受験登録の締め切りが過ぎてしまいました。」という学生には、みっちり言い聞かせて、規則をしっかり守るように言い聞かせます。

 こうやって、遅れや不備を大目に見ていることが、結局、今後のイタリア社会で、さまざまなサービスの遅延や不足につながるのではないかというを危惧を抱きつつも、とにかく、9月1日は、30分だけ、誰か来ないかと待ってみました。

 待っている間、語学助手の先生とおしゃべり。前回の7月の試験では、筆記試験中に、ひそひそ声ではあるけれども、長い間雑談をしてしまい、気が引けたのですが、今回は誰も学生がいないので、気兼ねなくおしゃべりをします。

 ペルージャで日本料理の調味料はどこで買うかとか、ズッキーニの花を衣で揚げるには、衣を作るのに、水道水の代わりに炭酸水かビールを使うと、泡のおかげで、ふんわりとかつカラッと仕上がって、とてもおいしいとか、いろいろ教えていただいて、とてもいい情報交換ができました。

 授業でお世話になっているので、ふだんから話す機会は多いのですが、授業や試験のあるときは、どうしても学生や授業、仕事の話で持ち切りになってしまいます。

 それが、こんな機会のおかげで、たくさんとりとめもないおしゃべりを日本語ですることができて、お互いにイタリアで暮らしていて思うことや、生活上の工夫などを言い合うことができて、何だかとてもうれしかったです。

 イチジクが好きだと言うので、ぜひもう一人の助手の先生と一緒に、イチジクの季節の間に我が家に来てください、とご招待。

 30分のはずが話が弾んで、結局は2時間以上、受験会場の教室でおしゃべりを続けてから、あいさつをして別れました。そう、誰一人学生が、受験に訪れなかったのです。

 帰宅途中のバスに乗った途端、向こうから大声であいさつして、近づいてくる若者がいます。

 誰かなと思ったら、昨年、一昨年と教えた男子学生でした。

 「先生、ぼく、もうすぐ日本に留学するんですけど、何を持って行けばいいんでしょうか。」

と、あいさつのあと、勢い込んで学生が尋ねます。ちなみに、学生との会話はイタリア語です。

  日本にお土産に持って行くものや勉強に必要なものについて、聞きたいのかな、と思ったら、

 「オリーブ・オイル、持って行くべきでしょうか。」

 確かに日本は食料品が高い上、オリーブ・オイルは何倍も値が張るけれども、

 「でも、日本で毎日イタリア料理を作って食べるつもりですか。」
 
 「日本は確かに食料品は高いけれど、外食すると、イタリアよりもかえって安くつく場合が多いから……」

 と言うと、

 「そうですよね。毎日自炊をするわけでもないし……」

 わたしはそのとき、窓の外を見やって、自分が乗り換えるべきバス停が近いことに気づきました。

 「あ、わたし、ここで降りなきゃ。」

 学生がすぐにブザーを押してくれて、あいさつを交わしたあと、そのバス停で降りることができました。

 それにしても、オリーブオイルとは!

 確かに、イタリア人は、特に年のいった人ほど、イタリア料理へのこだわりが多い人が増えるし、イタリア南部出身で、ペルージャに住む学生や社会人には、故郷に帰るたびに、自宅から、自家製のオリーブ・オイル、瓶詰めのトマト、母の手作りのお菓子や保存食の数々を大量に運び込んでくる人も多いのですが……

 まだ二十歳を超えたばかりの若者が、日本に持って行くべきものとして真っ先に、オリーブ・オイルを思い浮かべるとは、思いもしなかったので、びっくりしました。

 
 びっくりと言えば、その昔。日本文学の授業中に、『古今和歌集』を教えていたときの話です。秋の歌を教える前に、導入として、学生たちにこう尋ねました。

「皆さんは、何をきっかけに秋を感じますか。」

 わたしとしては、「赤とんぼはたぶん日本特有なので出ないだろう」とは思ったものの、紅葉など、何か季節の移り変わりを告げる自然の風物が、学生の口から出てくると思っていたのです。

 すると、学生たちの答えは、口々に、

 「TRISTEZZA(悲しさ)」

と答えます。

 「夏が終わってしまうのが悲しくて、その悲しさで秋の訪れに気がつく」

ということでした。

 照りつける太陽を愛し、夏を謳歌する国民だからでもあるでしょう。もちろん夏休みが終わるのが悲しく寂しいのは、日本でも同じだと思いますが、日本の方で、「秋の訪れを何を通して感じるか」と聞かれて、「悲しさ」と口に出る方は、こんなに多くないと思うのです。

 もちろん、秋と悲しみを歌った和歌は昔から数多くありますが、秋の訪れを「悲しさ」で感じたわけではありません。

 ちなみに、紅葉はイタリアにもあり、秋の風物ですが、虫の声は、イタリアでは夏の風物です。

 夏に黄金色に実った麦畑の間や茂った青い草の間から、にぎやかな虫の声が聞こえるので、わたしは、はたと、なぜ日本では虫が秋に鳴くのだろうと考えました。

 仮説

 日本では、夏には田んぼに水が張られていて、いるのはむしろたくさんの蛙。たとえコオロギなどの虫がたくさんいて鳴いても、蛙の大合唱にかき消されて聞こえないのではないか。愛媛県の田園地方で暮らしていた頃、夏は毎晩蛙の大合唱が聞こえていました。

 イタリアで麦が実るのは夏だけれど、日本で稲が実るのは秋だからというのも、あるかもしれない。

 と、なんとなく頭を絞って考えたのですが、夫に言わせると、わたしの思考回路は「文学的、詩的方向」に偏っていて、科学性に欠けるそうなので、もし、どなたか真相をご存じの方がいたら、どうか教えてください。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2010-09-04 00:06 | Insegnare Giapponese | Trackback | Comments(6)

食の安全と酪農の危機

 いつも口にしている牛乳やチーズなどの乳製品は、本当に安全で、品質のしっかりしたものなのだろうか。6月9日木曜日放映分の『ANNOZERO』を見ていて、ひどく不安になりました。夫も、「何を信頼して、食べていいのか分からない」と一言。
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 ミケーレ・サントーロ(上の写真)が司会を務めるRAI2の『ANNOZERO』というこの番組と、やはり国営放送のRAI3の番組『Report』は、よくベルルスコーニ首相から敵扱いされています。これは、これらの番組が、他のニュース番組や新聞が取り上げない汚職問題や環境汚染、いわゆる裏口入学などのさまざまな社会問題を取り上げる中で、首相本人、そして、自分たち政治家や与党が、知られたくないような事実を扱い、イタリア国民の前に明らかにしていくからです。

 かつてすでに、ベルルスコーニはサントーロを含む「自分に都合の悪い」ジャーナリストたちをテレビ界から追放したことがあり、その中には、故人となった、名ジャーナリスト、エンゾ・ビアージも含まれます。昨夜の放送は、こちらのページで視聴できます。今回のブログ記事の写真は、すべて、このページで見られる昨夜放映分の映像を、撮影したものです。

 2時間20分余りの放映中、最初の15分間ほどは、サントーロの首相への長い提言、反論となっています。これは、この日、ベルルスコーニが「古臭い憲法で国を治めるのは地獄だ」と爆弾発言をした上に、このところ様々な手を使って、当番組を放映停止にしようと動いているからです。
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 上のビデオ映像の14分30秒目あたりから、ようやく番組が本題に入ります。
 
 イタリア北部、ポー川流域、「Padania」と呼ばれる地方の酪農家たちが、大変な苦境に置かれている様子が次々と明らかにされていきます。

 牛乳(latte)を生産するのに、酪農家がかける経費は、1キロ、1リットルあたり36セント。にも関わらず、市場をしきる数少ないヨーロッパの多国籍企業が自分たちに都合のいい値段を決め、1リットルわずか28セントでしか買い取らないのです。40セント受け取れなければ生活も経営も成り立たないということですから、これだけでも、赤字が重なるのは必然です。

 この1リットルの牛乳が、「スーパーでは1.60から1.80ユーロで売られ、ときには、2ユーロすることもあるのに、生産者に28セントしか払わないのは許せない」と、スピーカーを通して、デモに参加する同志に呼びかける姿も、放映されています。ペルージャでは、1リットルの牛乳は1ユーロほどでも買えるのですが、それにしても、店頭価格と酪農家から買い取る値段が違いすぎます。苦労をして牛乳を生産している酪農家に利益がまったく還元されず、他者が利益を享受しているわけです。

 しかも、ヨーロッパ連合(Unione Europea)で、イタリア国内では、イタリア国民が消費する牛乳の半分にあたる量しか、牛乳を生産できないことになっており、その生産量を上回ると、罰金が課せられます。政府や自治体が払うと言っていた罰金が、生産者の負担となり、365日、毎日早朝5時に起きて働いても、牛乳の買取値が安く、生産しすぎれば罰金を払うこととなるため、膨大な借金だけが雪ダルマ式に増えていくという悲惨な状況にある酪農家が多数あるようです。
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 そういうわけで、酪農家たちも立ち上がり、ヨーロッパ連合やイタリア政府などに向けて、デモンストレーションを起こしています。(上の写真)

 そして、問題は、代々受け継いできた家業である酪農を放棄しなければいけない小企業が無数にあるということだけではありません。

 国内では半分しか生産できないため、必然的に、あとの半分は国外から輸入することになるわけですが、この牛乳の素性や品質が非常に問題なのです。イタリア国内では、粉ミルク(latte in polvere)が混入したものは、普通の牛乳(latte)として売ることができず、国内生産の牛乳は品質が厳重に管理されています。ところが、番組では、粉ミルクに水や牛乳を混ぜて、長期保存の牛乳を大量に作るドイツの工場が、取材されていました。この「牛乳とは呼べない牛乳」が、毎日10~18台の大型トラックに積まれて、ドイツからイタリアじゅうに運び込まれ、イタリア国内で、そのまま、あるいは、イタリア国産の牛乳と混ぜ合わされて、瓶や紙パックにつめられ、イタリア製品(prodotti italiani/made in Italy)とて表示され、スーパーに並ぶわけです。

 そして、こうした国外から来る胡散臭い牛乳、素性も品質も分からない牛乳が、さらに、チーズやバターなどの乳製品の製造にも使われるのです。現在は多国籍企業ネスレの傘下にあるペルジーナで働く義弟も、ミルクチョコレートを作るには、粉ミルクを使うと言っていました。

 ドイツやオランダなどのヨーロッパ各国の業者が、こうした牛乳を輸入する先は、ニュージーランドやウクライナなど、世界各国に及びます。また、イタリア国内で品質を管理する専門家によると、イタリアでは違法な「粉ミルクが混入した牛乳」が、他のヨーロッパの国では合法なために、検査することもできないのだそうです。

 酪農家が生産を制限され、生産量を超えると罰金を課される、その牛乳。一方で、イタリア国内の消費者が、そのため口にすることを余儀なくされる国外から来る牛乳、乳製品は、素性も品質も分からぬもの。

 これでは、酪農に関わる人々が憤るのももっともです。そして、わたしたちの健康や環境、政治・経済に関わる大問題です。巨大な多国籍企業が市場価格を己に都合のいいように決め、やがては、牛を大量に、そして機械的にしか扱わないような酪農家しか残らない可能性もあります。
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 こちらが、今回の特別番組のタイトルです。「ポー川流域(で、酪農を営む小中企業)、破産(の危機)」という意味で、( )内は意味を補ったものです。「essere [ridursi] al verde」は、「一文なしである、(財産などを)使い果たす」という意味で、これは、「昔ろうそくの元の部分が緑にぬってあった」からです。(この連語の説明は、小学館の『伊和中辞典』から、引用しました。)
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 政治家の汚職などを数多く告発するジャーナリスト、マルコ・トラヴァッリョが、番組中、辛口に国営放送RAI1のニュース報道姿勢を批判する場面もありました。(上の写真)スペインを始めとするヨーロッパ各国は、このところニュース枠の多くを経済危機に割いているのに、イタリアでは、どうでもいいニュースや国民の意識を経済危機から意図的にそらすようなニュースばかりが報道されており、たとえば、「ダイエット」、「犬にも服を着せるのが流行」といった馬鹿げたニュースで国民の目を、本当に大切な現実からそらしていると言うのです。

 イタリアをよりよく知ろうと、わたしが最近買った本の中に、『Così ci uccidono』(訳は「こうやってわたしたちを死に追い込むのだ」)という1冊もあります。テレビで書評を聞くと、一般のイタリア国民に知られていない(ジャーナリズムや政府、地方自治体や企業が隠している)環境汚染や健康に害をもたらす食料品などについて、綿密に取材をして語ったもののようです。

 ただし、これは、イタリアだけの問題ではなく、たとえば日本にしても、エイズ薬害事件や森永粉ミルク事件など、害をもたらすのが分かっていながら、己の利益のために企業も政府官僚も口をつぐみ、ジャーナリズムもそうした状況を野放しにしていたという事実があります。今も、日本でそういった問題がないのか、それとも、存在するのに、企業や政府が目をつむり、ジャーナリストも取材の矛先を向けていないだけかを考えてみる必要があります。

 英語でのコミュニケーション力をさびつかせないために、この春から、1時間のヒアリングテープつきの英語学習雑誌、『English Journal』と『Speak Up』(これはイタリア人向けで、イタリア国内で販売しているものです)を二つとも年間予約購読し、毎日できるだけ、家事をする際に、聞くようにしています。

 『English Journal』の春先の号の中に、日本のイルカ漁を扱った映画の制作をした監督のインタビューがあり、中で監督が、「魚肉の汚染が著しいことは、検査結果を見れば明らかなのに、呼びかけた新聞社のうち、一社として取材に乗り出すところがなかった」と、語っているくだりが印象に残っています。

 国民や消費者が、情報をきちんと収集し、安全な食品を食べ、安全な環境の中で、安心して暮らしていけるような町づくり、国づくりを、主体的に行っていく必要をつくづくと感じました。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2010-06-11 01:00 | Sistemi & procedure | Trackback | Comments(0)

Made in Italyの危機 

 ~onestoさんのコメントにお答えして~

(今回添える写真は、我が家の歴史・伝統あるイタリア国産製品の数々です。)
      夫の家族が40年にわたって愛用し続け、いまなお健在なFIAT500

 コメントありがとうございます。国による賃金の格差については、国ごとに物価が著しく異なり、物価に応じて必要な生活費も変わってくるため、物価が高い国は賃金が高く、物価の安い国では賃金が安くなるのはある意味仕方のないことかと思います。

 昔、日本が経済成長を遂げることができ、輸出を伸ばした時期にも、最初は「品質」よりも「価格の安さ」を売りにしていたようです。ただ、問題は、たとえばこの中国の賃金の低さが、しばしば労働者が搾取されている結果、つまり劣悪な労働環境の中で長時間労働を余儀なくされながらも、それに見合うだけの賃金を得られない結果だということだと思います。安全管理や人権擁護に必要な経費を抑えて、「安くさえあればいい」という姿勢が、「中国が世界の工場」となりつつある現在、世界中の国の人々の健康や環境に悪影響を及ぼしているわけで、この姿勢を「たとえコストが増えても、品質の確かなものを、労働者の人権と環境に配慮しながら作ろう」という姿勢に変えていく必要があると思います。
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     夫の母方の祖父(ウンブリア州北部Reschio出身)の手になる食器棚

 実は、イタリア経済が打撃を受けているのは、国外の企業からだけではなく、イタリア国内の潜伏工場で、劣悪極まりない労働環境で長時間わずかな賃金で働いている非合法移民(しばしば中国移民)のためでもあります。

 家具や服飾など、イタリアの各種大手メーカーが、移民を搾取するこうした工場に下請けを頼み出したために、さらに、移民が提供するのと同じ低賃金、低料金を、長い間イタリア国内で経験を積んできた該当産業の職人にも押しつけ始めたために、イタリアでは閉鎖を余儀なくされた下請け企業が無数にあり、職を失った有能な職人が何人もいます。
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    伝統の家具づくりの町、Città di Castelloの家具職人が制作した洋服ダンス

 「企業の利益でなく、国全体の利益」を優先する必要は、わたしもつくづく感じます。アリタリア航空を助けるために、借金を重ね、膨大な負債を抱えるイタリアの国庫。長年にわたって国の援助を受けておきながら、外国の自動車メーカーの買収には走るのに、国内工場を次々閉鎖しようとするFIAT。

 政治家、企業家を始め、皆が本当に国に大切なのはどういうことかを考えて、目先の私利私欲だけを求めないことが大切だと思います。
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      伝統の陶器づくりが今なお受け継がれる町、Deruta(デルータ)の陶器

(チッタ・ディ・カステッロもデルータも共にウンブリア州の町です。それぞれ家具づくり、陶器づくりがさかんで、どちらの町にも、伝統の技を生かして職人が制作した品々を売る店や工房が、あちこちに軒を並べています。) 

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by milletti_naoko | 2010-04-14 12:55 | Sistemi & procedure | Trackback | Comments(0)

大学卒業 ~イタリアの場合~

 4月6日(火)は、わたしが卒業論文の制作を担当していた学生が、無事卒業を迎えました。

 今回、イタリアの大学と比較する日本の大学をわたしが卒業したのは、もう20年も昔の話です。もし「今は様子が違う」ということでしたら、ぜひお教えください。 

 日本の大学では、桜の花が咲き始める頃に、その年の卒業生一同が厳粛に卒業式に臨みます。そして、桜が満開を迎えた頃に、新しい入学生が一斉に入学式に参列します。
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(写真は、奈良の氷室神社の枝垂れ桜です。昨年4月に、夫と日本を旅行したときに、撮影しました。日本の桜の見事さにイタリア人の夫も感嘆していました。わたしも、生まれて初めて、桜が咲く頃に京都・奈良周辺を訪れ、自分が知っていた愛媛県や東京近辺の桜とはまた違う、さまざまに美しい桜の花を見て感動しました。日本に暮らしていた頃は、高校で教えていたため、春休みは慌しくて他の地方に出かけて花見を楽しむ余裕がなかったのです。日本の各地には、それぞれに趣の異なるすばらしい桜があります。皆さんも、ぜひ少し遠出をして、いつもとは異なる風情の美しい桜も眺めてみてください。)

 一方、イタリアの大学では、その年の卒業生全員が卒業式のために一堂に会するということがありません。また、入学については、大部分の学生が9月から10月にかけて入学の手続きをしますが、諸事情で数か月遅れて入学手続きをし、授業に通い始める学生も時々います。

 卒業するためには、まず自分の通う課程で定められた授業の試験にすべて合格し、単位を修得する必要があります。これは日本でも同じですね。違うのは、「卒業論文」(tesi di laurea)が、イタリアの大学では非常に重要な位置づけにあるということです。

 イタリアの大学で学生が卒業するのは、esame di laurea(卒業試験)に合格したときです。卒業試験の機会は年に数回、たとえばペルージャ外国人大学では年に4回あります。試験のとき学生は、居並ぶ教官たちの前で、自分の卒業論文の研究内容を10分ほど論じ上げなければいけません。試験にあたっては、まず学生の卒論指導にあたった教官が、研究主題・内容を簡潔に紹介してから、学生が卒業研究の発表を行います。その後、副指導教官や他の審査委員から質問があり、学生は的確にそうした質問に答えることを要求されます。
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 評価の際には、学生と聴衆(家族、友人、恋人など)は会場から退場し、卒論の審査委員の教官だけが残って、卒論制作の指導にあたった教官の意見をもとに、卒業論文を評価します。評価は、当日の発表の在り方も考慮した総合的なものとなります。

 そうして卒論を評価したあと、その卒論の点数を、すべての授業科目の平均点から算出した基準点に加算し、「大学の総合成績評価」となる点数をはじき出します。大学の課程では、この卒業時の総合成績評価は110点満点で、さらにすばらしい学業成績をおさめ、かつ見事な卒論を発表した学生には「110 e lode」(賛辞つきの110点満点)が与えられます。

 評価が決定すると、学生とその家族・友人たちは再び試験会場に入場します。その後、審査委員の教官たちが壇上に学生を一人ずつ呼び寄せ、卒業評価の点数を公衆の前で言い渡し、「おめでとう」と祝いの言葉を贈ることによって、学生が卒業を迎えたこととなります。

 会場を出ると、卒業した学生は、友人や家族から花束・月桂冠を贈られ、祝辞を浴びます。そして、そのままどこかに赴いて一緒に飲食しながら卒業を祝ったり、あるいは当日の夜あるいは近日中に改めて卒業祝いのパーティーを開いたりします。4月6日も会場を出たとたんに、あちこちで祝いの紙ふぶきが宙を舞い、歓声が上がっていました。

 大学を卒業後、学生が就職活動をするときや修士・博士課程の公募に応募するときに、企業や大学が考慮に入れるのはまず、この卒業時の総合成績評価です。全教科の評価入りの成績証明書ももちろん必要とされますが、イタリアで大学の成績と言うと、すぐに引き合いに出されるのが、この卒業時の評価ですから、卒業論文がどれほど重要であるかがお分かりかと思います。

 卒業論文は、パソコンのワープロソフトを使って書き上げた数十ページにわたるものを印刷し、立派な表紙をつけて製本します。
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写真の右と中央はわたし自身の卒業論文で、中央がペルージャ外国人大学の学士取得課程、右がシエナ外国人大学の大学院課程の卒業にあたってのものです。左は今回わたしが担当して、めでたく卒業した学生の論文です。学生が製本を依頼する印刷所には、卒業論文の表紙用に、さまざま色、素材(布・紙・皮)、デザインの見本が並べてあり、学生はその中から、予算が許す範囲内で、自分の好きなものを選ぶことになります。

 最後に、卒業論文の担当教官や研究主題についても、どんなふうに決めるかをご説明します。必要なすべての授業の単位を修得したら、あるいはそれ以前に、大学生は自分の卒業論文の研究主題を決めて、その分野の授業を担当する教官にrelatore(卒業論文の指導教官)となることをお願いします。だれにcorrelatore(副指導教官)を依頼するかについては、relatoreが決める場合もあれば、学生自身が決める場合もあるようです。また、研究主題についても、学生が自身が決める場合もあれば、指導教官に、研究主題を与えてもらう場合もあるようです。

 近年、イタリアでは、大学教育が4年制から「3年+2年」制に変わりました。ペルージャ外国人大学は、外国人に対するイタリア語教育の歴史と伝統が長いため、語学講座と併設する形で始まった大学の課程を見ても、「国際コミュニケーション」(Comunicazione Internazionale)、「外国人へのイタリア語・イタリア文化教育」(Insegnamento della Lingua e della Cultura Italiana a Stranieri)など、伝統と経験を生かした国際色の豊かなものとなっています。最近の大学改革のため、こうした課程はコースの名前を変え、現在新しい教育課程に移行しているところですが、「イタリア語教育・イタリア文化発信および国際交流の先駆者」としてのペルージャ外国人大学の位置づけは変わっていません。

 地球規模化(globalizzazione)が進み、企業や国家単位での国際交流を支える人材が必要とされる中で、イタリアの他の国立大学で最初の3年の課程を終え、後の2年の大学の課程をペルージャ外国人大学で学んでいる学生も大勢います。「他の大学に比べて、卒業がしやすい」、「評価が低い」という心ない、また実情を知りもしない日本の方の中傷も見かけましたが、ペルージャ外国人大学の教育が目指すものは、たとえば医学部や法学部を持つ大学とは違うわけです。また、「外国人大学は、日本人でも卒業しやすい」という発言にしても、浅薄な知識や偏見に満ちたものであり、あえてイタリアまで来て学ぶのであれば、日本の大学では学べないイタリア語やイタリア文化に重点を置き、国際的な視野を育てる教育課程で学ぶことにかえって意義があるとわたしは思うのです。

(上の卒業試験の写真は、わたしが2009年2月にシエナ外国人大学の大学院課程を卒業したときのものです。この大学院課程の卒業評価は、満点が70点。4月6日は、わたし自身も卒論の審査委員会の一員であったため、写真撮影はできませんでした。)

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by milletti_naoko | 2010-04-07 22:00 | Sistemi & procedure | Trackback | Comments(0)


日本語教師・通訳・翻訳家。元高校国語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより


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Naoko Ishii
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