2010年 06月 10日
初夏の恵みを味わう散歩 ~ヒナゲシとアスパラガス
写真の奥の方、中央よりやや左手には、チェネレンテの教会とその鐘楼が小さく見えています。5月に入ってから、この付近を車で通るたびに、鮮やかな一面の紅に感嘆していたのですが、なかなか写真に収めることができませんでした。
6月6日日曜日の夕方、「麦畑を紅に染めるヒナゲシを撮影したい」と夫に頼み、車で出かけて撮ったのが、上の写真です。「最近は暑くなって、毎日太陽が照りつけているから、もう枯れかけてしまっているよ。」と予告されていたとおり、残念ながら、もう一部のヒナゲシは枯れしぼんでいて、わたしが感動したときに比べると、赤の鮮やかさが目減りしていました。
この後は、テッツィオ山の西側にある山道を散歩することにしました。テッツィオ山自然公園の入り口から、トラジメーノ湖の遠景が美しい地点、ミーララーゴ(Miralago)を目指す散歩コースです。
写真の右手にある道の奥の方に、緑色の鉄柵があり、これがテッツィオ山自然公園(Parco Naturale del Monte Tezio)の入り口になっています。写真の左手には、夏の野山を彩るエニシダ(ginestra)の黄色い花が、今を盛りと咲いています。
鉄柵があって、車は通れないのですが、柵の左側には人が楽に出入りできるだけの空間があって、散歩に訪れる人や犬が自由に行き来できるようになっています。車は、道の左側、エニシダの前に駐車します。
さて、柵を通り抜けて、なだらかな坂道をしばらく登っていくと、やがて様々な散歩コースの分岐点に行き当たります。わたしたちは、そのうち2番コース(Sentiero n.2)を途中まで歩くことにしました。すべて歩くと、テッツィオ山頂付近にある十字架、Croce cella Pieve(下の写真)まで登ることになり、片道2時間近くかかるからです。
分岐点で左に曲がり、2番コースを進みます。まずは、緑の木々に囲まれた森の中を、なだらかな坂を登りつつ、しばらく歩いて行きます。(下の写真)
途中ですれ違った下山中の人が、野生のアスパラガス(asparagi selvatici)をたくさん収獲していたため、わたしたちも、道の左右を注意深く見ながら、散歩をしていきました。最初は、「1本だけアスパラガスがあっても、何も作れないよ。アスパラガスの季節は終わりかけているんだよ。」と言っていた夫も、わたしが1本2本と見つけていくうちに、やはり、「ペルージャっ子(perugino)としては、負けられない」という思いからでしょうか、時には道を少しそれて、森の中に踏み込み、真剣にアスパラガスを探し始めました。
上の写真で、中央付近に左右に長く伸びて生えているのが、野生のアスパラガスの親となる木です。細長い薄茶色の幹と枝に、短い針のような濃緑の葉が生い茂っているこの植物を、ペルージャの人はasparagiaio(発音は、「アスパラジャイオ」)と呼びます。タケノコが竹の若芽であって、竹の近くに生えるように、野生のアスパラガスも、このアスパラジャイオが春先に出す若芽が育ったものなのです。アスパラジャイオの根は、竹の地下茎ほど長くは伸びないため、アスパラジャイオを見つけたら、そのすぐ近くに、アスパラガスが顔を出している可能性があります。上の写真をよくよくご覧になると、写真の右手にすくっと上方に伸びている黄緑色の細長いものがありますが、これが、野生のアスパラガスです。
こちらの写真でも、やはりアスパラジャイオのすぐ近くに、アスパラガスがすくっと伸びています。
というわけで、野生のアスパラガス探しは、まず森に茂っている緑の草木の中から、目ざとくアスパラジャイオを見つけることから始まります。アスパラジャイオが見つかったら、その周囲を注意深く見ると、野生のアスパラガスが見つかることが多いのです。すでに他の人が摘んでしまった残りの茎も、この日は何本も見かけました。また、アスパラジャイオがあっても、アスパラガスがない場合もたまにあります。
この日は朝から日ざしが強く、暑くもあり、前夜のコルチャーノ合唱祭で疲れてもいたので、日かげの多いところ、つまり森の中で、あまり疲れない短距離の散歩をしようということで、この散歩コースを行くことに決めました。わたしたちが、アスパラガス探しに夢中になったのも、「季節が終わってしまう前に、おいしいアスパラガスを収穫しよう」というほかに、「あまり歩きたくないから、散歩をのんびり楽しむためにも、立ち止まって、アスパラガスを探そう」という気持ちがあったからです。
こうして、しばしば足を止めては、アスパラガスを摘みつつ、のんびりと進んでいくうちに、やがて、目的地、ミーララーゴ(Miralago)に到着しました。上の写真は、このミーララーゴからの眺めです。「湖」(lago)を「見晴らす」(mirare)ことができるというその名のとおり、緑あふれる平地やなだらかな丘の向こうに、美しく水をたたえるトラジメーノ湖(Lago Trasimeno)が見えます。日の光が強かったため、写真では、残念ながら、緑の奥にある湖と空の区別が分かりにくくなっています。道の傍らには、赤いヒナゲシの花が咲き、山の斜面のあちこちをエニシダの黄色い花が彩っていました。
この写真は、一足先にミーララーゴにたどり着いて、美しい眺めを楽しんでいる夫を撮影したものです。この道をさらに進んで、テッツィオ山を登っていくと、十字架、Croce della Pieve(三つ目の写真)まで行くことができるのですが、今回は、美しい風景とアスパラガスの収穫に満足して、ここで引き返すことにしました。
岩肌や緑の草木の間に、この美しい桃色の小さな花、ツルコザクラ(学名 Saponaria ocymoides)がいっぱいに咲いているところもたくさんありました。
道端には、風変わりなラン(orchidea)の花も咲いていました。歩く植物・動物事典の夫によると、花が昆虫の形に似ているのは、この姿で昆虫を呼び寄せて、受粉を手助けしてもらうためだそうです。このランは花弁が白いのですが、同じ種類で、花弁が薄紫色のランの花もあります。(下の写真)
こうして、道の傍らに咲く花を楽しみながら、そして、わたしは松やモミの木の花粉に苦しみながら、出発地点であった、テッツィオ山自然公園前の駐車場まで戻りました。わたしたちが車で到着した午後6時頃には、道の左側に車がびっしり並んでいたのに、散歩を終えて戻った午後7時半過ぎには、車がわたしたちの車も含めて、2台しか残っていませんでした。(2枚目の写真は、散歩が終わったあとに撮影したものです。)
高さ961メートルのテッツィオ山、5月1日にわたしたちが歩いたコースには道が分かりにくい地点もあったのですが、テッツィオ山自然公園入り口から出発する散歩コースは、どの道もきちんと案内板があって分かりやすく、歩きやすいように整備されています。公園入り口近くのコンプレッソ(Compresso)までは、ペルージャ中心街から、バスで行くことができますので、付近に住まれている方は、ぜひ一度散歩を楽しんでみてください。
こちらが、今回わたしたちが収獲した野生のアスパラガスです。翌日食べることにしたので、鮮度を保つために、水につけておきました。次の日の夕方、下ごしらえをしてから、卵とじにして、おいしくいただきました。季節が終わりかけているからか、とても細いアスパラガスが多かったのですが、独特のさわやかな苦味を楽しみながら、食べることができました。
野生のアスパラガスやその卵とじの調理法に興味のある方は、こちらをご覧ください。