イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

高山に残る春を訪ねて 、フレッシャーノ

 この花は、イタリア語で、maggiociondolo と呼ばれています。

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 名前を直訳すると、「5月(maggio)のペンダント(ciondolo)」で、その名のとおり、5月の初旬に花盛りとなり、花が、鮮やかな黄色をした首飾りのように、木全体を装います。日本語では「キバナフジ、キングサリ」というようです。

 昨日、6月14日日曜日は、夫とアッペンニーニ山脈の村、フレッシャーノ(Fresciano)の周辺の山道を歩きました。この村は、トスカーナ州レッツォ県のバディア・テダールダ市にある小さな村です。もう6月の半ばだと言うのに、標高が1100m前後の高さまで登ると、テッツィオ山では5月の初めに見かけた、このキバナフジやラン、キンポウゲなどの花がたくさん咲いていました。

 そこで今回は、この散歩の様子と途中で見かけた美しい花々について、お話しします。

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 ここが、出発地点。場所は、フレッシャーノ村の郊外です。夫の車の後方に、大きな鉄柵があり、鉄柵の向こうには、なだらかな坂を登っていく小道が続いています。

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 初めのうちは、小道は緑の木々や黄・紫・ピンクなど色とりどりの花に囲まれています。上の写真で、夫の左手、上の方に見える白っぽい花は、野バラです。

 日光が強い上に、遠くから撮影したため、見づらいのですが、ごく近くから見ると、こんな感じです。

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 花弁は淡いピンク色だったのですが、日の光の加減のために、写真では白く写っている花もあります。

 生い茂った木々の間を歩いている間は、ずっと小鳥のさえずりが聞こえていたのですが、やがて小道は広い草原を行くようになり、そうすると、コオロギ(grillo)たちの鳴き声が草原のあちこちから聞こえてきました。

 日本では、「虫の声」というと、古来から「秋の風物」とされているのですが、ウンブリア州では、晩春、そして、夏の風物です。同じ昆虫なのに、日本ではなぜ夏に鳴き声が聞かれないのかというと、「水田の蛙の鳴き声にかき消されて、鳴いているのに聞こえないのではないか」などと、自分勝手に憶測をしているのですが、また、いずれ正確なところが分かったら、皆さんにもお知らせしたいと思います。どなたか本当の事情をご存じの方がいらっしゃれば、教えていただけると幸いです。

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 草原を進むうちに、放牧された牛たちの群れに、出くわしました。肉がおいしいので珍重されるキアニーナ種の牛たちです。中に1頭だけですが雄牛(toro)がいる上に、柵が開いていて、危険なので、わたしたちは、できるだけ雄牛の足の届かないところへと、右手に見えた急な斜面を急ぎ足で登りました。

 この急斜面は、牛が肥やしをやるためか、一面に美しい野の花が咲いていました。

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 たとえば、小さいピンクの花がくす玉のように、球面を作って咲いているこの花。これは、タイム(timo)の花で、緑の小さい葉を指の間に挟み、その指の腹を摺り合せると、香味料として使うタイムの香りがしてきます。

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 斜面を登りきると、眼前にやはり緑の草原が広がり、放牧した牛たちが見える見晴らしのよい場所に行き当たりました。時間もちょうど午後1時を過ぎたところなので、ここで、景色を楽しみながら、昼食休憩を取ることにしました。

 昼食は、ペルージャから来る途中で、立ち寄ったバールで作ってもらったパニーノ(panino)です。具には、トマト(pomodoro)とモッツァレッラ(mozzarella)を入れてもらいました。作った方が気を利かせて、パンにオリーブオイルを塗り、オレガノ(origano)もまぶしてくれたので、おいしかったです。

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 雄牛から遠ざかるために、散歩コースを大きく右にそれてしまったので、昼食後、さて、どちらに進もうかということになりました。実は、今回の散歩コースは、夫が以前に友人フランコと歩いた道を再度歩こうと提案したのですが、その際、地図を持っていたのはフランコで、わたしたちは、この付近のトレッキング用の詳しい地図を一切持っていないのです。

 わたしは夫が地図を持たぬことを知らず、夫のほうは一度歩いた道だからと安心していたからなのですが、山中で道に迷うと危険ですから、皆さんは、山道を歩く際には、必ず詳しい地図を携帯してください。

 地図がない上に、雄牛のために、予定とは違う道に踏み込み、さらに散歩道らしいものはあるものの、これまで、どこにもトレッキング・コースを指示する印にお目にかからなかったので、不安に思いつつも、夫がフランコとの散歩を思い出しながら、それらしい方向へと、時には緑の木々を押し分けて、道なき道を二人で進んでいきました。

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 というわけで、上の写真に見えるトレッキング・コースにたどり着いたときには、本当にほっとしました。左手に見える木の幹に、白と赤の2色で印がつけてあるのがお分かりですか。これは、CAI(イタリア山岳クラブ、Club Alpino Italiano)のトレッキング・コースを、道を間違えずに進んで行くための目印です。

 この印の左上には、さらに非常に薄くですが、空色と黄色の2色を使った印もあります。こちらは、フレッシャーノ村が属するバーディア・テダルダ市の観光協会(pro loco)がつけたトレッキング・コースの目印です。

 このコースの路傍にも、あちこちに美しい花が咲いていました。

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 たとえば、キバナフジ。大小の木が森のここかしこにあって、いずれの木も美しい黄色い花で飾られていました。記事の冒頭の写真は、このキバナフジの花房を、至近距離から撮影したものです。

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 美しいランの花も、もう6月も半ばだと言うのに、道端にたくさん咲いていました。そのほとんどが同じ品種のランで、小さい花の一つ一つが、羽を広げた天使のような形をしていました。(上の写真)

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 こうして目印を追って、トレッキング・コースをしばらく歩くと、目の前に、野の花が一面に咲いている広い草原が現れました。天気がいいので、遠くの山々や下方に広がる平野も美しく見えます。もちろんコオロギの鳴き声が、ここかしこから耳に響いてきます。

 地図もないため、このあと、コースがどこへ続くのか分からず、とりあえず道らしきものを見つけて、そこを歩いていくことにしました。

 「許可のない者の狩猟禁止」とあちこちに注意書きのある小道をしばらく行くと、やがて小さな掘っ立て小屋と高見やぐらに行き当たりました。

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 好奇心が強く、高いところに登るのが好きな夫は、さっそくやぐらのてっぺんまで登り、周囲を見渡してから、降りてきました。(上の写真)このあとも、さらに小道を進んだのですが、トレッキング・コースの目印がまったくない上に、道が行き止まりになったために、後へ引き返すことにしました。

 さきほどの、花が一面に咲く野原まで戻ったときには、もう午後3時。正午に出発してから、3時間近く歩いた上に、どこへ行っていいかも分からないために、今回は、ここで散歩を終了し、出発地点まで戻ることにしました。

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 その後、帰りの道を間違えて、そのままずんずん歩いてしまったのですが、おかげで、上の写真の美しい花を見ることができました。

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 これは、間違って進んだ道を戻る途中に見つけた、さっきとは違う野原です。やはり、一面に花が咲いていて、コオロギの鳴き声が聞こえ、そして、遠くの山並みが美しく見えました。

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 ワスレナグサ(nontiscordardimè)の花も、今回の散歩中は、この野原に限らず、あちこちで見ることができました。以前に夫と暮らしていたレスキオの村で、春に散歩をしていると、このワスレナグサのごく小さい空色の花とキンポウゲの花が、道端にたくさん咲いていたのを、懐かしく思い出しました。

 天気予報どおり、午後5時頃にわか雨が降ったものの、幸いすぐに降りやみ、午後5時半過ぎに、無事に車を置いていた出発地点まで戻ることができました。

 地図がなくて、道に迷ったり、道を間違えてしまったりはしたものの、そのおかげで、思いもかけぬすてきなトレッキング・コースを発見できたので、「また、地図を持って、ここに散歩をしに来ようね。」と、夫と二人で決めたのでありました。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2010-06-14 17:30 | Fiori Piante Animali | Comments(0)