2010年 09月 06日
滞在許可証よもやま話1
それは、「出生地」(luogo di nascita)です。わたしの場合、出生地であり、出生届が出された市は、神奈川県川崎市なのですが、生まれた病院があっただけの話なので、この項目が証明書にあること自体にあまり意味を感じません。当時、両親は横浜に住み、父が東京の会社に勤めていたため、わたしはその通勤途上の沿線にある病院で生まれたのです。
それはさておき、そういうわけで、わたしのイタリアの各証明書類には、出生地の項に、「KAWASAKI」と書かれています。
そして、県警察本部(questura)に、滞在許可証を申請しに行くと、たいてい繰り返されるのが次の場面です。いかめしい顔つきをした警官が、申請書を見て、急にうれしそうな顔をして、両手を握りしめたかと思うと、胸の高さまで上げて、何度かこぶしを前に回す動作をして、バイクを走らせる真似を始めるのです。
“KAWASAKI. La moto!”(訳すと「カワサキ。オートバイ!」)
イタリアでは、オートバイやF1といったスポーツ、レースへの関心が、日本よりもはるかに高く、日曜日午後2時から、国営放送でオートバイ世界選手権を中継したりしています。警官になる人は、バイクへの興味も人一倍高いのでしょう。
日本人であれば、「川崎」と聞いて、真っ先にバイクを思い浮かべることもないと思います。わたしにしても、川崎と聞いてすぐに頭に浮かぶのは、工業地帯と川崎ぜんそくです。出生地でありながら、これしか思い浮かばないのは市民の方に申し分けないのですが、地理の授業で唯一習ったのがこういうことだった気がします。
日本と言えば、思い浮かぶ都市が、「東京(町の名前だと思い込んでいる人が多い)、大阪」、よくできた場合でも、「京都、札幌」どまりになりがちなイタリア人が多いのです。YOKOHAMAも、タイヤ・メーカーの名前としては知っていても、都市の名前として知っている人はあまりいません。KAWASAKIと見て、すぐにバイクを思い浮かべるのも、彼らにとっては、ごく当たり前のことなのでしょう。
そこで、毎回、「川崎は都市の名前であって、バイクとは関係ないんですけれども…」と説明することになります。
一方、この出生地は、日本の身分証明書を見ると、運転免許証にもパスポートにもありません。実はこんなささいな違いのために、今年の初めに、日本の免許証をイタリアの免許証に書き換えるときに、手続きが滞って、大騒ぎをすることになってしまいました。
ちなみに、イタリアの従来の紙製の身分証明書には、姓名、出生地と並んで、目の色や髪の色を書くところもあります。日本と違って、髪や瞳の色がさまざまで、これが人を特定する決め手になったからでしょう。ただし、近年できたプラスチック製の証明書には、この項目はありません。特に女性は、老若を問わず髪を染める人が多いし、目の色もコンタクトで見た目を変えられるからでしょうか。
イタリアの身分証明書(carta d’identità)に、今も昔も相変わらず記載事項として存在するのが、身長です。イタリアでは、身分証明書の申請に限らず、身長を聞かれること時々あって、そのたびに153.5と答えていたのですが、そのたびに、「あ、153ね」と小数点以下を切り下げられるので、最近では、最初から自分で切り上げて「154」と答えています。ただでさえ背が低いのに、貴重な0.5cmを削除されるのに、こうして抵抗するわけです。
日本では、身長・体重測定で、必ず小数点第一位までは記入すると思うので、やはりこういうところでも、イタリアは大ざっぱだという気がします。「0.5にこだわるところが日本人だ」と言われることもあって、確かにこの微妙な違いが何かに影響するかというと、そういうわけでもないのですが……
大らかというか大ざっぱなのは、小銭の扱いも同じです。わたしはこれまで日本で、最後の1円まで正確である店や銀行に慣れていたので、イタリアの商店や銀行で、「ああ、2セントはいらないよ。切りがいいから11ユーロだけ払えばいい」と言われたり、逆に、小銭がないからといって、1セントや2セント不足する金額のお釣りや現金(銀行の場合)を渡されたりすると、今も当惑します。
「大勢の客がレジに並んでいるので、いちいち小銭の勘定をするよりも、1の位は無視して手早く済ませよう」、「小銭がない」というのが、その理由らしいのですが、やはり、そういう細かい部分から、国や国民の正確さの方向が決まってくるような気がしてなりません。
大体、あとでレジをしめるときに、勘定が合わないのではないだろうか。けれども、売り上げをごまかし、税金を少なく払おうとして、レシートをよこさなかったり、支払額よりかなり低い金額の領収書を平気で渡したりする店主もいるのです。一度、二人で200ユーロほど買い物をして、帰ってからレシートに20ユーロと書いてあって、あきれたこともあります。
最後の1セントまできちんと払おうとする店員や銀行員も大勢いますので、念のため、ここに書いておきます。
話がだいぶずれてしまいましたが、滞在許可証については、申請や受領に苦労することも多い一方、少しおもしろい話や、とんでもない、笑うに笑えない話も時々あります。今回は、その第一話をお届けしました。
日本で言うところの県名ではなく、市町村名だというのも面白いなあと思いました。例えば自宅はA市にあっても、生まれた病院が隣のB市であったなら、出生地はB市になるのでしょうか?日本には「出生地」という概念が希薄なのでよくわかりませんね。
ただ、日本の現住所と本籍地の記載の区別は、考えようによっては出生地の概念よりもっとわかりづらいかも。
私は結婚して本籍地が変わりましたが、行ったことのない場所で馴染みは皆無です。そう考えると、どちらかと言えば本籍より出生地の方が記載事項としてはいいのかなあ、なんて思いました(笑)
細かい日本人と大雑把なイタリア人気質、面白いです^^
本籍地も確かにとても不思議なものですよね。本籍は取ろうと思えばどこにでも取ることができて、生まれている必要も住んでいる必要もないようです。わたしの本籍は生まれたときから愛媛県でしたが、15歳までは、住んだことがありませんでした。それも、本籍住所は、かつて父が育った家が建っていたところなのですが、今はデパートの駐車場になっていたりします。
ごく当たり前のように思っていたことが、異国の地では当たり前ではないことがあって、わたしも、とまどったりおもしろがったりしています。