イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

家路2 聖地とおしゃべりシェフ

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「刺身を最初に考え出したのは、本当は日本人ではなくて、イタリア人なんだ。」
「うちのピザは、こんなにうまいピザはないというくらいにすばらしいから、もし食べて気に入らなかったら、料金もいらないよ。」

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 7月20日火曜日、前日に続いて、高速道路を避け、山中の道を通って自宅へと向かっていたわたしたちが、ふと立ち寄ったレストランのシェフの言葉です。店名は、ラヴェルナ(La Verna)。入り口右側の壁にかかった銅版にも、こう刻まれています。

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 場所は、聖フランチェスコにゆかりの深い聖地、ラヴェルナ(La Verna)(上の写真)へと登る小道の入り口にあるベッチャ(Beccia)村。ラヴェルナを訪問したあと、帰宅前にアイスクリームを食べようとバールとホテルも兼ねたこのレストランに立ち寄ると、レジの男性が、いつも見慣れた人とは違います。

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 話しているうちに、経営者が変わったことが分かり、新しい経営者兼ホテルのシェフであるこの男性は、なんとミラノ出身だと分かりました。おしゃべりが好きで、自分の料理と鑑識眼にひどく自信があるようで、その自信たっぷりの話しぶりや次から次へと変わる話題を、わたしたちも、ついつい楽しみながら長い間聞いてしまいました。

 最初はミラノで、次にマルケ州のアックアランニャで飲食店を経営していたのだけれども、アックアランニャの人々がいつまでもよそ者扱いをするのに耐えられず、ベッチャに場所を移したそうです。このアックアランニャは、白トリュフ(tartufo bianco)で有名な村です。

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 上の「刺身の発祥地は本当は日本ではない」というのも、本人が、ミラノの店に時々来ていた日本のビジネスマンから聞いた話のようですが、インターネットでいろいろ調べてみると、確かに魚を生で食べる風習は、古くから世界各地にあったようです。

 ただし、「シチリアで漁を営む漁師たちが、獲れたての魚を新鮮なうちに生で食べていたのが始まりで、日本人はそこからアイデアを取ったんだ。」というのは、眉つばもので、話す様子がいかにも自信たっぷりだったので、半信半疑のわたしも何だか納得されかけたのですが、でたらめもいいところで、一体彼が考えたのか、誰かから聞いたのかは謎です。

 こういう根拠のないことや我が店の料理のすばらしさを、いかにも自信たっぷりに話せるところが、すごいと言えばすごいのですが。

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 というわけで、このシェフの自信満々の口ぶりに押されて、結局ここで夕食を食べることにしました。ピザに目がない夫が食べたのは、もちろんピザです。夫言わく、「普通のピザで、特においしいわけではなかった。」ただし、ピザというのは人によって好みが様々で、ピザについては夫の採点は辛いので、この店のピザを極上だと思う人もいるかもしれません。ただし、この店主は自信過剰気味だと、わたしも思います。

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 一方、わたしが食べたのは、鮭をズッキーニの上に載せ、オーブンで焼いたものです。10ユーロは高いと思ったのですが、味はとてもおいしかったです。料理の値段には、イタリアでも地方差があり、コモ湖周辺に住む友人たちがペルージャに来たときに、「アイスクリームが2ユーロ未満なんて信じられない! マルゲリータが4ユーロ代! コモでは7ユーロするのに。」と、一々驚嘆していました。

 どこまで信じていいのか分かりませんが、この店主によると、イタリアで最も新鮮な魚が最も大量に手に入る魚市場はミラノにあるとのことで、店では毎日新鮮な魚をミラノから取り寄せ、その日手に入った新鮮な素材だけを客に出すために、いつもすべてのメニューが用意してあるわけではないということです。

 ウンブリアもそうですし、かつて住んでいた愛媛県の野村町や内子町でもそうですが、山に囲まれ、海や魚の獲れる湖から遠い地域では、新鮮な魚はなかなか手に入らず、そのために、魚料理のレストランは少ないのです。アッペンニーニ山脈の山並みが連なる、その山の上に、「新鮮な魚介類を使った料理」を売りにするレストランができたのに、驚きました。ピザはいまひとつだそうですが、わたしの頼んだ魚料理は確かにおいしかったのです。

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 食事が終わったときには、美しい夕焼けを見ることもできました。

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 この日の夕方、わたしたちが最初にベッチャに着いたのは、午後4時半過ぎでした。ベッチャからは、聖地ラヴェルナへ30分ほど歩いて登って行ける散歩道があります。

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 この日は、この散歩道を歩いてラヴェルナ参りをすることにしたため、ベッチャに車を止めて、ひたすら坂道を登りました。

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 この坂道の途中には、岸壁の上にそそり立つ修道院を眺めることのできる場所もあります。

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 たどり着いたラヴェルナでは、教会を訪れて、この地で聖痕を受けた聖フランチェスコに思いを馳せながら、祈りを捧げました。

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 それから、わたしたちのお気に入りの、ラヴェルナの土産物屋(上の写真)に向かいました。店内には、周囲のトレッキング・コースを説明した地図や本、望ましい生き方を示唆する本や美しい祈りの言葉を書いたカードなどがあります。写真を撮るのは気が引けたので、撮影しませんでしたが、店内には、修道院の古来の製法で作った薬用酒や薬草を使った疲労回復剤、基礎化粧品などの数々も、並んでいます。

 ベッチャのレストランに立ち寄って、店主と話をしたのは、こうしてラヴェルナを訪れた後、再び坂道を下って、ベッチャに戻ってからです。夕日が沈むのを見終えてから、再びペルージャに向かい、ようやく家に帰り着いたときには、午後10時を過ぎていました。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2010-09-11 16:16 | Toscana | Comments(0)