2010年 09月 19日
滞在許可証よもやま話2
わたしがイタリアでの語学留学で、最初に学んだのはマルケ州の私立語学学校です。日本で就学用のビザを領事館に申請したときから、留学の予定は1年間で、マルケ州で半年学び、その後、さらに半年ペルージャ外国人大学に通おうと決めていました。
ですから、ビザの期限は1年間だったのですが、にも関わらず、滞在許可証を受け取ったら、有効期限が1年後ではなく、半年後だったので、びっくりしました。「ペルージャでの滞在分は、ペルージャに行ってから申請すればいい」と警官に言われたものの、実は、マルケの学校の通学を終える日と、外国人大学に通い始める日の間に、10日間ほどの空白があって、この期間はどうすればいいのだろうと、きまじめな日本人のわたしは、途方に暮れてしまったのです。
マルケでの滞在を終える頃、家主が笑いながら、こう言いました。
「難しく考えすぎだよ。イタリアでは、法律に従おうとすればするほど、厄介な手続きが増えて、がんじがらめになって困るけれども、最初から従わなければ、まったく問題なく過ごせるのだから。」
この言葉が冗談だったのか、それとも本気だったのかは、今でも謎です。「法律に従おうとすれば」については、「まじめに税金を納める人」と「脱税者」(留学生や移民に、契約書なしで宿を賃貸する家主もこの類です)に始まって、実際イタリアでは「正直者が馬鹿を見る」制度や法令をよく見かけます。高齢者を介護する移民を、家族が合法的に雇用するのがひどく難しいような法制度を整えておきながら、何年かに一度「違法事例の追認、合法化」(sanatoria)を行って、少々お金を積めば、闇で雇っていた移民の雇用を合法化できる期間を設けるというのも、そのいい例です。脱税者が、本来払うべき額の何分の一かにあたるわずかな罰金を、見つかる前に自分から払えば許されるというscudo fiscale(訳すと、「収税の盾[防御]」)も然り。現政府は、「おかげでたくさんの脱税者が税金を払い、国庫の収入が潤った」などと言っていますが、識者や野党が言うとおり、「この見過ごし法令がなければ、何倍もの金額が国庫に入ったはずであり、こうした法令は、『税金はごまかした方が得だ』という誤った考えを市民に植えつける」と、わたしは思います。
それはさておき、家主は、自分の言葉を裏づけする例として、「君みたいに几帳面に滞在許可証を申請しよう、延長しようとすると苦労するけれども、オーストラリアから来て、ビザも滞在許可証もなしに、2年間問題なく暮らしている人も知っているよ。」と、言い加えました。
日本の皆様は、くれぐれも非合法滞在などなされませんように。まず一市民として法を破るのが、道徳的に問題があるだけではなく、法律は、社会だけではなく、自分自身も守ってくれるものです。最近は、非合法滞在者が病院を訪れたら医師は告発しなければならないという法律が国レベルで定められたりもしました。盗まれ、襲われても、自分自身が法を犯していては、助けも求め難いでしょう。また、外国で日本人が信用を得ているのは、これまで日本の方がそういう不法なことをしていないおかげでもあります。イタリア政府は、最近非合法滞在者に対しては、厳しい路線を打ち出しています。即出国を迫られ、二度とイタリアには来られなくなるかもしれません。
とにかく、物事をきまじめに考えすぎる日本人のわたしは、この10日の空白期間のためにも滞在許可証の申請が必要だ、と考えて、ウルビーノの警察署に、滞在許可証の延長を申請しに行きました。警察署には、友人が車で同行してくれました。

さて、警官が、細かい身体的特徴を書き込む書類の作成に取りかかります。
わたしの顔をつくづくと眺めながら、「naso rialzato」と言って、紙に書き込もうとするので、思わず、「隆起した鼻!?」と聞き返し、即座に友人が、「Naoko, che dici!」(なんてこと言うのよ。警官に向かって!)と介入しました。この警官は、髪の長い、若くのんびりした男性でした。
そんなこんなで、滞在許可証の延長申請は無事終わりました。ただし、この件について、後からペルージャの警官に尋ねたところ、期限が切れたまま10日後にペルージャで申請しても、まったく問題がなかったそうです。
その後、ペルージャで、滞在許可証を申請して、受け取ったことは何度もあるのですが、一度だけ、受け取った許可証に、とんでもない間違いがありました。
申請書類を必死にそろえたり、まだ暗い早朝から、警察署の前に並んだりと、さんざん苦労して、申請をした滞在許可証ですから、受け取るときは、やはり安心感と喜びがあります。
それが、そのときに受け取った新しい滞在許可証には、わたしの名前や写真はあったのですが、
「国籍 ブラジル人」
と印刷されていたのです。
半ば信じられずに、警官に指摘すると、向こうもさすがに驚いたのですが、すぐに
「いや、だって君、ブラジル人みたいに見えるから。」
と、冗談を言って切り返したところは、イタリア人ならではでしょうか。
「許可証に添付されたわたしの写真を見れば、ブラジル人とは間違え難いし、同じ書面に、出身地はKAWASAKI、パスポートの発行者は日本政府と書かれているのに。」
と抗議すると、今度はまじめに、
「いや、申しわけないけど、うちで申請する外国人は何千人もいるから、間違いも……」
と謝りました。そして、わたしは「国籍を訂正すれば済む話ではないか」と思っていたのですが、新しい滞在許可証をもう一度作り直すので、顔写真を提出し直してくれと頼まれました。
数少ない事例かとは思いますが、こういう間違いもあり得ます。
というわけで、イタリアで滞在許可証を申請された皆さんは、ようやく受け取れた喜びを抑え、少し冷静になって、間違いがないかどうか、受領の際に、よくよく許可証を点検してください。

