2010年 11月 25日
名作が心に語るもの、『紅の豚』 イタリアの風景とたくましい女性像


映画、『紅の豚』がペルージャで上映されたので、ぜひ夫に見てもらいたいと思って、わたしも一緒に見に行きました。今日の午後6時半からの上映を一緒に見たのは、小さな子供たちを連れた親たちや、大学生たち。
見終わった後、本でも映画でも、名作というものは、いつ見ても飽きず、新しい発見があり、見たときの年齢に応じての感動があるのだな、とつくづく思いました。
まずは、イタリアの風景や町並みが、驚くほどの緻密さ・正確さで描かれていることに驚きました。

地中海に浮かぶ緑の島々に、青い海原。

石畳の通りの横に立ち並ぶ色とりどりの背の高い家。家の窓を覆う格子。レストランの内部。

イタリアに住む今だから、いくつかの町を訪れ、地中海を何度か船で行ったことがある今になって、自然の景色や町、屋内の描写が、いかに現実のイタリアに近いかがよく分かり、その緻密さ、正確さに驚きました。

雲間から漏れる日の光の美しさ。

透き通る青い海が白い砂浜に打ち寄せる美しさ。
まるで絵画が美しい景色を封じ込めるように、自然のそうした美しさが、さりげなく映し出されています。
そして、飛行機野郎が主人公でありながら、生き生きとたくましく描き出されているのは、主人公と同時に、たくさんの女性たちなのです。冒頭で誘拐されてまったく動じず、自分のペースでいる少女たち。見事な飛行機を設計、完成させる腕の持ち主であり、かつ責任感も勇気もある少女、フィオ。彼女を助けて、あれよあれよと飛行機を完成させていく女性たち。
従来のこうしたアニメ作品が得てして男性的視点に立ち、たとえば、『巨人の星』では明子姉ちゃんはいつも木の陰で見守るだけなのに対し、ここでは、女たちが、守られるだけの立場に甘んじず、自分たちをみくびる男たちを、あっと言わせる活躍と度胸を見せていく。きれいなだけではない、かわいいだけではない、女たち。逆に、男たちは、名誉や地位、金儲けに振り回されていて、ふがいない。考えてみれば、ナウシカから『魔女の宅急便』まで、宮崎作品には女性の主人公が多いのですが、改めて宮崎作品の描き出す女性像のたくましさと力強さ、女性への応援が見える気がしました。
がんばれ、女たち。
「おまえを見てると、やっぱりまだ世の中捨てたもんじゃない。」という言葉にも、今のイタリアにも通じるものを感じました。(うろ覚えのイタリア語のセリフを自分なりに訳しているので不正確です。)
名作と言うのは、やはり、いつになっても、いくつになっても、人の心を打つものだな、と。そして、どんな世代も、どんな国の人も、いつまでも楽しむことのできる作品を作った宮崎駿監督の力量を思いました。
上空を、美しく星のように流れゆくいくつも、いくつもの戦死者の戦闘機の列。
男性優位社会にせよ、戦争の残酷さにせよ、正面から捉え告発することなく、けれど、笑いあふれる作品の端々で、見る者の心にその誤りを訴えかけてゆく。

実は、イタリアで久しぶりに見た宮崎駿監督の作品は、他にもいくつもありました。カリ城にトトロ、『千と千尋の神隠し』、『魔女の宅急便』。いずれも夫に見せたくて映画館に一緒に行ったり、姪と夫に見せたくてDVDを購入して見たりしたのですが、これらの作品を再び見たときにも、やはり、いい作品だと感動しました。
それが、今回の『紅の豚』に限っては、こんなにすばらしい、奥の深い作品だとは思わなかったという意外な発見が、いくつもいくつも、随所に散りばめられていました。
わたしが大人になったのでしょうか。自分が勝手に深読み、見当違いな読みをしているだけかもしれませんが、それにしても、やはり、見るたびに、何か心に違う驚きや感動をもたらしてくれる作品があるのだな、とつくづく思いました。
というわけで、遠い昔に『紅の豚』を見て、あれ以来、まったく見ていないという方。ぜひもう一度手にとって、この映画を見てみてください。きっと、それぞれの心に、以前とは違う何かを語りかけてくれると思うのです。
*Amazon.co.jpの『紅の豚』DVD紹介ページへのリンクはこちらです。イタリア語版の映画DVDの情報はこちら


確かに女性がたくましかった記憶があります!
ジブリは幾つになっても心躍りますよね。私も借りてきたくなってしまいました!

私は初期の作品の方が好きで、NO.1はトトロ、次点はナウシカとカリオストロです。
どうしたことか、紅の豚は見ていなかったので今度是非見てみます。
写真のイタリア、どれも素晴らしく美しいですが特にエルバ島が格別に思います。このまま宮崎作品の背景になりそうな美しさです(これまたなおこさんの腕ですね^^)
わたしも、楽しく見ていい映画だと思っていたのですが、今回、見て、以前には気づかなかったこと(うち、いくつかは、忘れただけかも)、見えなかったことが、たくさん心に響いてきたので、びっくりしました。最近イタリアのテレビドラマをいくつか見て(『La Baronessa di Carini』, 『Terre Ribelle』など)、女性が本当に男性的視点で描かれていて、脇役と言うか、男性の訪れや助けに頼る者として書かれていたのを、内心歯がゆく思ったからかもしれません。まあ、いわゆるイタリアの時代劇であり、過去に場面が設定されているので仕方ないかもしれません。そう言えば、日本の時代劇も女性は花を添えているだけの傾向が多いかも。
宮崎作品は日本の宝、そして、世界の宝だと思いますよ! 夫も他の観客も楽しんで見ていたようで、わたしと同じ場所で、皆声を上げて笑っていました。わたしも最も好きな作品は、ゆんさんと同じ三作品です。順序は、カリ城、ナウシカ、そしてトトロ。中学生・高校生の頃に見て、夢中になり、アニメ雑誌の付録、漫画の連載に喜び、友人と盛り上がって……
おほめの言葉、ありがとうございます! エルバ島は、島に住む友人から、「島が最も美しいのは、花いっぱいになる5月」と聞いて、今年5月に訪れました。ハンニチバナ(イタリア語で、cisto。写真の白とピンクの花です)を始め、島が山が美しい花々で覆われた場所がいくつもあり、散歩をしながら感動しました。
実は記事自体は午後11時半には書き終わっていたのに、それこそ無数の写真の中から、映画で見た風景に合う写真を選ぼうとしていたら、記事の投稿が午前1時を過ぎてしまいました。ゆんさんのコメントを読んで、それでも、じっくり写真を選んでよかった、と思えました。見終わった感動を忘れる前に、昨夜のうちに記事を書いて、送信してしまいたかったのです。
なるほど、イタリアの女性たち、元気があってたくましい人が多いですよね。日本でも、実は奥さんが亭主をうまくてのひらに載せて……と聞きますが、この女性の主導権がイタリアではずっと分かりやすいかも。
サルデーニャ島の景色がすごく綺麗ですね~☆
海の向こうに見える岩肌が素晴らしいです。
ペルージャの夕焼け空も綺麗です。
日本ではジブリの作品は何度もテレビで放送されていますので、だいたいは見ていますが、「紅の豚」は主人公が男(オス)なので見ていませんでした。「紅の豚」も女性達が強く、たくましいんですね。
ナウシカもラピュタも、初めて見たのは僕が中学生か高校生の時でしたが、いまだにテレビで放送されると食い入るように見てしまいます(笑)
凸d(^ー^)今日も応援pochi!
イタリア旅行の写真、整理しきれていないものがたくさんあって、いつかブログでも紹介しようと思いつつ、あんまり多いので、時々思い出したように、古い写真が登場します。そうです、海や山の美しい風景が、イタリアにもたくさんあります。
主人公が「オス」だから見ないというのも、これまたおもしろい理由ですね。主人公に負けず劣らず、個性の強い魅力的なヒロインも二人いるので、ぜひご覧ください。ナウシカを見たのは私も高校生のときで、アニメ雑誌の付録にナウシカ・トランプがついていて、うれしかったのを覚えています。日本にいると、再放送で見られる機会も多いんですね。うらやましい。その代わり、イタリアの方がなぜかDVDの販売価格は安めです。しかもイタリア語・日本語の2か国語版でお徳。いつも応援、ありがとうございます。
あのアドリア海の風景はホントにアニメとは思えないくらいため息が出る美しさですよね。
この映画を見て何度も「絶対イタリア行くぞ!」と心に誓ったものでしたぁ(しみじみ)
「豚」がこんなにもカッコイイんだ~って惚れ惚れしたほど♪
はぁ~、明日レンタルしてこようかな~(爆)
「豚」がこんなにも…… そうなんです。この主人公も、容姿ではなく人間性(姿は豚でも)と行いで周囲の人々や、観客を魅了している。この生きざまのあくなき魅力も、この映画のすてきなところかと思います。わたしは中学・高校時代、特にカリ城のルパンが大好きでした。

「紅の豚」私も大好きな作品です。
私の場合、ポルコが瞬間程度の短い時間、人間になって描かれている場面が意外な所にちりばめられていてそれを見つけるのも楽しみです。
先日、娘はポルコが洗顔して顔を上げたシーンで鏡に写った顔が瞬間的に人間として描かれているのを見つけたようですがこれは私は未だに見つけられてません。
瞬間もとのあるべき姿に戻る、は「ハウルの動く城」で主人公の「呪いで老婆にされた少女」が場面によってもとの少女として姿が描かれたりするのと同じメッセージ性を含ませているのかな?などと思ってみています。
もとの姿に戻る時に共通するのは「純粋」「前向き」「真摯」「困難に立ち向かう」でしょうか。表だって道徳めいたことをメッセージすると疎まれたり反発されたり拒否される、それを回避した形のシークレットメッセージが折り込まれている気がします。深読みしすぎかもしれませんけど。(^^;
こちらこそ、クックパッドでのトルコロのレシピのご紹介、ありがとうございます。
もう何度も何度も、作品をご覧になっているんですね!見れば見るほど奥の深い作品なのだとつくづく思います。お嬢さんも鋭い! 映画でも何でも、人によって受け取り方や気づくところが違うところがまたおもしろいですよね。百人百様。こんなふうにいろんな方の感想や解釈をうかがうのは、とても興味深いです。昔、高校で教えていた頃も、新しい小説作品の初読の際に、よく生徒たちに感想や疑問点を書かせたものですが、一人ひとりの自由な発想や新鮮な視点、あるいは意外な読みの深さに、よく驚かされました。
魔法がかかって、たとえ姿が変わっても、本質は変わらないということ、時に、より人間的な思いに戻る瞬間があるということ、解釈はいろいろできますが、いずれにせよとても詩的ですてきだと思います。わたしも次回見るときには、この点にも注意してみたいと思います。
わたしの夫は、フィオとおじの工場の壁に書かれた「NON SI FA CREDITO」(意味は、「ツケお断り」)であるべきイタリア語の、FAの部分がFUと間違っているのを発見しました。これもわたしは、FAだと思い込んで見ていたので見逃してしまったので、次回はじっくりと確認してみたいと思います。

フィオの叔父さんの設定上、わざと間違い字を入れてみたのか、それとも単にコンテのミスがそのままとなったのか。
クマのプーさんの絵本の中でクリストファー・ロビンだかブー自身だかどちらか失念しましたが間違い字で地図とか手紙を書きますでしょ?ああいう設定上のことなのかしら。うーん・・・。
次回に見てみるときに「FAか゜FUになってる」を確認するの楽しみになりました。