イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

天皇のスピーチ

 被災に遭った方々を励まし、日本国民に贈られたその言葉は、イタリアでも、すぐにテレビニュースで取り上げられました。(*追記: 2018年3月現在では、当時載せていたリンク先のメッセージ映像が存在しないため、リンクを削除しました。)

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3月24日発売発売の雑誌、『Corriere della Sera - Sette』から。

 震災で亡くなった人、苦しむ人、救助にあたる人々、被害を受けなかった地域の日本国民、それぞれの立場の人を思いやって、穏やかに語りかける、その温かい言葉の一言ひとことに、胸を打たれました。何か自分の中で形にならない思いを、代弁してくれているようにも、感じました。

 実は、わたしは、もともと天皇制には反対で、それは戦争責任や将来また政治的に利用される可能性が否めないという他に、皇室に関して「血・家柄の尊さ」を語る報道などが、結局は人々に「血や家柄の貴賤」の存在をたとえ潜在的にであってでも意識づけて、部落差別などの差別の存続につながっていくのではないか、と考えるからでもあります。

 映画、『英国王のスピーチ』では、後に国王ジョージ6世となる主人公が、兄の退位によって国王とならねばならぬことを恐れ、妻が「王族なんかとつきあいたくはないと思っていたけれど」と、夫を励ますくだりがあります。皇室に生まれただけで、あるいは関係するだけで、プライバシーや、一般の国民であるわたしたちが楽しめる自由が、ひどく制限されてしまうことにも、疑問を持っています。

 ただ、やはり国の象徴とされるだけあって、今回、ふだんは表舞台に立たれない方が、あえて贈られたメッセージに励まされ、苦しい中で希望を見出された方、あるいは自らにできることをしようと奮い立たれた方も、きっと多いことと思います。

『英国王のスピーチ』で、ジョージ6世が、自らの吃音を克服し、戦争に突入した英国の国民を前に、戦争の意義や英国の役割を語り、不安に襲われた国民を勇気づけていった、その場面が、今回の被災地へのメッセージと重なりました。

 命を失われた方への悔やみ、少しでも多くの、そして早くの行方不明者が救助されるようにとの願い、寒さと飢えの中で苦しむ人々の苦労、その中でも強く生きようとする方々の雄々しさへの感動、被災した方を思っての心痛、救援活動に携わる人々への感謝、ねぎらい、海外のメディアの日本への賛辞、海外の国の温かい支援への感謝。「希望を決して、失わずにいてください。一緒に苦労を乗り越えましょう、日本人皆が支え合っていきましょう。」

 わずか6分足らずの言葉ですが、込められた思いの大きさ、深さ、視野の広さに、国の象徴という重い立場を、国民への慈愛を持って背負われている方、そういう立場に、ふさわしい人柄を持たれた方なのだ、と感じました。

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 そして、「これからも皆が相携え、いたわり合って、この不幸な時期を乗り越えることを、衷心より願っています。」という、この願いの言葉は、3月28日付の米雑誌『TIME』(記事はこちら)でも、オバマ米大統領の言葉を3位に押さえて、一番に掲げられています。

 まだ余震も続き、被災地の方々がまだ苦しみの多い生活を送られている上に、放射能汚染の問題で、被災地から遠い地方でも、心配や不安がなかなかぬぐえない状況ではないかと思います。日本はきっと大丈夫、日本の科学技術力と根性があれば、原発の問題も解決し、震災後の復興もできると信じています。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by Yuka at 2011-04-01 14:24 x
なおこさんは天皇制に反対なのですね。私はそこまで深く考えたこともないのですが、戦後、もし天皇制度を廃止していたら日本人はどうなってたんだろうと思うと、税金泥棒だとか言う人もいますが、どうしても反対と言いきれない部分がありました。なおこさんのご意見、とても興味深いです。確かに血で分けていると言えば本当にその通りですね。

ただ、このスピーチが流れた時、私はリアルタイムで見ていました。不安でいっぱいだった私たち家族も、天皇の言葉に聞き入っていると不思議と落ち着いて行くような気になったのも確かです。なんでしょう、あの安心感は。。笑
普段表舞台にはなかなか現れない方ですけど、少なくとも私たち家族の心の拠り所と言いますか、そういう存在ではあったようです。本当に普段は気にも留めていない方なのですけどね。(失礼承知で書いています…)
Commented by milletti_naoko at 2011-04-01 16:35
ゆかさんへ

わたしの方こそ、実は、天皇を尊敬し慕っていらっしゃる方に、失礼だろうと思いながら、書くのをどうしようかためらいながら、書いたのです。今回のお言葉については、本当に多くの方の支えになったし、これからもなっていくと思うので…… ただ、もともとわたし自身が天皇制に懐疑的であるにも関わらず、このビデオメッセージに感動し、また、すばらしい方だと思ったということは、正直に書きたかったし、また、それをあえて書くことで、言葉自体とご本人の人柄のすばらしさも強調されるかなと思ったのです。こういう国が本当に苦労に直面したときに、さりげなく、でも心に届く言葉を国民全体に贈ることができる方の存在、天皇制のそういういい面を見て、わたしも考えが揺らいでいます。
Commented at 2011-10-07 09:55 x
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Commented by milletti_naoko at 2011-10-07 21:17
鍵コメントの方へ
朝から天気が悪かったのですが、今雷が鳴り始め、雹が降り始めました。いったんパソコンは電源を切ります。また、あとでゆっくりお返事しますね。
Commented by milletti_naoko at 2011-10-08 19:09
鍵コメントの方へ
部落問題が延長線上にあるとは思っていませんが、「血に貴賤がある」という考え方が、差別の温存につながっている気がします。イタリアでは映画がほとんどの場合、ことごとく吹き替えで上映されるのが、特に英語の映画の場合には、とても残念です。ただ、字幕文化がないこともあって、たまに字幕上映の映画があると、画面が白っぽいときにも訳は白かったり、前に座高の高い人が座っていて見えなかったりする上、やっぱりイタリア人に比べると、イタリア語字幕を読むスピードが遅いので、困ることはよくあります。
Commented at 2011-10-09 00:09 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by milletti_naoko | 2011-03-31 17:10 | Giappone - Italia | Comments(6)