イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

日本を愛する心

 来週月曜日から、新しい職場で、日本語を教えることになりました。

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 こちらが、その学校です。教会ではないか、と思われる方も多いでしょう。それもそのはず、もともとは教会、修道院であった施設が、その後、軍人病院になり、今はイタリア国外に勤務することが決まった軍人のための、外国語学校として使われているのです。このサンタ・ジュリアーナ(Santa Giuliana)、近所を通ったことは何度もあったのに、まさか中に軍人さん向けの語学学校があるとは、思いもしませんでした。

 お義母さんは、以前に軍人病院であった頃に、一般の人も通院することができたので、何度か足を運んだことがあるそうです。

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 最初の写真には写っていないのですが、建物は広大で、教会の左側に隣接しています。手前にベンチがあるのは、周囲が公園として、一般に開放されているからで、そのため、散歩に訪れている人も何人かいました。

 いつもペルージャ外国人大学でチームを組んで教えている先生方に誘っていただいて、4月4日から、3か月間、この学校で日本語を教えることになりました。と言っても、生徒は、すでに東京の大使館への勤務が決まった軍人の方1名です。月曜日から金曜日まで、毎日1日6~8時間、週に計34時間の、言わば日本語集中特訓講座です。さらに授業は1対1の個人授業で、3人の教師が、交代で教えることになります。

 というわけで、最近は、授業の打ち合わせや、必要な書類の提出のために出かけたり、授業計画を立てたり、授業の準備をしたりと、何かと慌しく過ごしています。

 高校で12年間国語を教えたあと、「わたしは勉強をするのが好きだから」と、まずは語学留学、そして、イタリアの大学での学習と、学ぶのに没頭できる月日を満喫しました。それが、外国人大学の先生に頼まれて、日本文学の授業の講演をしたり、イタリア語教育の授業中に、先生や他の学生の前で、発表をしたりする機会があったときに、自分は教えることが好きなのだということを、実感しました。聞く人が楽しめるように、よく分かるように、十分に準備をするのも、そうして、聴衆の顔を見ながら、手際よく、関心を引きつけながら説明していくのも…… 久しぶりに教壇に立ったとき、話を始めたとき、すぐに、「ああ、自分は今本当に生きているな。」という不思議な実感があったのです。

 日本と言うと、天皇、侍…と考えがちなイタリアの人にとって、平安文学の世界や俳句は意表をつく上、興味深いようでもあり、もともと古典の好きなわたしは、大学の日本文学の授業では、いつも奈良時代から江戸時代までの、古典作品を扱っています。

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 自分が本当に好きな仕事をして、お金を稼げるのは、ありがたいことだな、と思います。かつて公立高校の教員として働いていたときほどの安定した仕事や収入は、イタリアでは得られるはずもないと思いつつ、それでも、以前、高校生たちに、文学作品の魅力や言葉を学んでゆく楽しさを教えたように、日本語や日本文学の授業を通して、イタリアの、そして世界から来た学生たちに、少しでも、その魅力が伝わり、興味を抱き続けてもらえたらと思い、自分自身が楽しみながら、教えています。

 今回教える方については、特に震災のこともあって、日本に赴任する前から、日本や日本文化を愛してもらえるような授業ができたら、と思っています。こうした要の場で働く人が、一人でも日本を思ってくれれば、その気持ちは、水面に小石を投げ込んだときのように、少しずつより大きな輪になって広がっていくと思うからです。

 さて、明日(もう今日ですね)は、夫が山に散歩に行こうというので、遅くまで授業の準備をしたあと、もう寝ようかと思ったその前に、思いついて、こちらの記事を書きました。寝る前に書く文章は感情的になりやすいから、手紙は朝読み直してから送るように、と遠い昔にどこかで読んだ気もしますが、時間もないので、このまま投稿します。校正は明日山から帰ってから、日本時間ではもう皆さんが再び眠りにつかれたあとになりますので、もし何か不備がありましても、どうか大目に見てくださいませ。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by Yuka at 2011-04-02 10:54 x
わあ!素敵な職場ですね!!
震災の後、日本離れが進むかと思いきや、再入国している友人たちがちらほら増えてきました。スウェーデン政府も日本への渡航警告を解除したようです。イタリアの学生たちも日本への興味を失わずにいてほしいなあと切に願っています!
Commented by ムームー at 2011-04-02 13:06 x
なおこさん
こんにちは~
今の日本は大変な状況で旅行もキャンセルが相次いで
いてこれから先、とても心配ですねぇ。

そういう時に赴任されて来られる方になおこさんから日本の事を学ばれ少しでも日本を好きになって頂けると嬉しいです。

お忙しくなられますねぇ~
素晴らしいお仕事おもちですわぁ。

山歩き楽しんで来て下さいませ~
Commented by クロちゃん at 2011-04-02 16:02 x
なおこさん、こんにちは♪
建物前の緑の絨毯が気持ち良さそうに見えます。
私も日本史が好きで勉強したことありましたが、最近はすっかり忘れています。
日本の歴史と浪漫を世界中の人に知っていただきたいです。
授業、がんばってください。(^^)/
Commented by ank-nefertiti at 2011-04-02 18:56
naokoさん、こんにちは!
すみません、すっかりご無沙汰してしまって・・・
お邪魔して記事はどれもこれもきちんと読んでいたんですが、どうも自分のブログをUPするのが忙しくて、地震以降。。。
ごめんなさい!

naokoさんの活動、素晴らしいですね!
イタリアではかなり過激な報道がなされいるといろんな方から聞いて、なおかつフィレンツェ歌劇場は公演を中止して帰ってしまうしで、イタリアでの日本への評価はどうなってしまうの?と思っていました。
だけど、naokoさんたちの事実を伝えるという行動で、少しでもイタリアの方の日本への正しい評価につながることを願ってやみません。

この新しい学校、素敵ですね~
ここで授業のテキストになる日本の古典、そこにある日本の素晴らしさ、イタリアの方たちに届くとよいなぁ!って思います^^
Commented by bianchi_saitoh at 2011-04-02 21:00 x
本当に自分の好きな事が仕事というのはうらやましいです。
ウチのオヤジも同じ事を何回も言ってます。「趣味と実益を兼ねている」という内容で、息子から見てもその通りだと思います。

世の中の何パーセントの人がこれに該当するんだろうと何回も思ったことがあります。

それにしても素敵な環境ですね。
軍の施設なんてこれぽっちも感じませんね。
イタリア大使館もたしか大名屋敷だったような気がするんですが、日本人からみてスゴイと思っちゃいますが、窮屈に思うかもしれませんね。

日本が今よりも好きになってくれるといいですね。

こちらの方がが文がメチャクチャでした!
Commented by かや at 2011-04-02 22:41 x
こんばんは☆
外国にも日本のアニメやマンガが広まっているらしいですが、外国の人が思う日本という国はどんなものなんだか、興味深い話ですね。ぜひ、日本の古典文学にも興味を持っていただきたいですね。

海外メディアでは日本の震災後の様子を見て賞賛している記事も多かったようですが、原発に関してはどうも間違った情報が多く出回っているらしいです。地震津波と違って目に見えず、聞きなれない数値でしか説明されないことなので仕方ないのでしょうけど、どうか冷静に正しい情報を伝えてほしいです。
たくさんの外国人が出国した今こそ日本は千載一遇のビジネスチャンスかもしれませんよ。

凸d(^ー^)応援pochi!!
Commented by milletti_naoko at 2011-04-03 05:22
ゆかさんへ

ツイッターの方で、東京からかなり外国の方の姿が消えたと聞いて心配していたのですが、戻って来ている方も増えているんですね。安心しました。愛する祖国へ帰りますと言って、3月末に再び日本に留学したイタリア人学生もいます。わたしにできる一番のことは、仕事を通して日本の魅力を伝えることかなと思うので、まずは、ここから頑張ります!
Commented by milletti_naoko at 2011-04-03 05:26
ムームーさん、こんばんは。

今日はとても天気がよくて、山を歩いていて暑いくらいでした。雪解けの水が山道を流れ、野の花があちこちに咲いていて美しかったのですが、また写真をそのうちご紹介したいと思います。久しぶりに長時間、太陽の照りつける下を歩いて、ひどくくたびれたのですが、すてきな景色や美しい花をたくさん見ることができました。

なんとか日本のすばらしさを伝えていけないかなと、ブログでイタリア語と併記しながら、日本の名所や文学を紹介できないかしら、などと考えながら山道を歩いていました。百人一首や古今集の恋の歌、桜の歌、芭蕉の俳句にしても、他の古典作品にしても、外国の方に知ってさえもらえば、絶対好きになってもらえる、魅力的な作品が多いと思うのです。時間と挑戦しながら、少しずつできることをしていきたいと考えています。
Commented by milletti_naoko at 2011-04-03 05:30
クロちゃんへ

日本史というより、まずイタリアの人は、日本に貴族が政権を握っていた時代があったとか、いつも天皇が実権を握っていたわけではないとか、そういうことを知らないので、そういうかなり基本的なことを、興味を持ってもらうように工夫しながら教えています。今回の授業は、日本語が中心ですが、わたしはやっぱり日本文学、古典文学が好きなので、授業以外にも、何らかの形を通して、もっとイタリアの方に知ってもらえるように考えてみたいと思っています。ありがとうございます。がんばりますね!
Commented by milletti_naoko at 2011-04-03 05:39
杏さん、こんにちは!

お久しぶりです。いえいえ、杏さんがお忙しいことは十分存じておりますし、やはり震災のことで心配なことも多いと思うので、訪ねていただけるだけでも、うれしいです。

ありがとうございます。まゆみさんのコメントを拝見してから、放射能汚染が気になっているのですが、今はもうNHKの地震放送がオンライン放送で見られないので、どの日本のメディアの情報が一番確かで更新が頻繁かなと考えあぐねているところです。一昨日もRai3のニュースで牛肉や野菜、水の汚染を話してはいたのですが、どれだけの距離でとかどれだけ食べると危険という情報がまったくないので、やはりこれだけでは不安だけを煽るという気がしました。
Commented by milletti_naoko at 2011-04-03 05:40
杏さんへ2

玄関口に複数の軍人さんがいたりして、中に入ると、少し不思議な空間という気がしましたが、元修道院だったようで、中庭や回廊がすてきで、職員室も天井のつくりが美しいんですよ。そう言えば、ペルージャ外国人大学も、もとは貴族のお屋敷なので美しい教室や広間、廊下が多いのですが、こういうところ、イタリアはぜいたくだなと思います。こういう芸術作品みたいな場所で授業ができ、また、学ぶことができるというところが……

この学校で教えるのは日本語なのですが、ブログなどで、イタリアの方に、日本文学を紹介していけないかと、考えているところです。何とか日本のすばらしさが生徒さんに伝わるように、頑張ります!
Commented by milletti_naoko at 2011-04-03 05:44
かやさん、こんばんは☆

イタリアで放映されている日本のアニメ、本当に多いんですよ。少し前に、『ハニーハニーのすてきな冒険』という、それはそれは古い上に、日本でも知られている人が少ないのではないかと思うアニメ(わたしは小学校の頃に、図書館で漫画を見つけて読んだ覚えがあります)が、昼間に放映されていたので、びっくりしました。

原発については、こちらのニュースは本当に不安感を煽るものが多いのです。今度、外国からでも参照できて信頼できる日本のオンライン・ニュースを教えていただけると助かります。

いつも応援のポチをありがとうございます!
Commented by みーしゅか at 2011-04-03 19:17 x
ブログ村からきました^^
なおこさんの文章が、感覚なのですが包み込むような温かい文章でひかれて、コメントしています。

ぜひ日本語、日本文化の魅力を伝えてくださいね。

話はかわりますが私は中学、高校と古典が大の苦手でした。
問題を前に「さっぱり」。

でも響きや、趣は好きで「苦手だけど嫌いじゃない」という
何とも不思議なおもいを古典に対してもっていたのを思い出しました^^
Commented by milletti_naoko at 2011-04-03 21:54
みーしゅかさん、はじめまして。

モスクワにお住まいなんですね! ロシアではまだ寒い冬が続いているようですね。訪問とコメントをありがとうございます。わたしもまたゆっくりブログを訪ねさせていただきたいと思います。

わたしの古典との出会いは、中学時代に、クラスが分かれてしまった友人と、せめて同じクラブ活動にと入ったかるたクラブです。百人一首を覚えながら、和歌の解説や作者たちの人生を語った本を読み、すっかりはまってしまいました。高校では、その魅力が伝えられたらと思いながら、授業をしていました。『平家物語』の「木曾の最期」を教えながら、刀に見立ててホウキを振り上げたりしていたのも、懐かしい思い出です。古典文法はあくまで、豊かな作品世界に触れるための扉、道具なのに、そこにばかりこだわるとたぶん古典全体が苦手になってしまうのだと思い、残念です。日本語でも、古典の魅力を伝える文章が書けたらなと、コメントを拝見して思いました。
by milletti_naoko | 2011-04-02 01:55 | Insegnare Giapponese | Comments(14)