2011年 07月 06日
クッコ山で迷子
再び、緑の木々の間の中を進む1番コースを通って、歩いて行きます。所要時間1時間40分とありますから、遅くとも午後6時には、散歩を終えることができるはずでした。
途中、こうした壮大な眺めも、楽しみました。
谷間、Val di Rachena(標高1146m)から、山道を下り、このLa Fidaと呼ばれる場所(標高1001m)まで、たどり着いたのは、午後4時38分のことでした。案内標示を見て、出発地点であるVal di Rancoに戻るには、1番コース以外に、もう一つ17番コース(Sentiero 17)があることが分かりました。この二つのコースは、所要時間はどちらも1時間10分、距離も約3kmです。ただし、地図を見ると、1番コースが山道を少しずつ下りていくのに対し、17番コースは、、まずは、川のふもとまで急斜面を下り、川沿いに長い間歩いたあと、最後に再び、山道を登るというものでした。
夫がまだ歩き足りないことも、できれば別の道を歩いて引き返したいこともよく知っていたため、わたしは、坂道が厳しいだろうと承知しつつも、夫が望むなら、17番コースを通ってもいいと了承しました。かなり急な下り道を歩いて行くと、ランの花がたくさん咲いていました。
美しい花たちとの出会いはうれしかったのですが、下り坂がかなり険しかったため、わたしは途中で夫に、足が痛むから、自分は引き返して1番コースを歩くことにすると言いました。夫は、自分も一緒に引き返そうとしてくれたのですが、わたしは、「すでに1度通った道だし、危険もなさそうだから、一人で大丈夫。」と言って、夫には、せっかくだから17番コースを歩き続けるよう言いました。
問題は、わたしが再び道の分岐点近くまで引き返したとき、発生しました。にぎやかな犬の鳴き声に似た動物の叫びが、何度も何度も、絶えることなく続いたのです。
以前に隣人の犬に噛まれたことがあり、イノシシに出くわしたこともあるわたしは、こわくなって、再び夫を追って、17番コースを下り、こうして川のほとりまでやって来ました。夫を呼べど、もうかなり先に進んでしまったのか、返事がありません。携帯電話で電話しようにも電波がありません。
そして、一番困ったのは、川沿いの案内標示には、三つほど行き先とコースが示されていたものの、わたしが行くべき場所の名前が書かれていなかったことです。初めて歩く山だったので、この日に限って、地図は夫だけが持ち、わたしは持っていませんでした。
そこで、まずは途方に暮れて、これまで下ってきた方向を見やりました。クッコ山(Monte Cucco)の山頂をちょうど太陽が照らし出しています。再び坂道を登っても、犬か野生動物がうろついているかもしれない1番コースを一人で歩く勇気はありません。川に沿ってどちらの方向に進めばいいかは分かっていますから、もし道に迷っても、再び山の斜面を登って、1番コースに合流すれば、動物に出会う危険をやり過ごすことができると考えました。ちょうど午後5時頃のことです。
それが、「このコースに違いない」と見当をつけて、歩いていた川沿いのコースの目印を、途中で見失ってしまいました。木の幹にあるはずの目印を探せど探せど、見つかりません。そこで、山の斜面をひたすら登って、再び1番コースに合流しようと考えたのが、午後5時10分頃でした。険しい斜面を、木の根を足がかりにし、枝を支えにして登って行くと、低木が茂りすぎていて、歩くことが不可能な場所にたどり着きました。それで、今度は、しばらく川沿いに逆方向に引き返してから、別の斜面を登り始めました。
遭難してしまうのではないかと心配しながら、登れそうな斜面を登って行き、赤と白のおなじみのCAIのトレッキングコースの目印を見つけることができたのは、午後5時40分のことでした。トレッキングコースにたどり着きはしたものの、コース番号は書かれておらず、どちらに進んでいいかもはっきり分からぬまま、「きっとこれは1番コースで、こちらに行けばいいのだろう。」と思われる方向へと歩いて行きました。
山の中を歩くトレッキングコースというのは、互いによく似ています。 「歩いているのは、1番コースじゃないかもしれない」、「出発地点をすでに通り過ぎて、別方向に進んでいたらどうしよう」と、遠くに見える山並みを眺めながら、自分の位置を確認しようと試みつつ、不安の残るまま、ひたすら歩いて行きました。
ようやくその不安が消し飛んだのは、この細い清水が流れ落ちる谷間を通ったときでした。行きがけに、この小川を苦労して渡ったことを、まだはっきり覚えていたからです。
その5分後には、こちらの案内標示も見つかりました。歩いているのが、1番コースであることが確認でき、さらに目的地は、まだ行く手にあることが分かりました。このとき、すでに午後5時56分で、横道に逸れずに1番コースをまっすぐに進んでいれば、ゆっくり歩いても、もう出発地点に戻っているはずの時間です。それが、案内標示を見ると、出発地点、Val di Rancoまでは、まだ1.7kmあり、35分かかるとあります。
夫が心配しているだろうと思いながら、先を急ぎ、再びAcqua Freddaを通りかかりました。こちらの給水場は、わたしたちが昼食時に訪れたときには、桶の下から水が流れ出ていたため、中には水がたまっていませんでした。昼食後に夫が、周囲の石を拾い集めて、水の出口をふさいだため、わたしが再び通りかかったこのときには、ほぼ桶いっぱいに水がたまって、よく山で見かける他の給水場と同じ風貌をしていました。
緑の優しいブナの森、Madre dei Faggiを再び通り過ぎ、さらに歩いて行くと、
もし川沿いを歩き続けたら、わたしが歩いたはずであったトレッキングコースと川の流れが下方に見えました。
出発地点である駐車場を目指して、さらに歩いていると、「一体どこに行くの?」という声が、傍らのバールのテラスから聞こえてきました。テラスには、テーブルでくつろぐ夫の姿が見えます。そのとき、すでに午後6時半。わたしの到着はかなり遅くなったのですが、わたしの歩くのが遅いことも、すでに疲れていたこともよく知っていたために、それほど心配もしていなかった様子です。「そんなに登り下りを無駄に繰り返したなら、結局クッコ山の頂まで登った方が、疲れなかったね。」と笑われました。同じことは、翌日学校でこの話をしたミンモにも言われました。「遭難の可能性だけではなく、危険な人物もうろついているのだから、気をつけるように」、「イタリアは日本じゃないのだから」と諭されて、わたしが、「でもイタリアでは、殺人は見知らぬ相手に対してよりも、男性がかつての恋人や配偶者を殺すように、よく知っている間柄同士の場合がほとんどでは。」と答えると、ミンモの反論があり、そこから、授業はおあずけになり、しばらくおしゃべりが続きました。
月曜日の最初の授業は、復習も兼ねて、「週末は何をしましたか。」と質問をして、しばらく日本語で話をするのですが、この日本語のおしゃべりが、途中からイタリア語のおしゃべりになってしまったわけです。
とにかく、一時は本当に遭難するのではないかと、本当に恐い思いをしましたし、実際に遭難しても、何の不思議もなかったわけです。今後は遠慮しないで、夫に一緒に歩いてもらうようにしよう、そして、地図はわたしも必ず携帯するようにしようと、つくづく思いました。
でも、何事もなかったからこうして披露することができたんですね。
パート1から拝見していて最後にこんな落ちがあるとは思ってもみませんでした。
いえ、本当に怖くて、ハラハラしました。夫が本当は山頂まで行きたかったことを知っていたので、遠慮して、一人で大丈夫と言ったのですが、今度からはこういう遠慮はやめようと心底思いました。森の中では、犬を放し飼いで散歩させる人も多いので、そういう犬が吠えているのかと思ったのですが、同じ叫びを聞いた夫は、たぶんノロジカだと思うと言っていました。
わたしもこんな落ちがあるとは予想だにせず、こんなことなら無理をして出も山頂まで行っておけば、歩く距離も少なかったし、怖い思いをせずにすんだと思うのですが、人生何が起こるか分からないものです…… 何事もなくて、よかった、よかった。
まずは無事帰還、何よりです。お疲れ様でした。
この経験は典型的な道迷い遭難になるケースかと感じました。
思い込みによる道迷い。時間が過ぎる焦り。途中からの単独行動…。
不安が重なってパニクッてしまいます。(^^ゞ
見覚えのある場所に出られて良かったですね。
良い経験をされたかなと他人事で拝見していました。(*^_^*)
あっ、すみません。
一歩間違うと山は怖い。
そんな経験だったでしょうか。
実は私は道迷いが得意です。(^^)/
好奇心で知らない道に入り込んでキョロキョロ・ドキドキが良くあります。
自分の経験と合わせて読みました。
私は日本の西穂高で、家族全員で迷子になった事があるんですが(笑)、家族が5人いても怖かったのに、一人は本当に怖かったと思います。何はともあれ、ちゃんと無事お怪我もなく戻られてよかったです!
様子が目に浮かびました。
何事もなくて良かった~
怖い思いをされましたね、遠慮せずに同じように
していただきましょう。
ああ~ほっとしました。
美しい蘭のお花に景色に慰められましたねぇ。
好奇心で知らない道に入り込むのは、うちの夫もとても好きです。夫とどうも気が合いそうですね。イタリアの場合は、道しるべがまばらだったり、いいかげんだったりするために、地図を持ち、山には慣れた夫と歩いていても、二人で、あるいは他の皆と一緒に迷子にな(りかけ)ることも、たまにあります。
今回の件を機に、今度からは、わたしも必ず地図を携帯するぞ、と心に決めました。と言っても、どこを歩くかはっきり決めぬまま、家を出ることも多いのです。歩くコースさえ分かっていれば、実は上にリンクを掲げている自然公園のページに、大まかにコースの分かる地図はあったのでした。
大体の勘で、この方向に行けば、トレッキングコースに出会えるはずだと思いながら、急な斜面を滑りつつ、上に向かい始めたときは、気持ちに余裕があったのですが、登った先に、うっそうと生い茂った繫みがあって、それ以上進めないと分かったときには、本気で怖くなりました。実際には道がまったく分からなかったのは30分ほどで、コースを進みつつ、どのコースをどちらに進んでいるか定かでなかった時間を含めても、1時間くらいのことなのですが、本当に長い時間に思われました。
ありがとございます。以後は気をつけます! 彩さんも注意してくださいね。
1番コースが、イタリアのトレッキングコースとしては、目印もはっきりしていて道も歩きやすいので、つい地図がなくても大丈夫かなと思ったのが間違いのもとでした。山歩きには挑戦しますが、以後はよりいっそう気をつけるつもりです!
声援と応援のポチをありがとうございます。