2011年 12月 19日
噴水の歴史もゆかし、ローマ 小舟の噴水
この小船の噴水(Fontana della Barcaccia)は、ベルニーニの父、Pietro Bernini(1562-1629)の作です。古代ローマ帝国時代に造られた11本の水道は、帝国滅亡と共に使われなくなったのですが、その一つ、ヴィルゴ水道は、ルネサンス期に完全に再建され、Acqua Vergineとして、再びローマに水を供給するようになりました。1627年には、すでにこの水道の増設を手がけていたベルニーニの父は、この年、教皇から、トリニタ・ディ・モンティ教会前の広場に、噴水を作るように委託され、その委託を受けて、2年後の1629年に完成したのが、こちらの小船の噴水です。噴水の制作には、息子のベルニーニ(Gian Lorenzo Bernini、 1958-1680)も協力しました。
小船の噴水やトレヴィの泉の水は、今も、古代の水道、Acqua Vergineから引かれています。現代では、この水道は、かなりの部分が、コンクリート管に置き換えられ、過密現象のために送水路や地層の汚染が深刻なため、ごく少数の噴水と灌漑のためにしか、使用されていないということです。
小船の噴水がある場所は、水道の圧力が低いため、水が勢いよく流れるような噴水を作ることが不可能だったのですが、ベルニーニの父は、そういう場所でも機能する噴水を作ることに、みごとに成功しました。
この噴水がある場所は、そうです、あの有名なスペイン広場です。後方に見えるのは、トリニタ・ディ・モンティ教会(Chiesa della Trinità dei Monti)。ただし、噴水が完成した当時には、教会はあっても、スペイン階段は、まだありませんでした。スペイン階段が完成したのは、1世紀のちのことで、当時の教皇が、教会と広場の間の高低差を埋めるために、フランチェスコ・ディ・サンクティスに設計を委託し、1725年頃に完成しました。
噴水が、小船の形をしているのは、1598年にテヴェレ川が氾濫した際に、水がここまで達したからだと言われていて、そう断言している本も手元にあり、この本によると、さらに、「特徴ある小船の形は、カトリック教会が、バルベリーニ家(噴水の制作を委託した教皇を輩出した一家)に、しっかりと導かれていることを暗示している」とか。
一方、Wikipediaイタリア語版は、「民間に伝わるこの1598年の洪水説は、信憑性が高く、教皇が、洪水を記念して、噴水の制作を委託した可能性もある」としながら、「古代に、この地が、小規模な模擬海戦の会場であった」という説もあるとしています。
日曜日のクリスマス・コンサート(記事はこちら)のために、合唱団員とその家族は、ペルージャからバスでローマを訪れ、コンサート開始前に、ローマの町を歩いたのですが、その途中、スペイン広場も通りかかりました。不思議な形の噴水が気になって、調べてみたら、なかなか興味深い歴史があることが分かったので、本当は、ローマの町歩きを記事にするつもりだったのですが、今回の主役は、小船の噴水とあいなりました。
プロの書く日本語と関心をもって読ませていただいております。きらっと光る日本語。いいですねぇ。
小船の形の噴水素晴らしい芸術ですね。
噴水の歴史にも色々な説があるなんて興味がありますわぁ。
この広場ははじめて見たローマの休日のところなんですねぇ。
小船の噴水って名前がいいなぁ~♪
見せていただいてありがとうございます~♪
9年前に日本を離れるまでは、読書量も多く、同僚や生徒の文章を添削することも多かったのですが、イタリアに来てからは、一時期、日本語を読む機会も話す機会も、少なかった時期があり、今、自分が書いている日本語は、少し変わった日本語かもしれないと思うことがあります。かつて読んだ本や聞いたさまざまな日本語がわたし自身が考え、書き、話す日本語の基盤になっているものの、以前に比べると、今は、日本語での情報摂取量が、圧倒的に少ないですし…… (つづく)
日本で国語を教えていた頃は、疑問があれば、複数の国語辞典や類義語辞典、漢和辞典などで調べることができましたが、今はそういう辞書が手元になく、オンライン辞書やインターネット上の使用例に頼る始末です。記事を投稿する前に、読み直して校正するよう心がけてはいるのですが、それでも投稿後に、漢字の変換ミスに気づくこともあります。句読点は人によって癖があり、作家でもひどく少ない人や多い人などさまざまで、わたしは、自分の書く文章には、読点が多いと気になりつつ、でも、ないと落ち着きが悪そうで、悩んだ末に、気になった読点を残すことも、よくあります。
きらっと光るだなんて、ありがとうございます。授業中何度も音読した古文・漢文、中学生の頃から大好きで、やがて競技がるたの段も取った小倉百人一首、近現代の詩の数々、好きで読んだ作家の文章など、さまざまなもののおかげかもしれません。好きな文体が、わたしとkobaさんで似ているということかもしれませんね。
わたしもこの広場を初めて見たのは、映画、『ローマの休日』の中でだと思います。広場や階段があまりにも有名なので、広場の中央にありながら、影が薄くなりがちな噴水にも、いろいろな歴史があると分かって、興味深かったです。
今回の記事、とても興味深く拝読しました。あまりにたくさんありすぎて当たり前になってしまう建物やモニュメント...気になった時を利用して掘り下げて調べてみると歴史やエピソードに溢れていて楽しいですよね。次回ローマに行ったら、きっとこの噴水に注目してしまうと思います。また遊びによらせていただきますね!
コメントと訪問をありがとうございます。わたしの最初のイタリア人の友人は、ダブリンで出会ったサルデーニャの女性たちなので、島には何だか特別の思いがあります。わたしもパリにはいつか必ず行きたいと思いますので、また時々のぞかせていただきますね。
光る源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしさまなれど、わが思うままに、そらにいかでかおぼえ語らむ。
辞書も本も手元にある、なんと満たされたことか。けさのひよりのようにおだやかなよろこびです。
よくこなれた日本語を書かれていると思います。私如きが評すべきではないのでしょうが。
お優しいお言葉、ありがとうございます。