2012年 01月 19日
大型旅客船転覆とイタリアの報道
また、転覆したコスタ・コンコルディア号内には、2400トンの燃料が積載されており、流出による深刻な海洋汚染を防ぐため、船を所有するコスタ社が、オランダのシュミット社の協力を受けて、燃料の除去を進めようとしています。燃料除去には少なくとも2週間かかると言われていますが、クリーニ環境相から、「船内での人命救助の可能性がまだあるかどうか、その確認作業が終わらないうちは、燃料回収作業は始められない。」と、ストップがかかっています。今日は海が荒れる恐れがあり、そうすると船が動いて、燃料が流出する危険も高まります。
乗客・乗員を合わせて4千人を越える大型客船でありながら、ジッリョ島に近づきすぎたことが、事故の原因とされ、スケッティーノ船長については、海難事故を引き起こし多くの死傷者を出した上、乗客の救助にあたらずに逃走したとして、検察に身柄を拘束されていたのですが、逃走の恐れはなしとして、自宅軟禁となり、ソレントの自宅に戻りました。
事故時の船長の対応については、逃げたという非難の声が高いものの、証言にはそれと異なるものもあります。ニュースには、リヴォルノ沿岸警備隊のデ・ファルコ中佐を英雄として、スケッティーノ船長と対比して賛辞するものが多く、中佐自身は、すぐに船の様子がおかしいと気づいた部下や、実際に救助にあたった部下たちこそが英雄なのだと語っています。
また、今朝は、どの新聞やニュースの見出しも、スケッティーニ船長の客として、座礁時に操舵室にいたとされる、謎の外国人女性に焦点を当てています。
ただ、わたしがここで強く思うのは、イタリアの報道は、またしても、悲劇に際して、本当に必要かつ適切な情報を知らせるのではなく、お茶の間で見られる進行中のドラマのように扱って、毎日延々と枠をとって流し続けているな、ということです。本来は、悲劇が起こった原因を突き止めて、繰り返さないための手立てを論じ、災難に遭った人やその家族の気持ちを、もっと思いやるべきでしょうに。
多くの殺人事件と同様、今回の事故にしても、当日の夜、実際に船長がどのように行動したかは、今後の調査の進行や裁判結果を見ないと、どう転ぶか分からないのに、すでに非人道的な犯罪者としての扱いをして、調査が進むたびに、その結果を逐一報道していくきらいがあります。はっきりと何か証拠があったり、船長自身や周囲の人がすべてそれを事実として認めているならともかく、そういうわけではありません。イタリアでは、国内で起こった殺人事件が、まるで現在進行中の推理事件を楽しむかのように、テレビニュースやワイドショーの一角として取り上げられることも多く、今度はこの人が容疑者となった、今度は……と容疑者が変わるたび、次々と容疑者や検察の捜査の状況を報告し、被害者の家族に、残酷なインタビューを繰り返していきます。裁判の結果が出るまでは、有罪とも言えないでしょうに、そうして無罪でありながら、マスコミのために、あるいは世間一般の好奇心のために、人生を狂わされた人、そして、愛する人を失った心の傷をさらに深くされる人々も多いのではないかと思います。
数か月前に、Rai3の番組、『Le Storie – diario italiano』で、イタリアの各テレビニュースが犯罪報道にあてる割合を、グラフを使って説明したことがあります。グラフを見れば、イタリアでは他のヨーロッパ諸国に比べて、犯罪率そのものは決して高くないのに、犯罪報道の割合が異常に高いことと、猟奇的な事件の報道に、いたずらに時間を割かないのはTGLA7とTG3とだということが、一目瞭然で、ふだんから抱いていた印象は間違っていなかったのだと思いました。以前は、夕食を午後8時頃に食べることが多いので、ニュースは午後8時半からのTG2を見ることが多かったのですが、何か殺人事件が起こるたびに、10~15分ほどの枠が毎日この殺人事件の捜査の進行を追うために割かれ、嫌気がさして、最近はほとんど見なくなりました。イタリアでは、こういうニュースが多いことが、視聴者の興味を方向づけ、さらにこうした報道枠が増加していくという悪循環に陥っているような気がします。
今回の船の座礁にしても、船長の責任が問われることはもちろんですが、わたしとしては、万一、4千人以上もの人を乗せて大洋を航海する大型客船が、たった一人の間違った判断や対応で転覆してしまうとしたら、そのこと自体に、大いに問題があると思います。コスタ社側は、船は安全で、事故は船長が引き起こしたものとしていますが、今回の事故で明らかになったように、大型旅客船が、危険にも関わらず沿岸近くを進むことが、しばしば行われていたとしたら、そういう航路がこれまで許されてきたことや、船長の独断でそういう航路を取ることができる態勢になっていることも、大きな問題でしょう。多少ならルールを無視してもいい、船員は船長の言うことには絶対に従う、などという慣行が、ささいなことが重大な事故につながりかねない船上で、まかりとおっていたとしたら。それに、長い航海の間には、船長だって、食事などのために、操舵室を離れざるを得ない機会もあり、そういうときに、代わって操縦や緊急時の判断を引き受ける人というのも必要でしょう。重大な事故を防ぐためには、たとえ船長一人が判断を誤っても、急に体調を崩しても、船内全体の均衡作用で、あるいは社と連絡を図って、安全な航海を続けていける方向に、持って行けるようにするべきだと思うのです。
ですから、コスタ社もマスコミも、ひたすら船長の責任だとして、船長の行動ばかりに焦点を当てているのが気になります。こういう判断ミスを防ぐためには、また、仮に船長が誤った判断を下したとして、その判断に従って航海が行われるのを防ぐためには、どうすべきであったのか、また、それができなかったのはなぜか、この点について、議論を尽くし、改善を図らなければ、今後また、似たような事故が起こりかねないと心配しつつ、事の展開を見守っている今日この頃です。
LINK
- YouTube – Tg La7: Edizione delle ore 07.30 del 19/01/2012(最初に数分広告が入ります)
- YouTube – Tg La7: Edizione delle ore 13.30 del 18/01/2012(最初に数分広告が入ります)
ニュースの内容は、なおこさんの記事を読んでやっぱりね・・・と思いました。
よく言葉はわからないものの、ラジオを聞いていると、例えて言うと短いニュースでも”ベルルスコーニにがど~~たら、こ~~たら”と、三面記事を中心に報道しているように思います。
・・・そう言えば、ギリシャのニュース番組もそうだったような気がします。
事故の近辺は美しい海ですから、オイルの流出で海が汚染されないか心配でした。自然が汚れないといいのですが。。。又、早く行方不明の方の無事が確認できることを祈っています。
そして事故に遭われた方の、心の傷が少しでもなくなりますように。。。
視聴者が最も多いTG1やTG5に、そういう傾向が特に強いのは、社会的にも問題だと思います。市民が治安に不安を感じるのも、実際に犯罪率が高いときよりも、むしろニュースでの犯罪報道の割合が高いときだそうで、以前は、政治家が汚職などの問題から市民の関心を逸らすために、殺人事件ばかりをマスメディアが執拗に取り上げるのだと言う大学の先生もいました。政権が代わった今の間に、こういうニュース報道の在り方も何とか変わればと思うのですが、課題が山積しているので、そこまで手を回すのは難しそうです。被害者のご冥福を祈り、ご家族の悲しみを思うと共に、こうした事故が二度と起こらないよう、原因を究明して、しっかり対策に当たってほしいと思います。