イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

ミケランジェロとラヴェルナ

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 ラヴェルナをいただく岩壁のふもとにある村、キウーシ(Chiusi della Verna)の村はずれには、ミケランジェロが、システィーナ礼拝堂の天井に、アダムの創造を描く際に、スケッチをして、壁画に利用したと言われる岩、アダムの岩(La Roccia di Adamo)があります。

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 ラヴェルナから車でキウーシに向かうと、村の中心街に入る直前に、左手に、この「アダムの岩」の案内標示が見えます。

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 案内に従って、坂道を下ると、右手に、オルランド・カッターニ伯の館であった古城の跡が見えます。オルランド伯こそ、1213年に、聖フランチェスコにラヴェルナを寄贈した人物です。一方、左手には、15世紀に、ミケランジェロの父親が、キウーシとカプレーセの司法長官として、居住していた館があります。

 この道をさらにしばらく歩いて後ろをふり返ると、

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 連なる岩の向こう、奥の方に、ラヴェルナを頂くペンナ山(Monte Penna)が見えます。写真で一番手前に見える岩が、アダムの岩で、その前には、案内看板が立っています。

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Roccia di Adamo & Monte Penna 13/10/2012

 さらに岩に近づくと、こんなふうに、ペンナ山が、岩の上から少しだけ顔を出して見えるのですが、

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この岩から見える山の形が、まさにアダムの創造(Creazione di Adamo)に描かれたものに似ている上に、現在でも、岩の形とアダムの体の輪郭が一致していると、案内看板に書かれています。

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 案内看板では、左にはアダムの創造を拡大した写真があり、右には山と岩の写真にアダムの絵を配してあって、両者を見比べることができるようになっています。

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Santuario della Verna 14/1/2011

 ミケランジェロの父は、フィレンツェ共和国から、1474年にキウーシとカプレーセの司法長官(podestà)に任命されました。その際、キウーシとカプレーセに半年ずつ居住するという義務があったために、ミケランジェロとその家族にとっては、ミケランジェロが生まれたカプレーセだけではなく、キウーシも、とても縁の深い場所だったのです。

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Dal depliant, “Caprese, Chiusi e Michelangelo Buonarroti”

 父親の前にも、キウーシの司法長官には、ミケランジェロの曽祖父が1404年に、祖父が1424年に任命されています。

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 ミケランジェロの作品では、他にも、聖家族(Tondo Doni)の右手奥に、ラヴェルナの岩壁が描かれています。作品の制作を依頼したアニョーロ・ドーニは、フィレンツェ羊毛業組合の組合員で、羊毛業組合は、1436年にラヴェルナの修道院のパトロンとなって以来、しばしば修道士たちを援助していました。ラヴェルナはさらに、パオリーナ礼拝堂の聖ペテロの磔刑(Crocifissione di San Pietro)や聖パウロの回心(Conversione di San Paolo)の背景にもあるとされているのですが、詳しくは、下記リンク三つ目にある論文をお読みください。

 二つ目に挙げてあるページの右側には、『Caprese, Chiusi e Michelangelo Buonarroti』という約18分の映像があって、ミケランジェロの作品やカプレーセ、キウーシとミケランジェロ一家の深い関わり、ミケランジェロ生家と博物館、ラヴェルナなどを紹介しています。映像の鮮度は今ひとつで、説明はイタリア語ですが、映像と説明を精選してあって、よくできた観光案内になっていますので、興味のある方は、ご覧ください。

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 わたしがミケランジェロ一家とラヴェルナの深い関わりや、ミケランジェロの作品に、ラヴェルナが描かれていることを知ったのは、2010年10月にミケランジェロの生家(Casa natale di Michelangelo)を訪ねたときに、この案内看板を見たときです。以来、いつかは記事にしようと思いながら、もう2年以上も経ってしまいました。

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 これは、ラヴェルナの修道院近くの駐車場前に立っている案内看板で、ここには、ミケランジェロの作品の背景に、ラヴェルナが描かれているという説明があります。上の2作品の写真は、この看板を写したものです。

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Santuario della Verna 21/10/2012

 というわけで、ラヴェルナでは、聖フランチェスコゆかりの地を訪ね、心の平安を求め、山歩きをして自然を楽しめるだけではなく、ミケランジェロの心に深く印象づけられた、そして、彼が作品の背景として描いた風景を見ることもできるのです。

関連記事へのリンク
- ミケランジェロの生家を訪ねて / Casa natale di Michelangelo Buonarroti (9/10/2010)

参照リンク / Riferimenti web
- I Luoghi di Michelangelo Buonarroti - HOME
- Simmaco Percario, Indagini sul Tondo Doni di Michelangelo (“Critica d’Arte” n.20 Dicembre 2003)
- Comune di Chiusi della Verna – Cenni Storici – Il conte Orlando e il monte della Verna
- Castellitoscani.com – Castello Cattani – Chiusi della Verna
- I luoghi di Michelangelo Buonarroti - Podesteria – Le radici dell’artista e la Podesteria di Chiusi

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by Delfino at 2012-10-27 11:45 x
なおこさん、こんにちは☆
アダムの創造の比較絵をみて「うわ~、ほんとうだぁ!」って驚きました。ここの場所が同じ角度だと見つけた人、すごいですね。

絵を見るだけだと、サラッと流してしまいそうな山もこうやって実物があることがわかると、絵そのものも作者も、ぐっと身近なものにな、心に残りますね。
こういうのは、旅行に行っただけだと知ることは難しいから、とても興味深かったです。
ラヴェンナいいところですね~、自然もステキだし、料理もおいしそうな予感がします(笑)いつか、行ってみたいな~。
Commented by ムームー at 2012-10-27 17:00 x
なおこさんこんにちは。
ミケランジェロの作品が描かれたその歴史や風景が見れる
なんて素晴らしいですね、こうして説明がされてるとわかりやすく
て感動もしますね。
長い歴史を肌で感じることが出来るなんて素敵ですわぁ。
心が安らぎ敬虔な気持ちが抱けるって最高!!
Commented by milletti_naoko at 2012-10-27 17:34
Delfinoさん、キウージとカプレーセが、長い間、どちらが「ミケランジェロの(心の)ふるさと」かでもめていて、近年になってようやく、互いに協力して、ミケランジェロに縁の深い場所として知ってもらおうと、パンフレットや案内看板を作ったようです。ミケランジェロとラヴェルナの関係が今まであまり知られていなかったことには、そういう背景もあるようです。隣村や隣町は、近いだけにライバル意識も強いのだと思うのですが、村にとっても旅人にとっても、もったいないですよね。

ラヴェルナは本当にいいところですよ。修道院を訪ね、森を歩くと、魂に響いて、心が洗われます。わたしたちは山歩きや参詣が目当てで行くので、食事はパニーノや修道院への大勢向けの学生・職員食堂的な料理しか食べたことがないのですが、おいしいお店もあることと思います。いつか一緒に行きましょう!
Commented by milletti_naoko at 2012-10-27 17:39
ムームーさん、ラヴェルナは誰もが心打たれる場所だと思うのですが、ミケランジェロには、自分が生まれ育って、幼い頃に見た地域だけあって、心の奥に大切な風景としてあったのではないかと思います。聖フランチェスコにゆかりが深い、宗教的に意義の深い場所であるだけではなく、ミケランジェロの作品の背景にも登場して、芸術にも関係があると知って驚きました。聖フランチェスコがラヴェルナに魅かれたのも、そして、ミケランジェロの心で大切な位置を占め続けたのも、どちらもきっと、ラヴェルナとい場所自体の、孤高で荘厳な岩や静かで美しい森の魅力が、感受性の強い二人の心を打ったからではないかと、そんな気がします。
by milletti_naoko | 2012-10-27 02:04 | Toscana | Comments(4)