イタリア写真草子 ペルージャ在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

牛で自立と復興支援

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 おととい、11月22日木曜日は、夕方、ペルージャの町を取り囲む城壁の門の一つ、サンタンジェロ門(Porta Sant’Angelo)の外に車を置き、

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門を通って、しばらく歩き、サンタンジェロ映画館に行きました。

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 イタリアから戦争被災地に牛を贈って、住民の暮らしと牧畜の復興を支援する、その活動を語ったドキュメンタリー映画の上映があったからです。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中、1995年7月に、無数の男性が絶滅の対象となり、虐殺が行われたスレブニツァ。かつては牧畜がさかんで、各家に数十いた牛や羊も、今はまったくない家も多く、家畜がいても、鶏数羽や、羊や牛が一頭だけ。戦争で、父も夫も息子も失った女性たちが、ようやく戦争の終わった町に帰って来ても、生計の手段にも事欠く上に、牧畜のすべも分かりません。その町の女性たちの暮らしや牧畜の復興を助けるために、当地の気候に順応し、放牧で育つ種の牛を選んで贈り、復興の支援に努める、すばらしい人々が、イタリアにいます。ロベルタさん(Roberta Biagiarelli)とジャンニさん(Gianni Rigoni Stern)。戦争で荒れた野山にはシダが茂っていたのですが、シダが残っていては、牛にとって有害である上に、牛が食べるのに適した牧草が育たたず、牧草地がやがては森になってしまうと、牛を通じての支援は、単に牛の飼育に留まらず、かつての牧草地を荒れ山や荒れ野原にしないためには、どうすればいいかも、住民に示していきます。

 午後6時からの上映は無料だったのですが、希望者は、牛による被災地支援に寄付をすることができました。そこで、ドキュメンタリーを見たあとで、わたしたちも寄付をして、こちらのDVDを受け取りました。


 それまでにも、この被災地に牛が寄付されたことはあったのですが、飼育の指導や寄付後の点検・協力がなく、また、被災地での放牧に適していなかったために、牛が売られてしまって、住民の経済的自立や牧畜の再興にはつながらなかったそうです。ドキュメンタリーを見ると、ロベルタさんとジャンニさんは、「牛を贈っておしまい」ではなく、牛を贈る前にも、飼育指導のために現地を訪ね、牛を受け取れる住民を選び、牛を送り届けたあとも、牛の飼育状況を調べたり、牛を繁殖させたりするために、足繁く、現地に通っています。

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 映画の前にも後にも、この支援活動の中心となって活躍しているジャンニさん自身による説明がありました。牛を寄付する援助金を出したのはトレンティーノ県ですが、ドキュメンタリー映画を見て、この二人の献身的な活動と、それに助けられ、熱意を持って、牛の飼育に当たる被災地の住民の姿を見て、感動しました。ジャンニさんたちが牛を購入したトレンティーノの農家では、牛を我が子のように、愛情をたっぷり注いで育てていて、その豊かな愛情と勤勉な仕事ぶりにも、感銘を受けました。上のYouTube映像は3時間と長いのですが、わたしたちが一昨日に見たドキュメンタリーは、上映時間が1時間半ほどだったので、あちこちカットされていたのではないかと思います。

 先週見た映画、『Venuto al mondo』(リンクはこちら)も、やはりこのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を描いていて、だからこそよけいに、改めて、戦争が都市でも牧畜地域でも、多くの命と人の尊厳を奪い、残酷な深い爪跡を残していることを、恐ろしく思いました。どこまでもどこまでも続く、10代で亡くなった少年の墓標も多い広大な墓地。その戦争が今も世界で行われていることを思うと、本当にやりきれない気持ちがします。

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"La Transumanza della Pace" di Roberta Biagiarell

Un film documentario bellissimo che narra le attività di Gianni e Roberta i quali, oltre ad aver ottenuto le donazioni delle mucche alle vedove e giovani bosniaci, gli insegnano come allevarle, preparare le erbe, sistemare i prati e tornano spesso in Bosnia per insegnare, controllare. Così la gente che ha sofferto tanto durante la guerra atroce diventa più autonoma e i campi non saranno più abbandonati.
Quanti affetti dà la coppia trentina a ciascun vitello che nasce, cresce e parte dalla loro stalla! Vi consiglio di vedere questo film documentario su YouTube; tre ore sono lunghe, ma potete vederlo anche un po' alla volta. Ne vale davvero la pena. Dolori, ma anche molte risate e commozioni.
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Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by ムームー at 2012-11-25 09:10
なおこさんおはようございます。
こういう取り組みが本当の支援といえますね。
お金や物を送れば終わりではだめですね、こうして何度も
足を運び実際に見て回り教えていくことは
大変な作業だけど将来の発展につながりますね。
知らないことをこんな風に話されると興味も持ち
感動いたします、なおこさんいつもありがとうございます。
Commented by milletti_naoko at 2012-11-25 20:14
ムームーさん、こんにちは。お金や物だけではなく、自分の手や仕事の知識、時間をたっぷり使い、心を込めての支援活動に、戦争で多くを失った被災者も、再び生きよう、働こうという気持ちを確かにし、真剣に放牧に取り組み、町が、荒れた野山が変わっていく様子がすばらしかったです。ムームーさん、こちらこそうれしいコメントをいつもありがとうございます。
Commented by クロちゃん at 2012-11-25 21:09
なおこさん、こんばんは♪
平和であることの祈りと、今の自分の環境に感謝の気持ちにもなります。
映画の訴える力は偉大でしょう。(^^)/
Commented by Masami at 2012-11-25 23:49
実は私がレストランで働いていた頃、ボスニア・ヘルツェゴビナからイタリアへ出稼ぎにやってきてコックとして働いている男の子と知り合い親しくなりました。最初は勿論当時の戦争の様子などは何も話そうとしなかったのですが親しくなるにつれて色々な話をしてくれるようになりました。ボスニア・ヘルツェゴビナは今では若い人達の多くは国を離れ、年老いた人達が残り生活にとても苦労しているとも聞きました。

なので、ロベルタさんとジャンニさの試みがボスニア・ヘルツェゴビナに今でも暮らす人達の生活を少しでも楽にし、彼らの未来を変えてくれるとを願っています!

『Venuto al mondo』はボスニア・ヘルツェゴビナの紛争を描いている映画とは、是非観てみたくなりました!上のYouTube映像も後程ゆっくり見てみたいと思います。
Commented by milletti_naoko at 2012-11-26 07:28
クロちゃん、こんばんは。国や国、民族と民族の戦いで、尊い人命が失われること、人々の暮らしが脅かされることのない世の中になってほしいものです。
Commented by milletti_naoko at 2012-11-26 07:36
まさみさん、こんばんは。わたしもマルケ州でイタリア語学校に通っていた頃、ボスニア・ヘルツェゴビナの青年から戦争の話を聞きました。そうなんです。ジャンニさんたちの支援活動では、夫を亡くした女性たちの次には、次世代を担う若者たちに牛を寄贈しようと言っていました。やる気のある若者の姿も、映画には見えて、きっと若者の未来も、町の未来もよい方向に変わっていってくれることと思います。

3時間は長いし、説明が長かったり重なったりしているところもあると思いますが、心を打たれる場面もいくつもあります。ぜひ少しずつ、時間のあるときにご覧ください。
by milletti_naoko | 2012-11-24 23:30 | Film, Libri & Musica | Comments(6)