イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

外国語上達の極意その2

 一昨日書いた三か条を読み返して、「極意」と呼ぶのは大げさだと、自分でも思ったのですが、わたしは常々、楽をせずに即効で成果を上げる近道や秘伝には、まやかしが多く、たとえ成果があっても、「悪銭」と同じで、自分の「身につか」ないものであり(Easy come, easy go.)、何かを成し遂げるには、目的に適した手段を用いて、こつこつと努力を積み重ねていくことが必要だと考えています。だから大変なのではありますが、逆に言うと、ふさわしい手段を見つけて、根気強く努力をすれば、外国語は必ず上達していくはずで、大枚をはたく必要もなければ、自分には才がないとあきらめることも決してありません。就職や進学、社会的・経済的成功については、運・不運もあるでしょうが、それでも、かつての同僚が離任式の壇上で生徒に語っていたように、「努力は人を裏切らない。努力をして目指したそのものが得られなくても、自分を成長させてくれる」ものだと信じています。星の王子さまにキツネが語りかけるように、何かのために、だれかのために注いだ時間や思いは、自分自身をも豊かにし、大切な愛情やきずなを育んでいくものだと考えています。

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Colle della Maddalena (Col de Larche) 3/7/2012

 外国語学習に限っていえば、注いだ努力や時間に応じて、必ず何らかの成果があるもので、難しいのは、目標に応じた学習手段を見つけ出すことと、特に独学の場合には、努力を継続することです。それなのに、現実には、ちまたの高価な即効性を謳う学習教材の喧伝に迷わされて、「大枚をはらって特別な教材を使わなければ、自分には無理だ。」とか、自分の好みやレベル・学習目標に合わない勉強をして、「自分には外国語学習は無理だ、いくら勉強しても効果が上がらない。」と嘆いている方も、多いように思います。そこで、そういう現状だからこそ、「外国語を学習する目的に応じた勉強法で、短期スパンの具体的な目標を立てて、こつこつと勉強を積み重ねていけば、外国語は必ず上達するのだ。」という当たり前の基本が、「極意」と呼べるかもしれないと思い、記事の題名はこのまま置いておくことにしました。現代社会では、外国語を学ぶ動機も、将来的にその外国語をどう活かしたいのかも、人によってさまざまなので、具体的な学習方法や教材の例は、これからも少しずつ挙げていくつもりですが、今のところは、極意その1のページにリンクを載せている記事を、参考にしていただけたらと思います。

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 前置きが長くなりましたが、今日は、極意その2について、ご説明します。

2.学習目標は最終到達点を漠然と思い描くだけではなく、月・年単位での具体的かつ実行可能な達成目標を決め、週・日など短い期間の学習課題をしぼり込むこと。
 「英語やフランス語が話せるようになりたい」という漠然とした到達目標を思い描いているだけでは、特に独学の場合には、着実に勉強を続け、成果を上げるのが難しくなります。パーキンソンの法則と言って、人は何かをするのに、自分にある時間をすべて使ってしまいがちで、たとえばはがきを書くのに、5分しかなければ5分で書けるところを、2時間あると2時間かかってしまうと言います。逆に、毎日入門書を4ページ勉強するとか、1日に30分、外国語を学習するとかいう細かい具体的な目標を設定しておくと、その時間が、1日の中で、すでに必要な時間として組み込まれているわけですから、時間の浪費を防ぎやすくなります。

 わたし自身、フランス語の学習を、今年2月に始めたものの、本当にエンジンがかかったのは、6月の2週間パリ留学を心に決めてからですし、ペースが上がったのは、ようやく留学の日程が決まってからです。日本でイタリア語の独学を始めたときも、最初の1年は、ほとんど勉強が進まなかったのが、2年目からは、通信教育を利用し、毎月の学習目標を設定することで、何とか勉強を軌道に乗せることができました。(詳しくはこちら)一方、ポルトガル語やギリシャ語は、約1か月後に旅行が控えていたため、学習開始時に、入門書のページ数を旅行までの日数で割り、1日に学習すべきページ数を決めて、無事にノルマを果たすことができました。

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 入門書を1冊終えてしまえば、歌や映画など、多様な教材が活用できるので、勉強も波に乗りやすいのですが、特に独学では、入門の段階に、座礁してしまう可能性が多いのではないかと思います。入門の段階に限りませんが、目標は、「今年はイタリア語を話せるようになる」とか「旅行中に切り抜けられるだけのフランス語を勉強する」という大きな目標と並んで、では、そのためには、毎日どれだけ、どのくらいの期間勉強する必要があるかを、計算してはじき出し、自分の仕事や生活習慣を考えた上で、無理のない学習日課を設定する必要があります。たとえば、ギリシャ語の入門書であれば、全160ページで旅行までに1か月余りあるから、勉強できない日もあることを考慮して、160ページを30日で割り、1日平均5.3ページを目安に勉強するというように、学習量を基準にしたノルマを決めることもできます。また、1日に30分、あるいは1時間、入門書や参考書を勉強するというふうに、時間を基準にしたノルマでもいいでしょう。たとえば外出したり、家事や仕事が忙しくて難しいという日もあるでしょうから、1週間平均すれば、このくらいの勉強時間であれば生み出すことが可能だという学習目標を設定するのがいいでしょう。理想や目標は、高すぎると達成するのが難しく、挫折しやすくなるし、低すぎると、望むほどの向上が得られません。今、わたし自身は、フランス語については、毎日1時間は、入門書を勉強するぞと心に思いつつ、実際には週で平均して30分だったり、47、8分だったりという日が続いています。週末や連休には学習時間を取ることが難しいので、平日の学習目標が1時間、そうすると、週平均(60÷7)は42.8分で、今この記事を書きながら、これを当座の学習の目安にしようと思いました。

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 机に向かって問題集で学習するのは、外国語の数ある学習法のごく一つです。他にも、その外国語の歌を聞いたり、映画を見たり、本を読んだりと、学習方法は多彩で、入門から中級、さらに上級へと、語学力がつくにつれて、学習の選択肢が広がります。しっかりとした文章を書き、話せるようになりたいということでしたら、その外国語で多くの本を読む必要があります。また、日本語ではなく、自分が学ぶ外国語のリズム、アクセント、イントネーションで話せるようになりたければ、ナチュラルスピードで話された音声に多く触れる必要がある上、日常会話・改まった場面での会談など、自分がその言語で話したいと考えている場面を扱った、あるいは、それに近い音声が聞ける映画やドラマ、学習CDの音声を、多量に吸収していく必要があります。わたしは、日本の高校で国語を教えた12年の間に、高校生の日本語の力が下がっていくのを、ひしひしと感じました。読書習慣のないまま育った生徒たちは、言葉の正しい使い方や文の書き方、文章の展開の仕方(接続詞の選択、段落構成など)が分からず、就職作文や大学入試の小論文、あるいは読書感想文として、とんでもない文章を書いてくることもよくありました。改まった場で大人と交流する機会のないまま育った生徒たちは、見聞きする機会が少ないので、敬語の使い方を知りません。同様に、外国語の学習でも、特に、日本にいながら勉強する場合には、意識して外国語のinput(詳しくはこちら)の種類と量を増やさないと、その外国ではアクセントやイントネーションがどうなっているのか、文はどのような構造をしていて、文章はどんなふうに組み立てるのかが、つかめません。日本語なまりの英語やイタリア語を話してしまうのは、一つには、入門期に外国語の発音を片仮名で覚えるために、外国語を話す際にも、日本語の音節構造を、流用してしまうため(詳しくはこちら)、一つには、接するイタリア語の音声モデルが少ないので、文をどう発音していいか分からず、母国語のイントネーションを流用するためです。さらに、日本の入門書の多くは、たとえ付属の音声CDがついていても、まとまった会話や文章ではなく、互いに関連のない短文を次々に読み上げたものであることが多いために、会話や朗読におけるリズムや抑揚のつけ方が学べないためでもあります。

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 今、わたしが、これはいい学習目標だなと思い、参考にしようと考えているのは、 puntarellinaさんが提唱し、tiemme78たちが応じている1年間に1000時間の多言語学習という目標です。

 机上で問題集に取り組むだけで1年に1000時間は、外国語を専攻している学生さんでもないと難しいと思うのですが、たとえば自分が勉強中の外国語の映画を鑑賞したり、歌を聞いたり、本を読んだりする時間も含めた上、わたしがよくするように、外国語の音声CDを聞きながら、料理・片づけ・アイロンがけなどをする時間も含めれば、少しの背伸びと努力で、十分達成可能な目標だと思います。これも1年に1000時間というだけでは、設定期間が長すぎるので、1か月に83.3時間、1週間に19.2時間、1日平均2.7時間というふうに、1日あたり、1週間あたりの所要学習時間を割り出すと、1日、1週間の中に、どんなふうにこの学習時間をふり分け、そのうちわけはどうあるべきかという、さらに細かいノルマを設定することができ、こうして目標を細分化、具体化していくと、学習を軌道に乗せやすくなります。

 たとえば、1週間に、英語の読書を2時間、イタリア語・フランス語の新聞や本を読むのが3時間、ニュースや映画を見て、音声CD、歌などを聞く多聴が、ながら聞きを含めて8時間、テキストを見ながらの精聴やシャドウイングが1時間、机上でフランス語を学習するのが5時間、イタリア語・フランス語で文章を書くのに1時間とすると、これで合計20時間となります。これを1週間の自分の生活リズムの中にどう配分するかを考え、さらに細かい計画を立てると、自分にはっぱもかけやすくなり、目標の実践が容易になります。わたしの場合は、イタリア語で話したり、イタリア語でメッセージを書き合ったりする時間は、週に20時間をゆうに超えているためもあって、考慮に入れませんが、まだイタリア語を勉強し始めたばかりという場合は、こういうイタリア語での会話の時間も、りっぱな、そして大切な学習法の一つとして、学習時間に数え上げることができます。また、たとえば上のような学習計画を立てたあとで、この20時間のうちわけは、書き言葉が11時間、話し言葉が8時間、書き言葉と話し言葉を融合した学習が1時間といった具合に、それぞれの合計時間をはじき出せば、学習に偏りが出ないか、また自分が重点を置いていること(話すこと、専門書を読むことなど)に、より多くの時間を配当できているかどうかをチェックすることができます。

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 外国語学習に読書を組み込むことは、tiemme78さんが、積極的に実践されています。先に述べたような理由から、外国語をきちんと身につけようと思えば、その外国語の本をたくさん読むことが不可欠です。この学習中の言語での読書を習慣づけていくいい方法を、遠い昔に、雑誌、『基礎ドイツ語』の記事から教わりました。最初の1か月目は、毎日1ページを目安にし、2か月目は1日2ページ、3か月目は1日3ページと、徐々に読むページ数を増やしていけば、いずれ、外国語の熟達に必要とされる1万ページの読書も、無理なく達成できるというのが、その記事の主旨であったように覚えています。この学習法を、当のドイツ語学習に生かせたかどうかは記憶にないのですが、ずっと後になって、社会人になってからの英語の再勉強や、イタリア語の学習にあたっては、大いに参考になりました。ただし、1日10ページを超えると、読書の比重が大きくなりすぎるため、1日10ページという月まで到達したら、以後は、ノルマはいつまで経っても1日10ページ、ただし、本がおもしろければ、本を読み続けることとして、上限は設定せず、1日最低10ページの英語・イタリア語の読書を日課にしていた時期が長くありました。

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 話が長くなりましたが、学習目標は、こういうふうに、具体的に、短期スパンで設定すると、勉強に取りかかる習慣がつきやすく、また目標が実現しやすくなります。たとえば、今日(もう真夜中を過ぎたので昨日です)、わたしは、郵便局などでの待ち時間に、フランス語ポケット旅行会話集を利用して、合計50分間勉強することができたのですが、これも、1日ごとの所要学習時間を、念頭に置いているおかげでです。

 2013年が、もうそこまで来ています。この記事が、新年の抱負として、外国語学習を考えている方の参考になれば幸いです。

 写真は、Colle della Maddalena。アルプス山脈を越えて、イタリアからフランスへと渡る国境があり、フランス語名はCol de Larcheです。わたしたちがプロヴァンスにラベンダー畑を訪ねようと通りかかった7月(記事はこちら)には、美しい緑の高嶺の間に、色とりどりの野の花が咲きほこり、国境直前に見える湖は、晴れた空を映して、きれいな青色でした。国境を越えてフランスに入る前に、イタリア風のおいしいコーヒーを味わいたければ、湖近くのバールに立ち寄りましょう。

関連記事へのリンク
- 外国語上達の極意その1
- 外国語上達の極意その3

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Colle della Maddalena (Col de Larche) 3/7/2012
Una valle stupenda piena di fiori che si incontra prima di attraversare il confine tra l'Italia e la Francia.
Prima di entrare in Francia, potete prendere l'ultimo caffè buono alla italiana al bar accanto al laghetto.
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Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by licklick at 2012-12-30 18:42 x
「外国語上達の極意」しっかり読ませていただいています。
フランス語を独学する者にとって、たいへん励みになる、そして、学習の工夫のヒントが詰まったお話で、ありがたく思います。
ときどき読み返させていただきたいと思います。
私は、通勤時間を有効に活用して学習を進めようとしていますが、まだまだ工夫の余地があります。
ドア・ツー・ドアで片道およそ2時間の通勤時間、集中力を欠いてしまう時間もあります。
50歳を超えてから、できれば5年に一つくらいのペースで新たな言語にチャレンジしてみたいと考えていました。
フランス語に目途がたってから、次の言語と考えていましたが、通勤時間の集中力を高めるために、次の言語の学習を少し始めてもいいのかなという気がしてきました(英語の向上も必要ですが)。
来年もよろしくお願いいたします。
Commented by calcio at 2012-12-31 01:35 x
なおこ先生  コツを教えて頂きましてありがとうございます。
自分も時間毎に目標をたて、その達成度をチェックしつつやっていきます。
また、問題集ばかりやるのではなく、普通の本も読んでみます。
いろいろ教えて頂きありがとうございます。
文章の間に写真があって、それぞれの文章を適度な量にしていて
読みやすかったです。

今までニックネームとして、calcio としてやってきましたが、次のコメントから私の名字である、yamaguchi に変えたいと思います。

宜しくお願い致します。

Commented by クロちゃん at 2012-12-31 14:42 x
なおこさん、こんにちは♪
私はなんでも勉強と経験を活かしたいと思っています。
なかなかできませんが…。(^^ゞ
画像の空の色がきれいです。
いよいよ年越しカウントダウンとなりました。
良い年をお迎えください。(^^)/
Commented by bianchi_saitoh at 2012-12-31 22:54 x
なおこさん、お久しぶりです。
何事も中途半端に通過してきた自分には痛いお話しでした。
今年もフランス語にトライしたり進歩、いや前進していくなおこさんに感心させられます。
目指すモノは違っても方向性は同じだと思うので自分なりに消化して生かしていきたいと思います。

でも来年、久しぶりにイタリア語の本を開いてみようかな
(笑)。
 
なおこさん、一年楽しませていただきました。
よい年をお迎えください。そして来年もよろしくお願いします。
Commented by Masami at 2012-12-31 23:27 x
なおこさん、こんにちは!
外国語上達の極意その1、2ととても興味深く読ませていただきました。私も2013年は英語とイタリア語のブラッシュアップを考えていますので、ぜひぜひ参考にさせていただきます!

今年は縁あってなおこさんとお友達になれ、コメント間ではいろいろとお喋りもできてとても楽しかったです♪来年もどうぞよろしくお願いいたします。どうぞ良いお年をお迎え下さいね!
Commented by KEIKO at 2013-01-01 00:55 x
なおこさん
新年あけましておめでとうございます。
今年も、なおこさんや、ご家族の皆様にとって素晴らしい1年になりますように、心からお祈り致します。また、このブログを毎日楽しみに、読ませて頂きますので、どうぞよろしくお願いします。

Commented by milletti_naoko at 2013-01-02 06:53
licklickさん、わたしも貴ブログから、フランス語学習に役立つリンクをいろいろ教えていただいて、感謝しています。こんなふうにオンラインで、学習者どうしが情報交換できるって、いいですよね。

こちらこそ、新年もよろしくお願い申し上げます。お互いに頑張りましょう!
Commented by milletti_naoko at 2013-01-02 06:58
Calcioさん、どういたしまして。今年も語学学習を、お互いに頑張りましょう!
Commented by milletti_naoko at 2013-01-02 07:00
クロちゃん、そうなんです。知識と経験をうまく活かせたらと思っていても、なかなか実行に移せないので、やはり克己が大切だなと感じています。クロちゃんも、どうかよい年をお迎えくださいね。
Commented by milletti_naoko at 2013-01-02 07:04
bianchi_saitohさん、お久しぶりです。わたしにも、中途半端になって、反省していることはたくさんありますし、今回の記事には、ある意味、分かっているけれど、役立てることができないでいる経験や知識を書いてみて、自分にはっぱをかけてみようという意図もあります。こちらこそ、いつもコメントをありがとうございます。どうかよいお年を! 今年もよろしくお願いします。
Commented by milletti_naoko at 2013-01-02 07:07
まさみさん、外国語学習、新年はいっしょに頑張りましょう! 参考にしていただけて、うれしいです。わたしもまさみさんといろいろとコメントでお話ができてうれしかったです。ありがとうございます。まさみさんにとって2013年がすてきな1年でありますように。
Commented by milletti_naoko at 2013-01-02 07:08
けいこさん、明けましておめでとうございます。ありがとうございます。けいこさんご一家にとっても、よい1年でありますように。新年もどうかよろしく。
by milletti_naoko | 2012-12-30 02:47 | Piemonte | Comments(12)