2013年 06月 15日
恋するアムロと妻、フラウ?
数年前に驚いたのは、リミニの友人たちが、「恋人」という意味で、fidanzato/a、ragazzo/aという言葉を使わず、その恋人が男性ならamoroso、女性ならamorosaという言葉を口にしているのに気づいたときです。アドリア海岸の海辺にあるリミニをしばしば訪ねるのは主に夏で、友人たちの中には、出会いを求めていたり、つき合い始めたばかりだったりという人もいるため、「~の新しい彼女、知ってる?」、「えっ、~が…の彼氏なの!」などといううわさ話が交わされることが多いのです。何度かそういう言葉を聞いたあとで、「ひょっとして、amoroso/aって言葉を、fidanzato/aという意味で使ってる?」と尋ねてみて、予想していたとおりだと分かりました。
ちなみに、わたしの持っている『伊和中辞典』には、amorosoという言葉は、まずは形容詞として、「情愛の深い、愛の、恋の、(古語で)恋する」という意味で使われ、名詞としては、親しい者どうしの間で、「恋人、婚約者、愛人」という意味があるとしています。一方、伊伊辞典の『Lo Zingarelli』(私の辞書は2003年版です)には、形容詞としての意味は同じですが、名詞のamoroso/aに、「愛する人、恋人」(Innamorato, amato, fidanzato)という語義を挙げながらも、この語義ではdisusato「使われなくなった」と書かれています。わたしの知る範囲では、今でもリミニでは、特に友人どうしの間では、「恋人」という意味で真っ先に使われるのは、このamoroso/amorosaという言葉であり、逆に、暮らした経験のあるマルケやペルージャ、あるいは、他の地域出身の友人の口からは聞いたことがないので、一部地域で、まだ頻繁に使われている言葉だと言えるのではないかと思います。
どうして急に、数年前の発見を、今さら記事にするかというと、実は最近、フランス語を勉強していて、次のような表現が出てきたからです。
Les amoureux de la mer peuvent faire quelques folies.
つづりや発音がイタリア語のamoroso/amorosaによく似ている、フランス語のamoureux/amoureuseという言葉が、「恋する人」という意味で使われることは、かなり前にすでに勉強していましたが、ここでは、この言葉は「(~の)愛好者」という意味です。
それが昨日になって、フランス語作文の練習問題をしていたら、こんな文が出てきたのです。
Gli amanti della montagna possono fare alcune follie.
イタリア人向けの問題集なので、イタリア語からフランス語にしなければいけないのですが、ここで、前日に勉強していたles amoureuxという言葉がさっと頭に浮かびました。ちなみに、正解は、
Les amoureux de la montagne peuvent faire quelque folie.
です。ちなみにわたしは最後の部分を、上の「海の愛好者」について説いた文にならって、quelques foliesとしたのですが、それでも問題はないと思います。
それはさておき、ここで「ああ、ここはles amoureuxだな。」と思ったとき、わたしの頭はいきなりこう気づいたのです。「あれ、発音がアムロ?」手元の『プチ・ロワイヤル仏和辞典』には、片仮名で「アムルー」と書いてありますが、問題集付属のCDを聞いても、「アムロ」に聞こえます。
遠い昔、大学生の頃、ドイツ語でFrauが「妻」という意味だと知ったとき、ひょっとして、『起動戦士ガンダム』のフラウ・ボウの名前は、このドイツ語のFrauから来ているのではないかと思ったのですが、今回は、ひょっとして、主人公のアムロの名も、フランス語のamoureuxから来ているのかもしれないと、一人でしばらくにやにやしました。赤い彗星のシャアの名前が、フランス人歌手のシャルル・アズナーブルから来ているくらいだから、アムロの名前もフランス語から来ていてもおかしくないしと思いながら調べていたら、いろいろな記事を読んで(下記二つ目のリンク参照)、しかし、どうもアムロの名前の由来は「ゼロ戦」に由来しているらしいと分かりました。こう書かれたガンダムのモビールスーツや登場人物の名前の由来がおもしろいので、思わず、「ああ、こんな人も出てきたな。え、これが人物名の由来だったのか」と、楽しみながら読みました。シャアの名前の由来に、ライディーンもからんでいると知って驚き、アムロの名前の由来には、他の説もあると読んで、「だったら、まじめな話、フラウがドイツ語の妻から、アムロはフランス語の恋する人かもしれない。」と、一人でまだ、この説にしがみついてみたりしました。
それにしても、未来を設定にしていて、さらに多国籍、多言語の登場人物が数多く登場するだけに、ガンダムでは、登場人物の名前を考えるのに、本当にいろんなところからヒントを得ていたのだなあと感心しました。ガンダムの再放送を夢中になってみていた中学生の頃、わたしは、ひそかにアムロを思うフラウ・ボウを応援していたのですが、今回のamoureux騒動で、そんななつかしいことを思い出したのでありました。
昨日、パッシンニャーノに出かけると、再び白鳥がいた上に、夕日がきれいでうれしかったので、記事には関係ありませんが、写真を載せておきます。
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La famiglia di cigni ancora c'è sul Lago Trasimeno!
Passignano sul Trasimeno (PG) 14/6/2013
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関連記事へのリンク
- 赤い彗星と地球規模化
- 語源blog - ガンダムのキャラクター名の由来に関する俗説まとめサイト・決定版(11月21日一部改定) (15/11/2004)
ちなみに、ベネチア方言は、イタリア語やサルデーニャの方言などが話されるArea italo-romanzaと、フランス語やプロヴァンス語などが話されるArea gallo-romanzaの、二つの地域を橋渡しする言語とも言われています。発音や語彙で、リミニの方言やリミニの友人の話すイタリア語がフランス語に近いことは意識していたのですが、やっぱりベネチアもそうなんですね。残念ながら、権威のある学者や学会の言及は今のところ見つけられなかったのですが、下記リンクでいろいろな人が答えている内容も、参考にしてください。
Yahoo! Italia Answers - Da dove deriva la parola "MOROSO"? Io sono pugliese e qui nn si sente mai D: italiana o dialettale la parola?
http://it.answers.yahoo.com/question/index?qid=20120206075703AAMz1Nr
こちらこそ、いつもうれしいコメントをありがとうございます♪
私も言語学系には興味があり、とても興味深く読ませて頂きました。
amoroso/aは初めて聞いた単語でした。ラスペツィアでは今のところ聞いたことが無いです。彼女・彼氏というニュアンスでもfidanzato/aを使っています。
上のコメント返信で、イタリア語の方言を、中部イタリアと北部イタリアを分けると…という行も読ませていただきましたが、
確かに、リグーリア州はフランス語に似た方言が多いと、良く耳にします。サンレモの方、フランス国境近くのイタリア語をいつか聞いてみたいものです。
大学ではドイツ語を勉強しておりました!なおこさんも勉強されていたのですね^^ ガンダムは良く分からないのですが(すみません…)、私もふとした時に、この言葉は、ここの言語から来ているのかな?と閃くことや疑問に思うことが良くあります。調べだすと面白いですよね、とても共感しました。
全く関係ないですが、英語、ドイツ語、イタリア語を勉強していて、全てに共通して出てくる「gratis」を、ふと疑問に思い調べてみたら ラテン語からの派生なのですね!びっくりでした。
イタリア語の語彙の大半はラテン語に由来するのですが、英語でも学術語や小難しい言葉になると、ラテン語やギリシャ語起源の語がいろいろとあるので、イタリア語と語彙の似たものがいろいろあります。こういう言語の親戚関係や類似関係も利用すると、言葉を勉強するのが楽しく、そして、楽になりますよね。