イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

イタリアの今・未来

 今年2冊目に読み終えたのはイタリア語の本で、題名は、『L’Italia de noantri. Come siamo diventati tutti meridionali』でした。

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 冒頭のピザの話(下記リンク参照)は、意外でもあり興味深かったのですが、目次にたとえば、La meridionalizzazione del paese(国の南部化)、Gli italiani non hanno più voglia di lavorare(イタリア人は、もはや働こうという意欲を持たなくなってしまった)とあるように、現代イタリアの抱える深刻な問題を、取り上げていて、内容はかなり重いものでした。

 就職が本人の力や意欲ではなく、コネや親の力で決まってしまう、汚職・政治腐敗・マフィアの侵食が南部ばかりではなく、北部でもいかに進んでいるか、働く意欲のないイタリア人。さまざまな場で、わたし自身が身をもって感じたり、テレビや新聞で見聞きしたりしていたことが、具体的な実例を通して語られていて、こういう悪習が、イタリアでいかに根強いものかを、読みながらつくづくと感じました。

 こういう内容の本ですから、「Speranza」(希望)と題された後書きの中で、筆者がこの本を書いたのは、実は、読者から「何かもっと希望が見えることを書いてほしい」という要望があってのことなのだと読んで、驚きました。ただ、確かに筆者が言うように、この本の中では、国のために、人々のために真剣に活動をし、仕事をするイタリア人の姿も、いくつも書かれています。イタリアという国の未来を明るく思い描くのが、難しい状況が確かに長い間続いています。

 ちょうど先週の今日、午後8時前に、最高裁が、脱税をめぐる裁判で、ベルルスコーニを有罪とし、禁錮4年の刑が言い渡されたと知ったとき、このとき、個人的にですが、「ああ、イタリアでも、やはり権力者も、罪を犯せば罰せられるのだ。イタリアにも正義があるのだ。」とうれしくなりました。

 ただ、いろいろニュースを追っていると、判決では禁錮4年でも、恩赦法で実質は1年のみとなり、さらに、ベルルスコーニは70歳を超えているため、この1年も、監獄ではなく、自宅軟禁(arresti domiciliali)か社会奉仕(servizi sociali)のいずれかになる見込みです。

 初めて有罪判決を聞いたとき、これは大きな変化の兆しだ、イタリアが、ようやく暗く長いトンネルを抜け出ようとしているのだと、イタリアの未来に希望が見えるような気がしました。どんな悪事をいくつ重ねても、金と権力がある限り、あるいは権力者の庇護がある限り、罪を免れることができる。それを身をもって顕示するような人物が、国政の中枢にいる間は、イタリアの国としての未来に明るい光を見ることが難しかったのです。

 有罪判決が出てさえ、まだこのベルルスコーニを支持する議員や市民がいることに、暗澹とした気持ちにはなるのですが、一度変わった川の流れが、どうかこのまま変わらずに、イタリアの政界に、国に、新しい風が吹き込まれますようにと祈るばかりです。ただ、ここでも、ベルルスコーニのあとは、政治とは今のところ無縁の彼の娘を代わりに立てようという動きがあり、本人の経験や実力よりも、血縁や名前だけを考える政治家に、あきれるばかりです。

 というわけで、上の本の最後に触れられていた希望が、ようやく見え始めたと感じてはいるのですが、どうか今回こそは、この希望の光が消えることのないよう、イタリアが汚職・政治腐敗やコネ社会から脱却できますようにと、心から祈っています。

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Dal libro:
"Noantri è la parola chiave dell’Italia di oggi. L’Italia dei clan, delle famiglie, delle fazioni. Del dominio dei rapporti personali. Della politica divenuta prosecuzione degli affari con altri mezzi. Un paese mai così frammentato, eppure mai così uguale dal Piemonte alla Sicilia: unificato dall’egemonia di Roma e del Mezzogiorno."
Il libro parla anche dell'impunità dei criminali eccellenti, delle assunzioni per parentela. Appena saputa la sentenza Mediaset, ho pensato: "Allora anche in Italia c'è la giustizia, chi commette crimini viene punito. Finalmente l'Italia che sta attraversando una lunga galleria lunga e buia vede una luce dell'uscita, una speranza..." Poi dopo di nuovo i sostenitori di Berlusconi lo difendono, lo sostengono comunque e quando lui sceglie sua figlia come possibile erede politico, i giornalisti parlano delle notizie comse se fosse una cosa normale...
Comunque, quella sentenza ci dà speranza: l'Italia non sarà più come prima, sarà nelle mani di chi ha gioito della notizia, di chi vuole voltare le pagine per descrivere una nuova Italia che sarà diversa e migliore.
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LINK
- ピザを食せず世を去りぬ (3/2/2013)
- Amazon.it – “L’Italia de noantri. Come siamo diventati tutti meridionali” (Aldo Cazzullo)

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by クロちゃん at 2013-08-09 08:55 x
なおこさん、おはようございます。♪
日本も似ているような気がします。

明るい未来は笑顔が似合います。(^^)/
今日も笑って過ごせる日になりますように…。
Commented by とすかーな  at 2013-08-09 17:01 x
私もいつかこういう本をスラスラ読めるようになりたいな~
って、もっと勉強しなくっちゃいつまでたっても読めないけど(笑)

ベルルスコーニの判決。。。結局ボランティアとか軟禁じゃ、実質無罪と同じ。
なんじゃ、この国はって思いました。
76歳でまだ議員はやめないってしがみついてるから、うまみがいっぱいあるんでしょうね。
この国、法律があってないようなものだから、アフリカみたいっていつも思います。
先進国のグループの中に本当は入れない国じゃないかな~。
イタリア人全員が、日本やアメリカなどの国に行って、労働研修したらいいのにってたまに思います。
でもモラルの感覚が違うから、あんまり働き方が改善されないかもしれませんね~。
Commented by suzu-clair at 2013-08-09 17:01
そうなのですね。

不勉強で、イタリアの社会的な情勢や風土などについて、
なんとなくのイメージでしかとらえていなかったので、
興味深く拝読させていただきました。

長い間根付いてきた、その国の風土や国民感情というものは、
良くも悪くもなかなか奥深くて流れを変えていくのは難しい面もあると思いますが、
よい面を生かしながら、いい方向へとイタリアも進んでいってほしいですね。
(その点は、日本も同じですね^^)

私はちらっとしか訪れたことがありませんが、
イタリアの方々のもつ、明るくてエネルギッシュなところが大好きです♪
Commented by milletti_naoko at 2013-08-09 17:45
クロちゃん、わたしも「日本は違う」と思っていたのに、東北大震災や以後の原発関連のニュースを聞いて以来、日本でもやはり政治と企業が癒着し、政治家に国や国民よりも私益を追うきらいがあるのだ、マスコミを操作して、都合の悪いニュースは差し止めているのだと知って、悲しくなりました。

ただ、それをいい方向に変えていく力はわたしたち一人ひとりの手にあるんですよね。今日を笑って過ごし、皆が笑って過ごせる未来を築いていきましょう♪
Commented by milletti_naoko at 2013-08-09 18:06
とすかーなさんは何事にも熱心ですし、英語の力と学習法を基盤に、そのうちきっと、こういう本も読めるようになると思いますよ。もちろん、勉強は必要ですけれども。

実質は1年でしかも刑務所行きにはならないのは残念ですが、有罪で禁錮刑という判決が出たという事実は、これまでの流れを見ていると画期的だと思います。このまま困ったどんでん返しがなければ、議員の職や政界からもしばらくは追放されることでしょうし、少しずつでも浄化が進むことを祈ります。法律があってないようなもの、あっても意味がなかったり、権力者が自分のいい法律を作り続けたり…… とすかーなさんのおっしゃる、そういうイタリアが、これを機に、どうか変わってくれますように。本当に、いまだにベルルスコーニを支持するばかりか、大統領に恩赦を要請しようという議員までいて、わたしもどこか、絶対権力を持った王や皇帝が治める国を思わせるところが多いなと感じています。(つづく)
Commented by milletti_naoko at 2013-08-09 18:08
とすかーなさんへ(上からの続きです)

仕事に熱心なイタリアの人も多いのですが、結局、問題の根本は、研修以前に、コネで力もやる気もない人が採用されて、その仕事に安住する傾向があり、逆に、意欲も能力もある若者が国内では仕事を見つけられず、国外に流出したり、アルバイトで食いつないだりせざるを得ないという状況にあると思います。まずそこから改善していくことが急務だと感じています。
Commented by milletti_naoko at 2013-08-09 18:18
Suzu-clairさん、イタリア各地で熱心に仕事に取り組む人は、経済を支える中小企業で働く人を始め、たくさんいるし、おっしゃるように、明るくエネルギーに満ちたイタリアやイタリアの人、豊かなイタリア文化があることも事実なのですが、この国はもう長い間、政治的にも、また市民に浸透した慣習にしても、このままではいけないという深刻な問題を、たくさん抱えています。

この本によると、本来は特にローマやイタリア南部によく見られたコネ社会や政治腐敗・マフィアとの癒着・汚職などが、現在では、北イタリアまで、イタリア全土に渡って根づいてしまっているということです。何となく感じたり聞いたりしていたことを、いくつもの具体例を挙げて説明してあるので、読みながら驚くと同時に、暗い気持ちにもなりました。ただ、これではいけないと、さまざまな活動を積極的に展開する人たちも描かれていて、わたしも、今回の判決を機に、どうかイタリアにいい方向に変わっていってほしいと願っています。
Commented by patata at 2013-08-18 08:36 x
こんばんは、なおこさん^^
イタリアの就職事情、私もこちらにきて驚きました。
先日、大学院を卒業した友人Aの就職がどうなったか、別の友人Bにたずねてみたところ、無事見つかったと聞き、この不景気の中すごいね!と喜んでいたのですが、よくよく話を聞いてみると、その友人Bのお母様が病院の麻酔科医のトップだそうで、そのお母様のお陰で就職することが出来たんだそうです……。
今の時代、優秀なイタリアの若者たちは、イタリアを離れ、ドイツに行ってしますそうですね。。(こういうところにもEUの問題点があるような気がします、、)若者に職が無い状況、人材の流出…このままではイタリアに未来は無いと思います。 

ベルルスコーニの判決を聞き、私も なおこさんと全く同じポジティブな考えを持ちました。
このままベルルスコーニが政界から引退することを祈るばかりですが、そうなれば恐らく再選挙となるから面倒だ!などという意見も聞くのです…(ため息) 色々な考えがあるでしょうが、イタリア人にはよくよく考えて最善の決断を下してもらいたいものです。。
Commented by milletti_naoko at 2013-08-19 04:37
Patataさん、この本では、たとえばローマで、床屋や弁護士事務所、政治家だけではなく、Raiなどテレビ関係に勤める人やジャーナリストまで(読んだのが数か月前なので、細部には記憶違いがあるかもしれません)、ありとあらゆる職業で、血縁のコネでの就職が蔓延していると知って啞然としました。優秀な若者が国外に出てしまうことについても、このままではいけないと、いろいろと政府も対策を打ってはいるようですが、少しずつでもこういう状況が改善していくことを祈るばかりです。

選挙権がないのが本当に歯がゆい状況が続いていますね。どうか政治界に新しい風が吹いてくれますように。
by milletti_naoko | 2013-08-08 23:41 | Film, Libri & Musica | Comments(9)