イタリア写真草子 ペルージャ在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

大変! フランス語

 昔むかし、日本の高校で教えていた頃、担任をしていたクラスに、優しくおっとりとしていて、それでいてまじめな男子生徒がいました。そのままの成績では、本人も保護者も希望している大学への進学は難しい。その高校では、定期考査の際には、1週間前から試験が終わるまで、毎日の学習時間や生活を簡単に書いて、毎日担任に提出することになっていました。基本的に、学習時間の多い生徒ほど、成績が高く、その逆も然りという場合が多いのですが、彼の場合は、勉強時間として計上している時間は長いのに、どの教科も、成績はいまひとつです。

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Saint-Maximin-la-Sainte-Baume, France 21/9/2013

 それで、個人面談のときに尋ねてみると、「試験前からきちんと勉強していますよ。」と言うのですが、ではいったいどんなふうに勉強しているのかというと、どうも教科書やノートを開いて、眺めているだけのことが多いらしいことが分かりました。それで、そのときに、指導として、「眺めているだけでは、力はつきません。数学などは問題を解いて初めて、自分が苦手なところも分かるし、問題を解く力もつきます。英語や古文も、辞書を引きながら訳してみて初めて、授業も頭に入るし、語彙力や読み解く力がつくんですよ。」と、とにかく能動的に勉強することを勧めたことを覚えています。

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 宿題や試験勉強をほとんどしないので、当然のように成績が振るわない生徒に出会うことは多かったのですが、本人は「毎日数時間勉強している」(つもりでいる)のに、成績が伸びないという例は珍しかったので、もう15年近くも前のことですが、よく覚えています。

 なぜ今頃、こんなことを思い出したかと言うと、最近のわたしのフランス語の勉強は、学習時間が落ちている上に、勉強していても、『L'Île mystérieuse』を読み、『bien-dire』の吹き込みCDを、精聴を怠って、ながら聞きするだけになっているからです。

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 南仏への旅行は、日程こそ早くから決まっていたものの、行き先が決まったのは直前で、しかも前の週に英日通訳の仕事が入ったこともあり、慌しい中、フランス語の勉強がおろそかなまま、出発することになりました。確かに、昨年に比べると、フランス語で困る機会は減りました。それでも、教会や博物館に書かれた説明を読むことには苦労しないものの、市場で買い物をしたり、宿を探して、情報を尋ねたりしているときに、言いたいことが思うように言えず、伝わらず、もどかしい思いをしたことが、何度もありました。同行していた夫や友人とはイタリア語で話し、フランス人にフランス語で尋ねても、英語で返事が来ることもあり、フランス語に触れる機会が少なかったことも残念でした。そのくせ、レストランでは、フランス語のメニューだけだと、料理の組み合わせや内容がよく分からないまま注文して、悲しい驚きがあったため、結局、イタリア語でもメニューが書いてあるレストランに通ったりもしました。

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 それはさておき、旅行中に、「イタリアに戻ったら、フランス語をもっともっと勉強するぞ!」と思っていたのに、旅行後の荷物やたまった家事の片づけ、これまでと今後の仕事などの書類やメールの整理で慌しかったとは言え、学習状況が、さっぱり改善していません。読む力は、かなりついたと思います。文の内容が小難しい場合ほど、ただでさえ英語やイタリア語の知識が助けてくれる上に、フランス語の本を読むことは、継続しているからです。同時に、やはりこの二言語の知識と(たまに精聴も交えた)多聴のおかげで、話やニュースを聞けば、だいたいこういう内容だと、大まかに見当をつけることができるようになりました。ただ、これはどちらも受身であって、自分で文章を書いたり、問題を解いたり、精聴をしたりシャドウイングをしたり、仮の話し相手を想定したり、だれか話し相手を見つけたりして、実際に自分がフランス語で発信する練習もしていかなければ、いつまで経っても、思うように書いたり、話したりできるようになるはずがありません。ちょうど、かつてのクラスの生徒が、教科書やノートを長い間眺めていても、学力の向上につながらなかったように。

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 ただ、幼い子供でも、外国語を勉強し始めたばかりの人でも、最初からすぐに話すことを期待するのも、自分に課すのも無理があります。幼い子供が、長い間、いろいろな人に話しかけられて、あるとき急に話し始めるように、外国語の学習者もやはり、ある程度語彙や新しい言葉のメカニズムやイントネーションが自分の中にできて、自信が持てて初めて、話し始めることができるのです。ちなみに、こんなふうに、学習中の言語で話せるように、自分の中で土壌を整えていく時期を、イタリア語でperiodo silenziosoと言います。入門初期に、無理に発言を促すのはやめて、学習者自身が準備ができたと感じるまで待ちましょうということは、外国人へのイタリア語教育を学ぶ中で、何度も教わりました。さらに、学習の初期に間違った癖が身につくと、それを後で修正するのにかえって時間がかかってしまいます。今のわたしの場合は、逆にこの受身でいるべき時期はとうに過ぎて、フランス語を、もっと積極的に、能動的に勉強すべき時間が来ていると思います。イタリア人向けの入門書の再勉強を、実は開始後すぐに中断しています。この入門書の内容が充実しすぎていることもその理由の一つなので、10月からは、この入門書を再び脇に置いて、DELF B1の問題集を解いていこうと考えています。こうすることで、問題を解けたにせよ、解けなかったにせよ、上の入門書を勉強しようという意欲が、いずれ湧いてくると思うからです。

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 今年の初めに、2013年はフランス語を1000時間勉強するという学習目標を立てました。南仏旅行中、毎日2時間ほどフランス語に接したと概算すると、9月末までの学習時間が589時間になります。あと3か月間、毎日平均4時間半フランス語を勉強しないと、年内には1000時間に到達しないという厳しい状況です。怠けに怠けたおかげで、逆立ちしても難しい状況に自分を追い込んでしまったわけですが、これからも、さらに目標達成を目指して頑張ります。

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初日の夕食は、なぜか中華・ベトナム料理店で

 ちなみに、外国語力のCEFRにおけるレベルについては、この基準を記した本に、かなり詳しく書いてあります。たとえば、テレビ・映画の鑑賞における聴解、友人たちとのうちとけた会話や公の場での討論や会談におけるコミュニケーション能力など、かなり具体的な場面ごとに、A1ではこういうことができて、ここまでできればC1と、各レベルでできることについて、詳しい説明があるのです。聴解力・読解力・話す力・書く力というこの語学力の四本柱については、欧州連合のサイトにも、さまざまな国の言語で、A1からC2の各レベルで、どれだけのことができるかが具体的に記されています。イタリア語とフランス語については、それを一覧にしたPDFのページへのアイコンリンクが、以下のページの見出しの下にあります。

- Europass – Livelli europei delle lingue (CEFR) – Scheda per l’autovalutazione (in italiano)
- Europass – Niveaux européens de langues (CECR) – Grille d’autoévalutation (en français)

 ヨーロッパの他の言語については、次の英語のページで、画面の右上のタブの右端をクリックし、現れた言語の中から希望言語を選んで、クリックしてください。

- Europass - European language levels – Self Assessment Grid (in English)

 そうして表れたリンク先のページで、見出しの下にあるPDFのアイコンをクリックすれば、レベル別の語学力の一覧表をダウンロードすることができます。また、画面上で気になる力(読解力、話す力など)をクリックすると、各レベルで、どれだけの力が必要とされるかが分かります。

 ご自分が学習されている言語で、この一覧表を印刷してみて、自分で、自分の力が、分野別にそれぞれどのくらいか見当をつけて、赤丸で囲んでみるといいと思います。今の自分の語学力で、「どういうことができるか」という具体的な内容が、各レベルで持っているはずの力の説明になっていますので、CILSやDELFなどの受験を考えたことがない方でも、自己診断は難しくないはずです。そうして印をつけてみて初めて、たとえば、自分の外国語力に偏りがあることが分かったり、目指す語学力と、今の語学力の間のギャップが分かって、これからの学習の目安にもなると思うからです。

 皆さん、お互いに頑張りましょう!

Saint-Maximin-la-Sainte-Baume, primo giorno in Provenza 21/9/2013
Chiesa, passeggiata in centro, tramonto & cena
(Anche se l'articolo parla dello studio di francese...)

関連記事へのリンク
- フランス語1000時間 (10/1/2013)
- 語学検定と言語観、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR) (20/4/2013)
- ムッシュウ (26/8/2013)

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by とすかーな at 2013-10-06 04:01
おぉ~、まさに今の私にオンタイムな話題です。
学生の時と違って、家事や生活のことをしながら、勉強の時間を確保するのは、なかなか難しいですね。家でやれないので、学校に行くことにしました。これで、壁も何とか乗り越えられるといいのですが。
直子さん、フランス語もそんなレベルまでできるなんてスゴイです!努力あってのことですけど、ほんと、すごいな~って思いました。わたし、イタリア語で長文、読める読めないというより「読みたくない」が先に来てしまいます(笑)目指せなおこさんでがんばります!
Commented by patata at 2013-10-06 04:59
なおこさん、ご無沙汰しています、私のブログへコメントありがとうございました^^ゆっくり返信させて頂きます。
最近バタバタしていて、今ゆっくりと遡って記事を拝見いたしました。
なおこさん、とすかーなさんとお知り合いだったのですね!そして先日再会されたのですか!!とっても羨ましいです。私もなおこさん、とすかーなさんとは、いつか必ずお会いしたいと思っているのです!
楽しい時間を過ごされたようで何よりです♪
南仏に旅行に行かれていたのですね!!美しいのだろうな、訪れてみたい場所の1つです、また旅行記も楽しみにしています。
語学のことですが、なおこさん、高校の先生でいらしたんですか!これまた初耳です!!人生経験抱負でいらっしゃいますね!!!
語学学習には、periodo silenziosoという時期があるのですね、私は今はB2レベル(PLIDA)の勉強をしているのですが、未だに言葉が出ないことが多く、実はとても焦っていたところでした。もしかしたら、まだその時期なのかもしれない!と思い安心しました。
そういえば、英語もすらすら出てくるまで時間がかかったことを思い出しました。
Commented by patata at 2013-10-06 04:59
(続きです)
なおこさんはご自分の語学力を客観的に分析されているのですね、これは語学習得のスピードを左右しますし、とても羨ましく感じます。
フランス語、1000時間勉強するという目標を立てられているんですね。すごいです@_@引き続き勉強がんばってくださいね^^
Commented by milletti_naoko at 2013-10-06 23:36
とすかーなさん、こんにちは。仕事をしていても、一人暮らしだと、学習時間を確保しやすかったように思います。たとえ子供がいなくても、夫といると、語学学習に避ける時間は少なくなりますよね。

学校に行くと、学習仲間ができたり、ライバルや目標にしたい人との出会いもあって、勉強意欲が高まるのでいいと思いますよ。いい先生に当たれば、身につくものもぐんと増えるはずです。学校が始まるのが楽しみですね♪

いえいえ、フランス語はまだまだです。日常会話が聞き取れなくても、新聞や小説を読んで何となく意味が分かるのは、特にそういう小難しい語彙や表現を使う長い文になると、フランス語でもラテン語やギリシャ語起源の語彙が増えるので、イタリア語や英語に語形が似ていて類推しやすいからです。目標への道はまだまだ遠いのであります。

とすかーなさんの場合は、お料理がお得意なので、レシピや郷土料理の紹介をしたような新聞や雑誌の記事を読むなど、読んでご自分が興味を持てることや、すでに知識があることについての記事から読んでいかれると、読むのが苦にならないと思います。お互いに頑張りましょう!
Commented by milletti_naoko at 2013-10-07 05:44
Patataさん、結婚でイタリアに渡られて、もうそこまでイタリア語を身につけられたなんてすばらしい! B1まで行けば、もうかなりの語彙や表現がご自分の中にあるはずです。なかなか発言ができないという方が日本の方に多いのは、間違いを恐れて、もっときちんと言えるようになってからと踏みとどまってしまうためと、南米や欧州・旧ソ連圏の生徒や人たちと違って、公の場で話す習慣や訓練のないまま大人になり、また、相手の話が終わって初めて発言するという文化に育ったため、人の話の腰が折れないからかと思います。Periodo silenziosoの期間は、人の出身地や性格によっても異なるのですが、もし間違いを恐れておいでなら、間違ってもいいので、話をしてみてください。言葉は自分が能動的に使ってみて、初めて話せるようになるもので、語学学校では他国籍の生徒さんが、いっぱい間違いもするのに発言されるのに驚かれると思うのですが、今はそれでいいと思います。毎日学んだ言葉を使って、だんなさんとの会話との中に取り入れたりもして、頑張ってくださいね。

わたしも、Patataさんと、いつかお会いできる日を楽しみにしています♪ 
by milletti_naoko | 2013-10-04 10:33 | Francia & francese | Comments(5)