イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

祝読者600人達成とサイト引越検討

 と言っても、どちらもこのエキサイトブログの話ではありません。イタリア語を勉強している方やイタリア文化に興味のある方の参考になればと、2008年12月以来、まぐまぐから発行しているメールマガジン、「もっと知りたい! イタリアの言葉と文化」と、そのバックナンバーを中心に掲載しているYahoo! ホームページの話です。

 わたしがイタリア文化に魅かれ、イタリア語を勉強し始めたのは1999年8月で、今から14年前の話です。当時、わたしが住んでいた愛媛県にはイタリア語を学べる学校はなく、イタリア語の学習教材も数えるほどでした。そして、NHKラジオの電波も届かない山あいの小さな町に住んでいました。

 日本におけるイタリアブームと、日本家庭へのイタリア料理の浸透が始まったのは、日伊相互の貿易が盛んになり、中田選手の活躍が見られた2000年頃からではないかと思います。日伊間の文化・商業交流のための催しが成功し、まだユーロ導入前のイタリアでは、リラに対して日本円が強く、また、ユーロが導入されたばかりの時期は、ユーロに対して円が健闘していて、イタリアへの旅行や留学がしやすかったということがあるかもしれません。それを反映してか、イタリア語を履修科目とする大学の数が一気に増え、学習教材も、年々多様化してきているようです。

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 このメルマガを発行しようと考えた頃、わたしはペルージャ外国人大学で、イタリア人を中心とする学生たちに日本語・日本文化を教え、一方で、シエナ外国人大学で、外国語としてのイタリア語教授法を学ぶ大学院課程の卒業を控えていました。ペルージャ外国人大学では、留学仲間との交流や、教育実習・アンケートを通じて、イタリア語を学ぶ日本の方が直面しやすい、さまざまな問題や悩みを知ることができました。

 日本にいるイタリア人が少なく、外国語としてのイタリア語教師を養成する環境も整わない日本では、たとえばただイタリア人だというだけで、あるいは日本の方で、理由はともあれ、少しイタリアに留学していたというだけで、イタリア語を教える職についている方も多いようです。一方、イタリアには、せっかく、ペルージャやシエナの外国人大学で、イタリア語教育のために必要な知識や実践法を学んだのに、仕事が見つからない若者が何人もいます。かつてイタリア語教育の需要が高まったときに、文系の大学を卒業しているから、中学・高校で教える資格があるから、あるいは、大学や語学学校に親戚がいるからという理由で、採用され、特に自己研修をするわけでもなく、そのまま居座っている先生も多く、力とやる気に満ちた若者が参入しにくい、できない状況になっているからです。もちろん、日本にせよイタリアにせよ、教えるための素養が最初はなくても、生徒に教えることを通じて、自分でも努力を積みながら、今ではすばらしい授業をされる先生も多いことでしょう。

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 そもそもイタリア語という言語自体が、基盤はダンテやペトラルカ、ボッカッチョなど、フィレンツェの13~14世紀の文人の作品にあるとは言え、実際に、イタリアという国の統一言語、標準語として誕生したのは、わずか150年近く前の話であり、その後、各地の方言やマスメディアの影響もあって、変化が著しい言語なのです。日本のどんなにすばらしく、教授経験の長い先生も、逆に最近のイタリア語の用法や発音などの変化に、常に対応することは難しく、また、こちらで社会言語学の先生が言われるように、イタリアの言語変種は多く、さまざまな表現や語彙の場面による使い分けも複雑で、これは、実際にイタリアで何年か生活してみないと、把握するのも大変だろうということもあります。外国語は確かに、その国に暮らしたり、留学したりしなくても、身につけることが可能です。わたし自身、実際、留学経験なしに、実用英検1級を取得し、通信教育でイタリア語の上級講座を修了しています。おかげで、イタリアの語学学校では入学時から上級クラスに入ることができましたが、それでも、初めのうちは、言葉を選んでゆっくり話していて、思いのままに話せるようになり、テレビニュースの聞き取りに困らなくなるまでは時間がかかりました。そして、どういうときに、どういう表現や語彙を使うのがふさわしいのかがつかめるまでには、数年かかりました。

 イタリア語をまったく勉強しないままにイタリアに来て、イタリアで移民として生活しながら身につけた人のイタリア語はどんなふうに発達するかを追跡調査し、この場合のイタリア語の動詞や接続詞の一般的な習得(acquisizione)の順序を調べて、イタリア語を外国や学校で学ぶ場合にも、一番学習(apprendimento)の効率がよく、脳にとって自然な習得順序であろうから、応用しようという研究があります。近年、イタリアにおけるイタリア語学習・教育をめぐっては、言語学(linguistica)の一分野として、こうしたlinguistica acquisizionaleの研究も進んでいます。幼い我が子のイタリア語の習得を細かく控えて、第二言語としてイタリア語を学習する場合の習得と比較する言語学者もいます。

 また、近年ヨーロッパでは、外国語学習においては、学習者自身が主体的に学習活動を計画して行う主人公であり、学習内容は文法一辺倒ではいけないけれども、実用性ばかりを追い求めて、会話やすぐに役立つ表現ばかりを与えるべきでもなく、学習者が必要とするのが何かを主軸として、文法とコミュニケーションを両輪として、バランスよく進めていくのがよいと考えられ、こうした考え方が、ヨーロッパ言語共通参照枠に反映されています。また、この参照枠自体が、外国語学習や教育・能力検定試験の基盤・基準となるため、その応用を通じて、さらに欧州全土に浸透しつつあります。

 今ではかつてとは比較にならないほど、日本でもイタリアやイタリア語の情報があふれるようになったことと確信してはいますが、イタリアにおけるイタリア語教育のこういう新しい研究や新しい動きは、日本にいてはなかなか、また、イタリアに暮らしていても、手が届きにくいのではないかと思い、せっかくこちらの大学や大学院で学んだことを、できるだけ多くの人に役立てていけるように伝えていけたらと考えて、このメルマガの発行を始めました。同時に、時事問題やテレビニュース、歌、映画など、さまざまな新鮮なイタリア語の学習教材を、提供していきたいという思いもありました。せっかく日本の方に興味のある話題があるとき、その一時の好奇心は勉強の意欲にも大いにつながるので、イタリアからの今の情報を現地の言葉で伝えつつ、さらにそれを学習教材として活用していただきたいという気持ちがあったからです。

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 メルマガ第1号の発行から約5年。わたしのメルマガにおける学習教材の紹介には、シエナやペルージャの外国人大学で学んだ知識や教材の作り方、授業の組み立て方だけではなく、かつて愛媛県立高校で国語を教えて、新規採用研修と試行としての一部新任教員への初任者研修という二重の研修を受ける機会に恵まれたことをはじめとして、12年の間に、多くの先輩・同僚の先生方から教わった言語の読解・鑑賞の教え方や力のつけ方、また、自分が、かつては英語・ドイツ語・ポルトガル語・ギリシャ語を、今はフランス語を、1か月かじっただけの言語もありますが、いろんな形で外国語の学習に取り組んできた、そういう学習者としての経験も反映されています。

 好きこそものの上手なれ。

 昔高校で教えていたとき、大先輩が、模試対策を中心に教えていたクラスよりも、わたしが生徒の書いた感想文を取り上げたり、黒板に絵を描いて、ふきだしに入る主人公の言葉を発表させたりしていたクラスのほうが、結果的に偏差値平均が高かったということが何度もありました。イタリア語学習の動機はともあれ、どうせ勉強するなら、学習対象を楽しむこと、好きになることも、少しでも早く、そして少しでもしっかりと身につけるための大きな要因です。メルマガで、歌や映画、わたし自身がいいなと思った詩を取り上げることが多いのは、そういう理由からです。

 話がそれますが、移民を対象にしたイタリア語力の調査でも、イタリアやイタリア人・イタリア文化に対して寛容で、受け容れる度合いが高いほど、イタリア語の力もつきやすく、逆に、わだかまりがあると、力がつきにくい上に、すぐにイタリア語が化石化しやすいという結果が出ています。最近はブログを通じて、結婚や仕事のために、特にイタリアに興味があったわけではなく、イタリアに暮らさなければいけなくなったという方が多いことを知り、実際にお会いする機会もありました。「結婚前には両目を大きく開いて見よ。結婚してからは片目を閉じよ。」というのはトーマス・フラーの言葉ですが、イタリアに暮らすのも、どうせ暮らしていくことになったのであれば、できるだけ困ったことは受け流し、いいところを見ていくようにした方が、自分やご家族のためにも、そして、精神的にもイタリア語学習のためにも、大切だと思います。

 今、この記事を書きながら、これまで自分が書いた記事を振り返って、書こう書こうと思いながら、大学の本を読み直して、復習をしっかりしてからと気合いを入れすぎて、発行を決意したとき、一番書きたかったことの一つであった「移民のイタリア語習得に見る、定着しやすい動詞の学習順序」について、まだ書いていないことに気づきました。反省としては他にも、入門の方にも上級の方にも、何か得るところがある内容にと欲張りすぎるあまりに発行が遅れてまばらになったこと、そして、ブログに時間をかけすぎて、メルマガの発行がおろそかになっていることがあります。もともとブログを始めたのは、メルマガには添えられない写真が添えられるので、メルマガの副教材にしようという意図からだったのですが、生来書くのも人と言葉を交わすのも好きだったので、ブログの執筆に夢中になってしまったのです。

(思うままにまとまりのない文章をこうして書いてきて、どうもブログの記事よりも、メルマガの記事にした方がよさそうだ、それとも、あとでメルマガの記事としても発行しようかという気になってきたのですが、それはさておき、)

 5年間、こうしてこつこつ書いてきたメルマガの読者数が、数か月前から600人を超えました。長い間愛読してくださっている皆さん、そして、登録して参考にしてくださっている皆さん、ありがとうございます。

 サイト引越を検討しているのは、メルマガを始めてしばらくしてから、イタリア語を学習する方やイタリア旅行を考えている方に役立つサイトをと考えて作ったYahoo! Japanのホームページです。以前から、素人のわたしにはページ作成が難しく、メルマガのバックナンバーの掲載や目次の変更にも苦労していたため、当初の予定に比べて貧相な、結局は、バックナンバー紹介が中心のサイトになってしまっていました。さらに今回、作成に使うジオクリエーターに変更があって、アクセント記号つきの母音を打ち込んでも、上書・保存の際に、勝手にふつうの母音に変換されてしまうという問題が生じました。今は、Yahoo!の側から回答を待っているところなのですが、ブログの方がずっと記事の作成が容易である上、せっかくホームページを持っていても、それを活かすほど活用もできていないので、いっそこのYahoo!のサイトからブログに引越をしようかという気になってきました。メルマガの過去記事を、新たにブログの記事として発行することを通して、校正をし、写真や修正を加えることもできるし、より多くの方に見ていただける上、メールを通じてよりも、読者の皆さんからの意見や質問を受けやすくなると思うからです。広告を非表示にするため、Yahoo!には毎月525円、エキサイトブログには毎月250円払っており、イタリア語学習教材などの広告収入で、業者に払った料金だけは何とか回収しているというのが現状ですが、Yahoo!に払っている金額を思うと、他者のブログの有料プランがそれほど高いとも思われません。

 昨日からいろいろインターネットで検索してみて、最初は、エキサイトブログは慣れて使いやすいけれども、読者を増やすにはアメーバブログがいいのかなと考えていたのですが、最初は、アメブロやFC2ブログを勧める記事に多く出会い、エキサイトには難をつける記事が多くありました。それで今度はアメブロかFC2かで調べてみると、前者は制約が多く、後者は自由で使いやすいけれども、アダルトサイトも多くて、信頼性に問題があるというサイトもあります。この二つよりは自前のサイトが作れるワードプレスがいいという記事もありますが、わたしの技術と使用目的では、他社ブログで十分でその方が便利だという結論に行き着きました。そうして結局は、使い慣れてもいるし、カテゴリの上にタグもあって便利なので、エキサイトブログにしようかなという結論に至りつつあります。

*追記(2013年11月4日23:25)
 イタリア国内でも海外でも、外国語としてのイタリア語の教育法を専門的に学んだ人が、その資格を認められ、生かすことができるように、それを通じて、イタリア内外での、外国人へのイタリア語教育の質が格段に向上するように、賛同されるようであれば、次の嘆願への署名をお願いします。(↓↓)
- AVVAZ.org Petizioni della comunità - Riconoscimento ufficiale della figura professionale dell'insegnante di italiano per stranieri L2/LS

Dal dicembre 2008 pubblico le newsletter mensilli per i giapponesi che vogliono conoscere di più la lingua e cultura italiana. Da qualche mese ho più di 600 lettori abbonati :-)

Chi è s'accordo, firmate la petizione qui sopra per favore!

メルマガ関連ページ・記事へのリンク
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*追記(2020年2月23日): 2019年3月末のヤフージオシティーズのサービス終了に伴って、このイタリア語学習メルマガのバックナンバーを、このブログ、「イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia」に移行中です。
- イタリア語学習メルマガ第20号 「イタリア語の歴史とダンテ」

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Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by ayayay0003 at 2013-11-05 12:09
こんにちは。
なおこさんのイタリア語に対する愛情痛いほど感じます。
私自身は、語学学習から逃避してしまっている方なので、尊敬と羨望
のまなざしです。
それでも、海外旅行へ行くと、いくらツアーとはいえ全く現地の言葉をしゃべらないということはありえず、イタリアでは「Grazie」、「Prego」の
会話が嬉しく次に行くときには、「もっと単語だけでも覚えていこう」という気になります。
イタリアと日本の違いのひとつは、「あいさつ」の多さだと思います。あいさつというか、「ちょっとひと声」かけるのがイタリアでね。街で、広場で、お店で、ホテルで、ちょっとした「あいさつ」ですごくお互いにいい気分になれるのって素敵ですね~♪
Commented by milletti_naoko at 2013-11-05 18:51
アリスさん、ありがとうございます。でも、尊敬していただくほどのものではなくて、おしゃれが好きな人、料理が好きな人がいるように、わたしは昔から言葉や言葉を学ぶこと、教えることが好きなんです。

アリスさんのおっしゃるように、あいさつや感謝の言葉一つで気分が変わりますよね♪ 旅行者が現地の言葉を使って表現するならなおさらのこと。イタリアの方も、アリスさんのイタリア語のお礼の言葉を聞いて、うれしかったと思いますよ。アテネのホテルでは、フロントの女性がわたしがわずかでもギリシャ語を勉強していたことに感動して、ことさらに親切にしてくれました。昔勤めていた高校に来ていたAET(英語指導助手)の先生が、「日本の大きい町では僕に話しかけてくる人も少ないし、話してきても英語ということが多かったけれど、今住む愛媛の小さい町では、皆があいさつしてくれて、それに似日本語や方言で話しかけてくれて、とてもうれしい。」と言っていたのを思い出します。
Commented by kazu at 2013-11-07 17:06 x
なおこさん、こんにちは。メルマガの発行に大変なご苦労がありますね。私は会社で秘書業務をしていますので、社長が発行するメルマガの管理もしています。メルマガは毎日発行、おまけに有料なのでとても気を遣います。なのでなおこさんの大変さもよく分かって、頭の下がる思いです。 今、イタリア関連のメルマガは3本購読していますが、なおこさんのメルマガが一番中身があって読み応えがあり、とても勉強になっています。やはり国語を専門に学んだ方の言語に対する知識と理論は凄いと端々に感じています。一人旅行がしたいという理由で勉強し始めたイタリア語ですが、なおこさんがおっしゃる通り、当初学んだことが旅先で生きることは少なく、生きた言葉を話すには何が必要か、最近になってやっと分かってきた次第です。お話があちこちとめどないですが、これからもメルマガを楽しみにしています。最後になりましたが、600名の読者登録、おめでとうございました。
Commented by milletti_naoko at 2013-11-07 17:07
かずさん、うれしくお優しいコメントとメルマガの講読をありがとうございます。有料で毎日でしかも社長さんのメルマガとは、とても大切なお仕事をされていますね! わたしのメルマガは、できるだけ多くの人に読んでいただきたいという思いがあるので、今のところは無料なのですが、有料となると毎日書かれる社長さんも、扱われるかずさんもさぞかし大変だろうとお察しします。

メルマガ発行のときにも、直接書いていなくても、ペルージャとシエナの外国人大学で学んだ外国語教育の基本と、自分がつくづく感じていることを反映させています。それは、言語の基本単位は、単語や単文ではなくてtesto、伝えたい内容がまとまった発言や文章や会話であるということ、一方的に教えられることより、自分で発見したことの方が、あるいは自分でたどり着かずともいったん頭で考えてから答えを知った方が定着しやすいということです。(つづく)
Commented by milletti_naoko at 2013-11-07 17:08
かずさんへ(上からの続きです)

それから、初級の方には読みづらいのを承知で、読みの片仮名表記をしないのは、ただでさえ母語の影響を受けやすい発音は、片仮名という日本語の発音体系を反映した文字で表記すると、この日本語の発音やアクセントの学習転移が大きくなり、学習初期にこれに頼ると、日本語化した読みやアクセントから脱け出しにくくなるからです。質問やメールをくださる読者の方には入門・初級の方も多いのですが、中級・上級の方にも読み応えがあって、かつ入門の方でも何か学べるものをと考えすぎて、発行が遅くなるきらいがあるのですが、かずさんのように楽しみにしてくださる方がいらっしゃるのが、ありがたいです。ありがとうございます。
by milletti_naoko | 2013-11-04 21:18 | Lingua Italiana | Comments(5)