イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

西仏アパート映画その2

 ヨーロッパ連合に属する国では、皆がヨーロッパ連合で話される、少なくとも三つの言語を話せるようにしよう。国を超えて、若者たちが他国の大学でも学べるようにしよう。そういう風に乗り、他国の大学で学ぶヨーロッパの学生たちがたくさんいます。ここペルージャでさえ、約10年前に、まだ留学生だったわたしが、新しいアパートを探していたら、日本の友人の同居人に、ルーマニアからエラスムス計画でやって来た留学生がいたりしました。

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 昨晩テレビで見た西仏合作映画では、フランスの若者が、エラスムス留学生としてバルセロナに赴き、イギリス・デンマーク・ドイツ・イタリアなど、さまざまな国の留学生たちと、アパートで生活を共にします。

 何かの手続きをするのに、必要な書類が分からず、たらい回しにされ、言われた書類を必死で用意したら足りないものがあると言われること。就職にはコネが物を言うこと、そして、そういうコネに頼って就職をしようとする若者やそれを推奨する親がいること。冒頭の場面から、なんだ、こういうのはイタリアに限った話ではなくて、フランスでもあるのだと思いました。文化や価値観の違う若者たちが、一つ屋根の下で暮らしながら繰り広げていく物語に、かつてやはり、いろんな国が出身の同居人たちと、同じアパートで暮らした日々を思い出しました。


 パッチワークのような映像や、わざと早送りをして見せ続ける映像。何だか目まぐるしくて、ごちゃごちゃした印象を与えるのですが、さまざまな文化を背負う若者たちが時を過ごすバルセロナの町や、皆の青春が交錯しあう混沌とした様子を、意識的に、そうした映像を通しても伝えているのかもしれないなと思いました。

 実は、この2か月の間、CDを聞き続けているBien-direの11・12月号で、主人公を演ずるロマン・デュリス(Romain Duris)が取り上げられ、この映画、『L’Auberge Espagnole』については、内容や人気を博したことについても、触れられていました。ただし、映画の題名までちゃんと理解することができたのは、診療所での待ち時間を利用して、トランスクリプトを読んだおかげです。映画自体は、特に冒頭部分で、映像にしても、話の進み方にしても、ひどく落ち着かないという印象を受けたので、もし、こうして記事に取り上げられていなかったら、途中でチャンネルを換えていたかもしれません。ちなみに、主人公の恋人役として、アメリを演じたオドレイ・トトゥも登場しますが、彼女も、Bien-direで取り上げられていました。

 イタリア語版の題名は、『L’Appartamento Spagnolo』で、昨晩見た番組も、基本的にはイタリア語に吹き替えられていましたが、主人公がかじりかけたスペイン語では、教えてもらった道を聞き取れずに困る場面では、話者の言葉がそのままスペイン語で流され、アパートの同居人たちが、共通言語として英語で話す場面では、音声は英語で、イタリア字幕が出ていました。この映画については、アマゾンイタリアで手に入るDVDは英語とイタリア語のみ、フランス版はフランス語のみとなっています。

 2002年と言うと、ちょうどわたしがイタリアで留学生活を始めた年です。もう11年前の映画ですが、現代にも通じるものが、十分にあると思います。若いときに、こうやって異文化の中に飛び込み、自分自身が理解しにくい外国語や、さまざまな文化の中で試行錯誤する。エラスムス計画による留学は、そういう経験を通じて、若者たちを、自国の殻や枠に閉じこもらない、ヨーロッパ各国に限らず、さまざまな世界の文化に対して柔軟に対応できる、そういうヨーロッパ人を育ててくれているのではないかと、この映画を見て、感じました。シエナ外国人大学の大学院の授業で、ヨーロッパ連合の政策の一環としての多言語教育やエラスムス計画について学んだときには、単なる理想や方針と思えたものが、虚構の作品ではありますが、この映画を通して、主人公たちの日々が、自分自身の留学生活や他国の学生との出会いとも重なって、現実味を帯び、各国の足並みがそろわないように見えるヨーロッパでも、何かが基盤から変わりつつあるのだという希望が見えた気がしました。

LINK
- amazon.co.jp - スパニッシュ・アパートメント [DVD]
- amazon.fr - L'Auberge espagnole (DVD)
- amazon.it - L' Appartamento Spagnolo

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by poirier_aaa at 2014-01-18 20:40
なおこさん、こんにちは。
この映画、わたしも最近観ました。予備知識もなく、ほとんど期待もせずに観たのですが、学生時代特有の自由さ、不安定さ、いろいろなものを模索している感じがとてもうまく描かれていて、ずっと忘れていた大学時代のことなどをたくさん思い出しました。続編もあと2作出ているんですよ、ご存知ですか?

それから↓の作品に出て来るファブリス・ルキーニですが、個人的にかなり気になっている俳優です。特に、この人のフランス語は滑舌が素晴らしくて、ひとつひとつの音が感動的にクリアなんですよ。去年「Alceste à bicyclette」という映画に出演して、モリエールの「人間嫌い」の台詞をいくつも読み上げているのですが、これもフランス語のリズムが素晴らしかったです。機会があったら是非ごらん下さいね。
Commented by milletti_naoko at 2014-01-20 04:13
梨の木さん、こんばんは。おっしゃるとおり、青春時代の心や将来の夢に対する揺れ動きや自由や、そういうものが、物語の筋だけではなくて、映画のさまざまな面に反映されていますよね。最初は見ていて、目が回るような印象を受けたのですが、だんだん物語の中に引き込まれていきました。続編、気になります。これからテレビで放映される予定の予告を見ていたら、やっぱりロマン・デュリスが出演する映画があったので、ひょっとしたら続編かもしれませんね。機会があれば、ぜひ見てみたいと思います。

ファブリス・ルキーニ、いい味を出しているし、表情や、彼が演じる役柄が好きです。Alceste à bicyclette、つい最近、イタリアの映画館で、例によって残念ながらイタリア語吹き替えで見ました。いつかそのことも記事にしようと思っているのですが、最後の最後で、結局人生を悲観的に捉え、人間不信でいる方が正しいような終わり方をするのが気になりましたが、途中はとても楽しめました。(つづく)
Commented by milletti_naoko at 2014-01-20 04:13
梨の木さんへ(上からの続きです)

ファブリス・ルキーニの出ているほかの映画では、1年ほど前にやはりテレビ放映で見た『若きモリエールの冒険』(イタリア語題の日本語訳ですが)が、とてもおもしろくて、主役ではありませんでしたが、気に入りました。台本も出ているようだし、台本とDVDを買って、フランス語の学習教材にしたいなと思っています。もう少し基礎力をちゃんと身につけてからの話ですが。ファブリス・ルキーニのフランス語の発音がそんなふうにすばらしくて聞き取りやすいのであれば、なおさらのこと! イタリア語では、出身地やイントネーションの違い、発音の仕方の俳優の癖が分かるようになったのですが、フランス語ではまだまだとてもそんなところまで分かりませんので、梨の木さんの情報、とても助かります。いつかフランス語で、Alcesteも見てみたいと思っています。ありがとうございます。
by milletti_naoko | 2014-01-17 23:59 | Film, Libri & Musica | Comments(3)