イタリア写真草子 ペルージャ在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

生きている生かされている

 先週の金曜日、山道を運転していて、砂利道にハンドルを取られ、ハンドルを切りすぎて、蛇行運転をしたあげく、車が崖から転落してしまいました。あっという間のできごとで、左手の岩壁に車がぶつかりそうだからとハンドルを切ったのに、車が方向を転換しないので、ハンドルを切りすぎたために、右手にあった崖から車が落ちてしまったのです。

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 道路走行中のわたしの最後の記憶は、岩にぶつからないようにとハンドルを右に切ろうとしたところまでしかありません。忘れてしまったのか、意識がなかったのか、そのあとは、気づくと、いつのまにか、車がひどく急な斜面をゆっくりと下っていて、手前にある木にぶつかって、そうして、止まりました。

 雨天に高速で走りすぎると、ハンドルで操作ができず、危険な事故につながりやすいということは、教習所でも学び、そのために起こった死亡事故のニュースも何度も見聞きして、知っていました。まだ日本に暮らしていた頃、スノータイヤをつけてはいたものの、急に凍結した道路に出くわして、車が滑り、恐い思いをしたこともあります。一度、冬の夕方、夫の車で山を登っていたら、凍った雪で滑った車が道から外れ、そのまましばらく雪の上をずり落ちたものの、幸いそのままそこに停まって、ほっとしたことがあります。遠い昔の同僚から、落ち葉の上に駐車していた車が滑って川に落ちたと聞いたこともあるし、つい最近、家の前の急坂で、車の右前輪が落ち葉の上に載ってしまい、滑ってしまって、困ったこともありました。

 けれど、残念ながら、砂利道で、砂利にハンドルを取られることがあるということは、後からインターネットで調べると、その危険を説いたページはいくつもあるのですが、まったく知りませんでした。つい最近、新たに砂利をたくさん敷いたばかりの道は、その金曜日まで、雨がまったく降らぬ日が続いたために、特に危険な状況にあったようです。しかもわたしの車は、タイヤが小さく、地面と接触する面積も少ないのです。山道のカーブを曲がるのに、カーブに駐車された車が1台あったので、狭い道の中央を通って曲がり、その車の横を通り過ぎたあと、では車を右に持っていこうとしたら、ハンドルが効かず、右手にある木にぶつかりそうになりました。砂利にタイヤが浮いたような状態になってしまって、ハンドルが効かないので、ハンドルを切ってはいけない、止まらなければいけない、そういう状況だったのですが、何だか変だ、ちょっと調子が悪いのかなくらいに思って、ハンドルを大きく左に切ると、ようやく車は左を向いたものの、今度は、左側の岩壁に衝突しようとしています。そのとき、ハンドルを大きく切りすぎたのか、あるいはブレーキを踏んだために、車が滑ったのが原因なのか。気づくと車は、ガードレールなどない道の右手の崖の上へと落ちたものの、幸い、崖の斜面を覆っていた藪がクッションとなり、車は転倒することもなく、ゆっくりと下方へずり落ちて、木に当たって、止まりました。

 急に傾いた衝撃で、地面に落ちていた携帯電話を、やっとのことで拾い上げ、先に目的地に着いていた夫に電話をすると、まもなくわたしの左手にあるドアを開け、すぐに降りるようにと促す夫が、そこにいました。夫は近くの山の斜面から、わたしの車が落ちるまでの一部始終を目にして、叫び声を上げてすぐに駆けつけ、斜面を駆け下りて来てくれたようです。夫の隣りにいて、道路に舞い上がる砂ぼこりと落ちていく車だけを見た友人が、そういう夫の様子に驚いたのだと、後で語ってくれました。

 車の前方はすっかり壊れはててしまい、今日(予約投稿なので28日です)、ディーラーを訪ねると、車の内部を修理するだけでも、3800ユーロかかるということでした。それだけ壊れてしまいながら、車がすべての衝撃を吸収して、燃え上がることもなく、わたしを守ってくれたのです。落ちながら車が木にぶつかった衝撃のため、むちうち症や肩・背中・腰の痛みが、しばらくひどかった上に、今もまだ残り、崖の急な斜面を登っていて、滑り落ちて作ってしまった擦り傷も、まだ癒えていません。

 事故が起こらなかったのであれば、それはそれに越したことはないのですが、砂利道を、しかもわたしの小さな車で走る危険性を知らなかったわたしが、山道を走ることは少なくないわけですから、いずれいつかはこういう事故が起こっていたかもしれません。事故の際に、見ていてすぐに駆けつけてくれる人がいたこと。命を失っても、まったく不思議ではないような状況にありながら、今もこうして無事に生きていること。何よりもそれに感謝したいなと思いました。ちょうどお彼岸でもあり、亡き母や、この時期に、今のわたしよりも若い歳で亡くなった恩師が救ってくれたようにも、また、自分は生かされているのだと、もっとていねいに、感謝をしながら生きなければいけないと、教えを受けたような気もしました。車が崖から落ちた瞬間の記憶がないわたしよりも、崖から落ちるのをその目で見た夫の方が、おそらくはずっと恐ろしい思いをしたことと思います。

 命あることの大切さや、生かされているという感謝、生きている間に、もっと大切な人たちに、ご縁があって共に過ごすことの多い方たちに、そして、世の中に、何かできるようであればと、つくづく感じました。とは言え、体の痛みや心の奥に刻まれた恐怖、今週から始まった学校の日本語の授業などで、あっという間に1週間が過ぎ、恐怖がまだ、どこか心と体の奥底に残っている気がします。この記事は予約投稿で、土曜の朝から日曜にかけては、リミニに友人たちを訪ねます。気心の知れた友人たちと、くったくのない話をしながら、恐怖に固まった心の底をさらにほぐすことができたらと、願っています。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented at 2014-03-30 01:20
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ayayay0003 at 2014-03-30 10:44
おはようございます。
なおこさんがそんな怖い思いをなさっていたとは知るよしもなく、心から御見舞い申し上げます(((^^;)
何度も何度も読ませていただきました。一週間を経過してようやく語れるようになられたのですね。
そのような大きな事故にあわれたら本当に体は勿論のこと、精神的なショックはいかばかりなものかと心配です。
大きい怪我(骨折や内臓の損傷等)はなかったようですが、まだまだお身体ご自愛なさってくださいませ(*^^*)
なおこさんのことを本当に優しくサポートされているご主人様がいらっしゃいますので一安心です(^-^)
遠くに住んでいてなにもできない私ですが、いつもなおこさんのことを案じていますのでどうか一日でも早く事故の傷が癒えますように。
さしつかえなければ、もっと弱音をはいてくださいませ(^-^)
Commented by クロちゃん at 2014-03-30 16:14
なおこさん、こんにちは♪
えっ、えっ、えー!!!
たいへんな思いをされましたね。('◇'*)
砂利道の恐怖は私も若い頃に経験したことがあります。
心身に負った傷、早く治るようお祈りいたします。
リミニでリフレッシュしてください。
Commented by けるる at 2014-03-30 22:42
花粉症の記事でお世話になったけるるです。なおこさんの落ち着いた文章を、そんな目に遭われたとは信じられない気持ちで読んでいたのですが、本当にびっくりしました。ご主人が近くにいらっしゃって、そしてご無事で何よりです、本当によかったですね。車の破損状況を見て、気持ちを文章にするまでには時間がかかったことと思います。気持ちの面でも、体の面でも、どうかご無理はなさらないでくださいね。

最近あまりの忙しさに自暴自棄になりがちだったのですが、なおこさんの記事を読んで、生かされているという気持ちを忘れずにいたい、としみじみ思いました。ありがとうございます。
Commented by とすかーな at 2014-03-30 23:33
なおこさ~ん!大変ことが!!心臓バクバクしてしまいました。
大事故だったのに、重篤なケガもなく済んで本当に良かった。
授業などでゆっくりできないと思いますけど、心も体もゆっくりしてくださいね。
Commented by toto at 2014-03-31 00:29
なおこさん、具合はいかがですか? 何よりも、無事であったこと、安心しました。読んでびっくりしました! 旦那様は一部始終を遠くから見て、気が気ではなかったことでしょう。
なおこさんにはまだまだすることがあるんですよ。だからこうしてここにいる。リミニのお友達と会うこともそのひとつ。誰もがなおこさんがそこにいてくれることを喜んでいるはず。
こういうことの後は無理に癒そうとせず、自然にまかせて、身体と心の声に耳を傾けながらいつも通り過ごして下さいね。まずはこの週末のリミニ滞在が楽しいものでありますように!
Commented by gianca at 2014-03-31 05:07
Naokoさん、ご無事で何よりです。
私も車の前輪2つが崖から出てブラブラして、全身から水につかっような大量の汗が出て、もうダメだと思った時に、気を失ってしまって、どう、この危機を逃れ救われたのか、わかりません。車も崖の間に止まっていて。今話をしても、誰も信じてくれません。「眠くなって、崖の近くに車を止めて、悪い夢でも見てたんじゃあないの。」といわれ前輪を落としてぶらぶらしていた記憶が、しばらく生々しく、思い出すたびに、恐怖を感じていました。わたしも、目に見えない力に助けられたように思うのです。
Commented by Masami at 2014-03-31 06:04
なおこさん
まずはご無事であったとのことで心からホッとしております!
車が崖から落ちたときの記憶がなかったとは言え、
仰るようになおこさんの中で少なからずとも計り知れない恐怖が残っていらっしゃると思います。
まずはどうかくれぐれもお大事になさって下さいね。

リミニのお友達とお会いになって、
なおこさんに少しでも笑顔が戻っていることを心より願います。


Commented by milletti_naoko at 2014-03-31 07:19
鍵コメントの方へ、お優しいお言葉と応援のポチをありがとうございます。おかげで少しずつ、心と体の元気を取り戻しつつあります。
Commented by milletti_naoko at 2014-03-31 07:19
アリスさん、こんばんは。ありがとうございます。昨晩、友人宅で少し固めのマットレスで眠ったら、肋骨が傷んだので、ひょっとしたらひびか何か入っているかもという心配はありつつも、いろんな痛みは幸い少しずつ消えつつあります。事故に遭ったことより、助かったことの方をありがたく思っています。お優しいお言葉、ありがとうございます♪
Commented by milletti_naoko at 2014-03-31 07:19
クロちゃん、こんばんは。クロちゃんも、やっぱり砂利道で怖い思いを経験されたことがあるんですね! 片方が崖ではない道で、危険を学べておけていたらよかったのですが、幸い、九死に一生を得られたことを、ありがたく思っています。リミニでは、きれいな庭や海を見て、リフレッシュできました。ありがとうございます♪
Commented by milletti_naoko at 2014-03-31 07:19
けるるさん、こちらこそ、どうもありがとうございます。先週末からわたしも、毎日ひどく慌しい日が続きそうですが、無理をしないように気をつけます。けるるさんも、どうかすてきな1週間になりますように。
Commented by milletti_naoko at 2014-03-31 07:20
とすかーなさん、ありがとうございます。わたしも心気動転しましたが、一番そういう思いをしたのは夫だったのではないかと思います。大きな怪我もなく、命が助かったのが、ありがたいことです。
Commented by milletti_naoko at 2014-03-31 07:20
Totoさん、ありがとうございます。おかげで少しずつ、体も心も元気を取り戻しつつあります。(たまにはいいかと甘いものをたくさん食べたら、花粉症の症状がぶり返しはしましたが、おいしかったからいいかなと。)お優しいお言葉をありがとうございます♪
Commented by milletti_naoko at 2014-03-31 07:20
Giancaさんも、それはこわい思いをされましたね! こんな状況でという状態でも、うまく命を取り止めるということはあるのですよね。何事もなかったようで、本当によかったです。気を失われたなんて! 昨晩話していたら、友人の中にも、雨の道路で車がスピンして大破したのに、幸い怪我もなくすんだという人がいました。車というのは、便利だけれども、危険と隣りあわせなのだとつくづく感じました。優しいお言葉をありがとうございます。
Commented by milletti_naoko at 2014-03-31 07:21
まさみさん、ありがとうございます。やっぱり終始気をつけていなければいけないし、心にも時間にも余裕をもっておかなければいけないなと反省もしました。皆さんのおかげで、少しずつ少しずつ、気持ちの整理ができつつあります。
Commented by kishie at 2014-03-31 17:21
ご無事で本当に良かったです。特にこの街、この国では本人の運転技術や意識だけでは回避できない運転の難しさがありますよね。電灯の少なさや、道路の整備の甘さ、砂利道、坂道、数えあげたらキリがないほど改めて痛感する毎日です。そういう状況のなか前向きに運転にトライされてきた事が分かるからこそ、怖い思いをされただろうし、悔しい思いもされただろうとお察しします。直子さんのおっしゃるようにまずは無事を喜びましょうね。
Commented by fusello at 2014-03-31 18:55
naokoさん、こんばんは。
不幸中の幸い、大怪我を負うことなく無事であったことに安心いたしました。お忙しい毎日とは思いますが、どうぞゆったりとした時間を持つこともお忘れなく。事故のせいで「あれも出来なかった、これも出来なかった」なんて考えること禁止ですよ!
Commented by milletti_naoko at 2014-04-01 01:00
きしえさん、ありがとうございます。あっという間のできごとだったのですが、本当にひやりとしました。無事を喜び、これからはさらなる安全運転に努めるつもりでいます。
Commented by milletti_naoko at 2014-04-01 01:14
Fuselloさん、ありがとうございます。本当に不幸中の幸いだと思います。悔いが残らないように、してみたいことを、今までよりさらにいろいろしてみたいという気持ちになりました。
Commented by KEIKO at 2014-04-01 01:48
なお子さん、本当にたいへんな目に遭われたんですね!!今日、娘が出発して、今ほっとしてブログを拝見し、びっくりしました。記事を拝見しながら、私まで心臓がドキドキしていました。本当にご無事で何よりでした。

皆さんのおっしゃるとおり、ご自分が思う以上に、心身に受けたショックは大きかったことと思います。こんな時は、優しいご主人や、お友達と過ごす時間が一番の癒しになりますね。しばらくはゆっくりなさってくださいね。
Commented by milletti_naoko at 2014-04-01 02:19
けいこさん、ありがとうございます。週末は、仕事や体の痛みでできなかった掃除や授業の準備をするために家に残ろうかとも考えていたのですが、こういうときこそ気分転換が必要だろうと、結局は行くことにしました。行ってよかったなと感じています。お優しいお言葉をありがとうございます。
Commented by lucien518 at 2014-04-04 04:30
こんにちは。しばらくぶりに訪問させていただいたら、事故の記事で本当にびっくりしました。心からお見舞い申し上げます。アッシジの話などを読むとき、なおこさんのお住まいの近くなんだなあ...のんきに想像していました。おそろしい体験は簡単には消え去らないと思いますが、一歩一歩...5400€は確かにイタイですね。ここの物価を考えると...ご無事だったのが何よりです!!!
Commented by nagisamiyamoto at 2014-04-04 12:23
なおこさん、初めまして。
ときどきお邪魔させていただいていたのですが、「あれから12年」の記事を読んだあと、「???」となり、そこからさかのぼりながらここの記事にたどり着きました。事故は本当に怖いですし、助かった有難さや周りの人々に支えられてなんとかこのつらい経験を乗り越えていただけたら何よりです。なおこさんはステキなご家族&ご友人に囲まれていらっしゃると思います。ご無事で本当によかったです。私も在イタリア12年ですがいろいろありますね・・・。スロースタートでゆっくり心身ともに日常の生活に戻ればいいですね。
Commented by milletti_naoko at 2014-04-05 15:47
Lucien518さん、お見舞いの言葉をありがとうございます。体の痛みも大部分が去り、心も落ち着いてきました。いつかLucien518さんたちがアッシジにいらっしゃる日が楽しみです♪
Commented by milletti_naoko at 2014-04-05 15:49
なぎささん、お優しいお言葉とコメントをありがとうございます。わたしも、時々なぎささんのブログは実は拝読していました。事故や死は、本当に隣り合わせなのだと、今回はつくづく感じました。なぎささんもイタリアに12年住まれているんですね! なぎささんの案内で、フィレンツェを観光できる方たちは幸せですね。
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by milletti_naoko | 2014-03-29 23:59 | Vivere | Comments(26)