2014年 04月 11日
ベネチア・ヴェネツィア
イタリアで「ベネチア」と言っても、それがVeneziaのことだと分かってくれるイタリア人は少なかろうと思いつつ、わたしがあえて「ベネチア」と書くのは、「ヴェ」や「ツィ」という見慣れぬ仮名が二つもあると、日本語として、見た目にも響きとしても美しくないと感じるからです。すでに「ベネチア」という呼び名が根づいていたのではという気持ちと、そうして、伝統的な標準イタリア語の発音に従うなら、「ヴェネッツィア」だろうという思いからです。イタリア語で、zの文字で表される/ts/の音は、母音にはさまれると、標準イタリア語の伝統的な発音では、/tsts/と二重子音になります。
一方、北イタリアでは、従来、二重子音も単子音として発音する傾向があります。現代では、経済的に優位に立つ北イタリアの発音が、マスメディアを通じて浸透し、そのため、かつての標準イタリア語では、文字、z・sci・gn・gliで表される子音が、母音にはさまれている場合は、二重子音となるとされていたのが、現代では、そういう場合にも、単子音として発音する、北イタリア風の発音も、標準語の正しい発音として、受け容れられるようになりました。そこで、従来、標準イタリア語の発音とされてきたヴェネッツィアに加えて、ヴェネツィアという発音も容認されるようになりました。
服装や靴、掃除の仕方にも、人によって、好みや癖があるように、今回の記事では、わたしがベネチアと表記する理由を、説明しているだけです。冒頭にも述べましたように、どの表記でも、たとえば、ベニスやヴェニスでも、地名表記としては可能なので、表記は一人ひとりが、自由に選べばいいと思っています。今日、あえてこんな記事を書いたのは、外国語としてのイタリア語教育専門家の資格を持ちながら、イタリア語の発音と異なる「ベネチア」という表記を好む理由を、説明する必要を感じていたからです。
昨日の日本語の授業で、生徒さんから、「ヴェネツィアやフィレンツェという地名に、教科書に載っていない片仮名を使うのはなぜですか」という質問を受けて、その理由や、外国の地名や外来語の表記の揺れを説明をしたときに、この「ベネチア・ヴェネツィア表記問題」を、思い出したからでもあります。
そのときは、従来の日本語には存在しない子音や音節を、原音にできるだけ忠実に表記しようとして、こういう仮名が使われるようになったのだと説明しました。そして、たとえば、イタリア語や英語でも、「富士山」や「ふとん」の「ふ」を、fuという自国語に存在する似た音で置き換えて、表記・発音しているように、日本語でも、従来は、/v/・/tsi/のように、日本語の音韻体系に存在しなかった子音や音節は、日本語に見られる似た子音や音節で置き換えていたのが、近年、原音に近い表記を尊重し、好む傾向が見られるようになったのだ、話しました。そして、どちらの表記でもいいとされているけれども、個人的には、従来日本語に存在する仮名で表記をする方が好きですと、付け加えました。
すると、言語に対する洞察の鋭い生徒さんは、こんなふうに言いました。
自国語に存在しない音を表記するために、何も、わざわざ新しい仮名まで考えなくても、よさそうな気がします。だって、イタリア語では、地名の原音に近い発音を試みるどころか、LondonはLondra、ParisはParigiと、現地とは違う言葉さえ使って、表現しているじゃありませんか。
言われてみると、日本は確かに、細かいところまで、正確さ・原音への忠実さにとらわれすぎているような気がします。そう言えば、英語でも、FirenzeはFlorence、VeneziaはVeniceと、現地の呼称とは違う名前で呼んでいます。
とは言え、たとえばヴィテルボ、ヴィチェンツァなどの町を、ビテルボ、ビチェンツァと書いてしまうと、何だか響きや字面がまぬけな感じがして、こういう地名は、わたしも、ヴィテルボ、ヴィチェンツァと、書いています。結局、わたしも、主義というよりは、主観や好みで、どう書くかを決めているようです。
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1. ベニス 2. ヴェニス 3. ベネチア 4. ヴェネツィア
Tutte e quattro le parole qui sopra indicate significano la stessa cosa.
Potete indovinare?
Sì, tutte indicano la città di Venezia; in queste parole si vedono gli sforzi da parte dei giapponesi per scrivere in giapponese il nome di città il quale contiene alcune consonanti tradizionalmente inesistenti in giapponese.
1 e 2 derivano da 'Venice', mentre 3 e 4 da 'Venezia'. Nel 1 e nel 3 si usa l'alfabeto, ベ la cui pronuncia è /be/, sostituendo 've' con 'be', cioè con la sillaba già esistita nella nostra lingua. Di recente i giapponesi hanno coniato i nuovi alfabeti per rappresentare le sillabe che prima non esistivano: ad es. ヴェ per indicare /ve/, ツィ per /tsi/, perché neanche la sillaba /tsi/ non esistiva tradizionalmente e nel 3 al posto di ツィ si usa l'alfabeto チ la cui pronuncia si assomiglia a quella di 'ci'.
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関連記事へのリンク
- ベネチアを歩く (20/3/2014)
1月の新春コンサ―トでバロックコンサ―トの記事をのせましたが、あのコンサ―トに出演していた地元出身のバイオリニストのあきさんという女の方なのですが、発音が「ヴェネッツィア」と日本語で言っているのにイタリア語のような発音だったので長くイタリアに住んでいるとそうなるのかしら?という声があちこちから聞こえてきました。何度も「ヴェネッツィア」という言葉が出てきたので今でも印象に残っています。その方は普通に他の言葉もイタリア語的な発音で日本語を話されていたので不思議な感じでした~🌠イタリア在住10年くらいと思います?
私としては書きにくいので「ベネチア」の方が助かりますけど(笑)。
皆さんが「ヴェネツィア」と書かれているので見栄を張って書いてました(笑)。
なおこさんの記事は、本当にお勉強になってありがたいです(^-^)。
いつもありがとうございます♪
表記としてわたしがベネチアを好む一方、ヴィテルボやヴィチェンツァを好む理由としては、他にも、ベネチアはすでに以前から知られていて、その形で定着していたこと、そして、「ヴェ」よりも「ヴィ」の方が字面としても、音としても違和感が少ないことが挙げられると思います。そう言えば、ヴィッツという車も、ずいぶん前からありますよね。
日本語の従来の音韻体系にある子音や音韻、日本語の響きやすでに慣用化されていたことを考えれば「ベネチア」、原音の響きに忠実に表記しようとすれば「ヴェネチア」で、表記は、個人の自由に任されていますし、地名に関しては、マスメディアにおける表記でさえ、すでに確実に日本語の中に定着した地名以外は、揺れがあること、一概にこうせよとは言えないものだと、「外国語の表記」にもあります。
最近は「ヴェネツィア」表記が多くなってきたので、不快に思われる方がいるかもしれないという心配もしながら記事を書いたので、アリスさんのように思ってくださる方がいると知って、うれしいです。こちらこそ、ありがとうございます
私の場合もイタリア語を私の好みや主観でカタカナ表記にしていますね。でも、ずっとヴェネチアと書いていましたが、イタリア語の発音に近くするのであればヴェネツィアだったのですね(^^;)
それにしても、日本語を勉強していイタリア人にこの手の説明はとても難しいですよね。そしてイタリア育ちの娘はどう思うかな?などと思いました^^
↓実は私ヒューグランドの大フャンです!!!
ミジャーナのお宅の近をしばしば通るとは、なおこさんがかなり羨ましいです~(^^)!
サラちゃんが、日本語のこういう現象をどうとらえるかは、わたしも興味深いです。逆に、イタリアの人で日本語を勉強していない人には、まさみさんも言われていたように、Osakaをオザーカと言う人もいるし、サヨナーラとあいさつする人も多いですよね。二つの言語を母国語に持つサラちゃんは、どう感じて、それぞれの言語でどう発音するのでしょうか。
まさみさんも、ヒュー・グラントのファンなんですね! 1年に1度近所に来るか来ないか、そうして、滞在も短いので、来ても車や徒歩で2度うちの前を往復するかしないかということで、うちの近くを通るのはごくまれなことではあるのですが、やっぱりうれしいです♪
結局、ベネチアかヴェネツィアかは、日本のレストランで洋食を食べるとき、ごはんを選ぶかパンを選ぶかの違いに似て、どちらでも好きな方を、皆が選び、そうしてまた時の流れの中で、徐々に取捨選択が起こってくるのだと思います。
確かに難しいですよね。
人によって好みや考え方の違いもあるでしょうし・・・
日本では、外来語が次第に現代語のような形で定着していったりもしますから、表記のしかたもさまざまですね。
私はフランス語は、ネイティブから学んでいたので、
耳から覚えていったという感覚があり、
日本人に、フランス語の単語を日本語的なカタカナ発音表記をされると意味がわからないことがよくありました。
ただ、日本語の会話の中で、フランス語の単語を用いる必要があったとしても、いきなりそこだけフランス語っぽくなるのは、なんだか不自然さや、聞く人に違和感や不快感を与えることもあるのでは、とも思い、気をつけているんです。英語の場合でもそうですね。
音にできるだけ忠実に表記するほうが、音としては正しいのかもしれませんが、
日本で浸透した単語などは、シンプルに表現したほうがわかりやすいのかもしれませんね。
とはいえ、ファッション誌などで、
やたらイタリア語やフランス語っぽいカタカナ造語(?)を定着させようとするのも、どうなんだろうか?って思っているんです~(笑)。
すずさんにもそういうご経験があるんですね。わたしも、日本語は日本語、外国語は外国語で、別々の音韻体系があるものであって、いっしょくたにするよりは、日本語で話すときは日本語、イタリア語で話すときは、イタリア語で、きちんと話をしたり書いたりするように心がけています。片仮名言葉や外来語も、国名や、たとえばすずさんも使われているネイティブなど、他に表現が見つからない場合は仕方がないのですが、そうでなければ、できるだけ、不必要に外来語を使わないように気をつけて、ブログの記事も書いています。(つづく)
日本語というのは、もともと漢字の支えがあって、あるいは和語の組み合わせで、知らない言葉でも、漢字の読みや字面、構成要素である和語で、内容が推測できる言語です。それなのに、次から次へと、日本語には異質な外来語がむやみやたらにそのままの音で、日本語に入ってきて、若い人はともかく、お年寄りには大変だという記事を、すでにわたしが日本に住んでいた10年以上前にも、よく見かけた覚えがあります。パソコン関係のマニュアルを英語から訳すのに、共同方針を見つけず、皆が適当に訳語を考えたために、不適切な訳語が定着したり、いつまでも語彙が一定しなかったりいろいろと問題があるとも、読んだことがあります。
ファッション誌の外来語の多様は、雑誌の名前にしても、それでハイカラ感やおしゃれな洗練された雰囲気を出そうとしているのでしょうが、題名にしても中身にしても、もっと日本語を大切に使ってくれたらと、わたしも思います。
なるほど、ふんふん。いろんなもののミカタがあるんですね。さすがです。私はイタリアに来て、なぜホワイトハウスをわざわざcasa biancaと言うのか、チャールズ皇太子をなぜわざわざCarloとイタリア語名で言うのか不思議に思っていましたが、恐らくイタリアの当たり前の文化としてイタリア語に対する誇りとか重要性を普通に使い分けているのかもしれません。日本で洋画のタイトルが時々邦題に変更されるのは同じ状況ということなのですかね?不思議なお話ありがとうございました。
日本語の洋画のタイトルは、むやみにそのまま片仮名音を連ねようとするきらいがあって、気になっていたのですが、すると、邦題に後から変更されることもあるんですね!