イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

イタリアとブラジル、移民と海と祖国

 イタリアとブラジルと言っても、今回お話したいのは、ワールドカップにおけるイタリア代表の成績ではありません。日本代表の成績については、ザッケローニ監督を、負けたから謝罪や責任を追及して責めるばかりではなくて、これまで愛情と情熱を持ってチームの育成に取り組み、日本文化にも敬意を払ってくれた監督に、わたしは、たとえ敗れてもワールドカップに参加して、強国を相手に点を取れるほどまでに育ててくれた監督に感謝をし、敬意を表したいと考えていますし、日本という国も、結果ばかりを見るのではなく、途中経過や献身を評価し、監督への感謝と敬愛の念を忘れない、そういう国であってほしいと思います。

 今回ご紹介したいのは、19世紀末にイタリアからブラジルに渡った移民の暮らしを描いたテレビドラマ、『Terra Nostra』です。




 1900年前後には、イタリア各地から貧困を逃れようと、北欧や南北アメリカへと移民として渡ったイタリア人が大勢いました。第1話では、こうした移民たちが新天地ブラジルを目指して大海を渡る様子や、胸に抱く希望と不安、そして、移民たちを迎える側のブラジルの様子が描かれています。

 今、同じように希望や不安を抱えて、最悪の状況で海を越え、時には、大切な人を旅の途中で失って、イタリアに漂着するアフリカ難民の姿が、この主人公たちに重なります。



 ナチスに迫害されたユダヤ人を救った人々をたたえながら、時の政府の意向で、こうした難民の船を強制送還することを決めるイタリアと、帰国した難民を待ち受ける政治犯としての死や牢獄、拷問、あるいは貧困や戦争を思います。上のドキュメンタリー映画、『Mare Chiuso』は、難民を故国で待ち受けるこうした状況を描き、

 次の映画、『Terraferma』では、



法律では禁じられていると知りつつ、難民を救うイタリアの海の男たちやその家族の葛藤が描かれています。

 ドラマ、『Terra Nostra』は、途中から、見られるときにたまに見ていたのですが、物語がゆっくり進むので、幸いそれでも筋を追うことができました。イタリアからの移民がまだ差別を受けることも多い時代のブラジルで、主人公たちは、幸い受け入れてくれる職場や知人に恵まれ、多くの苦難に遭いながら、新たな自分たちの人生を、切り開いていきます。

 ドラマの終盤が近くなって、登場人物の一人が祖国のイタリアへと送った手紙の中に、この「Terra Nostra」(わたしたちの土地[故国])という言葉がでてきました。手紙の書き手が、terra nostraと呼ぶのは、生まれ育ったイタリアではありません。汗を流し働いて、新しい暮らしや人間関係を築き上げてきたブラジルのことなのです。「わたしはここを離れない」と言う彼女の言葉と共にに、イタリアに残って働くことを決めた同胞の姿も映し出され、ブラジルが不況に陥ると、祖国へ戻ったイタリア人たちと対比されていました。

 「そういう意味で、このドラマにはこういう題名がつけられていたのか。」と、はっとしました。そうして、今まで12年間暮らし、これからも生きていくであろうイタリアを、迷いもなくこう呼ぶことが、わたしにはできるだろうかと、自問しました。いつか迷いなくそう言えるような自分になりたいと思いました。日本がいつまでも大切な母国であり、原発再稼動の動きや集団的自衛権行使の閣議決定など、最近の日本の政治の行く末に不安を覚え、海外に暮らしながら自分にできることは何だろうと考えながらも。

 このテレビドラマ、『Terra Nostra』は、数か月前まで、イタリアで平日の昼に放映されていて、わたしは、週に2日ほどの割合で見ていました。仕事から帰ると終わっていたことが多く、話の風向きが主人公たちにとって思わしくなかったときなど、見られる日に、あえてしばらく見なかったこともあるからです。本来ブラジルで、ポルトガル語で放映された作品を、イタリア語に吹き替えているため、方言色や俗語的な言い回しが少なく、セリフもゆっくりで、会話の内容も場面や表情などから推測がしやすいため、イタリア語のヒアリングにはうってつけではないかと思います。

イタリアとブラジル、移民と海と祖国_f0234936_4205617.jpg
Tramonto sul Lago Trasimeno 27/6/2014

 写真は、先週見たトラジメーノ湖の夕焼けです。移民たちが希望と不安を抱いて渡っていた海、そして命を落とした何人かの移民の亡骸を受け入れた海を髣髴とさせる写真を選びました。

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Immigrazioni e il mare

Gli immigrati italiani nel telefilm, "Terra Nostra" e i rifiugiati africani nei film, "Mare Chiuso" e "Terraferma".
La foto è del tramonto sul Lago Trasimeno. Penso che riesca bene a simboleggiare il mare che attraversano gli immigrati di ieri e oggi.  
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LINK
- amazon.co.jp - Prime Video - Terraferma / 海と大陸(字幕版)
- Yahoo! Japan ニュース - 「閣議決定では集団的自衛権の行使できない」元内閣法制局長官が断言-憲法や法律が優先、依然変わりなく

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by ayayay0003 at 2014-07-04 08:56
おはようございます。
ザッケローニ監督、私はサッカーにはうとくてあまり知らなかったのですが、3年前の東日本大震災のときにもうすでに監督としていらしたみたいで、そのとき祖国(イタリア)からは帰国するように友人、知人からいわれたみたいですが、彼は日本で監督を引き受けた以上日本に留まり監督を続けると言ってその通りにしたそうです(^-^)以上の話は夫から聞いた聞きかじりの話ですが、大変素晴らしい人格の持ち主だったんだなあ・・・と感動しました~♪たぶん、日本のマスコミがなんらかの記事にしていたのを夫は読んだのでしょう。なので日本では、彼を好意的に称えていると私は思ったのですが、いかんせんあまりテレビやマスコミの報道にうとい私なのではっきりしたことは言えません(笑)
移民の問題は、イタリアではかなりあるのでしょうね(-_-;)
日本で暮らしているとそういう問題、今は在日の外国人が多くなったので昔よりはあると思いますが、あまり考えたことのない呑気な私です~(笑)もっとなおこさんのようにいろいろな問題について考えるようにしなければいけないと思います(-_-;)


Commented by あんずミャミャ at 2014-07-04 12:39 x
ザッケローニ監督は
日本のサッカーを攻撃的なものにしてくれて
私としてはまだ続けてほしかったですけどね…

海に沈む夕日、とってもきれい…

*私のブログはかなり適当なので
なんにもお役にたてないと思いますよ~(^^;
セリフも当然ですがアテレコなので…
Commented by Miwa at 2014-07-04 19:44 x
こんにちは。なおこさんのこのお話を読んで、まだまだ未熟なイタリア語理解力でも是非このテレビドラマみたかったなと思いました。私は40歳までまるで地元を離れることなく暮らしていましたので、去年いきなり外国人ばかりの街に住み始めて、いかに今までのほほんと生きてきたのか身をもって知った感じです。
毎日の様にニユースで移民船がイタリアめざしてやってきている映像をみるたび、なんとも言えない感じになります(特に子供や女性に関して)。イタリアにきて日々の生活の中でたまに気弱になってしまう時もありますが、生き伸びる為とかお金を稼ぐためにこの国を選んできたんじゃないっと自分の選択にほこりをもって生きていこうと、移民の彼らを通して気持ちを新たにしています。
私にとってイタリアは terra mia と感じています。 40年間は日本で思う存分やりたい事をやった感があるというのと、やはり主人との出会いは無くてはならなかったと思えるからです。まだ自分の面倒をみる事で精いっぱいの毎日ですが、将来はイタリアに住む日本人として誰かの役に立ちたいです。
Commented by milletti_naoko at 2014-07-04 23:58
アリスさん、こんにちは。大震災のときに、そういうことがあったんですね。イタリアと日本とでは、対人関係も食べ物も文化も、サッtカーへの取り組み方も、何もかもが違う。監督というのもいろんな面で難しい仕事であって、そういう中でいつも日本や日本文化、そして選手たちへの敬愛を忘れずにいてくれたザッケローニ監督を、わたしはサッカーのことはよく知りませんが、人としてとてもすてきな方だなと思います。こちらにいて最近オンラインで目につくのが、日本語で批判する記事や、イタリア語で日本で批判されているという記事だったりするのが気になっていました。それを逆に応援する記事やメッセージもあって、うれしかったのですけれども。結果や目に見えるものばかりではなくて、目には見えないもの、思いや献身、途中経過も評価できる、わたしは日本というのが、そういう国であってほしい思っています。(つづく)
Commented by milletti_naoko at 2014-07-05 00:00
アリスさんへ(上からのつづきです)

愛媛県にはまだまだ外国の方が少ないという事情もあるでしょうね。前回帰国したとき、松山航空からのバスの車内放送が3か国語でびっくりしたのですが、あれはきっと海外からの観光客のためではないかと想像しています。わたしの場合、自分が外国に暮らしている移民ですから、やっぱり切実な問題です。移民やヨーロッパ市民を国籍で差別する意識があるような社会は、移民のわたしたちだけではなく、イタリア人も、そして、すべての人が暮らしにくい社会ではないかと感じています。生まれる国は自分では選ぶことができない。そんなことあってほしくはないのですが、もし日本が再び原発で世界の環境を汚染してしまうようなことがあったら、政治的に孤立したら、そういうことを考えるたび、特定の国籍の人たちに対する偏見や差別意識も他人事とは思えません。もちろん、自分が関係あろうとなかろうと、それではいけないのだという意識は持ちながら。
Commented by milletti_naoko at 2014-07-05 00:02
あんずミャミャさん、同じように思っている方が大勢いらっしゃると知って、うれしいです。ありがとうございます。

いえいえ、わたしたちはうちの周りに猫はいてもきちんと飼ったことがないので、どうしてやったらいいのかな、どういうことが好きなのかなと思うことが多くて、そういうときとても参考になります。
Commented by milletti_naoko at 2014-07-05 00:16
みわさん、もともとブラジルのテレビドラマがイタリア語に吹き替えられたものだからか、しばらくはYouTube上で作品が見られると思うので、ぜひできるときに1日1話(約48分)とかその半分とかご覧ください。わたしも最初の方は見たことがなかったので、昨日初めて第1話を、今日はさっき帰宅してから第2話の半分を見たのですが、歴史的状況なども含めてよく描けているのではないかと思います。放映中にご紹介しなかったのは、毎回見ていたわけではなかったし、人間関係が修羅場になってしまって、これはいったいどうなるのか、人に勧められるものだろうかと、特に、ドラマを描くその視点や物語の展開に、黒人・イタリア人に対する差別的意識や偏見があるかどうか、それが気になって、それを見極めるまでは、結局最後に話がとりあえずはハッピーエンドの形で終わるまでは、ご紹介ができませんでした。実は今も、第2シリーズ、『Terra Nostra2』は午後3時頃からRai3で平日に放映されているようですが、わたしは続編を知った段階で、第2シリーズについて、(つづく)
Commented by milletti_naoko at 2014-07-05 00:30
みわさんへ(上からのつづきです)

イタリア語のウィキペディアの説明を読んで、見ないことにしました。忙しかったのと、第1シリーズに比べると、できは今ひとつらしいというのがその理由ですが、なにせ第1シリーズはブラジルで視聴率が70パーセントを超えるほどの人気だったらしいので、それと比べて劣るからと言っても、やっぱり見ごたえはあるかもしれません。来週からはちょうど同じ時間帯にTour de Franceの中継が始まるのでしばらく中断されるようですが、興味がおありであれば、ぜひご覧ください。

わたしもウンブリアやイタリアが第二の故郷だという思いがあり、何だかんだ言ってイタリアという国や文化も好きです。ただ、このドラマに登場する移民たちがブラジルをterra nostraと呼ぶとき、この言葉は彼らにとって新天地への愛情やここで生きていこうという覚悟であると共に、今や自分たちがその新天地のかけがえのない一部であるという自信に裏打ちされているとも思うのです。そういう意味でも、いつかterra nostraと自信を持って言えるようになれたら、みわさんがおっしゃるように、人の役に立てるようであれたらと、わたしも願っています。
Commented by Miwa at 2014-07-05 04:41 x
なおこさん、まだ物語を知らないまま、又なおこさんが自問自答された意味を深くかんがえず、なんだか私は軽率に terra mia と感じるとコメントしてしまった感じがしています。
まだいろんな意味で経験も浅く、主人に頼りながら生活している私は本当の意味で外国で生きるという自覚がまだないんだなとあらためて思います。
ただせっかく縁あってこの国に来たのだから、ここに根を張って生きていきたいと・・・・微力ながら。
ありがとうございます、まずは第一話から見てみます。
Commented by nagisamiyamoto at 2014-07-05 06:24
なおこさん、こんばんは
私は最近以前まであったスリランカの内戦について考えていたところでした。イタリアで初めて住んだ家がスリランカ人のところで、家族でスリランカから『亡命』のような形でイタリアに来ていたんですね。日本人がイタリアに来る場合は結婚や留学、仕事などで『亡命・難民』という形は無いでしょう。生活のために移動した多くのイタリア人たち、友人のアルゼンチン人が渡伊した約20年くらい前の所持金は10€ほどだったそうです。
今も問題になっているランペドゥーサへ漂着するアフリカ人たち。彼ら全ての命がけでの人生、私達日本人としてはよくも悪くもそういう経験をしている人たちは現在少ないと思います。ただこういう事実を知ることはとても良いですし、TELEFILMなどで簡単に見ることが出来るのはありがたいです。
Commented by milletti_naoko at 2014-07-05 06:29
みわさん、いえいえ、わたしはみわさんのコメントが本当にうれしかったんです。つい母国の日本と比べて批判や苦情めいた思いばかりになりがちなイタリアを率直に自分にとって大切なかけがえのない土地だと、同じように思っていてくれる日本の方がいらしてくださるということが、心強かったです。たぶん恋も結婚も異国も、初めはいいところばかりが見えて、そのうち問題もいろいろ見えてくるとは思うのですが、それでも、どんな国にも問題はあるのだし、解決が可能であれば解決し、無理であれば寛容になって、よいところを見て、愛しく思っていけたらなと感じています。夫と一緒に過ごせる時間がこれだけ長いのは(亭主元気で…とたまに思うこともありますが)、仕事と共に、個人の権利や家族も大切にするというお国柄のおかげで、それが反面サービスの質にもつながっているのですが、わたしは日本は行き過ぎで、イタリアと足して2で割ったくらいがちょうどよいのではないかと感じています。

わたしも初めて第1話を見て、引き込まれました。よろしかったらぜひ、お時間のあるときに、ご覧くださいね。
Commented by milletti_naoko at 2014-07-05 07:20
なぎささんは、そんなふうに身近に、つらい思いを抱えて移民として生活されている方がいらしたんですね。外国人に対するイタリア語教育を学ぶ大学や大学院の課程では、教える大切な対象に、こうしたさまざまな理由や経緯でイタリアに暮らす移民がいる上、イタリアがかつては移民を送り出す側だったために、そうして海外に出たイタリア人の子孫へのイタリア語教育も重視しているため、移民をめぐる諸問題や状況や、差別や偏見を打開すべきこと、その手立てについては、大学でもかなり詳しくまなびました。同じ移民と言っても、わたしたちには思いもかけないような恐ろしい状況から身を守るために、イタリアへ来た人もいるのですよね。最後に挙げた映画二つのうち、一つは確か、Amnesty Internationalが主催していた会で映画を見たように覚えているのですが、ペルージャで、あるいはイタリアで、こういう映画が制作され、そして、上映をしようという有志が現れるということは、いい兆しだと思います。政治・行政への国民への不満を外国人や移民に向けさせようとするかのような、外国人や移民についての政治家の言葉やニュース報道の在り方が目立つので、なおさらのこと。
by milletti_naoko | 2014-07-03 21:19 | Film, Libri & Musica | Comments(12)