イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

イタリア語学習の助っ人、Tutto Italiano

 新しいイタリア語の音声学習雑誌、『Tutto Italiano』は、隔月発行で、イタリアの時事問題や文化について紹介し、大半の記事については、その朗読音声やインタビューがCDに録音されています。

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 こちらは第3号、2014年7・8月号の表紙です。

 数年前まで発行されていた、やはり音声CDのついたイタリア語学習誌、『Acquarello Italiano』(下記リンク参照)同様に、
・イタリアの文化や時事問題について、興味深い多岐にわたる記事を紹介し、
・読解・聴解の鍵となる語彙の意味を、英語で説明した語注があり、
・方言色や地方色の少ない、標準語に近い発音・イントネーションで話したイタリア語が収録され、速度ははナチュラルスピードよりややゆっくりで、学習者が聞き取りやすいように、一語一語を意図的にはっきり発音したものもあります。

 ただ、『Acquarello Italiano』が、表紙こそカラーであったものの、中はすべて白黒で、映像はほとんどなく、まれにあっても小さく白黒であり、かつ、記事も中級以上を対象としていたため、入門・初級の人にはとっつきにくかったのに対して、今年から新しく発行された『Tutto Italiano』は、次の紹介映像に見えるように、



・すべてのページがカラーで、大小の写真や絵が豊富に散りばめられ、
・入門者対象に、あるテーマや場所に関わる語彙を絵つきで紹介し、そのテーマに関わる簡単な会話も教材として、誌面および音声CDに収録され、
・学習教材ごとに、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)における該当レベルを、A1、B2・C1などと記してあって、自分に合ったレベルの教材が一目で分かる上、イタリア語検定CILSの受験勉強にもより役立てやすく、
・『Acquarello Italiano』のときには、費用を追加して払わなければいけなかった、収録記事をどれだけ理解したかを問う問題や文法練習問題が、本誌の中に掲載されています。

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Igea Marina, Rimini 6/7/2014

 今号では、夏ということで、A1、つまり入門者を対象に、海や浜辺に関わる語彙や、海辺で交わされがちな会話が取り上げられています。

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Arco Etrusco, Perugia 26/4/2010

 今号でわたしが特に興味深いと思った記事は二つあって、一つはパドヴァの植物園(B2対象)、もう一つはエトルリア人に関する記事(B2・C1対象)です。古代ローマ以前に、最も進んだ、そして栄華を誇った文明を持つと、記事で紹介されているエトルリア人は、ペルージャにも、こちらのエトルリア門をはじめとする数多くの遺跡が残り、トスカーナやラッツィオを旅行中に、エトルリア文明に関わる遺跡や博物館を訪ねることも多いからです。そういう場所での解説は、その地方に関連する歴史事項を重点的に記しているため、エトルリア文明の全体像が逆につかみにくいのですが、今回の記事は、エトルリア人の起源に関するさまざまな説や歴史、芸術作品について、概要を分かりやすく説明しています。昨日、アイロンがけをしながらCDを聞いていて、これはいいと思いました。

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Sacrofago degli Sposi, Museo del Louvre, Parigi 13/6/2012

 わたしが一昨年前、パリのルーヴル美術館を訪ねたとき、限られた時間で見ることができたのはごく一部でしたが、その中で一番わたしの心をとらえたのは、実はこのエトルリア人の作品、チェルヴェテリの夫婦の棺でした。時を越えていつまでも、仲睦まじく寄り添い、ほほえむ表情と、愛情に満ちたしぐさがすてきだなと思ったからなのですが、CDを聞いて、この棺がエトルリア美術の傑作の一つと考えられていると知って、うれしかったです。

 ほかにも、職人がつくるクラフトビールや皮のバッグ、歴史ある人形劇などを紹介する文化記事があり、カモッラ、そしてこの犯罪組織集団に負けまいとナポリ市民が協力して修復に貢献し見学ができるまでにしたサン・ジェンナーロのカタコンベ、アフリカ難民を中心とする移民問題など、さまざまな時事問題が取り上げられています。イタリアで愛されるチョコレートクリーム、Nutellaが、今年誕生から50年を迎えたということで、このヌテッラを擬人化して、「愛しい甘いおいしいヌテッラ」、「おめでとう」と手紙のように書いて、その歴史を語ったユニークな記事もあります。
 
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 初級の方から上級の方まで、そうして、日本で学習する方にも、結婚や仕事などの事情で、イタリア語を十分に学習できぬまま、イタリアに来て暮らしている方にも、幅広い方に役立ついい教材だと思います。ただし、語注は英語で、対訳はないので、初級・中級の方が、質問をできる相手が身近にいない状況で、独学に使うのは、難しいかもしれません。

 Tutto Italianoの1年間の年間購読料(雑誌6冊、60分収録のCD6枚)は、99ポンドです。現在は、もし最初の1冊を受け取って気に入らなければ、2か月以内にその旨を通知すれば、すでに手元にある1冊を返却することなく、購読を中止して、全額の返還を受けることができます。これは、現在は販売後まもないため、こう読者数を増やすためのサービスと考えられますので、いつまでも続くわけではないと思うのですが。

 次のページに、詳しい説明があり、オンラインでの購読申し込みができます。送料については、クレジットカード情報を入力する前に、住所から自動的に計算した送料が、画面に表示されるとのことです、

- Languages Direct – Tutto italiano Audio Magazine – From Italy for learners of Italian

 イタリアで暮らしていると、テレビやラジオ、映画など、無料であるいは安く利用できる音声教材が豊富にはあります。ただ、テレビドラマでは、地方訛りや俗語、いわゆる若者言葉も使われることが多く、テレビの討論番組では、とかく相手の話を後まで聞かずに自分の意見を話し始めたり、二人が同時に話し(叫び)続けたりすることがあります。ニュース番組は、話すスピードがかなり速く、それは、テロップに流れる要約を読者が見ているものという前提で話しているためもあるかと思うのですが、語彙も難しいものが多くなります。流れのあるまとまった話のリズムやイントネーションを学べる教材となるものは少ない上に、存在しても、文字に書き起こしたものがないと、やはり学習の効率が悪く、効果もあまり望めません。イタリアでは、同じ時事問題も、テレビ局や新聞社によって、とらえ方がかなり異なる場合があって、中立の立場で行われた報道を探すのが難しい状況にあります。また、標準イタリア語の発音やイントネーションとは異なる、自分が住んでいる地域の発音やイントネーションを、それが正しいと思って身につけてしまう可能性もあります。わたしがイタリア留学に際して、一度は購読を中止した『Acquerello Italiano』を、大学の学士取得課程に編入後、再び購読する必要を感じたのも、そういう理由からです。

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TUTTO ITALIANO

Nuova rivista bimensile per studiare la lingua e cultura italiana. Gli Etruschi, Napoli contro la camorra, gli immigrati - gli argomenti sono vari e interessanti. Diversamente dall'"Acquerello Italiano" tutte le pagine sono colorate, ci sono molte immagini e alcuni materiali sono fatti per i principianti.
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関連記事へのリンク
- 英伊仏ヒアリングマラソンと注意点 (25/1/2013)
↑ 『Acquerello italiano』の外、英語・仏語の音声学習に役立つ雑誌の紹介、こうした雑誌を使って学習する際の注意点。
- 語学検定と言語観、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR) (20/4/2014)
- イタリアとブラジル、移民と海と祖国 (3/7/2014)

*追記
 まだ夫に聴いてもらっての確認はしていないのですが、実は若干、発音に地方色が出ていると思われる単語があります。いろんなイタリア語に触れるということで、それはいいのですが、「後について読んで、書き写しなさい」と言って読み上げている単語の発音がそれではどうかと気になっているので、これは出版社側に伝えるつもりでいます。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by ayayay0003 at 2014-07-31 15:14
なおこさん、こんにちは♪
語学学習のプロであるなおこさんが、このように詳しく解説してくださると、なるほどな…と知らない世界を垣間見る気持ちです~(^-^)以前の記事にもあったエルトリア人のことなど、歴史に興味のある方にとっては語学学習にとどまらない素晴らしい教材ですね!ルーブル美術館でみられた夫婦の棺のことなどがわかって良かったですね(*^^*)文化を理解するためには、語学学習は必須であることを痛感致します~(^^;
そしてやっぱり、日本人は苦手な英語学習を克服すれば次々と他の語学学習も開けていくものなのだと…(^^;
いろいろと勉強になります(^-^)
いつもありがとうございます~(*>∀<*)
Commented by milletti_naoko at 2014-07-31 16:11
アリスさん、おはようございます♪ エトルリアにヌテッラ、皮のカバン、カモッラに移民問題と、記事が多様でおもしろいし、全面カラーで写真満載というのも、やる気を助け、学習効果が上がっていいと思います。イタリアに暮らしていると、イタリアの情報やイタリア語の音声教材はあふれているように見えて、実は、日本のテレビと同じで、ドラマや映画では地方や現代イタリアが舞台なので方言や俗語が使われたり、言葉をはしょって話したりしている上、討論番組やバラエティ番組では言う文が短く途中で遮られることもあるため、これはリスニングの教材にいいという素材はまれで、あっても、トランスクリプトがないと、聴解や内容理解のが難しく、ディクテーションの練習もできないので、学習効率が悪くなります。ニュースもイタリアではテレビ局や新聞社によって政治色がつよい解釈・報道になりがちで、中立的な立場の報道を見つけるのが難しく、そういう意味では、内容的にもイタリアに暮らしていても学べることが多い教材になっています。(つづく)
Commented by milletti_naoko at 2014-07-31 16:12
アリスさんへ(上からのつづきです)

イタリア語のリズムや語彙を身につけておくためにイタリア語のシャワーを浴びるという意味で、入門・初級の方にもいいと思うのですが、ただ、対訳がなく語注も英語なので、A1・A2以外の教材は難しく、もっと力が伸びてから挑戦ということになるかと思います。

雑誌とCD収録の記事が、テレビニュースと同じで、かたい記事(移民問題・カモッラなど)が先に並び、文化記事(ヌテッラ・エトルリア文明・クラフトビールなどなど)が後に並んでいるため、最初の方だけ読んだり聴いたりすると、何だかおかたい、難しいという印象を受けてしまうのではないかと思うので、目次を見て、興味のありそうなものから聴いたり読んだりするのがいいと思います。英語ができなくても、その悔しさがバネになって他の外国語学習がはかどることもあるのですが、英語ができると、英語を媒介とした教材も利用できて、そういう教材の方に概して日本語で作られたものよりも安く、音声や実際に使われる外国語に焦点が置かれていて興味深い場合もあるので、勉強の選択の幅が広がります。
Commented by あんずミャミャ at 2014-07-31 17:19 x
外国語を学ぶには
文法から入る日本の学習法ではなく
耳から聞いて学習するほうが
早く楽しく学べるし
より実用的に身に着けられるといいますよね。

こうした教材を大学の授業などで
取り入れたら日本の語学力も上がるのに・・・
とおもいました。
Commented by milletti_naoko at 2014-07-31 18:29
あんずミャミャさんがおっしゃるように、イタリアの今を紹介する、写真も豊富なこうした教材が、大学の授業などで、一部でも取り上げられると、学生さんも興味深いでしょうし、力もついていくでしょうに。

わたしは文法も大切だと確信していますが、日本では外国語学習教材というと、「旅行会話」と「文法・単語一筋」に二分化する傾向がある気がします。本来は、音声と書き言葉・文法は、車の大切な両輪であって、音声を大切にしたまとまりのある内容の素材を使いながら、語彙や文法を身につけるべきと考えているので、それが残念です。音声も、単に会話のモデルや教科書にある互いに意味的関連のない独立した文の読み上げではなく、ある程度まとまりのある会話やこうした記事の朗読やインタビューを、繰り返し聞くことが大切だと思うのです。
Commented by suzu-clair at 2014-07-31 22:48
今回の記事、とても興味深く拝読しました。

私も昔は語学学校の会社(学校ではなく企業)に勤めていたので、
外国語習得の方法や教材については、
どういうものがよいのか、つねに思いをめぐらせ、
また、実際に自分自身も外国語を習得していく経験を通して、
いろんなことを思ってきました。

外国語を身につけようとする人が、
やる気を持続させ、
また、実際に現地で通用する生きた言葉を身につけるには・・・?とか、
海外生活で現地で言語を身に付けた人の言葉の中には、
失礼ながら、美しいとは言えない言葉を身につけて帰国して、
自分ではそれがどのように聞こえているか気づいていない人もいたりするので、
そういう意味で、
教材や学習法というのは、けっこう重要ではないかと思っていて。

なおこさんのように、
イタリア語を習得され、
語学をお仕事となさっておられる方のご意見はとても参考になります。
Commented by milletti_naoko at 2014-08-01 06:45
すずさんは、そういうお仕事もされていたんですね。わたしはイタリアの大学や大学院で、外国人へのイタリア語教授法を学んだのですが、言語学や脳のしくみ、異文化間の相互理解の難しさ、移民をめぐる諸問題、移民がイタリア語を現地で暮らしながら、学校や学習書で学ばず身につけた場合の言語の発達の順序、外国語教育研究の歴史などなど、それはもうさまざまな観点から、イタリア語に限らず、外国語を学ぶ・教えることについて学びました。とても興味深かったです。

すずさんのアロマやお花の療法でも、人によって対処が違ってくるように、本当は外国語学習や教育も、本人の学習動機や人柄、それまで身につけていた外国語学習法、母国語などなど、さまざまな要因によって、学習効率のいい教材や勉強法が変わってきます。独学は、そういう自分にふさわしい勉強法や教材を模索しつつ、かつ、怠けがちな自分にはっぱもかけなければいけないので、難しいですが、できたときの達成感はかけがえのないものです。自分もさぼっているフランス語を頑張らなければと思いつつ書きました。
Commented by oliva16 at 2014-08-05 02:25
いつも有益な情報をありがとうございます。
私はアート関連や文芸の方面で翻訳をしたいな、と思っているのですが、それには舞台となっている土地の歴史や、作家の人となりを築き上げた背景を知ることが大切ですね。
Commented by milletti_naoko at 2014-08-05 20:44
Olivaさん、イタリアには文学作品も含めて、すぐれた芸術作品が多いですよね。詩人などでは、自身の人生や生まれ育った土地と作品に密接な関わりがある場合も確かに多いです。作者の人生から離れて作品を純粋に味わうことと、作者の人生も知った上で鑑賞することは、時にどちらがいいのだろうと思うこともありはするものの。
by milletti_naoko | 2014-07-30 23:56 | Lingua Italiana | Comments(9)