イタリア写真草子 ペルージャ在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

ジュール・ヴェルヌと映画『Hugo』、イタリア語版・英語版から

 ヒューゴが駅の大時計のねじを巻き、時刻を合わせるはるか下方で、本屋のラビス氏が客らしき男性と話をしています。イタリア語版・英語版共に、下に付した映像の、初め、それぞれ7秒目、14秒めまでの間に、その会話が収録されています


Monsieur Labisse: Jules Verne!
Uomo       : Uh huh.
Monsieur Labisse: Sì, sì … non è sconosciuto in Francia.
Uomo      : Uno dei nostri migliori.
Monsieur Labisse: Belle illustrazioni.

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ラビス氏: ジュール・ヴェルヌ!
男性  : はい、そうです。
ラビス氏: ええ、ええ……フランスでは名を知られています。
男性  : わが国で最も優れた作家の一人ですよね。
ラビス氏: 美しい図版ですね。
(以上、私が聴き取り、書き取って訳したものです。)

 原語である英語版でも、会話の内容はほぼ同じです。ただし、もともとにぎやかな駅の構内で、主人公の耳に入った、はるか下方で交わされていた会話ということもあって、イタリア語版に比べると、かなり聴き取りにくくなっています。


Man       : What have we here?
Monsieur Labisse: Jules Verne!
Man       : Yes, indeed.
Monsieur Labisse: Not unknown in France.
Man       : One of our finest.
Monsieur Labisse: Very good plates.

 後半はわたしのパソコンの音声では聴き取れず、聞こえた部分を手がかりに検索して、この部分のセリフが記されたページを発見し、自分でも耳で確認してみました。イタリア語訳は、ほぼ原文の英語に忠実に訳されています。Not unknown in France.がイタリア語ではnon è sconosciuto in Franciaと訳されていて、unknownもsconosciutoも辞書の定義は「無名の、世に知られていない」という意味です。「有名である」という意味の形容詞であるknown、conosciutoの語頭に、それぞれ否定を表す接頭辞、un- 、s-がついてできた反意語です。

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 こんなふうに、映画全体の軸となる物語展開とは離れた場面の、奥の方で交わされる会話にも、さりげなくジュール・ヴェルヌへの賛辞が織り込まれているのですが、ジュール・ヴェルヌは、主人公、ヒューゴにとって、亡き父との思い出に関わる大切な作家としても、登場しています。YouTube映像は見つかりませんでしたが、該当部分の英語でのセリフは、検索して見つけることができました。

Isabelle   : By the way, my name's Isabelle. Do you want a book?
       Monsieur Labisse lets me borrow them and I'm sure he could get one
       for you.
Hugo Cabret: No.
Isabelle    : Don't you like books?
Hugo Cabret: No...no, I do. My father and I used to read Jules Verne together.

 ジュール・ヴェルヌの本を、亡き父と共によく読んでいたということを、ヒューゴは、過去の習慣を表すused to+不定詞という表現を使って、語っています。父子は、ヴェルヌの数ある著作のうち、いったいどの作品を読んだのでしょう。同じ本を何度も読んだりもしたのでしょうか。

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 イザベルの養父が、実は、映画の創生期の監督として活躍した映画監督、ジョルジュ・メリエスであることが、物語の進行と共に、徐々に明らかになっていきます。今回の記事を書くにあたって調べていて、初めて、映画の中で、映像が長きにわたって紹介されているメリエスの代表作、『月世界旅行』(原題、『Le Voyage dans la Lune』)が、ジュール・ヴェルヌの小説、『月世界旅行』(原題、『De la Terre à la Lune』)を下敷きにしていたことを知りました。

 少年の冒険、そうしてメリエスの、初期の映画界における監督としての冒険と、パリを舞台に冒険を描いた映画、『ヒューゴの不思議な発明』の中に、フランスの代表的な作家で、数多くの冒険小説を著したジュール・ヴェルヌが、たびたび登場するのは、そういう意味でも、きっと必然なのでしょう。

 この映画は、すでに公開時にペルージャの映画館で見ていたのですが、いい映画で感動したことは覚えていたものの、筋には忘れていた部分も多く、たまたま年末にテレビで放映されたのを見て、再び夢中で見て、感動しました。おととしの夏から、ジュール・ヴェルヌの小説を読み始めたおかげで、今回は、こんなふうに、作品の端々にジュール・ヴェルヌが顔を出していること、メリエス監督の『月世界旅行』の原作の一つも、実はヴェルヌの小説だったことが分かりました。時が経ち、経験を重ねると、同じ本を読んでも感じることや受け取ることが違うことは知っていましたが、イタリアでは2013年2月3日に公開されたというこの映画を、2年後に見て、こんなにいろんな新しい発見があるとは予想もしませんでした。

 ちなみに、冒頭でご紹介したジュール・ヴェルヌに言及する会話は、ヒューゴが生きる目的を語るセリフを含む映像を見つけ出し、言葉を書き写そうと精聴していて、たまたま気づいたものです。はるか下方の会話で音声も小さいため、映像を見つけて最初に視聴したときには気づきませんでした。年末にテレビで再びこの映画を見たとき、わたしの心に最も響いた言葉は、ヒューゴがイザベルに語る言葉であり、上述のラビス氏と男性の会話のすぐ後から始まります。それはいったいどんな言葉か、イタリア語版でも、原語の英語版でも、言語を選んで聴いてみてください。近いうちに、答え合わせができたらと考えています。ちなみに、その一連の言葉の後半部分については、すでに昨日、フランス語版の映像と日本語訳でご紹介しています。

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Jules Verne & Film, "Hugo Cabret" di Martin Scorsese

- Il film, non solo Omaggio al Cinema e al regista, Georges Méliès,
omaggio e diversi riferimenti anche allo scrittore, Jules Verne.
- Conversazione 1
"Jules Verne!" [...] "One of our finest."(Uno dei nostri migliori.)
- Conversazione 2
Hugo: "My father and I used to read Jules Verne together."
- Il film di Méliès, "Le Voyage dans la Lune" le cui immagini vengono trasmesse
in "Hugo Cabret" 'è una parodia basata liberamente sul romanzo di Jules Verne
Dalla Terra alla Luna e su quello di H. G. Wells I primi uomini sulla Luna.'
(' ' - citazione da Wikipedia).
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関連記事へのリンク
- 生まれた理由と生きる意味、映画『Hugo』フランス語版から (13/1/2015)
- 夫婦でジュール・ヴェルヌ (10/1/2015)
- フランス語で読む夏1、ジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』を読んで (2/8/2013)
- 離れ島でサバイバル、仏語で読む『神秘の島』 (7/3/2014)
- 806ページ目の悲喜劇 (30/6/2014)

Riferimenti bibliografici & web
- Subzine. Movie Quotes – Hugo (2011) – Not unknown in France. – One of our finest.
- amazon.co.jp - 映画DVD、『ヒューゴの不思議な発明』 (EN, JP)
- amazon.it – film DVD, “Hugo Cabret” (EN, IT)
- amazon.fr - film DVD, "Hugo Cabret" (EN, FR)

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by chie*co at 2015-01-15 17:05
ジュール・ヴェルヌ・・小学校高学年のころ・・目を輝かせて読みまくりましたよ~~
どれも大好きでした・・=*^-^*=
懐かしいですね~~
本が大好きな子供だったんです・・

今日も・・素晴らしい1日になりますように・・そして・・明日も・・ ず~っと ず~っと・・=*^-^*=~thanks!!

Commented by milletti_naoko at 2015-01-15 19:41
chie*coさんも、子供の頃、わたしの夫や友人のように、ジュール・ヴェルヌを夢中で読まれたんですね! 日本の女性の間にも、ファンが多いと知ってうれしくなりました♪ 「目を輝かせて」、本当にお好きだったんですね~ わたしもその年頃は、うちにあった分厚い世界少年少女全集を読んだり、赤毛のアンやホームズのシリーズを読みふけったりはしたのですが、ジュール・ヴェルヌを読み始めたのは、フランス語の勉強を始めてから、そうして、夫が幼い頃大好きな作家だったのを知っていたからです。幼い頃に出会えなかったのは残念でしたが、おかげで今、夢中で作品を楽しめているかもしれません。

ありがとうございます。chie*coさんもどうか、すてきな1日、そうして、すてきな週末をお過ごしくださいね♪ 
Commented at 2015-01-15 21:12
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by milletti_naoko at 2015-01-15 23:02
鍵コメントの方へ どういたしまして。ごていねいにご連絡をありがとうございます。そうして、いつもながらの温かいお心遣いとお優しいお言葉に、わたしの方こそ感謝しています。いつかお会いできると、わたしもうれしいです♪ こちらこそ、これからもよろしくお願い申し上げます。
Commented by Kei at 2015-01-16 01:25
なおこさん、こんばんは♪
ジュール・ヴェルヌはフランスの有名な作家さんなんですね。
「ふしぎの海のナディア」の原案になった作品(海底二万里)の著者ということでしか知らなかったのですが、きっとフランスではたくさんの人に読まれて楽しまれ、影響を受けた方も多いのでしょうね。
ナディアはだいぶSF要素が織り込まれていましたが、海底に眠る古代遺跡や超文明のテクノロジーとか、冒険心のくすぐられる作品でした。そうそう、船の名前はノーチラス。ノーチラスは「おうむ貝」のことだそうです。日本の古いテレビゲームの「ファイナルファンタジー3」にも同名の潜水艦があったのですけど、きっとヴェルヌの作品からとられた名前なんでしょうね。
凸ぽち!
Commented by milletti_naoko at 2015-01-16 02:49
Keiさん、こんばんは♪ Nautilusは、今わたしが読んでいる『海底二万里』で、主人公たちが乗って旅をしているネモ船長の潜水艦の名前です。オウム貝のこととは思いもしませんでしたが、調べると確かにそうなっています。おお、興味深い情報をありがとうございます。ジュール・ヴェルヌの作品も、日本の明治維新、アメリカの西部開拓時代に生きた人だというのに、100年後に起こる人類初の月面着陸を、コミカルにではありますが描いていたりして、SFの要素があったりします。ファイナルファンタジーも名前だけは聞いたことがあるのですが、その中にも同名の潜水艦があったなんて、日本のアニメやゲームにまで同名の船や潜水艦が登場するとは、やっぱりヴェルヌ作品を読んで魅かれた人が制作に関わったのでしょうね。

ありがとうございます。わたしもコメントに書きはしませんが、コメントを残すときは、Keiさんの記事に限らずどなたのブログの記事でも、必ずランキングや拍手、イイネのぽちをすべてクリックしています。自分がしてもらってうれしいことは人にもしようという気持ちから。
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by milletti_naoko | 2015-01-14 23:59 | Film, Libri & Musica | Comments(6)