イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

21世紀の独裁者

 傲慢かつ高圧的な勢いで話し続けたあとで、ふと表情が改まり、穏やかな声でわたしたちに語りかける。そして、問いかける。

「わたしは独裁者ではありたくない。」
「あなたも時に、あなたの家族や友達に対して、独裁者ではありませんか。」

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Dal filmato di Yasumasa Morimura, “A Requiem: Laugh at the Dictator”

「わたしも独裁者、あなた方も独裁者です。
21世紀の独裁者は、悪人の面構えはしていません。
21世紀の独裁者は、幽霊のようなもので、だれも目で見ることができません。
わたしは独裁者ではありたくない。」

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Foligno, 24/1/2015

 日曜、フォリンニョの現代芸術センターに、日本の写真家、森山大道氏の展覧会を見に行くと、その階下でも、上に掲げた森村泰昌氏の作品のほか、日本・アジアの現代芸術家の短編映画が上映されていました。印象に残った作品がいろいろあったのですが、最近の世相も考え、今日はこの映像をご紹介します。Visioni del mondoという副題にふさわしく、世界(mondo)を独創的な切り口でとらえ、表現していました。

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 さまざまな短編映画が広い会場のあちこちで上映されているのを、移動しながら見たので、初めから見たわけではありません。最初、こうやって軍帽をかぶり、居丈高にどなっていたときは、日本人のわたしでも、しばらく耳を慣らせて集中しないと、何語で言っているのだか分からず、分かってみると、「おまえの母ちゃんデベソ」など、日本で耳にすることのある言葉を取り入れ、いろいろまくし立てているけれども、一貫する主旨があるわけでもないようです。それで、それだけしばらく聞いて、向こうに行ってしまった人も、残念ながら何人かいました。

 わたしも、これはいかがなものかと思いながら見ていたのですが、途中で軍帽を脱ぎ、そのとたんに、冒頭の写真のように表情も話し方も変わり、淡々と説く言葉が胸を打ちました。その独白は英語だったのですが、日本語のセリフはもちろん、英語のセリフもあまり理解できずに鑑賞していたであろう夫も、壁に貼られた説明を見て、感銘を受けたそうです。

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「独裁者になりうるのは、一国家や、一個人だけではありません。
流行や科学技術、多国籍企業、そして、自らがよりよく生き、世を渡っていくために、
たとえ間接的にであっても、他人を利用するすべてのもの、すべての人が、
独裁者になってしまう可能性があるのです。」
「わたしも独裁者、あなた方も独裁者です。
21世紀の独裁者は、悪人の面構えはしていません。
21世紀の独裁者は、幽霊のようなもので、だれも目で見ることができません。
わたしは独裁者ではありたくない。」
(以上二つは、上のイタリア語の説明に引用されたセリフを、わたしが訳したものです。)

 自らの利益さえ上がればよいと、環境の破壊や地域住民の命の安全を無視する企業、私利私欲のために、民の痛みが分からず、民の声を聴かず、突っ走る政治家たち。日本でも、イタリアでも、そうして世界でも、目に見えにくい独裁者を見きわめ、そうして一人ひとりの人々が自らの心に問いかけ、だれかや何かにとってだけ都合のいい世の中ではなく、皆が暮らしやすい世界を築き上げていきたいものです。

今回フォリンニョで上映されていたのは、次の映像で、森村氏ご自身が紹介されている作品の一部だと思います。いつか機会があれば、ぜひ全作品を視聴してみたいです。



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Dittatore del XXI secolo - dal video di Yasumasa Morimura,
"A Requiem: Laugh at the Dictator" (2007):

- "Anche voi, non siete dittatori a volte nei confronti della vostra famiglia e degli amici?"
- "Uno stato, non solo un individuo può diventare dittatore" e "possono trasformarsi in dittature le mode, le tecnologie, le multinazionali e tutti coloro che per vivere meglio sfruttano, anche indirettamente, altre persone."
- "Sono un dittatore anch'io. Siete dittatori anche voil.
Il dittatore del XXI secolo è un fantasma che nessuno riesce a vedere.
Non voglio essere un dittatore."
Dalla Mostra presso il Centro italiano arte contemporanea 24/1/2015
Cerchiamo di riconoscere i dittatori e costruire un mondo migliore dove tutti vivono in pace senza sfruttare nessuno.
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参照リンク / Riferimenti web
- 「森村泰昌」芸術研究所 – なにものかへのレクイエム・独裁者はどこにいある
- Centro italiano arte contemporanea – Daido Moriyama. Visioni del Mondo

関連記事へのリンク / Link all'articolo correlato
- 誘惑が多い睦月のウンブリア (25/1/2015)

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by ayayay0003 at 2015-01-26 22:01
なおこさん、こんばんは^^
なかなか興味深い短編映画ですね~
なおこさんが訳してくださった言葉、やはりこころに響きますね(*^^)v
私も自分の家では夫に対して独裁者になっているであろうし、また逆もあります^^;
こういうことを、言葉に出して言ってもらうと、今まで何の反省もなく独裁者になっていたであろう自分を見つめなおす良いきっかけになったと思います。
こういうことは、口に出して言うことが大切かな?と感じましたよ♪
いつも素晴らしい紹介ありがとうございます♪
Commented by milletti_naoko at 2015-01-26 22:38
アリスさん、こんにちは。途中で表情が変わってからは、一言ひとことが、核心をついているようで、心を打たれました。政治家や多国籍企業については、これはどうしたことかと憤ることも最近は多いですが、自らを省みても、利己心や独裁者的発想や行動というのが、どこかで芽を出してしまうことがあるのですよね。自分自身のこととしても、いろんな意味で、市民としても気をつけなければいけないなと思いました。こちらこそ、いつも温かいコメントをありがとうございます♪
Commented by カンポ at 2015-01-27 18:56 x
こんにちは。
私も娘たちには独裁者になりうるので気をつけねば・・。と思いました・・。「娘たちを利用する」ということはありませんが、私のやり方や価値観で接したり、話を聞かなかったりすることが多いので・・。(どうしても子育てが日本的に・・。いいところもあるんですけどね・・。イタリアではあまりウケがよくありませんが。)

重い腰を上げて(数年間放置してました。)アメブロ以外の外部ブログのお気に入りブックマークの更新をしているのですが、なおこさんのブログもぜひリストアップさせてください。
いつもブログ村経由で訪問させていただいているのですが私のブログに来てくださる皆さんにも読んでほしいな。と思いましたので・・。
Commented by milletti_naoko at 2015-01-27 21:33
カンポさん、こんにちは。うちも姪たちがすぐにケンカを始めたり、食事中に席を立ったりするので、義弟も奥さんも、時にはかなり厳しく叱りつけています。それでも、なかなか聞かないのですから、だんなさんがお子さんの側につき、お一人で応じなければいけないカンポさんが厳しく出なければいけない事情も分かるし、カンポさんのおかげで、お嬢さんたちが然るべき場所では然るべきふるまいができるように育っているのではないかと思います。イタリアの友人も、コンサートや食事の間、席を立たずに静かにしているオーストリアの少女たちを見て、感心していますから、そういうしつけが望ましいという意識がきっと底にはあるのだと思います。イタリアの子供たちはレストランでも席に落ち着いて座らず、あちこち走り回るのをよく見かけますので、何でわたしたちだけという気持ちもあるのでしょうが、将来カンポさんに感謝されるのではないのでしょうか。

リンクはぜひどうぞ。ありがとうございます。わたしもさっそく、カンポさんのブログのリンクをいただきに参りますね。
by milletti_naoko | 2015-01-26 12:37 | Film, Libri & Musica | Comments(4)