イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

姓名でとまどうフランス語、スペイン語

 姓名を記入する、そんな簡単な作業の前にふと手を止め、考えたあげく、辞書を引く。フランス語やスペイン語の書類やサイトを前に、自分の記憶に自信がなくて、そうやって確認作業をせざるを得ないことが時々あります。

 遠い昔、大学の第二外国語として選択したドイツ語を学んでいた頃、「名前」は、ドイツ語ではName、江戸言葉では「なめえ」で発音が似ている、と書いた文を読んでおもしろいと感じたことがあります。江戸弁は別として、これまでわたしが学んだ言語のうち、英語・ドイツ語・イタリア語では、「名前」を意味する言葉は、name・Name・ nomeで、発音はともかく語形はかなり似ていました。
 
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 ですから、フランス語を勉強し始めたとき、驚きました。フランス語でも、名前のことをnomと言わないわけではないのですが、人の「姓」の「名」のを表すのに一般に使われる単語はprénomだからです。

 ラルース百科事典のprénomの定義や説明が興味深いです。定義にはこうあります。

“prénom (latin praenomen)

Nom précédant le patronyme, ou nom de famille, et qui sert à distinguer les différentes personnes d’un même groupe familial.”

Dalla voce di ‘prénom’ dell’”Encyclopédie Larousse”
- http://www.larousse.fr/encyclopedie/divers/prénom/82809

 姓(nom de famille)の前に来るので、「前」を意味する接頭辞のpré-がついて、prénomというのだそうです。そう考えると、名前・姓の順に氏名を記すことが多い西欧で、その順番に着目した名前であるという点では、英語のfirst nameと命名の発想が似ています。

 さらに興味深いのは、その下に書かれた説明で、20世紀までは、Madame、Monsieurなどの敬称や肩書きなどに姓を添えて、人を呼ぶことが多く、prénomを使って呼ぶのは、ごく親密な間柄に限られていたのが、最近ではprénomが、それまでは利用が控えられていた公的な場面でも、nom de familleに代わってどんどん使われるようになってきたというのです。そして、その理由を、公私の境がかつてに比べてあいまい(flou)なり、姓だけでは人を特定するのに不十分になったからではないかと説明しています。読んでみて、言われてみれば、そういう傾向は、日本にもイタリアにもあるので、ひょっとしたら世界的なものではないかという気がしました。

 今回、これだけいろいろ調べて書いたので、将来は、フランス語で姓名欄に記入するとき、もう迷わず間違えずに書けるかもしれません。

 スペイン語でも、姓名を表す言葉が変わっています。名がnombre、姓がapellidoで、どちらも既存の他言語の知識からは、意味も推測しにくいし、記憶もしづらいのです。nombreだなんて、フランス語では「数」という意味ですし、英語のnumberにも似ているため、「名」と言うよりは「数」が頭に浮かんでしまいます。

 ヨーロッパの言語、中でも俗ラテン語から発展・変容してできたロマン主諸言語は、互いに語彙や文法が似ているので、自分が知っている言語から類推して、意味が分かる言葉や文章も多いのですが、ごくごく基本的な語彙で、似た単語の意味が違ったり(イタリア語でfalsi amiciと言います)、語形がまったく異なったりする場合も少なくないので、注意をしなければいけません。

 フランス語はまだまだ勉強中(学習怠け中と言った方が正確です)、スペイン語は昨年サンティアーゴへの巡礼前に1か月かじっただけなので、今回の記事を書くにあたって、特にこの二言語については、手持ちの辞書およびラルースのオンライン辞典を参照にしました。

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Nome, prénom, nombre - cognome, nom, apellido

Prima di scrivere il mio nome e cognome nei moduli o nei siti in francese e spagnolo, devo spesso pensare, ripensare e infine consultare un dizionario. Se viene richiesto il 'nom' in francese, bisogna scrivere il cognome anziché nome, ma nel momento in cui devo scrivere, non ne sono tanto sicura. Quando devo scrivere il 'nombre' in spagnolo, so che non devo scrivere nessun numero ma non sono sicura se la parola indichi 'nome' o 'cognome'...
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参考図書・リンク / Riferimenti bibliografici & web
- 『プチ・ロワイヤル仏和辞典』 (旺文社)
- 『プチ・ロワイヤル和仏辞典』(旺文社)
- 『伊和中辞典』(小学館)
- 『和伊中辞典』(小学館)
-
Larousse Dictionnaires de français / ラルースオンライン仏仏辞典
- Larousse Dictionnaires Bilingues / ラルースオンライン二言語辞典
- Larousse Encyclopédie / ラルースオンライン百科事典

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by snowdrop-momo at 2017-08-27 21:30
こんばんは。
この記事を拝読するのは3度目でしょうか。
そのつど興味深いです。

私もスペイン語はかじった程度なのですが
文法的にはラテン語にいちばん近い言葉かも、と感じた記憶があります。
きっとなおこさんから見れば、イタリア語の方がラテン語に近いのでしょうけれど…

日本も島国でなければ
近隣諸国ともっと近い言葉になっていたのでしょうね。


Commented by milletti_naoko at 2017-09-05 02:39
snowdrop-momoさん、そんなにこの記事を読んでくださったのですね。イタリア半島では古代ローマ帝国崩壊後に、政治的に分断されたそれぞれの地域で、俗ラテン語から発展・変容した言語が生まれ、やがて14世紀のフィレンツェの文豪たちの作品の言語を元に、現代イタリア語が生まれ、スペインやフランス、ルーマニアでも各地で俗ラテン語から発展・変容した言葉が話されているのですが、もともと古代ローマのお膝元であったイタリアはもとより、そこから遠いスペインでは、俗ラテン語からの変容が、たとえばバルカン半島の他の言語の影響を受けたルーマニア語や、発音などの変化の著しいフランス語に比べて少なかったのだと、大学の授業で教わりました。

日本語の独自性とその美しさをしばしば思います。
by milletti_naoko | 2015-04-14 15:51 | ImparareL2 | Trackback | Comments(2)