2015年 07月 18日
日本語どこへ行く2、地名とヴァ行の音
Torino、Milano、Pisa、Napoli、Pugliaは、それぞれ、
トリーノ、ミラーノ、ピーサ、ナーポリ、プッリャとなるはずです。
けれども、わたしが持つ古い『地球の歩き方 イタリア版』に限らず、さまざまな方が書く紀行文やブログを見ても、ほとんどの方が、従来どおり、「トリノ、ミラノ、ピサ、ナポリ、プーリア」と書いています。
それなのに、昔は、「ベネチア」と表記されていた町だけは、できるだけ現地での発音に近づけようという意図からでしょう、「ヴェネツィア」と、従来の日本語に存在しなかった音、ゆえに、五十音表にかつてはなかったカタカナを二つ使って表記する例が増加しています。外国から来たものや地名については、従来の発音に従ってもいいし、現地での発音を尊重してもいいと定められているので、どちらでもいいと言えばいいのですが、このさまざまな都市間の、表記の不統一はどうしてでしょう。
イタリア語ではranaは「蛙」、lanaは「羊毛」で、RかLかによって言葉の意味が違います。veneは「脈」を表すvenaの複数形、beneは「よく」という意味の副詞で、VとBも意味を識別するのに役立ちます。ですから、イタリア人はRとL、VとBを耳できちんと聞き分けることができます。ところが、「蘭」でも「竜」でも何でもいいのですが、日本語のラ行の言葉を、Rで発音しようとLで発音しようと、意味は変わりません。長くアメリカに住む日本からの移民にとってRとLの識別が難しいことを研究した論文には、日本語のラ行の音は、RとLとDの間にある音で、前後に来る音や位置によって、発音が変わると書いたものもあります。そうして、この論文の結論は、大勢の移民にとって、RとLの違いを完璧に聞き取るのは不可能であるが、知識によって、RとLを正しく発音し分けることが可能であるとなっています。
母語で弁別機能がない音を、成人になってから学習する外国語で聞き分けることはとても難しいのです。Vの音は、そもそも従来日本語には存在せず、英語を始めとする外国語のVの発音に近い発音表記を試みるために、ヴァ行のカタカナが、五十音表の付表に加えられたのです。けれども、耳でBとの違いを聞き分けるのが難しく、そもそも日本語には存在していなかったVの音を、「ヴァイオリン」、「サーヴィス」、「ヴェネツィア」と書く人の、どれほどが、原音に近く発音しているのでしょうか。Vという子音は、上の前歯で、下唇を軽く抑えて発音する音です。もし先に掲げたように表記をしても、発音は下唇に歯が当たらず、つまりBのままであるなら、そんなふうに書くのは、いたずらに、日本語の表記を外国風に変えてしまっているだけではないかと思うのです。特に、「サービス」、「ビデオ」に至っては、すでに発音が定着して何年も経つ言葉をどうして今になって、あえてヴァ行で書く必要があるのか。それも、日本語を軽視して、外国語の響きの方が美しいというそういう意識からではないのかしら、と。
たとえば、「ふとん」は外来語として、英語やイタリア語の語彙に入っているし、「富士」は英語やイタリア語で日本を語る文によく登場します。けれども、日本語の「ふ」の子音にあたる音を持たないために、futon、Fujiと、よく似た、自らの言語に存在する子音を使って表現しているのです。ロウソクの火を消すときのように口を丸めて発音する日本語の「ふ」の子音と、V同様に、上の前歯で下唇に軽く触れて発音するFの音は異なる音ですが、それで代用しているのです。実を言うと、日本語でも、たとえばフィレンツェの「フィ」は、イタリア語の原音に近いようで同じではありませんが、それでよしとしています。「フィ」の子音では口は丸くすぼんで開き、上の前歯が下唇に触れることはありませんが、イタリア語の発音では、Fですから、下唇に歯が必ず触れるのです。
歴史のある従来の日本語の音韻体系や表記を、もっと尊重してもいいのではないでしょうか。
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Qualche anno fa per consentire di scrivere le parole straniere e i prestiti linguistici in modo più fedele alle parole originali, in lingua giapponese sono stati introdotti nuovi katakana come ヴァ che rappresentano i suoni che non esistevano tradizionalmente in giapponese e di conseguenza, per molti giapponesi è difficile riconoscere i suoni ascoltandoli e pronunciarli. In passato, il nome di Venezia era scritto ベニス o ベネチア con i suoni e le grafie già esistenti in giapponese, ma ora molti scrive ヴェネツィア introducendo i suoni, /V/ e /TS/ estranei al giapponese. Non solo ... le parole inglesi, 'service' e 'video' sono già utilizzati in giapponese da anni con la scrittura, サービス e ビデオ, ma in questi anni alcuni li scrivono サーヴィス, ヴィデオ, utilizzando i fonemi estranei alla nostra lingua come /V/. Secondo me andrebbero rispettati di più il sistema fonetico e gli alfabeti tradizionali della propria lingua. Anche gli occidentali si usano F per dire il monte Fuji e Futon; poiché il suono della consonante iniziale di tali parole giapponesi non esiste nelle loro lingue, lo sostituiscono con il suono simile esistente delle proprie lingue e fanno bene...
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関連記事へのリンク
- ベネチア・ヴェネツィア
- ベネチアを歩く
以前から、このことは、なおこさんの記事で目にすることでしたので、いつも気にはかけています。確かに、外国語を学習する上で発音というのは、どこの国の人にとっても、母語にはない発音というのが必ず存在して、成人してからでは聞き取りが難しいという問題を抱えていますね!
知識によって、RとLを正しく発音し分けることが可能であるとした論文、凄いですね!
日本語表記は、確かになおこさんの仰るようにガイドブックなどでも、ベネチアがヴェネティアに変わってて、私などはそれに先導されてしまいます。どなたかが、きちんと表記の仕方を統一するようにしてくださるといいですね。言語に対する知識の乏しいものは、そうでないと多数表記するほうに先導されてしまいます(・。・;
ベネチアでもヴェネツィアでも国語の表記上はいいことになっているので、結局は個人の好みに落ち着くのだと思いますが、やっぱりガイドブックがどういう表記を選ぶかは大きいですよね。わたしとしては字面が美しくない気がするし、たとえば英語でもVeniceと自国語で呼んでいるわけだから、従来の呼び名をどうして尊重できないのか、なぞです。ただ、たとえばSilviaという名前などは、本人ができるだけ自分の名前を原音に近く呼んでほしいという思いもあるだろうし、シルビアよりはシルヴィアか、いくらなんでも原音に近づけすぎてスィルヴィアとすると、このスィは五十音の付表にもないし、美しくないし……と、諸事情によって、好みや条件によって一概にも言えないので、やっぱりこの問題はなかなか複雑だと思います。ただ、ずっと気になっているので、一度はわたしはこう考えているということを書いて、他の方にも、もし何気なく書いているようであったら、はたと振り返って考えていただく機会になればと思いました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4
ウィキを丸ごと信用するのは避けているんですが、大ざっぱな風潮を理解するのには役立ちました。