2015年 08月 26日
日焼け、日本語・イタリア語
実は言語においても、日本語とイタリア語では、昔の人が褐色の肌を何に似ているととらえたか、その違いが、それぞれの言語で使われる日焼けに関する表現に反映されています。
日本では一般に「日焼けする」と言い、「焼け」という言葉が、じりじりした太陽の暑さを思わせますが、イタリア語では、「日に焼けて肌が褐色になる」ことを、abbronzarsi (al sole)と言います。そうして、この表現の中には、「青銅、ブロンズ」を意味するbronzoが隠れています。イタリア語学習の強い味方、伊伊辞典、『Lo Zingarelli』には、次のような語源の説明や語義、用例が並んでいます。
abbronzàre [comp. di a- (2) e bronzo; 1340 ca.]
A v. tr. (io abbronzo) – Dare il colore del bronzo: a. i metalli / (est.) rendere bruna la pelle: il sole abbronza la pelle / Anche nella forma pron. (con valore intens.): ti sei abbronzata le braccia.
B abbronzàrsi v. intr. pron. – Assumere la tinta del bronzo / (est.) Divenire scuro di pelle esponendosi al sole o alla lampada a raggi UVA.
そもそも、この動詞は、「青銅色になる、青銅の色を帯びる」という意味だったのが、人が、「日焼けして肌が褐色になる」ことも指すようになったのです。現代イタリア語では、少なくとも日常生活では、abbronzarsiはもっぱら「日焼けする」という意味で使われている気がします。
日本でもイタリアでも、焼けた肌の色は似たような褐色なのに、日本語では「小麦色の肌」と言い、イタリア語では、「青銅・ブロンズ」の色と表現するのが、おもしろいです。青銅は銅の合金なので、含まれる他の金属の種類やその含有率によって、青みのある色になったり、茶色になったりと、色が変わるそうです。奈良の大仏や10円硬貨も、青銅でできているので、イタリア語でabbronzarsiと言うとき、bronzo(青銅)は、褐色または茶色ととらえられているのでしょう。
イタリア語には、こんなふうに、名詞の語根(radice)に、接頭辞a-と接尾辞-are/-arsiがついて、動詞が派生する例が数多くあります。参考までに、日常生活でよく使われるものを、いつくか挙げておきます。a-+bronzoなのに、どうしてbが二つあるのかというと、イタリア語のもととなった俗ラテン語では、このa-はad-だったので、次に子音が続くときは、このイタリア語では表面的には姿を消しているdが、後続子音であるbに同化し、bとなるからです。こういう現象をイタリア語でassimilazione regressivaと言います。
braccio 腕 → abbracciare 抱きしめる、包含する、 abbracciarsi 抱き合う
prezzo 値段、価値 → apprezzare 尊重する、価値を認める
profitto 利益 → approfittare(di) 利用する、 approfittarsi 悪用する
rabbia 怒り → arrabbiare 怒る、 arrabbiarsi 怒る
via 道、行程 → avviare 向かわせる、始める、avviarsi 向かう、動き出す
こんなふうに、イタリア語でどんなふうに言葉が派生するか知っておくと、知らない言葉に出会ったときも、既存の知識と文脈から、どういう意味かが類推できるようになるので、便利です。
イタリアでは再び太陽が勢力を取り戻しつつあり、天気予報によると、ペルージャを含むイタリア中部では、明日から土曜までは晴天が続くそうです。皆さん、猛暑と紫外線には、十分にご注意ください。
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Il Colore della Pelle Abbronzata
in giapponese si chiama komughi-iro (小麦色) , cioè 'il colore del GRANO",
mentre in italiano esso è associato al colore del BRONZO.
La fotografia è della Statua del Grande Buddha di Nara, costruita in bronzo
circa 1300 anni fa.
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- イタリア語学習メルマガ 第8号⑴ 「天気のイタリア語、イタリアの天気予報サイトの使い方」
*2019年5月追記: 今年3月末、ヤフージオシティーズのサービス終了で、下記リンク先の記事を載せていたサイトが消失したため、現在、バックナンバーをこのブログに移行中です。
イタリア語の語の派生やsi+動詞を説明するメルマガの記事
- 第33号「Tabaccheria、店・職業を表すイタリア語」
- 第49号「語構成を学んで、語彙増強 ~動詞と名詞から生まれた名詞(1)」
- 第50号「語構成を学んで、語彙増強 ~動詞と名詞から生まれた名詞(2) 」
- 第51号「語彙増強とイタリアの爪楊枝」
- 第96号「物語を読む4、si+動詞の用法いろいろ、健康とピザと野菜スープ、カッシャのサフラン祭り」
昨日は、ケッパーの可愛いお花ありがとうございました(^^♪
私、ケッパーというのは、実だとばっかり思ってたのでおもいがけなくて、勉強になりました!ありがとうございます。
そして、チンクエテッレの壁にあったとは驚きでした(>_<)
2011年の北イタリア旅行で訪れたからです!
でも、ペルージャにもあるとのこと!
あまり、家の夫にはブログは見せないのですが、このお花は思わず見せてコレよと説明しました(*^_^*)
夫は、今度イタリアへ行ったらそのお花の苗を持って帰ればなんて冗談を言いました(^。^)
ところ変わればで、なかなかおもしろいですね。
日焼けも、なるほど、日本とイタリア(ヨーロッパ)では捉え方が違いおもしろいです。
単語も、ブロンズ色になるといういい方はオシャレで、日焼けすることはオシャレなことという感じも受けますね☆
日本人は、日焼けを嫌いますからおもしろいですよね!
viaという単語はよく目にしてましたので、なおこさんのブログを読んで成程とよく解りましたよ(^_-)-☆
言語の成り立ちから言葉を理解するって大切なことだと思いました(*^_^*)
ありがとうございます♪
こんにちは。
陽に焼ける意味が違いますね。
東大寺は立派ですね、最近奈良に行かないので
懐かしく見ています。
青銅色って不思議な気がしますが
違うのですねぇ~
豆腐のマーボ美味しそう、久しく食べて
いませんが今頃いただくといいですね。
いつもありがとうございます。
石壁でも新しいものではなく、古い壁に育ちやすいのは、その方が根が伸びられるすき間があったり、砂ぼこりや土が間に入っているからではないかしらと想像しています。ウンブリアでもトスカーナでも、こんなにケッパーが育って、壁は大丈夫なのかしらと思うところが時々あります。夏にイタリアを訪ねることがあったら、ぜひ石壁でケッパーの花を探してみてください。南イタリアのパンテッレリーア島では、小さめのおいしいというケッパーを地面に栽培しているのですが、わたしがふだん見かけるのは石壁に育つものです。夫も昨年だったか、花市でケッパーの苗を買ったのですが、育てるのに苦戦しています。
ブロンズは、イタリアでは彫像のほか、教会の鐘にも使われていて、生活・文化に広く浸透しているからというのも理由の一つかと思います。日本で「小麦色」と言うのは、そう考えると不思議ですね。「稲色」より「小麦色」の方が5音で響きがいいし、小麦の方がめずらしいからでしょうか? viaは、旅行者の方がよく見られるのは、「通り」という意味で、町を走る道の名前につく場合だと思います。日本だと「千舟町通り」というように、「通り」という言葉は名前のあとにつきますが、イタリア語では、Via Nazionale、Via Salariaといった具合に、Viaという言葉が名前に先立ちます。
アリスさんも興味を持ってくださったんですね! ありがとうございます。
京都には歴史のある美しい寺社や庭園がたくさんありますが、奈良も古の雰囲気が何だかそのまま残っていそうな雰囲気がいいですよね。そう言えば、まもなく日本に旅立つ日本語の生徒さんが、奈良で鹿が自由に道を行く様子に感激して、ぜひ子供を連れて行きたい、きっと大喜びだと、楽しみにされていました。日本語では「青銅」と訳すので、わたしも薄緑がかった色を想像していて、今回調べてみて、青銅にはいろんな色があり得るのだと知りました。10円玉も、ずっと銅だと思い込んでいたのに、青銅だったとは!
日本ではお豆腐がおいしいので、麻婆豆腐など、いろいろ手を加えない方が、豆腐そのものの味が楽しめていいですよね。
こちらこそ、いつもありがとうございます♪
イラクサは緑の葉に直接触ると、腫れてヒリヒリと痛むので、大変ですよね。それは、イタリアでも同じで、山に散歩に出かけて、せっかく新鮮なイラクサ(ortica)の葉があるのに、軍手も手袋もないので、収穫できないということが、よくあります。ただ、乾燥させたり火を通したりすると、触っても大丈夫なので、イタリアでは、ハーブティーにして飲むほか、リゾットの具にしたり、ラビオリの中に包んだりもするんですよ。ウィキペディアによると、このセイヨウイラクサの乾燥葉は、日本では「ネトル茶」という名で流通しているそうです。今値段を見てびっくりしました。こちらのerboristeriaでは、ずっと安い値で売られているからです。そうそう、イラクサが出てくる童話、わたしも読んだ覚えがあります。何だかなつかしいです。あの頃は漠然と、トゲのある植物を想像していたのですが、このイラクサだったのですよね。
日本語と中国語は、言語類型から見て、イタリア語と最も隔たる言語であるとは、イタリア語教育・学習研究で、よく言われることです。名詞に性・数がありませんし、単に文法上の主語が異なるだけで、動詞の活用が異なるということは、日本語でも中国語でもありませんよね。シエナ外国人大学では、そのため、CILSのA1について、日本語・中国語母語話者用の特別問題を準備しているほどです。そういうイタリア語を、独学で勉強し続けるのは、すばらしいことだと思います。最近、初心を思い出して、もっとイタリア語学習や日本語教育についての記事も、意識的に書かなければと考え始めたところです。イタリア語学習メルマガの方も、もっと定期的に発行していくつもりですし、鍵コメントの方に倣って、わたしもさぼりがちのフランス語を頑張ります! これからも、どうかよろしくお願い申し上げます。