イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

仏語読書と先生・愛人、『悲しみよこんにちは』

 『海底二万里』に続いて、7月30日日曜日には、『神秘の島』を読み終え、その翌日からフランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちは』を読み始めました。

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 就寝前を中心にのんびり読書を進めているのですが、おとといの晩だったか、読んでいて、それまでに読んだ内容と話がかみ合わないと感じる箇所に出くわしました。

 主人公の少女や父親と暮らしているもう一人の女性は、家を取り仕切る家政婦か、少女の家庭教師だと思いこんで読んでいたのに、どうもそうではないらしいのです。と言うのも、3人が過ごす別荘を訪ねて来た女性客が、父子と暮らすこの女性の存在を知ったとたんに、少女にも見て取れるほどに、ひどく動揺したからです。住み込みで仕事をしている女性であれば、こんなに驚くはずがありません

 «Cette villa est ravissante, soupira-t-elle. Où est le maître de maison ?
 — Il est allé vous chercher à la gare avec Elsa. »
 J’avais posé sa valise sur une chaise et, en me retournant vers elle, je reçus un choc. Son visage s’était brusquement défait, la bouche tremblante.
  «Elsa Mackenbourg ? Il a amené Elsa Mackenbourg ici ? »
 Je ne trouvai rien à répondre. Je la regardai, stupéfaite. Ce visage que j’avais toujours vu si calme, si maître de lui, ainsi livré à tous mes étonnements. Elle me fixait à travers les images que lui avaient fournies mes paroles ; elle me vit enfin et détourna la tête.
(Françoise Sagan, “Bonjour Tristesse”)

 そのため、この勘違いを正してからでないと、小説をきちんと鑑賞できないと考えて、冒頭から斜め読みしました。そうして、第1章第2段落を読んでいたときに、読み違えたらしいと気づきました。

 Cet été-là, j’avais dix-sept ans et j’étais parfaitement heureuse. Les «autres » étaient mon père et Elsa, sa maîtresse. Il me faut tout de suite expliquer cette situation qui peut paraître fausse. Mon père avait quarante ans, il était veuf depuis quinze ; c’était un homme jeune, plein de vitalité, de possibilités, et, à ma sortie de pension, deux ans plus tôt, je n’avais pas pu ne pas comprendre qu’il vécût avec une femme. (Françoise Sagan, “Bonjour Tristesse”)

 わたしがこのエルザという女性を家政婦か家庭教師だと考えたのは、このmaîtresseという語を読んでのことだと思います。傍線部を付した次の文で、どうして主人公が、わざわざ状況を説明する必要を感じているのか、不思議に感じたのを覚えています。今になって考えると、同じ段落の続きを読めば気づけたようにも思えますが、初めて読んだときは、deux ans plus tôtが、「2年前」なのか「2年後」なのか、さらに、それは主人公が自らの記憶をたどって語っている現時点を基点としてか、それとも、主人公が17歳だったときを基点としてかが分からず、さらに、à ma sortie de pensionとあるのも、この時点では何のことだかはっきりせず、「ひどく読みづらい、分かりにくい小説だな。」と思いながらも、疑問符を抱えつつ、そのまま読み進めてしまっていたのです。

 とにもかくにも、最初に掲げた女性客が動揺する部分を読んですぐに、エルザはどうやら父親の愛人か恋人らしいと予想はしていました。そういう推測があったので、二度目にこに第2段落を読み返したときは、このmaîtresseという語には、「愛人」という意味があるのだろうと見当をつけました。仏和辞典を引いてみると、案の定、辞書のmaître、maîtresseの項に並ぶ語義の最後に、「C【女性形のみで】①愛人、情婦」とありました。

 というわけで、上に引用した2箇所に、maître (maîtresse)が3度登場することでもありますし、手持ちの旺文社、『プチ・ロワイヤル仏和辞典』から、自分の勉強のためにも、語義を書き写してみます。(Wordに書いた文書を、パソコン画面からStamp RSist キーとCancキーを使って、Paintに画像としてコピーし貼りつけ、Photoshopで修正を加えて、保存しました。)

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 辞書で意味を調べるときは、できるだけ用例すべてに目を通し、声を出して読むようにしています。そうすれば、単語の使い方を学べる上、人間の脳は、単語や意味を覚える際に、文脈や、何か意味のあるまとまりの中でとらえた方が、そうして複数の感覚を動員させた方が(ここでは視覚+聴覚)、長く記憶にとどまりやすいようにできているからです。

 ラルース無料オンラン仏伊辞典のこちらのページで、maître、maîtresseの発音を聴いて練習することができます。わたしはついでに、用例についても発音を聴き、後について言ってみました。イタリア語で該当する言葉が、「先生、親方、大芸術者」という意味については、maestro、maestraであり、「主人、所有者」の意味では、padrone、padronaであり、「長、頭」という意味では、capoであるのが興味深いです。ラテン語の同じmagisterという語を起源としていても、イタリア語のmaestroは語義や使用場面が限定されるのに対して、フランス語では、より多くの語義や場面で使われているからです。イタリア語のmaestraには「愛人」という意味はありません。

 先に紹介した『悲しみよこんにちは』から引用した箇所については、1行目のOù est le maître de maison ? では、maîtreが「主人、所有者」の意味で、わたしが勘違いしたmon père et Elsa, sa maîtressemaîtresseは、「愛人」の意味で使われています。

 一方、Ce visage que j’avais toujours vu si calme, si maître de lui, ainsi livré à tous mes étonnements. という文中のmaîtreは、読んだときにイタリア語からの類推もあって見当がついたのですが、連語として使われています。『プチ・ロワイヤル仏和辞典』に、

être maître de qn/qc      …を思いどおりにできる、支配[掌握]している 
être [rester] maître de soi (-même)   自制する、感情に走らない

とあります。ここでmaître de luiが形容・説明しているのはCe visage(visage s.m. 顔;顔つき、顔色)ですから、ここでは、「感情を表情に出さない顔」ということだと思います。

 辞書を引いたついでに、この頃読みながら気になっていた語、pensionを調べると、女性名詞で、三つ目に「寄宿舎、寄宿学校;寮」という語義があります。なるほど、イタリア語でもpensioneは女性名詞で、「1 年金,恩給 2 食事付き宿泊」までは、語義がフランス語と同じですが、「寄宿学校」という意味はなく、別のcollegioという単語を使います。どうやら、わたしが読書中に読み間違えたり、理解に苦しんだりする箇所には、ラテン語の同じ名詞から派生した語でありながら、イタリア語には見られない用法で使われているフランス語の単語があることが多いようです。フランス語、pensionの発音は、こちらのページで聴いて、発音練習をすることができます。イタリア語風に読んでいたわたしは、発音記号を見て、もっとこつこつフランス語の地道な勉強や復習をしなければいけないなと反省しました。

 à ma sortie de pension, deux ans plus tôtの部分については、 『プチ・ロワイヤル仏和辞典』のtôtの項に、「[副詞] 朝早く、早い時間[時期]に;朝早く(tard⇔遅く)」とあり、

「une semaine plus tôt que l’an dernier  去年より1週間早く」

という例文がありますので、主人公が17歳だった夏(Cet été-là, j’avais dix-sept ans)より2年早く、つまり、「その夏の2年前に、主人公が寄宿学校を卒業したとき」ということではないかと考えています。どなたか教えてくださると幸いです。

 『悲しみよこんにちは』は150ページ足らずで、ジュール・ヴェルヌの小説に比べると、ずっと短いのですが、次々にできごとが起こり、人や動植物、行動、周囲の環境などが具体的に記述される冒険小説と違って、主人公の内面の心の葛藤やとまどいを語る部分が多いために、知らない語がいくつかあると、内容把握が難しくなり、読みづらいという印象があります。まだ24ページまでしか読んでいませんので、感想はまた変わるかもしれません。今のところはおもしろいのですが、題名が題名でもあり、でもせめて、『異邦人』ほど悲劇的な結末を迎えることがありませんようにと願っています。

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Finita la lettura di "L'île mystérieuse", ora leggo "Bonjour tristesse" di F. Sagan.
Ogni tanto trovo una scena incoerente e così scopro di aver interpretato male qualche frase o paragrafo precedente. Ad esempio, un personaggio che mi sembrava un'insegnante o governante risulta in realtà l'AMANTE del padre della protagonista. E' perché qualche parola francese, pur derivata dalla stessa parola latina, ha alcuni significati che non ha invece la sua sorella o cugina italiana; la parola, "maîtresse" vuol dire anche 'amante' e "pension" significa anche "collegio" e così via.
Finora il romanzo è interessante. Spero che la storia non finisca tanto male come "L’étranger".
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参考図書 / Riferimenti bibliografici
- Amazon.it – F. Sagan, “Bonjour Tristesse”, Pocket
- Amazon.fr – F. Sagan, “Bonjour Tristesse”, Pocket
- 旺文社、『プチ・ロワイヤル仏和辞典』
- 小学館、『伊和中辞典』

Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2015-09-09 15:30 | Francia & francese