2015年 09月 25日
真に危険な狂者はだれか シモーネ・クリスティッキ、文通まつり
「不正を告発したら、ここに送られ、人生が監視され、もうここから出ることができず、自分の声はどこにも届かない。」

「精神病院からの手紙」 ~ Lettere dal Manicomio ~
19世紀から1970年代にかけて、精神病院に閉じ込められた患者たちが、思いのたけを、心をつづった手紙は、検閲を受けて相手に届くことがなく、外部からは手紙も物も受け取ることが禁じられていました。9月13日日曜日、モンテ・デル・ラーゴの文通まつり(Festival delle Corrispondenze)で、評価が高く人気もあるシンガー・ソングライター、シモーネ・クリスティッキ(Simone Cristicchi)が、「精神病院からの手紙」とう題のもとに、他の役者たちと共に、この読まれることがなかった手紙の言葉を、わたしたち聴衆に伝えてくれました。

患者たちが問題を告発できぬのをいいことに、病院は、乏しく貧しい食事とも言えない食べ物しか提供せず、文句を言えば、患者を虐待する。
不正を告発した精神にまったく異常のない人が、自分たちに都合の悪い真実を世間から隠そうとする輩によって、精神病院に幽閉され、人生と言葉を奪われてしまう。
科学・研究の名のもとに、患者に実験的治療を繰り返し、昏睡状態に、死へと追いやっていく医師たち。

人間らしい感情や繊細さを持っていたのは、実は、患者たちの方ではないのか。その苦しみや不平の声が届かないのをいいことに、その心や体、命を虐待し、苦しめ続け、良心の呵責さえ感じなかったかもしれない医師や医療関係者こそ、精神を病んだ、恐ろしい、危険な存在だったのではないか。
次々に読み上げられる手紙や演技を通して、患者たちの寂しさや切なさ、苦しみに触れ、そういう思いが胸に迫ってきました。

次のYouTubeの映像で、この舞台、「精神病院からの手紙」をすべて通して見ることができます。最初に紹介があり、舞台が実際に始まるのは2分52秒目からです。
舞台の最後に、シモーネ・クリスティッキが、2007年にサンレモ音楽祭で優勝した歌、『Ti regalerò una rosa』を歌います。歌が始まるのは、上の映像では、35分27秒目からですが、下のビデオの方が、映像が歌の内容に即しているため、歌を理解しやすいと思います。舞台の最後に歌われたために、以前から美しくも悲しい切ない歌だと感じていたその歌の心と哀しみが、さらに心に響きました。
“[…] perché ho paura
Per la società dei sani siamo sempre stati spazzatura”
(Dalla canzone di Simone Cristicchi, "Ti regalerò una rosa")
「いつも恐れおののいている。
健常者の社会では、わたしたちは常にごみくず扱いだった。」
(「 」内は石井訳。以下同様。)
“Ti regalerò una rosa
una rosa bianca come fossi la mia sposa
Una rosa bianca che ti serva per dimenticare
Ogni piccolo dolore” (Idem)
「君にバラを贈ろう。白いバラを、あたかも君がぼくの花嫁であるかのように。
君がどんな小さな悲しみをも忘れるのに役立つ、白いバラの花を一輪。」
患者たちの手紙が披露された直後だったので、以前から美しくも悲しい切ない歌だと感じていたその歌の心と哀しみが、さらに心に響きました。歌は、最後に、語り手が愛しいマルゲリータにあてて書いた手紙であると分かります。「君にこの手紙を残すよ。ぼくは行かなければならない。」と告げる語り手の最後の言葉に、「ぼく、アントニオは空を飛べるのだから」とあるのは、命を絶とうと屋根の上にいて(”sto sul tetto”)、今にも飛び降りようとしているからです。舞台はこの歌のあとに、クリスティッキが背を聴衆に向けて、椅子に上り、今から飛ぼうとするかのように両腕を広げたところで終わります。

研究のため、医療の進歩のためにと、命を冒瀆する医療関係者と、命と自由、尊厳を奪われた精神病院の患者たち。二度とこうしたことが繰り返されませんように。表現の自由、命の尊厳、真の意味で生きる権利を、皆に保証してはじめて、皆が幸せに生きられる社会が来るのだと思うのですが、最近では、日本でもイタリアでも、そうして社会全体で、それとは反対の方向に物事が向かって進んでいるようで、空恐ろしい気がします。社会的に弱い立場にある人が、差別や偏見を受けず、幸せに暮らせる社会こそが、だれもにとって幸せな社会なのだと、かつて日本の高校で人権教育を生徒と共に学びながら教わったのですが、今もそれは真実だと考えています。
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"Lettere dal Manicomio" - Simone Cristicchi 13/9/2015
al Festival delle corrispondenze, Monte del Lago
Follia, crudeltà e pericolo erano dei
medici, infermieri che infliggevano dolori, esperimenti, morte
nei manicomi ai pazienti dalle lettere dei quali
si rivelano affettuosi, sensibili, umani e piuttosto lucidi
nei confronti dei loro persecutori che dovevano curarli.
Uno spettacolo molto bello, i messaggi sono ancora attuali.
Ringraziamento e complimenti per tutte le persone che hanno contribuito
alla realizzazione dello spettacolo.
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おはようございます。
手紙は検閲されて家族には届かなかったのですね。
どこの国でもそういうことがあるのですね。
患者より、周りの人が病んでいたってわかります。
夫の治療をみていて実験されてるって思いました。
新しい薬を使い、説明もつど変わる気がしていました。
お友達やご家族ですごす素晴らしい↓の記事
素敵ですねぇ~シクラメンのお花が美しい~
いつもありがとうございます。
いっしょに過ごせる時間をもっと大切にしなければとつくづく感じています。シクラメンの花がきれいでうれしかったです♪ こちらこそ、いつもありがとうございます。