2015年 10月 10日
ドイツ語、トイレでどうしよう&独伊英仏語Dame談義
日本人観光客がドイツで、必要に駆られてトイレに向かうと、
男性用トイレの入り口には、「紳士、…氏」を意味するドイツ語、Herrの複数形、Herrenが、女性用トイレの入り口には、「淑女」を意味するドイツ語、Dameの複数形、Damenが書かれています。
一方には「へえれん」(入れん)、もう一方には「だめ」と書かれていたために、どちらにも入れずに困ってしまったというお話です。Herrの意味と発音についてはこちら、Dame、Damenの意味と発音についてはこちらをご覧ください。
ちなみに、イタリア語にも、「貴婦人」という意味で使われるdamaという単語があって、その複数形はdameです。damaの発音は、こちらのページで聞くことができます。ちなみに、これまでわたしが一番この単語を耳にしたのは、dama di compagnia「(貴婦人や老人の)付き添い役の女性」(語義は小学館、『伊和中辞典』から)という言葉を通してです。イタリアでは、お年寄りが寝たきりになったり、一人では生活が困難になったりしたときに、寝食などの世話をする人(badante)を雇って、お年寄りが自宅で過ごせるようにすることも、少なくありません。こういう世話をする人は、食事のしたく・掃除・洗濯など家事全般や、下の世話まで請け負う場合もあれば、世話の対象となる高齢の女性が、まだ料理・洗濯など一通りの家事は自分でこなせる上、人に手伝ってもらうのは嫌だけれども、だんなさんが亡くなって一人暮らしで寂しかったり、離れて暮らす子供たちが老母一人では心配だと考えたりして人を頼むため、単に、食事に同伴し、話し相手になって、同じ家で寝起きすればいいだけという場合もあります。そうして、わたしが日常生活でdama di compagniaという言葉を聞くとき、それはたいてい、この後者のような仕事をする女性を指しています。
ちなみに英語でも同様の意味で、Dameという言葉が使われます。(リンクはこちら)米俗語では、単に「女性」という意味もあるようです。ミュージカル、『Guys and Dolls』の中で歌われる『Luck be a lady tonight』という歌の中にも、この言葉が出てきます。マーロン・ブランドの歌うその歌は、次の映像で聴くことができます。
マーロン・ブランド演じる賭博屋が、確か、何か大事な賭けに際してサイコロをふる前に、幸運、あるいは幸運の女神、Luckに対して、「今夜は淑女らしく振る舞ってくれよ。」(Luck be a lady tonight)と呼びかける歌です。(全歌詞は下記リンク参照)
“Luck let a gentleman see
How nice a dame you can be
I've seen the way
You've treated other guys you've been with
Luck be a lady with me”
(Song, “Luck be a Lady” – Musical, “Guys and Dolls”)
「幸運よ、紳士たちに見せてやってくれ。
君がどんなにりっぱな貴婦人(女性)でいられるかを。
君がいっしょに過ごした他の男たちを
どんなふうにもてなしてきたか、おれは見ていたよ。
幸運よ、おれに対して淑女として振る舞ってくれ。」 (「 」内は石井訳)
そうして、この歌の題名が思い出せなくてインターネットで検索していたら、Notre-Dameが検索結果に上がってきたので、DAMEの語源が気になり始めました。手持ちの伊伊辞典、『Lo Zingarelli』 に、「fr. dame, che, dal lat. domĭna (m) ‘donna’; sec. XIII」とあるので、もともとはラテン語で「女性」を意味するdomĭnaから派生した単語であるけれども、イタリア語にはフランス語の単語、dameを経由して入り、13世紀に使われ始めたことが分かります。ちなみに、イタリア語で「女性」を意味するdonnaという単語も、このラテン語のdomĭnaという言葉から派生したものです。
旺文社の『プチ・ロワイヤル仏和辞典』 によると、フランス語のdameは英語のladyに該当する語で、「女性、貴婦人、淑女、奥方」の意味があり、Notre Dameが「聖母マリア」という意味で使われるとのことです。ドイツ語でのトイレの表示から始まって、ノートルダム大聖堂で話が終わるのは何だか失礼なのですが、ドイツ語・イタリア語・英語・フランス語で、このdame(Dame、dama)という言葉が、「女性・淑女・貴婦人」と言った意味を持ち、それぞれの国によって、使われ方が若干違うのが興味深いです。
実は、フランス語でdameと言えばと、わたしの頭にすぐ思いついたのは、日本語にも外来語、「マダム」として入っているmadameに隠れているdameです。仏和辞典には、「…夫人、奥様、《話》ご夫人;貴婦人」という意味が並ぶmadameは、イタリアの百科事典サイトの説明によると、「わたしの」を意味するmaと「奥様、貴婦人」を意味するdameからできた複合語で、古くはフランスの宮廷で、「王あるいはフランス皇太子の最年長の娘」、あるいは、「王の最年長の兄弟の妻」を指していたとのことです。(詳しくはこちら)
*****************************************************************************************************************
Una barzelletta linguistica
Un turista giapponese voleva andare al bagno in Germania.
Ha trovato le porte dei bagni,
ma su una porta è scritta la parola, 'Herren' (che significa 'signori')
e sull'altra è scritta la parola, 'Damen' (che indica 'signore')
e non è riuscito ad entrare da nessuna porta,
perché nel dialetto di Tokyo 'Heeren' vuol dire 'Non si può entrare'
e nel linguaggio informale 'Dame' significa 'E' vietato'.
Nel dialtto di Tokyo, nel parlato dei maschi 'AI' e 'OI' diventano 'EE'.
es. あまい(dolce)→あめえ、 うるさい(rumoroso)→うるせえ
行きたい(voglio andare)→行きてえ、 おそい(lento)→おせえ
***************************************************************************************************************
参照リンク / Riferimenti web
- Songlyrics.com – Guys and Dolls – Luck Be a Lady Lyrics
- アルク - 英辞郎 - dame
- Treccani.it – dama1
- Treccani.it - madame
↓ Cliccate sulle icone dei 2 Blog Ranking, grazie :-)
同じdamaという単語でも、ほんと国によりその文化の違いも手伝ってかいろいろな使い方があるのですね!
私も恥ずかしながら大学の第二外国語はドイツ語でした^^;
なので、Damenという言葉には見覚え聞き覚えがあります。
ドイツは、また新婚旅行でフリ―の旅をした場所でもあるのでそういうトイレとかの単語も一応勉強し直して出かけたとは思うのですが、如何せん大昔なので、もう随分忘れてます(笑)
高速道路の標識や街の中心街へ行く単語、ああ懐かしい思い出です(^-^)
アリスさんにとって、ドイツは新婚旅行の思い出の場所なんですね! いろいろ勉強されて旅も楽しかったことでしょうね♪
まとめ読みさせていただきました。
トイレの、文字だけの表記は、
その国の言葉を知らない人にとっては焦りますね。
でも小話としての「へえれん」「だめ」は、
シャレがきいていて、笑ってしまいました(笑)。
さまざまな記事、どれも興味深く拝読しながら、
その中に織り込まれた、
イタリアの美しい秋のお写真にもうっとりと癒されました。
そちらも、秋が少しずつ深まっているようですね。
指揮者のお話の著書、
私も読んでみたくなりました。
指揮者の方というのは、
本当にさまざまなご苦労があり、
国籍や文化、メンタリティの違う人たちをまとめていかれることは、並大抵のことではなく、
指揮者には人間性も大いに問われる、ということは以前から聞いていましたので、
とても興味深いです。
ぜひ取り寄せて読みたいと思います。
片づけや時間の使い方についても、
うなずきながら拝読しました。
私はときどき、大切な人にご挨拶のはがきを出すことがあるのですが、
お仕事のできる多忙な方ほど、
きちんとお返事をくださるのを感じます。
時間は、あればあるだけを遣ってしまいますね。
限られた時間や空間をどう有効に活用するか、
私も反省が多いので、課題です。
すずさんも音楽がお好きで、よくコンサートに足を運ばれていますものね。それぞれの仕事の世界に、他の仕事をする人には思いもよらないことというのがあるもので、そういう意味でも興味深い本でした。機会があればぜひ!
返事をしなければということ、わたしもつくづくそう感じます。限られた時間・空間だということを、肝に銘じなければと実感しています。