イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

義父母とラヴェルナ、聖フランチェスコが聖痕を受けた聖地

 アッシジの聖フランチェスコは人々の間に入って愛や清貧の教えを説き、志を同じくする仲間たちと小さな教会や庵を建て、修道生活や布教、旅を共にしましたが、森や岩山などを一人歩き、長い間ひとり瞑想や祈りに過ごすということも、よくありました。トスカーナ州、アレッツォ県にあるラヴェルナは、切り立った岩山の上にあり、生前の聖フランチェスコが、その岩や森を祈り・瞑想の地として好んで、過ごしたところです。

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Santuario della Verna 31/7/2016

 夫と二人、あるいは友人とこのラヴェルナを訪ねたこと、ブログの記事に書いたことはこれまでに何度もあるのですが、今日はこの聖地を、初めて夫の義父母といっしょに訪ねました。この写真は修道院の、ちょうど絶壁の真上に位置するテラスで撮影したものです。今日は天気がいいので、遠くの山や町まで、それはきれいに見えました。

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 上の写真の場所を、別の角度から撮影したのがこちらです。テラスが断崖の真上にあることがよく分かります。

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 この断崖(precipizio)上の通路には、悪魔が聖フランチェスコを、この高みから下に突き落とそうとしたら、聖人が近寄った岩に体の形の穴が開いて、聖フランチェスコを受け止めたという伝説があり、そう記した陶器の板と、岩のくぼみを見ることができます。

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 カメラを持つ右手を柵の向こうに伸ばして、下方を撮影したのがこちらの写真です。わたしたちは、ふだんはベッチャに車を置いて、この切り立った岩山のすそをぐるりと回り、森を歩いて、修道院までの約2時間の散歩を楽しむことが多いのですが、そのときに歩く道が、ちょうどこの突き出た岩の真下に見えています。

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 一方、こちらは、わたしが2枚目の写真を撮影した場所に立つ、夫と義父母を撮影したもので、この窓は、

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聖フランチェスコが聖痕を受けた場所に、それを記念して建てられた礼拝堂、Cappella delle Stimmateのすぐ近くにあります。ラヴェルナの修道院には、この礼拝堂をはじめとして、ルネサンスの彫刻家、アンドレーア・デッラ・ロッビアとその工房による美しい陶器装飾が数多くあります。聖痕(stimmate)を受けたという場所は、ちょうど祭壇の前にあり、ガラス板に覆われています。今日はその上に花が添えられ、火のともったロウソクがありました。

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 聖堂正面の向かって左手に長く伸びるこちらの通路を、突き当りまで歩き、右手の扉を入ると、この礼拝堂や、断崖上のテラスを訪ねることができます。通路の壁には、聖フランチェスコの人生を物語るフレスコ画が描かれています。そうして、左手前の両手を広げ、地面に膝をついた聖人が見えるフレスコ画こそ、聖フランチェスコが、十字架にかけられたキリストのように、両手両足には釘に、脇腹には槍に貫かれたかのような傷、聖痕(stimmate)を受けた瞬間を描いたものなのです。

 そして、この長い通路の中ほど、ちょうど写真で旅行者が立っている位置のその前に扉があり、扉を開けて、重なり合う大きな岩の間に築かれた階段を下りていくと、

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 聖フランチェスコがその上に横たわって休んだという岩、Letto di San Francescoがあります。

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 イタリアの守護聖人であるアッシジの聖フランチェスコは、イタリア国内でもことに慕われる聖人の一人ですが、義父母は、ペルージャの隣町、ウンブリアのアッシジに生まれた聖人ということもあって、とりわけ聖フランチェスコを敬愛していて、結婚するのに、聖フランチェスコを記念する日である10月4日を選んだほどです。

 ですから、本当は聖フランチェスコゆかりの大切な聖地であるラヴェルナにもしばしば足を運びたいところが、義父が運転するには遠方すぎ、とは言え、ウンブリアから近すぎるため、旅行業者が企画する聖地めぐりのバス旅行では、目的地として選ばれないのです。以前に二人がラヴェルナを訪ねたのは、どうやら35年以上も前のことらしく、そこで夫とずいぶん前から、いつか義父母をラヴェルナに連れてきてあげたいねと言っていました。ふだんの日曜は、義父たちはトーディの義弟夫婦が姪たちを連れて来るのを楽しみにしているのですが、今日はちょうど、義弟たちが夏休みで南イタリアに滞在中なので、4人でラヴェルナを訪ねることにしました。

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 ペルージャの我が家からラヴェルナまでは約100km、車で1時間20分ほどかかります。夏の日曜日ということで、ラヴェルナを訪れる人も車も、とても多く、ミサの間は出入りができないように、聖堂の入り口前に縄が張られて見張りの人が立つほどで、修道院内のレストランで昼食を取るにも、着いてすぐにあらかじめ予約が必要なほどでした。

 昼12時15分からのミサに参加し、午後2時から昼食を食べました。現在の料金は、フルコースが16.50ユーロと入り口に張り紙があり、ただし飲み物は別料金となっています。人が少ないときは、メニューはプリモはいくつかある中から選べます。ただし、ふだんでもプリモ以外は料理内容が決まっていて、セコンドはさまざまな肉料理の盛り合わせを持ったウェイターがテーブルの間を回り、その中から好みの肉を選び(胃に余裕のある人はすべて選ぶこともできます)、付け合わせは、レタスが入ったボウルがテーブルに置かれ、ローストポテト(フライドポテト)は、テーブルの間を大皿を持って運ぶ店員さんから、好きなだけよそってもらうことができます。デザートはありませんが、いろんな果物が入ったボウルを持ってきてくれるので、好きな果物を選んで食べられます。

 今日は店が満員で人が多かったからか、プリモは何かと特に聞かれず、皆の皿に、次々にミートソース・スパゲッティ(spaghetti al ragù)をよそっていきました。けれども、長いパスタは苦手な夫が、ショートパスタはないかと尋ねたら、ペンネにミートソースをたっぷりかけて運んでくれましたし、他にも、希望したからなのでしょう、ミネストリーナ(minestrina)と呼ばれる小さい粒状のパスタがブロードに入ったものや、ゆであがったパスタをそのまま皿に盛ったパスタ・イン・ビアンコ(pasta in bianco)を食べている人も見かけました。

 そのほか飲み物としてワインの小瓶を2本と食後のコーヒーを一人1杯ずつ頼んだら、会計は一人あたり18.5ユーロでした。水は水道水を水差しに入れて運んでくれていたので、無料だったようです。

 ラグーソースをスパゲッティと食べるのは外国で人気があるけれど、イタリアではラグーがすべり落ちるので、スパゲッティではなく、タッリャテッレなどのパスタと食べるんですよと、わたしが初めて教わったのはマルケの語学学校の料理講座の先生からで、同じことを以後何度も聞いています。わたしたちは、ラヴェルナを訪ねても、昼食はパニーノで済ませることが多く、レストランで食べることは少ないのですが、確かに選べるプリモの中にラグーソースのパスタは毎回あったけれども、ラグーソースのスパゲッティには初めて出くわした気がします。ただ、ラグーもスパゲッティも大好きな義父母がそれはおいしいと喜んでくれていて、ラヴェルナを久しぶりに訪ねられて二人ともとてもうれしそうだったので、夫もわたしも、二人がまだ元気なうちに連れてきてあげられてよかったなと思いました。

 わたしたち二人で来るときは、岩山の下にあるベッチャやキウーシ・デッラヴェルナの無料駐車場に車を置いて、参詣路や山道を歩いて修道院を訪ねることが多いのですが、今回は、義父母がいっしょであり、かつ、夏の日曜日で修道院近くの無料駐車場まで車で行くことが禁じられていたため、有料駐車場に車をとめました。料金は1時間1ユーロで、駐車場付近には、オリーブの木で作ったまな板など、興味深い商品を売る露店が並んでいました。

関連記事へのリンク / Link agli articoli correlati
- 夏のラヴェルナ、ベッチャからラヴェルナへの参詣路 / La Verna in estate, Beccia – La Verna
- ラヴェルナの秋、キウーシからラヴェルナへ / La Verna in autunno, Chiusi della Verna – La Verna
- 秋のラヴェルナ / Anello Basso in autunno
- 雪のラヴェルナ、岩山周遊トレッキングコース1 / Anello Basso del Monte Penna in inverno 1
- 雪のラヴェルナ、岩山周遊トレッキングコース2 / Anello Basso del Monte Penna in inverno 2
- ラヴェルナからペンナ山の頂上へ / Verso la cima del Monte Penna

参照リンク / Riferimento web
- La Verna. Santuario Francescano - HOME

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by ayayay0003 at 2016-08-01 08:02
聖フランチェスコが聖痕を受けた聖地、以前にも一部は紹介してくださったような記憶は7あるのですが、詳しく紹介してくださってありがたいです。
そう言えば、義父母様との日曜日と言えば、お家で大家族でのお食事会というのが殆どで、義父母さまたちがどこかにお出かけになるのは、ご旅行で遠方にお出かけだけだったように記憶しています。
このようにお2人の大好きな場所への同行は、なかなか出来ることではないと思いますので、素晴らしい親孝行かと思います。また、お2人がお元気だというのも嬉しいことですね!
ここでも悪魔のお話が出てくるのですね!
確かに窪んでいますよ(@_@)
断崖絶壁に建つ風光明媚な場所で修業されたというのも、
どこか、日本でいうところの高野山や比叡山を連想して感慨深いものがありますね(^^♪
レストランも、こういう聖地では、日曜日とばると混雑しているのですね!個人で行く時には注意してないと昼食、食べ損ねそうです(笑)
ショートパスタ、結講イタリアを旅してるとショートパスタが出てくるのが多いのに最初は驚きました!日本人はやはりロングに慣れてるので、ショ―ト=サラダという感覚があるせいで、あまり好まないようです(笑)
Commented by milletti_naoko at 2016-08-01 15:31
アリスさん、義父母といっしょに訪ねたおかげで、ふだんはすでに訪ねたことがあるからと足を運ばない礼拝堂や断崖テラスにも久しぶりに行って写真も撮り、こうしてブログでご紹介することができました。Sasso Spiccoという名所もあるのですが、暑いし義母に階段の上り下りが大変かということで今回は人も多いし行きませんでした。いつかまた皆でいっしょに行けたらと思っています。ふだんお世話になっているので、こうして喜んでもらえて、わたしたちもうれしかったです。

そう言えばアリスさんが紹介されたフランスの橋にも悪魔の逸話がありましたね。悪魔と言えば、聖フランチェスコには悪魔を町から追い出したという逸話もあって、悪魔が退散する様子を描いたフレスコ画もアッシジなどの教会に描かれています。

日曜ということもあるのですが、やはり夏になって訪ねる信徒や観光客がひどく増えているということもあるかと思います。イタリアではショートパスタも家庭や店でよく食べます。いろんな形のものがあって、おもしろいし、食べやすいし、夫が好き(と言うよりはロングだと嫌な顔をする)ので、わたしが料理するときはたいていショートパスタを使っています。
Commented by London Caller at 2016-08-02 01:55 x
修道院?こちらはなかなか見られません。
16世紀のイングランド国王のヘンリー8世が
ローマ・カトリック教会と対立しました。
そして、およそ800軒の修道院とかカトリック教会などを解散しました。
その中に再建した教会もありますが、少ないです。
詳しくはこちらです。
破壊された修道院・教会のリスト
http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_monasteries_dissolved_by_Henry_VIII_of_England


断崖
Commented by milletti_naoko at 2016-08-02 15:57
ヘンリー8世とカトリック教会の対立については、つい最近、歴史番組で取り扱っていて、興味深く見ました。破壊された修道院がそんなにあるとは!
Commented by Junko Denda at 2019-08-07 01:04 x
はじめまして。ブログの記事を読ませていただきました。イタリアの友人から、ラヴェルナに行く事を勧められて、どんな所なのか気になり調べているうちに、この記事にたどり着きました。
聖フランチェスコにまつわる、神聖な場所のようですね。とても興味があります。アレッツォからレンタカーなどで行くのが良いでしょうか?それと周辺に日用品を置いているスーパーなどのお店はありますか?
Commented by milletti_naoko at 2019-08-07 03:43
Junko Dendaさん、はじめまして。わたしは車でしか行ったことがないのですが、巡礼の出発・到着地点でもあるので、公共の交通機関を使っての行き方もあり、電車とバスを乗り継いで、Chiusi della Vernaまで行くことができるようです。キウーシからは山道ですが約30分歩いてラヴェルナまで行くことができますし、キウーシにはパンや食料品を売る店はあるのですが、日用品を置くスーパーがあるかどうかは残念ながら記憶にありません。あっても営業時間が短いかもしれませんので、必要なものはあらかじめ大きな町で購入しておいた方が無難かと思います。
https://www.viadifrancesco.it/en/information-and-advice-about-the-pilgrimage-to-assisi/how-to-get-to-la-verna-where-the-path-begins
Commented by Junko Denda at 2019-08-08 04:03 x
丁寧なご回答をありがとうございます。
色々検討してみます。また何か質問させていただくかもしれませんが、よろしくお願いします。
by milletti_naoko | 2016-07-31 22:53 | Toscana | Comments(7)