2016年 08月 12日
イタリア語、幼子のかわいい間違いと名詞の性:malita & fratella
その研究の一環として、イタリア語の女性言語学者が、外国人による自然なイタリア語の習得過程と比較するために、幼い我が子が、どんなふうにイタリア語を身につけていくかを発表した論文もいくつかあります。母語としての習得と第二外国語としての習得の相似と違いが分かって興味深いのですが、そういう研究結果の中に、もう10年以上前に読んだのに、今でも印象に残っている興味深い事例があります。

それは、幼いイタリアの子供が、「つま・奥さん」と言うつもりで、間違って、「malita」と言ったという例です。この間違いで分かることの一つは、巻き舌のRの発音は、イタリア人の子供にも難しいので、発達段階ではLになってしまうことがあるということです。そうして、特におもしろいのは次の点です。
この子供は「つま」を意味する「moglie」を知らずに、自分がすでに知っていた「夫」を意味する「marito」や無意識に身につけた既知の文法的知識から、「つま・奥さん」のことは、こういうだろうと、脳のどこかでさっと類推して、maritaと言うのだろうと考えて、そう言ったと考えられるということです。つまり、男性形が「marito」であれば、女性形はそれに対応する女性形で、語末の男性名詞語尾-oを女性名詞語尾-aに変えれば、「夫」に対応する女性を表す言葉になるだろうと、保育園にも通っていない子供ですからこういう文法用語の知識はまったくないものの、それまで見聞きした事例から、自然にこう推測して、そうういう結論をはじき出したと考えられるのです。
ここで何がおもしろいのかと言うと、日本語にも英語にもない、「男性名詞」対「女性名詞」という名詞の性についての感覚、認識が、ようやく言葉を話し始めたばかりの幼児にも、これだけ明確にあるということです。
イタリア語の名詞の性は、たとえば「太陽」を意味する「sole」は男性名詞、「月」を表す「luna」は女性名詞ですが、これは太陽は女性名詞、月は男性名詞のドイツ語とは逆になっていて、事物や植物の性については、「男性的だから」、「女性的だから」ということに関わらず、この名詞の性は男性・女性と決まっている語が大半です。たとえば「(自動)車」を表す「macchina、automobile」は女性名詞ですし、「花」を意味する「fiore」は男性名詞です。
ただ、これが人を表す言葉になると、男性を指す言葉は、語尾が-oで男性名詞、相対する女性を表す名詞は語尾が-aで女性名詞である場合が少なくないのです。たとえば、幼い子供がよく耳にしそうな言葉の中に、次のようなものがあります。
男性名詞 女性名詞
bambino bambina 小さい男の子 小さい女の子
ragazzo ragazza 少年、青年 少女、若い女性
nonno nonna 祖父 祖母
zio zia おじ おば
名詞の性というものが、母語をイタリア語とする人たちの場合には、物心がつく前から、すでに概念としてしっかりと刻み込まれているのだと感じて驚いたのです。
そうして、昨年だったかふと思いついて、このことを保育園で教えた経験の長い友人に話すと、保育園の子供たちにも、「姉妹」のことを「sorella」という代わりに、「兄弟」を表す「fratello」の語尾を-aに変えて、fratellaと言うことがあるのよと言っていました。
これはイタリア語に限りません。母語でも外国語でも、インプットをもとに脳が情報を処理して、言語の規則はこうかなと、意識の下層で仮説を立てて、幼い頃からこうやって、試してみて間違えて、間違いと知って修正しながら、言語を習得していくわけです。イタリアの幼い子供たちの間違いに、日本人のわたしたちにとってはひどく難しい名詞の性の区別が、こんな幼い頃からすでに定着しつつあることを知って、興味深いなと思ったのでした。
関連記事へのリンク
- イタリア語文法の習得にも脳が自然に覚えやすい順序がある(1)~メルマガ第110号から
やはり母国語というのは、幼い頃、まだ自分が話すことが出来ないうちから、耳から入ってきた発音を覚えているのですネ!
自然に覚えている、それくらい楽なことはありません(笑)
しかし、単語としては間違いなわけで、それは、徐々に覚えていく、これは外国人が学ぶのも同じなわけで、やはり日々のことなのでしょうね!
日本語の漢字だって日本人でも覚えるのは大変でした(笑)
大変興味深い記事をありがとうございます♪