イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

イタリア中部地震から3週間、現況とこれから

 8月24日にマグニチュード6.0の地震がイタリア中部を襲ってから3週間経ち、現在のところ、確認された死者は296人、避難者は数千人に達しています。余震は今なお続き、規模は縮小傾向にあると見られるものの、たび重なる余震によって、新たに倒壊したり、被害が出たりする建築物も出ています。

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Castelluccio di Norcia, Umbria 24/8/2016
Foto: Cesare Barbanera

 今週は、被災地でも、イタリアの他の多くの地域同様、学校の新学年度が始まり、テントやコンテナ、あるいは地震に耐えた建築物を利用しての仮設学校で、多くの子供たちが新学年を迎えました。



 8月24日未明に相次いだ大きな地震の震源となったのは、順に、ラッツィオ州リエーティ県の町、アックーモリ(M6.0)とアマトリーチェ(M4.4)、ウンブリア州ペルージャ県の町ノルチャ(M5.4、M4.3)です。震源の近くにはイタリア半島を南北に縦断するアッペンニーニ山脈の高峰が連なり、マルケ・ウンブリア・ラッツィオ・アブルッツォ4州の州境が集中しています。(上の図参照)

 そのため、震源となったアックーモリやアマトリーチェばかりではなく、震源に近いマルケ州のペスカーラ・デル・トロントでも、町の建築物の多くが倒壊しました。死者数のうちわけは、8月末、まだ290人とされていた時点で、アマトリーチェ229人、アックーモリ11人、マルケ州全体で50人となっていました。

 9月10日付伊ANSA通信社の記事に見える上の図から、テント村で支援を受ける避難者(sfollati)の数が最も多いのは、マルケ州であり、またアブルッツォ州にも被害が及んでいることが分かります。ただし、テント村ではなく、親戚や友人の家などに避難をしているため、この図には数として算出されない避難者も大勢いることが、地方ニュースなどで、報道されています。

 テント生活は不便な上に、被災地の多くは山岳地帯にあるため、冷え込みが厳しくなるからと、イタリア中部地震の被災地で、地元の行政機関と連携を図り、救済・支援・再建を統括する災害防護庁(Dipartimento per la Protezione Civile)では、木造仮設住宅の設置が急を要することを認めています。ただし、従来地震が多く、余震も続く状況の中で、確実に安全な場所を選定し、安全な住宅を設置するには7か月かかり、完成は来年3月になるとし、災害防護庁では先週、現在テント村で過ごす避難者すべてを、イタリア中部各地にある、受け入れ態勢の整った公共の施設やホテル・住居に、1か月以内に移住させる意向を発表しました。以後、数百人がテント村以外の住居に移住したため、9月15日現在は、テント村の避難者数は3784名となっています。

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Castelluccio di Norcia, Umbria 24/8/2016
Foto: Cesare Barbanera

 被災地では、先週から、公私の建築物の損害や、使用・居住が可能かどうかについて、資格を有する専門の技師団が実地調査を進めています。昨日までに調査が行われた住宅2433軒のうち、すぐにも居住が可能な家は約半数の1241軒で、テント村の避難者の中には、自宅が居住可能と判断され、帰宅できることを期待している人もいます。

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Castelluccio di Norcia, Umbria 24/8/2016
Foto: Cesare Barbanera

 今回地震で大きな被害があった地域は、古来しばしば強い地震が発生していた地域で、古代ローマにもその地震の規模の大きさを語る記述が残るほどです。前世紀にも、1979年、1997年に大地震が起こり、各地で町の再建が行われています。

 ラッツィオ州ではアマトリーチェ、アックーモリで、マルケ州ではペスカーラ・デル・トロントで、町の多くの建築物が崩壊し、犠牲者が出た一方、今回の地震で、同様に強い地震の震源となったウンブリアのノルチャやその周辺では、倒壊した建造物や居住不可になった住宅は多数あるものの、他州に比べて被害が少なく、死者がまったく出ませんでした。これは、ウンブリアでは、前回の地震後に、経験を生かして、耐震構造のある家づくり、町づくりがきちんと行われたためであると考えられています。

 8月24日の地震では、地震の際に住民が避難できるように建てられたはずのホテルや病院、地震に備えて改築をしたはずの学校なども、倒壊してしまっています。また、隣り合う住宅で、一方はまったく被害がないのに、他方は屋根も壁もすべて崩れてしまっているという場合も少なくありません。そのため、倒壊した建築物については、基準に従って、耐震構造のある再建がなされたか、そして、建築業者の選抜などが法に則って行われたかどうかも調査が行われています。同時に、被災地の再建に向けて、被害状況に応じて、資金を割り当てるための調査も行われています。

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Castelluccio di Norcia & Monti Sibillini, Umbria 24/8/2016
Foto: Cesare Barbanera

 イタリア半島を南北に縦断するアッペンニーニ山脈には、山脈に沿っていくつもの活断層が存在し、近年のエミリア地震やラクイラ地震も、こうした活断層の動きによって発生しました。今回の地震では、活断層の破壊がまずアックーモリ近くで始まり、アマトリーチェのある南南東方向と、ノルチャのある北北西方向へと破壊が広がったと推測されています。

 テレビや新聞の全国報道では、建築物の崩壊や死者の多かったアマトリーチェやアックーモリ、ペスカーラ・デル・トロントばかりが取り上げられがちですが、地方ニュースを見ると、ウンブリア州やマルケ州の他の市町村でも、倒壊した建物や避難者が多いことが、分かります。この記事の写真は、すべて8月24日当日のカステッルッチョ・ディ・ノルチャの被害状況を親戚が撮影したものを、許可を得て掲載しています。

 シビッリーニ山脈に囲まれた高原の丘に建つ村、カステッルッチョは、高原で栽培するおいしいレンズマメの産地、野の花が彩る夏の高原の美しさで知られています。ウンブリアの観光地で、被害の大きかった市町村には、カステッルッチョ、聖ベネデットの生地で古代ローマの足跡が残り、サラミ類の名産地であるノルチャ、聖リータ教会のあるカッシャなどがあります。一方、地震発生当初の報道で名前が出たペルージャは、震源となったノルチャがペルージャ県に属するものの、ペルージャの町からは約100㎞離れているため、揺れこそ感じられたものの、特にこれといった被害はないようです。

 マルケ州でも地震の全国報道では名前が出ませんが、シビッリーニ山脈の美しい小村、カステルサンタンジェロやヴィッソ、アマンドラでも被害が大きく、震源の北60kmの位置にあるカメリーノでも、町中の多くの教会が使用不可になり、被害は広範囲にわたっています。また、アブルッツォ州にも被災地があります。

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Castelluccio di Norcia & Monti Sibillini, Umbria 24/8/2016
Foto: Cesare Barbanera

 イタリアでは地震後に再建されるまでの年数が長く、1997年のウンブリア・マルケ大地震で、ほぼ壊滅状態になったというノチェーラ・ウンブラでは、地震から14年後の2012年にもまだ町の復旧工事が終わらないのを見て、驚きました。2009年に地震があったラクイラでも、いまだに中心街の再建作業が行われています。

 今回、イタリアの地震報道では、「被害や犠牲者が出たのは、自然や地震のせいではなく、地震の多い地域でありながら、住居や公共建築物に耐震性がなかったためだ」という文言が散見していました。費用を惜しんで耐震性補強をしなかった家もあれば、耐震性のある家や建造物を建てたはずなのに、倒壊していて、今後捜査が進められる件も多くあります。

 大切な家族や家を失った被災者のためにと、イタリア国内では、多くの人が義援金の呼びかけに応じるほか、ボランティアとして被災地での支援に駆けつけています。

 一刻も早く余震がやみ、人々が再び安心して暮らせる日が戻りますように。そして今度こそ、国も地域も住民も総力を挙げて、耐震性のある町づくり、家づくりに取り組み、早く再建が終わって、故郷を愛する人々が再びふるさとで生活できる日が来ますように。

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Ho scritto questo articolo sul Terremoto Centro Italia
su richiesta di Huffingtonpost Giapponese

che sentiva la necessità delle notizie aggiornate
sui danni, vittime, ricostruzioni future dopo il terremoto.
Le foto sono di Cesare Barbanera che
mi ha gentilmente concesso l'utilizzo delle sue foto.
Dunque, l'articolo è poi stato riprodotto su Huffingtonpost.jp.
Ecco il link:
http://www.huffingtonpost.jp/naoko-ishii/italy-earthquake_b_12041844.html
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*追記(9月19日)
 9月17日土曜日に、この記事がハフィントンポスト日本語版に転載されました。リンクは次のとおりです。
- ハフィントンポスト日本語版 ブログ - イタリア中部地震から3週間、現況とこれから (17/9/2016) 

関連記事へのリンク / Link agli articoli correlati
- イタリア中部地震、震源と被災状況 / Terremoto Centro Italia (24/8/2016)
- 今晩午前1時半頃日本のラジオ深夜放送でイタリア中部地震についてお話します / Interviste sul Terremoto Centro Italia @ Programmi radiofonici giapponesi (1/9/2016)
- JAPAN-ITALY Travel On-line 緑満ち心に響くウンブリア 第8回 「イタリア中部地震状況とウンブリアの被害 / Il Terremoto Centro Italia e i Danni in Umbria」 (15/9/2015)
- ハフィントンポスト日本語版ブログに私の「イタリア中部地震から3週間」の記事が転載されました。/ Il mio articolo sul Terremoto Centro Italia su Huffingtonpost.jp (17/9/2016)
- 花の海、カステッルッチョ / Mare di Fiori, Castelluccio di Norcia (29/7/2013)
- 奇跡の国ニッポン、ノチェーラ・ウンブラ復旧作業 / Terremoto, Giappone & Nocera Umbra (4/3/2012)

参照リンク / Riferimenti web
- Ansa.it – Sisma, Curcio: ‘Percorso sarà lungo’. 4.500 persone assistite. Agibile 70% scuole. Verificati 84 edifici pubblici, 57 sono ok (10/9/2016)
- Umbria 24 – Terremoto, Ingv: «Così si è rotta la faglia, coinvolta striscia di 25-30 km tra Norcia e Amatrice» (4/9/2016)
- Istituto Nazionale di Geofisica e Vulcanologia – Primo rapporto di sintesi sul terremoto di Amatrice M6.0 del 24 agosto 2016 (Italia Centrale) / First summary report on the 24 August, 2016, Amatrice earthquake in Central Italy (PDF)
- 国土交通省 国土地理院 - 活断層とは何か?

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by ayayay0003 at 2016-09-16 18:31
なおこさん、イタリアも日本同様に地震大国であるのにかかわらず、耐震工事がきちんと行われてなかったり、また耐震工事がずさんで倒壊した建物が多かったことは、残念でなりませんね!
すくわれたであろう命がそういうことで奪われたのなら、自然災害+人災ではないでしょうか!
今も、多くの被災者の方が、テント暮らし、今から寒くなっていくので一日も早く住む場所を確保出来ることお祈り申し上げます。
日本と比べると、地震後のいろいろな対応がイタリアは遅いような気がして気の毒でなりません(・。・;
Commented by mokochan at 2016-09-16 22:43 x
なおこさんBuonasera!
これだけ石の建物ですと、救助も片付けも人間には危ないし時間はかかるし。力のあるロボットで早く安全にできたら本当に良いのに。福島の原発の人間が入れない所にもロボットが入りましたがもう少し発展したものができていたら、もっと事はスムーズに運んだはずです。
どんなに科学が進んでも地震も台風も避けることはできないのでしょうし、人間ができることを狭めないように五感六感
危機感を大切にしなければとは思います。
ピザのシェアーの件、やはりそうですよね、ちょっと味見とか、半分ことかありますよね。。笑
熊本でも復興が続いていますが、イタリアでも寒くなる前に
少しでも状況が良くなるように祈ります。
Commented by milletti_naoko at 2016-09-16 23:46
アリスさん、古来大きな地震が多い地域で、いつ地震が起こるか分からないからと、学校などで耐震補強工事を施したにも関わらず崩壊してしまったり、多額な費用がかかるからと補強をせずに家が崩れてしまったりした例が少なくないようです。

現在はまた大雨・洪水・土砂崩れでイタリア各地に被害が起こっているようですが、地震に限らず、こうした悪天候による被害も、本来はあらかじめ防げるはずであると、大きな被害や犠牲者が出るたびに叫ばれているのに、なかなか改善されないのが残念です。

被災地でも雨が強く気温が下がり、地域に残りたいと願いつつも、海辺の宿泊施設に移った被災者の方が、今日は大勢いるそうです。
Commented by milletti_naoko at 2016-09-16 23:55
mokochanさん、危険な原発がなく、特に地震が予期される地域では耐震性補強を図り、大雨の際に洪水や土砂崩れなどの被害が出ないような造成計画を考えるなど、いつ襲うかもしれぬ自然災害に対応できるように、日頃から手を尽くしておくことの必要をつくづく感じます。イタリアでは大雨や暴風によって洪水や土砂崩れが起こり、大きな被害や犠牲者が出るたびに「予告された悲劇」とニュースで言われるので、本当は日本の台風や大雨による被害についても、平時から行政がいざというときのための防災対策に努めていれば、救える命や町、建築物があるのではないかという気がしてきました。

昨日もノルチャ近くで、夕方M3.9、M3.7の地震が相次いで起こったようで、また被災地では大雨と寒さに被災者の方が苦しまれているようです。少しでも早く余震が収まり、被災者の方が早く、安心して過ごせる屋根のある住宅に移ることができますように。
Commented at 2016-09-30 06:37 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by milletti_naoko at 2016-10-02 22:37
鍵コメントの方へ

そちらのサイトの方にお返事いたしますね。
by milletti_naoko | 2016-09-15 23:59 | Notizie & Curiosita | Comments(6)