イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

それでも命は尊くすばらしい

 最近は少なくなりましたが、以前は外国の人にわたしが日本人だと言うと、「日本は自殺がとても多いですよね。」と言われることが、時々ありました。

 一方、自分と別れて、他の男性とつき合い始めたり、結婚したりした元恋人や元妻であった女性を、元恋人・元夫であった男性が殺害するという事件が、イタリアでは恐ろしいほど頻繁に起こっています。そういう男性が、その後すぐに自らも命を絶つ場合も少なくありません。

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 そういう事件のたびに、「そうした男性が女性を対等とみなさず、自分の所有物のようにみなしている」ことが非難・糾弾され、わたしも絶対に許すべからざる犯罪だと思うのですが、その一方、その心理の奥の奥には、「その女性といっしょでなければ生きていても意味がない」という、他人や外的条件によってしか自分自身の存在価値や生きる意義を見出せないという問題も隠れている気がします。たとえ愛していた人が自分から離れて行っても、自分は愛されるに値する、生きるに値する人間なのだという意識、あの人がいなくなって今はつらくとも、いつかきっと立ち直れるときが来るという思いが持てずにいることも、問題ではないかと思うのです。

 「あなたなしでは生きられない」
 「あなたのことが心から離れない」

 歌謡曲では、イタリア語でも英語でも日本語でも、こうした言葉を耳にするのですが、あふれる愛は感動を与えるものの、一方では、必要に迫られれば、「あなたなしでも生きられる」、「あなたのことも今は遠い思い出」という歌も、もっとあっていい気がします。「あなたがいなくとも、あなたが去っても、わたしは強く生きられる」、「だからと言って、わたしは生きる価値のない人間では決してない」ということを、心の奥底で人々が信じられるように。

 冒頭の日本における自殺についても、入試や仕事の成功などに、人生の均衡を崩してしまうほど、重きを置きすぎてしまい、そればかりが生きる目的となり、また自分の人生や命の価値がそうしたことにかかっていると思い込んでしまっているから、起きるのではないでしょうか。人生にはいろいろな生き方があり、わたしという人間に命がある、そのことだけでも尊くてかけがえがない。失敗は苦しくとも、人生に何か新たな転機をもたらしてくれるかもしれない。合格や仕事の成功は確かに大切でも、命をそのために失ったり、そのためばかりに絶望してしまうほどの価値は決してない。

 桃太郎が鬼退治をしてめでたしめでたしではなく、主人公が失敗したけれども、それでも命が輝き、心が優しくてすばらしいとか、シンデレラや白雪姫が王子さまと結婚してめでたしめでたしではなく、結ばれたあとに、いろいろ行き違いがあって、結局は別れることになっても、離れた相手を敬う心を忘れず、やがて幸せに暮らせるようになったとか、そういう新しい物語が、もっともっと語られるようになればと思います。

 男性が女性を所有物のように扱って殺害することが許せないという討論番組や報道番組を流すそのテレビ局が、同時に、ささいなことから怒りや激情に駆られて殺人を犯し、それを解決する推理番組のようなものばかりを、ドラマとして放送するのも、いかがなものでしょうか。

 皆と同じ道を、皆といっしょに歩けなくとも、転んでも前を向いて歩いて行ける。あの人がもう自分を愛してくれなくとも、だからと言って絶望したり相手を憎んだりせずに、相手の幸せを願いながら生きていける。

 いろんな意味で、自分の命も人の命ももっともっと大切にしながら、皆が生きていけるような、そういう世の中であるように、もっと人生のすばらしさを、あなたのその命のかけがえのなさを、いろんな機会に伝えていけるような社会になっていったら。

 写真は土曜日にマルケ州の山を歩いている途中に見かけたセイヨウマユミの木です。鮮やかなピンクの果皮がまるで花のようで、とてもきれいでした。

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Berretta del prete, sembra un albero fiorito.

Riserva Naturale Statale Gola del Furlo 3/12/2016
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Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented at 2016-12-06 08:01
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ayayay0003 at 2016-12-06 09:59
なおこさんの仰ってること、とても、とても共感です(*^^)v
歌でも、小説でも、表現方法がなおこさんが仰るように、過度にドラマチックにするから、現実でもそうしてしまおうか?
と真似をするというのはありえると思います!
過去の犯罪例でも、そういったものを真似するという傾向は多々あって、なんともやりきれない思いがします!
どうか尊い命が守られるような、そんな社会になって欲しいと願います♪
Commented by milletti_naoko at 2016-12-06 17:49
鍵コメントの方へ、SNSのおかげで15年、16年前に教えたかつて高校生だった教え子たちの近況が分かって、文明の利器の便利さに感心すると共に、もともとはそれがきっかけで精神的に追いつめられて自殺した女性のニュースもつい最近で、物はやっぱり使われたり振り回されたりするのではなく、こちらが使いたいときに使うようにしなければと、わたしも思います。自分で気をつけないといけないと、つくづく感じます。

世の中にはそれこそいろいろな考え方の人がいて、いろいろな生き方をしていて、きっと自分の身近な人であると、よけいに比べてしまうということもあると思うのですが、どの生き物もどんな人も、他には存在しないかけがえのない大切な存在であって、それぞれの持つ力をそれぞれの置かれた場所で、それぞれの好みに応じて生かして、周りの人や世の中の役に立てていけたらそれでいいし、それがいいのではないかと思います。

大切な人が大好きなおいしい料理を、遠い言葉も分からなかった土地に来て学び、愛と手をかけて作ってあげる、わたし、本当にすてきですばらしいといつも思っています。
Commented by milletti_naoko at 2016-12-06 17:55
アリスさん、子供にナイフを持たせないようになって、けがの痛みや危険、他人の痛みが分からないまま大人になる子供が増えてきているという記事を読んだのは、もうずいぶん昔のことですが、以前と違って祖父母が老い亡くなるなど、死が身近にあるという状況ではなくなったしまったこともあって、むやみに、ささいなことで人を殺したり、残虐な戦争などの場面が、それがアニメや宇宙を舞台にしたものであれ、映画やテレビでしばしば放映されるのはいかがなものかという気がしています。人生や死、人間関係や思いやり、強さということを学ばぬうちから、こういう場面や物語まで見ていると、どこかでそういうことに慣れて、その重さが分からぬまま育ってしまい、かつ痛みが分からぬまま育ってしまって、突然の精神的苦痛に耐えられないということも出てくるのではないかと……

共感していただけてうれしいです。ありがとうございます♪
Commented by ムームー at 2016-12-06 17:55 x
なおこさん
こんばんは。
いつもありがとうございます。
歌の詩にあるような生き方があるのですね。
お互いが尊重し労わりながら生きるというのは
どちらの国でも難しいことなんですねぇ。
最近のニュースを見聞きしてこんな事を
するって思う事ばかりです、嘆かわしいです。
マユミがとても美しいです~
Commented by milletti_naoko at 2016-12-07 02:01
ムームーさん、こんばんは。こちらこそ、いつもありがとうございます。「行ったきりなら幸せになるがいい」と、子供心に親が見ていた歌番組を見ながら聞き覚えた歌詞の、そういう願いを、別れた人に対して持てるようであってほしいと思います。イタリアにもそういうふうに、別れた人への敬意を忘れない男性も多く、友人にも何人かいるのですが、カトリック教を信ずる人が多い国でどうしてこうした犯罪が多いのだろうと今もこうした殺人事件や傷害事件を見るたびに、やりきれない思いがします。

葉を落として果皮だけが残ったマユミ、桃の花のようでとってもきれいでした♪
Commented by kazu at 2016-12-07 08:45 x
今読んでいる小説の主人公にオーバーラップするなおこさんの記事で、深く考えさせられます。人間の気持ちで一番厄介だと思うのは執着心だろうなと。この心が、趣味や仕事に向けられると、大成を成すことにもなりますが、凡人では逆に苦しむばかりで、執着心から解き放たれたならどんなに楽なことか。人間だから、別れた人や物事に対して、たとえ幸せや成功まで祈れずとも、執着する気持ちを捨てることさえ出来れば、不幸な結果にはならないのにと思います。人の心、ほんとに難しいですね。
Commented by milletti_naoko at 2016-12-09 03:14
かずさん、先週から途中で読みさしていたディーパクの本を最初から読み直し始めたのですが、自我・利己や過去・未来にとらわれず、今このときを人や世のことを思って生きること、それが自らの幸せにもつながるのだと書かれていて、以前よりなるほどなと心に感じながら読んでいます。

命を投げ出したり人の命を奪うほどまでに物や人に執着してはいけない、その方が自分も他人も幸せに暮らせると思うのですが、なかなか難しいですね。
by milletti_naoko | 2016-12-05 23:24 | Vivere | Comments(8)